「華代ちゃんシリーズ・番外編」 「ハンターシリーズ」 「いちごちゃんシリーズ」 ![]() 作・真城 悠 |
ハンターシリーズ37 華代ちゃん&いちごちゃんオールスターズ 『シン☆レラ』 作・Bシュウ |
お断り:このお話に登場する人物は物語上の役柄を演じています。なので本編と各作家さんの作る小説とは多少異なる行動をとっていることもありますがご了承ください。 これは昔々のとある国のお話… その国にモモカというとても美しい娘が暮らしていました。彼女は裕福な家に生まれ優しい両親と幸せな日々を送っていました。 しかしある日シヅルお母さんが突然病気で亡くなってしまいました。この出来事にモモカはとても打ちひしがれて毎日泣き暮らすようになってしまいました。 お父さんのギンガは亡くなった奥さんのことをとても愛していたので再婚は考えていなかったのですが、モモカのそんな様子をみて結局再婚をすることにしました。 そしてしばらくしてお父さんはサンゴという女性と再婚しました。彼女にはミズノとサワタという二人の娘がいて一気にモモカには家族が増えました。 三人ともモモカに優しくモモカは新しい生活の中で次第に笑顔を取り戻すかにみえました。 しかしある日また突然お父さんのギンガが病気で亡くなってしまいました。またモモカは悲しみに暮れていました。そして今度は三人がモモカの悲しみを癒してくれるはずでした。 しかしお父さんが亡くなるとサンゴさんと二人の娘は手のひらを返したようにモモカに冷たく当たるようになりました。とうとう本性を現したのです。 今更気付いても時既に遅く、モモカは持っていたドレスや持ち物を全て取り上げられた挙句汚い屋根裏部屋に押し込められてしまいました。 それからはくる日もくる日も働かされ、ごはんもろくに与えられず、満足な教育も受けられない日々が続きました。 最初のうちはモモカは小さい頃から習っていた(?)皇賀忍術で対抗していたのですが、三人の力が強すぎて全く適いませんでした。 そうして毎日つらい仕事をしているうちにモモカはかまどの灰でうすよごれ、いつしかフランス語で「灰被り(シンデレラ)」と呼ばれるようになりました。 そんなある日 小鳥のさえずりの聞こえる爽やかな朝、シンデレラは継母のサンゴの部屋に「音も無く」侵入すると未だ安らかな寝息をたてている彼女に向かって、抜き手も見せない速度でくないを投げつけました。 くないは一直線に彼女に向かって飛んでいき、このままではメルヘン(?)にあるまじき血みどろの光景が展開されるはずでした。しかし、 ぴっ くないは彼女に当たる寸前動きを止めた。彼女は二本の指で受け止めたくないを放り出すと何事も無かったかのように起き上がりました。 「あぁふ…シンデレラ〜朝食は?」 「下に用意してあります」 「馬の世話は?」 「終わりました」 「庭の手入れは?」 「やっておきました」 「掃除は?」 「終わりました」 「…ふん。まあいいわ。後でチェックするから。少しでも手抜きがあったらやり直しだからねっ!」 「……はい」 シンデレラは慣れているのか無表情で答えました。 「じゃあ朝食にするから。二人を起こしてきて頂戴。あと、私たちが食卓についた時、朝食が冷めていたらあんたは朝メシ抜きよ!」 「………はい」 シンデレラは驚異的忍耐力を持って返事をしました。このお屋敷では見慣れた光景です。そうして部屋をでるとシンデレラはため息をついて残りの二人を起こしにいきました。 「シンデレラ〜っ!」 継母のサンゴはそう叫ぶなりシンデレラに強烈な一撃を加えました。洗濯をしていたシンデレラはその勢いで桶に思いっきり顔を入れてしまいました。口から泡を吐き出すと、 「いったぁ…。なにすんですか〜」 「あんた!あれで掃除したつもりなの!あんなのお客様に見せられると思っているの!くぬっくぬっ」 そう言いながらシンデレラに嵐のような蹴りを見舞います。すると後ろから一番上の姉のミズノが出てきて、 「馬だってひどいもんよ!あんな痩せ馬、他人に見られたら家の評判がどれだけ下がると思っているの!ほんっとトロい子ね!えいっえいっ」 さらにたくさんの蹴りがシンデレラを襲います。ついでに二番目の姉のサワタも加わってシンデレラを攻撃していきます。実際毎日の仕事のおかげで家事万能になっていたシンデレラに手抜き等無かったのですが彼女達にはそんなこと関係ありません。 もはや虐待とかそういうのを軽く超えた攻撃に可哀想なシンデレラは丸まって耐えるだけしかありませんでした。 いい加減疲れたのか三人は攻撃を止めました。継母のサンゴはずたぼろのシンデレラの前に仁王立ちすると、 「ふふん。いいざまね。シンデレラ!これにこりたら二度と私に口答えするんじゃないわよ!」 「……」 言い返してもまた痛い目を見るのはいやなのでシンデレラは黙っていました。 「…ふん!さっさと洗濯を終わらせるのよ!その後は朝の仕事のやり直し。ちゃんとやりなさいよ、特に掃除は念入りにね!後で床に頬擦りさせるからね」 「うう…そんなぁ」 余りの物言いにさすがにシンデレラも呻き声をあげました。 「だまらっしゃい!今日は夕食の支度が無いだけありがたいと思いなさい!」 「え?」 夕食の準備も当然シンデレラの仕事の一つです。不思議そうな顔のシンデレラに向かって一番上の姉のミズノは陰険に微笑み、 「知らないの?今夜お城で盛大な舞踏会が開かれるのよ」 さらに二番目の姉のサワタが、 「国中の若い娘を集めて王子様の花嫁を選ぶのよね〜」 再び継母のサンゴが 「そういうわけよ。でも、あんたはいつも通りキチンと仕事をしたら食事をとってさっさと寝ちゃいなさい。まあ二人のうちどちらかがお城の后になったら家の使用人から、お城の女中位にはしてあげるわよ」 「あ、あのーあたしも行きたいなあ…」 おずおずとシンデレラが言うと 「…別にいいわよ」 「え?」 即座に否定されるものと思っていたシンデレラは驚きました。 「別に『国中の娘』だからあんたが来ても問題ないわよ……」 しかしそこまで言うと継母のサンゴは薄ら笑いを浮かべ、 「そうね〜ドレスも招待状も持っていない薄汚い小娘がどうやって舞踏会にでるか是非みてみたい物だわ〜あーっはっはっ」 同時に娘二人も大笑いをします。継母のサンゴは意気揚々と屋敷に戻っていきながら、 「さ〜娘達。気合いれておめかしして王子様のハートをゲットするのよ!そうすればこれからの人生ばら色よ〜」 「「はーーーーい」」 これ以上ないくらい惨めな思いでシンデレラは俯いて立ち尽くしていました。 ――そして夜 「さあ行くわよ。シンデレラ留守番しっかりしときなさいよ」 華やかなドレスでおめかしした二人の娘と一緒に馬車に乗り込んだ継母のサンゴはシンデレラに冷たく言い放ちました。 「はぁ…」 シンデレラは最早文句を言う気力もありませんでした。それを見た継母のサンゴはにやりと笑うと、 「明かりはちゃんと消しておくのよ。まあ…気が向いたら舞踏会の料理の残りをもらってきてあげてもいいわよ。じゃあ行くわよ」 御者が鞭をくれ馬車は出発しました。 「ふ〜」 とりあえずシンデレラはほっとしました。とりあえず三人がいなくなったので今晩は静かに過ごせるからでした。 残った仕事は早々に済ませて、久々に居間で食事をとるとシンデレラは屋根裏部屋に戻りました。ふと窓を見やると、遠くにあるお城が見えました。 今頃あそこでは盛大な舞踏会が開かれているでしょう。豪華な料理に、ムードたっぷりの音楽、そしてそこでは王子様が…。 「はあ〜」 そこまで想像してシンデレラはこの日一番のため息をつきました。夜空を見上げて思わず目に涙が浮かんできてしまいます。 「ぐすっ…なんで私ばっかり。人生は試練の連続だって言うけど、こんな捻じ曲がったトリッキーな人生にしなくても罰が当たらないような気がするんだけど…ああ、お父さんお母さんなんで私一人残して死んでしまったの…うう」 埃くさい屋根裏部屋にいるせいもあって、シンデレラの気持ちはどんどん沈んでいきます。 そんな時… 「そこのあなた!」 振り向くとそこには一人の少女が立っていました。三角帽子に黒マント、そして杖。あまりに解りやすい格好の少女であったが一応シンデレラは尋ねました。 「え…と、どなた?」 すると彼女は威勢良く杖を掲げるとびしっとポーズ等をきめて、 「私は全世界魔法学校第29846期生第28席…人呼んで魔法使いフタバ!」 その言葉にシンデレラはなんだか圧倒されて、 「…で?魔法使いさんが私に何の用ですか?」 「あそうそう。あなた舞踏会に行きたいのよね?私の力で行けるようにしてあげるわよ」 「ほ、本当ですか?」 「ええ。じゃあ今から言うものを急いで用意して」 「は、はい」 シンデレラは急いで、フタバに言われた通り、庭にあったカボチャとトカゲそれにネズミを4匹用意しました。フタバは腕まくりをすると 「よしっ。それじゃあいくわよ〜!ぜ〜ったい動いちゃだめよ」 というなり両手を合わせて精神を集中させました。すると彼女の周りに金色のオーラが発生しました。彼女は腰だめに両手を構えると、 「(ごにょごにょ)波〜!!!」 「きゃ〜」 前半部が良く聞き取れ無かったのですが、とにかくものすごい衝撃波がシンデレラに打ち込まれました。哀れシンデレラは爆死してしまったのでしょうか? 「こほこほ…え?」 そこには先ほどのぼろを纏った少女はもう無く、鮮やかなドレスに身を包んだ美しい少女がいました。同時に先ほどの品物は立派な四頭立て馬車と御者に変わっていました。少女は自分の姿を確かめるようにあちこち触って確かめてからフタバの方を向いて、 「信じられない。こんなことがあるなんて、なんとお礼を言ったらいいか…」 「礼なんかいらないわ。それよりもう舞踏会は始まっているんでしょう?早く行かなきゃ終わっちゃうわよ」 フタバはシンデレラを馬車に乗せると一枚の紙を渡しました。 「はい、パーティの招待状よ。私が作ったわ。それと一つだけ…この呪文は今夜0時になると解けてしまうの。王子様をおとすならそれまでにやらなきゃだめよ」 とウィンクして念を押しました。シンデレラは馬車に乗り込みながら一つ気になっていたことを聞きました。 「あの〜なんで見ず知らずの私のためにここまで?」 「あなたのお母様―パープルカークには昔ずいぶんお世話になったの…少しは恩返しできたかしらね」 フタバは笑ってそこまで言ったところで腕時計(?)に目をやると、 「いけないいけない。早く行かないと時間が無くなっちゃうわ。ほら行った行った。忘れないで!期限は12時だからね!」 それと同時に御者(元トカゲ)が馬車を走らせます。 「あ…」 シンデレラが何か言おうとした時にはもう魔女の姿はそこにはありませんでした。 シンデレラが胸を高鳴らせお城に向かっている頃、当のお城では… 「伯爵…これはどういうことだ?」 城の広間には豪華な料理が立食形式でたくさん用意され、また別の広間では国一番の交響楽団が美しいメヌエットを奏でていました。そんな中、初老の男性―ショチョー国王は近くに控えていたフクチョー伯爵に不機嫌そうに尋ねました。伯爵は歯切れ悪く、 「は…はあ。それは見ての通りで」 「そんなことは解っている」 苛立ちをしずめるように何度か玉座を指で叩くと一息置いて、 「何故こんなにも人が少ないのだ!」 そうこの舞踏会には男性陣に比べ女性が圧倒的に足りませんでした。ここで少し説明―この国では王子の花嫁を選ぶ時には盛大な舞踏会を開いて王子に選ばせるという仕来りが昔からありました。そういう訳でゴダイ王子も適齢期というヤツが来たので王様は舞踏会を開くことにしました。その招待状は国内外の貴族はもちろん有名な商家にも送られたのですが……何故かお城には国外の貴族の娘はほとんどいない上に国内の貴族の娘もそれ程いませんでした。 実は国王のショチョー王は非常に優秀な人物であることは諸外国にも有名な話だったのですが、その息子のゴダイ王子は優秀ではあったのですが性格的にちょっと……頼りないというか、王の器ではないと思われていました。 貴族達は 「仮に王子の嫁の座を手に入れてもショチョー国王がいなくなればこの程度の中堅の国などいずれ大国に滅ぼされてしまうだろう。そんな先の無い国にわざわざ娘を送る必要も無い」 と考えて適当な理由を作っては今回の舞踏会を辞退していたのでした。 そんな訳でショチョー国王にとっては頭の痛いことでした。国内の貴族も思ったより集まらずとうとう市井の娘も入れなければならない状況に何度もため息がでます。 当のゴダイ王子は隣の椅子で退屈そうにしています。何人もの娘が挨拶に来ましたが王子はあまり興味なさそうでした。ショチョー王は王子に 「どうだ。ゴダイ、良い娘は見つかったか?」 「う〜ん、どれもいまいちピンとこないんですよね〜」 「先ほど来た二人の娘達の内の一人はどうだ?元気があって良かったじゃないか」 ちなみにその二人―ミズノ、サワタは余りに熱烈にアピールし過ぎて血圧が上がって失神してしまい今はお城の医務室に運ばれていました。 「う〜ん、元気なのは良いんですけど…ちょっと年が…」 二人が聞いたら洒落にならない事になる発言です。ショチョー王は額を押さえて 「はあ〜舞踏会の費用もばかにならないというのに。せめてゴダイの花嫁が決まればよいのだが…」 そんな時 「おじさん!」 振り向くとそこには見慣れぬ格好をした少女が立っていた。それを見たショチョー王は、 (とうとうこんな子供まで…この国ももう駄目なのか…はあ) と思っていることなどおくびにも出さず、 「こんな所でどうかしたのかね?迷ったのなら会場まで送らせよう。今夜はゆっくり楽しんでいってくれたまえ」 「あ…違うんです。私は…」 すると少女は懐から一枚の紙を取り出してショチョー王に差し出しました。そこには、 「全世界魔法使い協会 魔法使い 真城 華代」 と書かれていました。それを見たショチョー王は驚きの表情で華代を見つめると感心したように言った。 「ほう…君は魔法使いなのか。私も今まで生きていた中で何人か魔道に通じる者達を見てきたが……君ほど幼い…いや若い魔法使いというのは初めてだよ。でそんな君が何の用だね?」 と、聞かれて華代は 「私はこの魔法の力で世界中の人の悩みを解決して回っているんです。それでちょうどここの上空を通った時、暗い気を感じたのでこうして馳せ参じた訳です。あ、もちろん無償ですよ」 ショチョー王は藁にもすがる気持ちで華代に今までのいきさつを話しました。 「……という事なのだよ。このままでは私の面子も丸潰れだ。王子にしてみても数が多い方が妃を選びやすかろう。何とかならんかね?」 華代はしばらく腕組みをして考え込んでから両手をぱちんと鳴らしてから、 「はいっ!そういう事なら私に是非任せてください!」 そういうと、とことこと隣の王子の所に歩み寄っていき耳元でひそひそと話し始めました。 (お兄ちゃんってどんな女の子が好きなの?) 「う〜ん…かわいい子ならみんな好きだよ」 「え……う〜ん…解ったわ私に任せて!」 「なんだか解らないけど頼んだよ」 胸を張って答える華代にのほほんと答えるゴダイ王子。 「じゃあちょっと行ってくるわね!」 そう言うと何かの呪文を唱えて浮かび上がった華代は窓から城の外へと出て行ってしまいました。 ―お城で舞踏会が開かれている頃、その外では、 「あ〜退屈だな」 男があくびをしながら退屈そうに言いました。隣の男が手に持った槍を拭きながらたしなめます。 「ロクゴー、警備中だぞ気を抜くな」 「んな事言ったってよ〜イチゴー、大体ちょっと前に戦争が終わったばっかなのに攻め込んでくるところがあるのかねえ」 ロクゴーと呼ばれた男は外壁によりかかって文句を続ける彼にイチゴーと呼ばれた長身の男はむっつりと 「こういう時こそ油断するな。俺達はプロだ。可能性が少しでもあるのならやる…それだけだ」 彼らは城の周辺の警備をしていました。舞踏会の為、彼らの他にもたくさんの兵士や傭兵がそこかしこで警備をしていました。 「それでもよ〜、ワインの一本位差し入れがあったっていいじゃねえか?今日は舞踏会なんだぜ」 「おいっ!」 背後から馬に乗った男がやってきた。やや面長でワイルドな風貌。その長いもみ上げが昭和50年代を印象させる。ごつい甲冑に身を包み腰にはサーベル、手には短槍を持っている。衛士隊長のガイストであった。彼は持っていた短槍を16号に向けると、 「全く見回りに来てみれば…ずいぶんと不満があるようだな。なんなら俺が直々に長〜い休みをくれてやってもいいぞ」 ロクゴーは後ずさりしながら、 「いえ…不満なんてそんな…」 「ふん。じゃあ少しは真面目に警備をしろ。国家はおまえに無駄口を叩かせるために給料を払っている訳では無いのだからな」 ガイストは槍をひくと、そういって去って行きました。彼の姿が見えなくなると16号は舌打ちして、 「けっ何が『国家はおまえに無駄口を叩かせるために給料を払っている訳では無い』だ。あのキザ野郎」 「さぼっていたおまえが悪いのだろうが」 「大体あの甲冑は何なんだ。あの重装備…戦争にでも行く気か?」 「あれは対魔法属性の鎧だそうだ。ここのところ近隣諸国で魔法による謎の集団性転換がおこっているからな。それを警戒しているらしい」 「あ〜あれな〜魔法使いの奴らどうしちまったんだろうな?それにしても…壁一つ向こうでは盛大な舞踏会、対してこっちは薄暗い庭で野郎共と一緒に一晩中立ちっぱなしとは。あ〜畜生、俺も舞踏会にでてえな〜」 誰にとも無くつぶやくロクゴーでした。 その少し前― 城の窓から飛び出した華代は地面を見下ろしました。そこにはたくさんの人がいました。その中の一人がお城に向かって文句を言っていました。華代はそれを見て、 「まあかわいそう…きっと舞踏会に行きたいのに招待状が無くて入れてもらえなかったのね……そうだわ」 少し考えてから華代は指をパチンと鳴らすと、 「これなら王様の願いもあの人達の悩みも一気に解決できるわ!」 そして手を組んで呪文を唱え始めました。 「ぐっ」 突然イチゴーがうずくまりだしました。ロクゴーは彼の元に近寄ると 「どうした」 「か…身体が突然熱く…うっ…うわああ…」 呻き声と共に彼の身体が縮みだしました。大柄で筋肉質の身体は丸みを帯び、厚い胸板は豊かな二つの膨らみに、腰は折れそうな程細く、肌も雪のように白く肌理細やかなものに変わっていきました。 「うぅ」 変化はそれだけでは止まりません。短く切りそろえられた髪は流れるような長髪に。その頃には呻き声すらも高く可愛らしいものになっていました。もう誰の目にも明らかでした。彼は女の子になってしまったのです。身体の変化が終わると着ていた兵装が生き物のようにぐにゃぐにゃと形を変えていきます。 「こ…これは……まさか」 慌てて周りを見回すと周囲でも同様の事が起きていてもはやパニック状態であった。 「そ…そんな……うあああ」 そうこうしているうちにロクゴー自身にも変化が始まりました。彼の変化はイチゴーよりも激しいもので、背丈はイチゴーよりもさらに低く、子供ほどに縮んでしまいました。さらにその時にはすでにさらさらのロングヘアーになっていたのですが、頭頂部がむず痒くなったかと思うとそこには「ぴょこん」とウサギの耳が現れました。もちろん普通に人間の耳もあります。ちなみにひらひらの服になってしまったので見えませんがお尻にはしっぽまで生えていたりしました。こうして傍目にはお人形にしたいくらいのかわいらしいうさ耳少女が完成しました。 (後15度…) チカゲは『獲物』に向けた望遠鏡を覗きこみながら一人ごちました。彼がいるのは城の周りの外壁に最も近い大木の枝です。チカゲはその二つ名『緑碧』といえば知らぬ者はいない程の暗殺者でした。先日その彼に某国から依頼がきました。国王さえ暗殺すればこの国は内部から崩壊し容易く手に入れることができるだろうという目論見のためです。しかしチカゲにはそんなことは関係ありませんでした。 『依頼は100%こなす』 彼にあるのはそれだけでした。先ほどから愛用の武器―火薬の爆発の勢いで砲身から鉄の弾を標的に撃ち込むチカゲオリジナルの武器、を構えて暗殺のタイミングを計っていたのでした。後少し国王がこちらを向けば一発で仕留めることができるのです。 (後10度…) 刹那のタイミングを逃さぬようさらに集中力を高めたその時、 「あの…」 かわいらしい声に思わず横を向くとそこには宙に浮かぶ少女がいた。 「は?」 あまりに場違いなものの出現に百戦錬磨のチカゲもぽかーんとしてしまった。 「こんな所で何をしているんですか?」 少女は不思議そうにチカゲを見ていましたが側の望遠鏡に目がいくとはっと目を見開いて、やおら目をうるうるさせると拳を握り、 「そうまでして舞踏会に出たいなんて!私感動しました!」 「は?」 「そういうことなら私にお任せ!」 自己完結したらしい少女はチカゲに向かって飛び切り気合の入った魔法を使いました。 「うわああああ」 ―そしてようやくお城 「ん?なにやら外が騒がしいな」 ショチョー王は訝しがりました。外に何か異常があったのかもしれないと思い警備隊長のガイストを呼び出そうしたところ、 「ショ…ショチョー!!!!」 「な…わたしを呼び捨てにするとは何事だ!」 「も、申し訳ありません。(だって所長国王ってよびづらいんだもんなー)」 「それで?一体何があったのだ」 「そ、それが……たくさんの御婦人達がエントランスに現れました」 「何!?」 そう言っている間に件の女性達が現れました。驚くべきことにいずれ劣らぬ美女ぞろいで、年齢も子供から妙齢の女性まで様々でした。ただ舞踏会なのにメイド服や水着姿、たくさんの布を重ね合わせた異国の装束、トレンチコート姿やうさぎの耳を生やした者など、およそ舞踏会にふさわしくない姿の者達もいました。他にもおかしいのは、みんな一様にあたりを見回して困惑顔をしたり、自分の身体をあちこち触って悲鳴をあげたりとはっきり言っておかしな集団でした。 そこに小用で席をはずしていたゴダイ王子が戻って来ました。ゴダイ王子としてはこんな退屈な催しよりも地政学の文献でも見ていたほうがよっぽどマシでした。 「なんだか騒がしいな…お?」 ゴダイ王子は目を見張りました。その視線は前方の集団の一人の少女に釘付けになりました。その少女はうさ耳を生やした少女の隣にいました。純白のドレスにガラスの靴、きらびやかなネックレスにダイヤをあしらったティアラが艶やかな黒髪によく似合っていました、この異色の集団の中では地味な格好ですがそれが逆に少女の素地の良さを際立たせていました。王子はすいよせられるようにふらふらとその少女の所まで行くと彼女の手をとって、 「ずっと前から愛していました」 「へ?」 「僕の妃になってもらえませんか?」 「え?あ、いやその…!」 少女は何かを言いかけたが顔を真っ赤にして俯いてしまった。ゴダイ王子はそれを緊張ととったのか (声が…喋れない!) 「返事がしにくいのならば…もし受けてもらえるのなら僕と踊っていただけませんか?」 そう言われて少女は無言でその手を差し出しました。王子は喜んで少女を伴って広間に行きました。丁度曲がワルツに変わり二人は踊りだしました。 「そういえば名前を聞いていなかったね」 「い、イチゴーです(気付いてくれ…)」 「イチゴか〜。うん甘酸っぱいその響き…君にぴったりの名前だね」 「あああああ」 その華麗な踊りにその場の皆がただただ見惚れていました。 (身体が勝手に…) 幸せそうな二人を祝福するムードの中、当の少女だけがいつまでも踊りながら涙していました。 (誰か…誰か止めてえええ) 後日―お城での一コマ 「妃はまだでてこないのか?」 「はあ…何度もお呼びしているんですが」 「ゴダイはどうした?」 「夜這いをかけようとして突き落とされて入院中です」 「…いいから二人ともつれてこい。明日は諸外国にお披露目だからな」 ※キャラクター使用を快諾してくださった城弾さん、ティーエムさん、Zyukaさん感謝!! |