「華代ちゃんシリーズ」



「華代ちゃんシリーズ・番外編」
「ハンターシリーズ」
「いちごちゃんシリーズ」

作・真城 悠


ハンターシリーズ41
>『狩人(Hunter)・17号』
作・マコト




「また引き篭もったのか、あいつは」
「はい……今回は……というわけでして」
「……まったく、篭ってる日数分、給料から差し引いとけ。最近色々税金抜かれて資金繰り大変になってきてんだから」
「税金、ですか……?」
いつものように。
ハンター1号(半田 いちご)が引き篭もっていたときの話。



「真城、華代……。いい加減、強引な手に出るしかあるまい」
ボスは夕焼けに染まる街を見下ろしつつ、呟いた。
「強引な手、と申しますと……?」
部下Aが恐る恐ると尋ねた。
「……真城華代を抹殺する」
「な─―」
驚愕の顔を浮かべるA。
「ボ、ボス……それは――」
「17号を起こせ。あいつに全てを任せよう」
その命令に、部下Aは再び驚愕した。
「17号を!? ボス、本気ですか!? ヤツは……」
「危険なのは百も承知だ。だが、抹殺に向くヤツといえば適任はアイツだけだろう?」
「それは――そうかも知れませんが……。……本気で真城華代を?」
「……確かに今までの我々の路線とは違うものだ。他の者に話せば反対もでるだろう。故に、このことは我々二人と17号、この三人の極秘事項とする」
ボスは本気だった。
それが部下Aにも感じ取れた。
「……判りました。17号を起こしに行って参ります」
そう言うなり、部下Aは踵を返し、部屋を後にした。



「起きろ、ハンター17号。お前の出番だ」
組織の地下、どのくらい地下なのか判らないようなところにある場所。
そこには、4つ程度の睡眠カプセルらしきものがあった。
部下Aはそのうちの一つに近づき、開放のスイッチを入れたのだった。
「―――」
むくり、と。
カプセルから姿を現したのは、20代前半の美青年。
標準的体型だが筋肉質で、服装は白いシャツにジーパン。
短めの青い髪をした男は、ゆっくりと部下Aを見た。
その目つきは鋭い、といえばまだ鈍く感じるほどであり、
赤い瞳はあらゆる物を貫くかのごとくギラついていた。
「……アンタ誰だ」
そう低く17号は言った。
「う――ボ、ボスからの命令でお前を起こしに来た。我々の宿敵、真城華代の抹殺がお前に指令された」
少しひくつきながら、部下Aは答えた。
「抹殺……? ――ずいぶんと手荒になったものだな、組織も……。この俺を”危険過ぎる”と封印したヤツが、俺を必要とするとはな」
皮肉なものだ、と。
17号は吐き捨てるように言った。
「……現在までの状況を説明しておく。お前が眠っている間に色々変わっているからな――」
部下Aが説明を続ける。
華代の暴走、いちご等ハンターへの被害、華代の能力の進化……。
「……というわけだ」
「なるほど……。こりゃ傑作なことになってきていやがるな」
クク、と低い笑みを零す17号。
「で、俺は真城華代を殺せばいいんだな?」
「あ、ああ……」
さも楽しそうに言う17号に、戦慄する部下A。
――やはり危ない、危なすぎる。
「いいだろう、やってやる。久しぶりに血が見れそうだ……」
そう言うなり立ち上がり、17号は部屋を出ようとする。
「ま、待て17号。この件は我々だけの極秘事項だ。他のハンターにも一切話してはならない」
部下Aが慌てて言った。
「OK、黙っておこう。――ああ、其の前に聞きたいことがある」
「な、何だ?」
くるりと、踵を返し17号は言った。
「出口はどこだ?」



「真城、華代……か」
何度目だろうか、その名前を17号は幾度となく口にしていた。
彼は今、街中を放浪していた。
無論ただ放浪しているわけではない。
いつどこで起きるか判らない「華代被害」。
それが起きやすい場所を彼は直感で探していたのだ。
「久々のシャバ、久々の獲物……。今日はいい日だ」
含み笑いをしつつ街中を練り歩く17号。
彼は、その類稀なる運動能力――いちごを遥かに凌駕するほどだ――でハンターにスカウトされた。
しかし、彼には一つだけ、恐ろしい面があった。
「殺人嗜好」。
―─その危険性故に、それを知ったボスにより彼は強制睡眠させられていたのだ。
─―と。
「うわぁぁ!?」
「きゃぁぁぁぁっ!」

突然沸き起こる悲鳴。
「―─!」
後ろを振り向けば、通行人がみなひざをつき、苦しんでるようだった。
否。
その姿はどんどん変化してゆき、男は女に、女は男になっていった。
(来たな――獲物が!)
今にも狂喜しそうな心を抑えて、17号は華代探知機を取り出す。
瞬間、反応があった。
(左か―─!)
 そう判断し、彼はへと駆け出した。



「くそっ――どこに行ったっ!?」
17号は苛立っていた。
先ほどから華代の反応は消えていないのに、全くたどり着けない。
しかし、それもそのはずであった。
「何故だ! 何故近づこうとすればするほど反応が遠ざかる……!? 真城華代め、俺が来るのを知っていたか……!?」
無論そうではない。
単純な話である。
そう、なんと17号は極度の方向オンチなのだった。
ボスも部下Aも知らず、他のハンターはおろか本人に自覚すらなかったのだ。
組織のある場所に戻ろうにも、今いるところは全く覚えの無い場所だった。
ヒュゥゥン……。
「ぐ、探知機の電池が切れたか……。――ええい、ここは一体どこだ!? 起きたばかりで地理が判らん……!」
あせりだすと言葉が多くなる17号だった。
そうして現状を打開しようと思案していたとき。
「おにいちゃん、どうしたの?」
後ろで声がした。
声の主は女の子――それも、小学校低学年程度か。
17号は考えごとをしていたため、振り向かずに、
「ああ―─道に迷った、ただそれだけだ」
そうぶっきらぼうに言った。
すると、
「そっかぁ。――じゃぁ、私がなんとかしてあげようか?」
そう、女の子は言った。
「ああ、ありがとう。でも……」
「OK、依頼は受けました! ……よぉし、えーい!」
その言葉に驚き、17号が振り向こうとする。
しかし。
「な─―わぷっ!?」
突然17号の身体が縮んでゆき、シャツの中に埋もれそうになる。
股間にあった感触がなくなり、筋肉質だった体がやわらかくなっていく。
「し、まっ─―」
トランクスがきゅぅとしまり、やわらかい布の感触になる。
髪の毛が肩口まで伸びてゆく。
「んー……やっぱ可愛くすればそれだけ構ってくれるよね」
女の子――いやさもうお分かりだろう、華代ちゃんがそう呟くと、
「!!??」
シュルシュルとシャツとジーパンがつながり、小さくなってゆく。
そしてジーパンだった部分の分かれていた部分がつながり、スカートとなる。
シャツであったところの袖が肩紐へ変化し、可愛いピンク色のワンピースになった。
すると、
「あ……」
ガシャン、とジーパンのポケットに入れていたサバイバルナイフが落ちた。
17号が「獲物」をしとめるために持ち歩いていたのである。
「あ、これは小物にして、と……」
華代ちゃんがそう言った瞬間。
ボワッ。
何の魔術か、サバイバルナイフはウサギの刺繍が可愛いポシェットへと変化した。
そして頭に麦藁帽子が出現し、すっぽりと17号の頭を覆った。
いまや17号は、7〜8歳くらいのワンピースの似合う、可愛い麦わら少女になってしまっていた。
「さぁ、これでOK! 通りがかった人に迷ったことを言って、泣きついちゃえば助けてくれるはずだよ! ――あ、これ渡すのが後になっちゃったね、ごめんなさい」
そう言って、華代ちゃんは名刺を取り出して17号に渡した。
”ココロとカラダの悩み、お受けいたします。真城 華代”
「ま、真城 華代―─!」
そう叫び17号はナイフで斬りつけようとした。
ボスッ。
「きゃっ! 痛いなぁ、もう」
「な―─」
彼は失念していた。
ナイフがポシェットになっていたのを。
「乱暴はだめだよ、おにいちゃん」
そうたしなめるように華代ちゃんは言った。
「あ、お礼とかはいいから。あとは頑張ってね〜」
「─―ま、待てっ!」
思わず叫び走り出そうとする17号。
しかし、
どべっ。
慌てすぎてか、身体が変化して慣れてないからか、すぐさまずっこけてしまった。
「痛っ―─あ、あれ?」
顔を上げると、もう華代ちゃんの姿は何処にも無かった。

「ま、真城華代―─どこに消えた!? ……ここは一体何処なんだ!? う……ううっ……だ、誰か教えてよ……こわいよぉ……。――うっ、うっ……うわぁぁぁぁぁぁん!!」

女の子にされた故か、はたまた精神が身体に順応したのか。
不安になった17号はついに大泣きをしだしたのだった。



「――で、17号は戻ってきたのか?」
「はぁ。泣きじゃくっている所を、偶然通りかかった沢田が発見しまして、事情を聞いてこちらへ連れ帰りました」
「今ヤツはどうしている?」
「りくがいっしょにいて話し相手になっているようですが……少し幼児退行してる気がありますね、人格がかなり子供っぽくなってます。ただ、ナイフの技術や身体能力、身体を戻す能力は若干低下しているものの、特に問題は無いようですが」
「そこだけ聞くと恐ろしい子供だな。――やれやれ。やはり真城華代抹殺なんぞ無謀だったか……。もうやめるか」
「それがいいと思いますよ。やっぱり抹殺なんて血なまぐさいなのは……。あ、ボス、一つよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「17号はそのままでいかせるんですか? あまり任務がつとまりそうにないと思うのですが……」
「人手不足だ。そのまんまでいく」
「はぁ……。労働基準監督署の目が更に恐くなりますね」
「言うな……痛感しているところだ。さて、あいつの名前だが」
「はい、”半田 伊奈”にしようとか」
「……同じ思考のヤツがいたか。――で、なんでいちごがまた引き篭もってるんだ?」
「それが……17号に『おばちゃん、誰?』と言われたらしく……」
「……男だって言い張るならそのくらいで引き篭もるなよ……。早く連れ出しとけ。あさってから花火大会の準備があるんだから」
「……町内会ですね、殆ど」