「華代ちゃんシリーズ」



「華代ちゃんシリーズ・番外編」
「ハンターシリーズ」
「いちごちゃんシリーズ」

作・真城 悠

ハンターシリーズ42
『AKF-Type31』
作・マコト

「……遅い!」
ダン!
机を叩いた拍子に湯のみが一瞬宙を舞う。
某所にある、某ウルトラ特撮モノそっくりな建築物。
こここそが、人類の敵(?)たる存在・使…もとい、「真城華代」による被害を喰い止めるべく日夜戦う者達が集う、Ner…じゃない、秘密組織「ハンター」の本部である。
その最も高所に位置する部屋で。
「ええい、あいつはまだ来ないのかっ!」
ボスはイライラしながら、部屋をグルグルと歩き回っていた。
「仕方がありません…。何分ここと開発部門は離れてますし、何より彼はハンター1のマイペース男ですからね…」
そう呟くのは、ボスの側近であり秘書である部下A(?)である。
「しかしだ…召集をかけてもう四十分過ぎておるぞ」
「そうですね…どうしたのでしょう」
そんなことを話している、その時。
ドゴウッ!!
『!?!?』
突然、部屋の外で爆発音が鳴り響いた。
「なっ、なんだ!?」
ボスが叫ぶ。
すると、バン、とドアが開けられ、真っ黒になった一人の男がよろよろと入ってきた。
「ゴホッゲホッ…か、開発部門…の、ハ、ハンター14号…い、石川恭介、只今参り…まし…た…がくり」
そうして、男はパッタリと倒れこんだ。

「いやぁ、ついさっきまで寝ちゃってましてね。慌てて人間用ブースターでかっ飛んできたんですが…あれ、失敗作でしたねー」
身体中のススを払い落としながら、14号は笑って言った。
見た目なかなかの美青年。
雰囲気としては、七瀬銀河─ハンター7号によく似ている。
しかし、その瞳は赤く、長めの髪の毛は白─即ち、彼はアルビノ症だった。
白衣にジーンズといったいでたちの彼は、眼鏡のよく似合う若き科学者といったところであろうか。
「……まぁ、このくらいのことは不問に処す。─して、14号。例のヤツは完成したのか?」
両手を重ね、ひじを机につき、ボスは尋ねた。
「ご心配なく。すでに完成しております。もう完璧です。対華代能力シリーズ─Anti Kayo Force、通称AKFシリーズ最新型、Type31は、なんと史上初の生体アンドロイドなんです!」
あまり肉付きのよくない身体を反らし、胸をはる14号。
ちなみに華代効果相殺機はAKF-Type28で、華代ちゃん探知機はAKF-Type27である。
先ほど爆発を起こした人間用ブースターがAKF-Type29であったことは秘密だ。
「ふむ…して、それは今どこに?」
「はい、既に起動して、今部屋の整理をしていると思います」
「部屋の整理…?14号、そいつには自分の意思があるのか」
怪訝な顔をしてボスは聞いた。
「勿論です。単なるロボットではあまり意味がありませんからね。ちゃんとした人格を持たせてありますよ」
簡単に、しかしトンデモナイことを軽く14号は言ってのけた。
「ほう…分かった。それに逢わせてもらおうか」
ボスは立ち上がる。
「了解しました。では、こちらへ…」
そう言って、14号は扉に手をかけた。

「……こ、これは?」
ボスは愕然とした。
二人は、Type31が整理しているという部屋までやってきていた。
二つとなりにいちごの部屋があるところだ。
しかしそこには、常人には持ち運べそうに無いような巨大なダンボール箱が置いてあった。
「これは何だ……?」
ボスがひるんだように言った。
「ああ、これはType31の調整用装置が入ってるんです。重量はざっと5tくらいですかね」
「ご…5t!?」
そのデタラメな単位にボスは驚愕の声をあげた。
「ええ。何せ精密に出来てますからね。定期的に検査しなければいけませんから。ここと開発部門は離れちゃってますしね」
14号はさも当然のように言った。
「うむ…しかし、ここにあっては邪魔だぞ…」
そうボスが言うと、14号は突然叫んだ。
「おーーーーーーーーい、みぃちゃぁぁぁぁぁぁん、出てきてくれーーーーい」
すると、
「はーい、お父様」
可愛らしい声がして、部屋のドアが開く。
部屋から現れたのは、一見17歳くらい…いちごや双葉と同程度の年齢の女の子だった。
腰まで届く、長く深い緑色の髪に、これまた深く大きめな群青の瞳をたたえ、可愛い小鼻といった顔立ち。プロポーションも抜群である。
背は150cm代後半といったところか。
「お父様、何か用?」
お父様、と。
彼女は14号に向かってそう言った。
「お、お父様だと…!?14号、お前子供がいたのか…!?」
驚いたボスは、現れた少女と14号を見比べるようにして言った。
「まさか。僕はまだ20代前半ですよ?こんな大きな子がいるわけないじゃないですか♪」
「む……確かにな。ではまさか……」
ボスがある一つのことを予想した。そしてそれは的中した。
「その通り。彼女こそが我がAKFシリーズ最新鋭、AKF-Type31!コードネーム『みぃ』です!」
みぃと呼ばれた少女の肩をぽんと叩いて、14号は言った。
「み…みぃ?」
「ええ。Type31じゃ呼びにくいでしょう?31だから、みぃなんですよ♪─あ、呼びにくかったら『石川 美依』でどうぞ」
なるほど、いちご達華代被害者も自分の番号から今の名前をつけている。
それにあやかったのか、単に名前を付けるのが面倒だったのか……。
「ま、まぁいいとして…。彼女を連れてきてどうするのだ?」
「はい、この荷物を部屋に持っていってもらいます。─みぃちゃん、頼むよ」
「わかったわ♪」
そう言うと、Type31─みぃはその5tダンボール箱に近づいて、下側を持った。
その瞬間、ボスの目には信じられない光景が映し出された。
「よっと」
「!?」
ひょいっ。
14号が5tはあるといったそのダンボール箱は、まるで空の箱のように軽々と持ち上がった。
そして部屋ヘもっていき、何の苦もなく置いて出てきたのだ。
「終わったよ、お父様♪」
けろりとした顔でみぃは言った。
「こ・・・これは一体!?」
ボスはある意味戦慄した。
「ああ、彼女は常人の百倍の腕力とスピードを持ってます。おまけにAKF-Type30として作った、華代効果相殺機と探知機を合体させたものを直接組み込んでますから、いつでもすばやく現場に駆けつけ、活動にあたることができるんです」
と、鼻高々に14号は語る。
「ほう…おまけにアンドロイドだから性転換にも巻き込まれないか。ハンターとしては理想だな…」
ボスは感心していた。
「そうでしょう?ならば是非…」
「うむ…。では、石川 美依。君をハンター31号として迎え入れる。今後、我が組織の為に頑張ってくれ」
ボスはそうみぃに告げた。
31号なのは、Type31だからということは言うまでもない。
「…えっと、お父様?」
不思議そうな顔をしてみぃは14号の顔を見る。
「その人は僕の上司さんだ。みぃちゃんもその人の言うことを聞くんだよ」
まるで親が子に分からせるように、14号は言った。
「わっかりましたー♪お父様の上司さんの言うことなら聞いちゃいますー♪」
みぃ─31号はやけにテンションが高かった。

「─ということで、今日からハンターとしてみんなと一緒に活動することになった、ハンター31号ですー。みぃ、って呼んでくださいねー♪」
ハンターたちが集まる、中央会議室にて。
14号に連れられ、みぃはみんなに挨拶をしていた。
「アンドロイドだぁ?」
「本当かよ…」
口々に疑問の声がハンター達からあがる。
すると14号が言った。
「まぁ、みんな信じられないだろうね。でもよく考えてみてよ。相談してきた相手を性転換させる女の子とか触れただけで性転換させる人とか千里眼持つ人が跳梁跋扈するこの時代、アンドロイドがいたっておかしくないでしょ?」
おおー、なるほど。
14号の説明(暴論)に、誰もが納得した。
珊瑚や7号がムスッとしているのに気づいた人間はいなかった。
「えっと、みぃちゃん、でいいのよね?私、双葉。半田 双葉よ、よろしくね♪」
そういって28号こと半田 双葉は手を差し出した。
「うんっ。こちらこそよろしくねー♪」
ぎゅっ、とみぃはその手を握った。
「私たち、仲良くなれそうねっ」
やけに女性らしいしぐさをしながら、双葉は言った。
本当は彼女、2mを越す大男だったのだが、華代被害によって女性化してしまっている。
ただし、本来女性願望があったので本人には天恵だったといったところか。
「そうね♪私も仲良くしたいな♪」
にこやかな顔で返すみぃ。
片や元大男、片やアンドロイド。
純粋な女性でない二人の友情が、今ここに芽生えたのだった。
「…なんだかなー」
いちごは仲良くきゃいきゃい言っている二人を見てそう呟いた。
すると。
「──!?」
ガタッ!
突然みぃが立ち上がる。驚き後ろにこけそうになる双葉。
「えっ?ど、どうしたの!?」
双葉が慌てて呼びかける。
「目標Kの反応を感知。今より行動に移る」
表情が消え、機械のように抑揚の低い言葉を発したと思った瞬間、みぃは部屋の窓ガラスを破り、外へ飛び出した。
「─ば、バカッ!ここは30mもあるん─」
慌てていちごが窓から外を見ると、彼女は何事もなく着地し、そのまま人とは思えないスピードで走り出した。
「は、速い…」
いちごは思わず感心してしまう。
「速い、ぢゃないっ!早くあいつを止めなきゃ!」
突然後ろから14号が叫んだ。
「ど、どうしたんだよ!?もしかして暴走したのか!?」
「いや違う。今みぃは華代追跡モードに入っている。─どうやら真城華代が現れたらしい」
14号の一言に、ハンター一同は騒然とする。
「な─ま、まだスクランブルはかかっていないぞ!?」
いちごが叫ぶ。
しかしその直後。
『緊急指令、緊急指令!○○市丸山町にて、真城 華代の出現を確認!周囲に被害が広がっている模様!ハンターは直ちに出動せよ!』
サイレンの音とともに、スクランブル要請が施設中に響き渡る。
「─っ、本当に出たのか!?」
驚愕の声をあげるいちご。
「彼女に組み込んである探知機は超強力だ。わずかな反応でもすぐ探知できる。けど…ああ、まずいっ!このままじゃ…」
何がまずいのかは知らないが、このままでは華代被害が大きくなる一方である。
「14号、その話は後で聞く!行くぞ、みんな!」
そうしてハンターたちは外へ出て行こうとする。
「ま、待ってくれ!これを!」
14号はいちごを捕まえて、水筒を渡した。
「何だこりゃ…ジュース?」
それは、紛れも無いオレンジジュースだった。
「これがあの子の─みぃの燃料なんだ!唯でさえ燃費が悪いのに、試験的に動かしていただけだから燃料があの子には殆ど入っていない!頼む、絶対彼女を見つけ出して、これを飲ませてやってくれ!」
「あ、ああ、分かった!じゃぁ行って来るぞ!」
水筒を受け取り、大急ぎでいちごは部屋を抜けていった。

「これは……」
いちごは息をのむ。
そこはまだ、華代被害が発覚した場所ではない。
彼女が驚いたもの、それは、立ち並ぶ家々に次々と開けられていった人間大の大きさの穴だった。
「これ…もしかして、31号がやったのか…!?」
その凄惨な有様に、戦慄を覚えるいちご。
「あいつ…、任務の為にショートカットしていってるのかもしれねぇな」
一瞬、そんな予感が頭をよぎった。
「急ぐか…このままじゃ、人どころか家の被害まで大きくなっちまう」
そうしてまた走り出した。─と、
ずぎゅむっ。
「おわっ!?」
何かを踏んづけて、いちごが前に転びそうになる。
「な、なんだっ…!?…て、さ、31号!?」
そこに倒れていたのは、だいぶ先行していたはずのみぃだった。
「おい、大丈夫か!しっかり!」
いちごは駆け寄り、身体を起こしてやる。
「あ……の……」
今にも消え入りそうに、みぃが声を絞り出した。
「おい、しっかりしろ!」
「ね…ねん…りょうを…」
息も絶え絶えとはこのことだろうか。
今にも死にそうな顔でみぃは訴えた。
「燃料…あ、これか!待ってろ、今飲ませてやる」
そういうなりいちごは、水筒の中身─オレンジジュースをコップにくみ出し、みぃの口へと注いだ。
瞬間、
「…ぅぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!」
突然みぃが飛び上がり、いちごから水筒を奪い取った。
そして水筒の栓を開け、中のジュースを見事に一気飲みした。
「再起動っ!!ありがとうございます!では、任務再開します!!」
シュタッ!ズドドドドドド。
そういうなり、みぃは再び走っていった。
その姿が見えなくなった後、いちごの通信機が鳴った。
「はい、1号…ああ、そうか。ごくろうさん」
ピッ、と通話終了するいちご。
「31号ー!華代被害はもう沈静化できたそうだ。りくや7号が頑張ってくれた」
「え──!!??」
ズドドドドドド。
声と共にみぃが猛スピードで戻ってくる。
…彼女の速度からすれば、すでに数km離れていたはずだが。
「も…もう、終わりなんですか!?」
愕然とした顔で言うみぃ。
「ああ。さぁ、帰るぞ。14号も待ってるし、双葉だってお前を探しているかもしれんからな。…て、おい!?」
いちごが振り返ると、みぃが何かぶつぶつ言っている。
「私の初出動が私の初出動が私の初出動が私の初出動が私の初出動が私の初出動が…」
「あ、あの、みぃちゃん?」
みぃに恐る恐る声をかけるいちご。
すると突然、
「私の、せっかくの初出動なのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「!?」
ドヒュゥン!
突然そう叫んだと思いきや、いきなりみぃは走り出した。
「お、おい、何処へ行くつもりだよ!?」
いちごが声をかけるまもなく、みぃの姿は消えてしまった。
しかし、それと同時に遠くから建物が崩壊していく音と風景が迫ってきた…。

「…で、これは一体どういうことなんだ、14号?」
「いやだなぁ、そんな恐い顔しないで下さいよ。崩壊した建物は全部、僕がお金だして直したんですから」
「そんなことは当たり前だ。14号、お前は31号は完璧、と言っていなかったか?」
「ええ、勿論完璧ですよ。…あ、少し燃費が悪いですかね、あいつ食いしん坊だから」
「そうではない!今回の暴走はどういうことだ!あれでよく完璧などといえたものだな!」
「ええ、完璧です。あれでいいんですよ」
「なに─?」
「彼女には、ただの任務遂行ロボットでいてほしくない。僕の理想は、より人間に近い存在をつくることです。…公私混同と言われちゃそれまでですけど、彼女には怒って欲しい、泣いて欲しい、笑って欲しい。人間としての感情を与えたのは、そういうことなんです。だから、彼女のああいうところも、大目に見ていただけたらと存じあげます…」
「む…なんか言いくるめられた感じがするが、まぁ不問としよう。だが、感情が爆発するたびに建物を壊されたのではたまったものではないんだが…」
「ご心配なく。組織には迷惑をおかけしません。全て、僕の手で支払いますよ」
「ほぅ…そんなに金があるのか、お前には」
「勿論です。こう見えたって僕の資産は京単位一歩手前ですから」
「…何者なんだ、お前は…?」
「さぁ?僕はただの科学者ですよ」
14号はそう言って、ボスの部屋から立ち去っていった。