「華代ちゃんシリーズ」



「華代ちゃんシリーズ・番外編」
「ハンターシリーズ」
「いちごちゃんシリーズ」

作・真城 悠


ハンター・シリーズ43
『訓練内容十』
作・マコト


「ボ、ボス、大変です!!」
バァン、という音とともに部下Aがボスの部屋へと入り込んできた。
「ど、どうしたのだ!?真城華代かっ!?」
入ってくるなり倒れこんだ部下Aを慌てて抱えながら、ボスは言った。
「ち、違います…」
「ではなんだというのだ?」
そう聞くと、部下Aは一瞬息を飲みこみ、そして言った。
「奴が……ハンター10号が……帰ってきました!!」
「何ィィィィィィィィッ!?」

「……ふぅむ、久々の日本だな…」
ザッ…。
ジェット機の階段から降りるなり、その男はそう洩らした。
背は190cm後半。
見るからに『体育会系』といったいでたちであり、筋骨隆々、顔の容(かたち)も厚い。
彫りも深く、無骨な感じがしまくっている。
「全く…私がいない間に不甲斐なさ過ぎるぞ他のハンター達!…さて!懐かしきハンター基地へと帰るとするかぁ!」
豪快に言いながら、男─ハンター10号は空港の玄関口へと向かっていった。

一方その頃、こちらはハンター司令室。
平たく言うとボスの部屋。
そこでボスは、部下Aと秘密の会議をしていた。
「帰ってきちゃいましたね…。あのあつい(熱&暑)男が」
と、部下A。
「うむ…あいつ、この私に意見を次々と飛ばしおったな。しかも、威圧感凄くて首を振らざるを得なかった…」
「…どうします?」
部下Aが尋ねると、ボスはすっくと立ち上がり言った。
「逃げる」
……。
「……はい?」
問い直す部下A。
「だから逃げると言ったのだっ!早く荷物をまとめろ!あいつが帰ってくる前に!」
「は、はい!」
そうしてボスが荷造りを始めようとした、その時。
「ハンター10号、帰りましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ソレの声は、基地の外─高低差30m以上のところへ届いた。

「お久しぶりです!ボス!」
部屋全体を揺るがすような声で、10号は挨拶した。
「う、うむ…。10号、お勤めご苦労だった」
キーンと耳鳴りがするのをこらえ、返事するボス。
いつのまにか、部下Aは姿を消していた。
「いやぁ、あちらでは大変でしたよ。ゲリラが昼夜問わず襲ってくるし、砲弾の雨を潜り抜け無かった日は無いほどでした」
コロンビアでの生活の回想をする10号。
「う、うむ、それは大変だったな(よく生きてたなオイ)」
というか、砲弾の雨を潜り抜けるようなことをしなければならないミッションなんてハンターにあったのだろうか?
そんなことを考えていると、
「時にボス」
急に真面目な(暑苦しさMAXな)顔になる10号。
「ど、どうした?」
「最近、ハンターの質がどうも落ちているようですが。恭介君(14号)からのメールによればあの1号が変身させられたとか…」
お前、メールなんか扱えたのか!?
という心の言葉を飲みこむボス。
「うむ……いちごだけではない。2号も3号も6号も8号も17号も28号も被害を受けておる……。む、意外と深刻だな」
今更なことである。
「なんと嘆かわしい!!」
「うをうっ!?」
突然大声をあげる10号。
「私が日本を離れている間にこんなにもハンターの質が落ちていたとは!ボス!あなたは一体何をしていたんですかっ!!」
「いやあのその……」
あまりの剣幕(暑苦しい顔で)に、しどろもどろになるボス。
「かくなる上はこの私が!他のハンター達を!鍛えなおして差し上げましょうぞ!」
そう言ってずんずかと部屋を出て行こうとする10号。
「お、おい!勝手に……」
「よいですな!?」
「はい」

「…やっと行ったか」
「嵐」が過ぎ去り、一息つくボス。
「いやはや、大変なことになりそうですなぁ」
と、事が終わってからのこのこと部下Aが現れた。
「…貴様、先ほどまでどこにいた?」
「ええまぁ、その、腹が痛くなったもんでして…」
ぷちっ。
子供のような言い訳にボスの中で何かがキレた。
「そうかそうか。それは災難だったなぁ……」
薄笑いを浮かべてボスは言う。
「あ、あの……ボス?」
恐る恐る部下Aは尋ねる。
「貴様、今月の給料ナシな」
「ひょえええええええええええええっ!?」

「──と、言うわけで、君たちハンターを鍛え直す!今日から強化合宿である!これはボスからの許可もとっておることだ!意見は!?」
しーん……。
「よぉし!では出発!」
そうして、ハンター達は10号の指揮の元、幾人かに判れてバスに乗り込んだ。
その車内にて。
「なぁいちご……」
「なんだよ……俺は今最悪な気分なんだが」
話し掛けてきた5号─五代秀作にそう言って窓の側を見るいちご。
「あの10号って人、何者?おいらが入る前からいたみたいだけど、初めて会ったよ」
「ああ、あいつはまだ俺が男だったとき、コロンビアに異動になったんだよ」
その言葉を聞いて驚く秀作。
「こ、コロンビアって今内戦が激しいところだろ!?なんだってそんなところに…」
「言わずともわかるさ、さっきの言葉や今現在の行動でだってわかるだろ」
昔、よほど大変な目にあってきたのだろう。
いちごの目は半ば鬱的だった。
ちなみにこの団体の中にりく(6号)、銀河(7号)、恭介(14号)、伊奈(17号)、双葉(28号)の姿は無かった。
……事前に逃げ出していたようである。
「…一体、何があるんだ?」
簡単にわかるものだと思うのだが、
このときの秀作には、この後に待つ地獄のことなぞ、知る由も無かった。

「はぁ…はぁ…」
暑い日差しが降り注ぐ中。
ハンター達はグラウンドを走っていた。
「ちくしょう…なんだってこんなこと…」
走りながら秀作がぼやく。
「あいつは元体育教師だからな…。軟弱な奴を見つけると放っておけないんだよ…」
と、並走していたいちごが言った。
さすがのいちごも、少し疲れてきているようである、息をやや切らしていた。
ちなみに今、ハンター達が課された回数は60周である。
その前に腹筋100回、背筋100回などもさせられている。
「こんなんに意味あんのかな…?おいらちょっと休ませてもら…」
「こぉら!誰が休んでいいといったぁ!?」
「うわぁっ!?」
木陰で休もうとした秀作の真後ろから、10号が怒号を響かせた。
「5号君…だったな。一人だけ休もうとは、その根性叩きなおしてやろう!罰として残りをうさぎ跳びで行って来い!」
「でぇぇぇぇぇぇっ!?で、でも……」
「でももかももないっ!見よ!31号を!あんなに元気に走っているぞ!」
ビシっと10号が指差した先には、もう30周は終えたであろうというのにいまだ元気に走り続ける、みぃ(31号)の姿があった。
「で、でも彼女はアンドロイド……」
「口答えは許さん!さっさといってこ〜い!」
「とほほほ〜い……」
仕方なく秀作はうさぎ跳びでグラウンドを進みだした。

「─情けないっ!!」
10号は吐いて捨てるように言った。
グラウンドの中央には、規定の周回ができなかった全員がぶっ倒れていた。
みぃに至っては、頭から煙が出ている。
「なんと軟弱な!ここまで質が落ちていたのか!」
無論、彼が日本にいた時も現在と大して変わっていないのだが。
「もう…これ以上は無理だぞ…10号よ…。死んじまう…」
なんとか60周やり遂げたいちごが息も絶え絶えに言う。
「ううむ…仕方あるまいか。今日はこれまで!全員宿舎へ!」
そう10号が号令すると、ハンター達は、ある者は肩を取り合い、ある者は負ぶってもらったりして近場にあった宿舎へと戻っていった。
しばらくして、グラウンドには10号だけとなった。
そして10号はうつむく。
「こんな軟弱でよいものか…。私の鍛え方がいけないのか…」
そう呟く10号。すると……。
「おじちゃん、何か困ってるの?」
ひょっこりと、彼の視線に一人の女の子が現れた。
みかけは9歳前後。
……いやもう、説明するのはよそう。
真城華代だった。
「ん……どうしたんだいお嬢ちゃん、こんなところへ…」
日本を離れていて、真城華代の姿を知らない10号は、華代ちゃんに話し掛けてしまう。
「私は、みなさんのお悩みを聞いてそれを解決しているセールスレディなんです。あ、名刺どうぞ♪」
そう言って華代ちゃんは10号に名刺を渡す。
”ココロとカラダの悩み、お受け致します。 真城 華代”
毎度のことながら、名刺にはそう書いてあった。
「真城華代ちゃん、か……。ふぅむ、どこかで聞いたような気もするが……」
前述したこともあるのだが、それに加えて10号は直接任務に出るのではなく、ハンターを育てる「養成部門」の担当であった。
そのため彼女の名前も殆ど聞いていなかったようである。
……単に忘れているだけの可能性も高いが。
「んで、華代ちゃんは何の用があるんだね?」
少し警戒するように言う10号。
これでも戦場を潜り抜けてきた男であろう。それなりに用心しているようである。
しかし華代ちゃんはそんなことを気にもせず、
「もう、だから私は皆のお願いをかなえてあげるセールスレディなの!名刺にかいてあるでしょ?”ココロとカラダの悩み、お受け致します”って」
そう言った。
「そうかそうか…お願いごとな…はて、どこかでやはり…」
本気で忘れているようである。
「そういうこと。で、何か困ったことはない?」
「困ったことか…ある、あるぞ」
そういうと10号は突然膝をつき、項垂れる様にして言った。
「先ほどまで私は腑抜けてしもうた同僚を鍛えていたのだが…みな着いてこん。全くもって根性の無い!…だが、それはひとえに私のやり方が問題なのかもしれん。どういう風にすればあいつらが付いて来てくれるのだろうかと…それが今一番の悩みだ!」
「……おじさん……」
10号は、真剣に他のハンター達のことを想っていた。
華代ちゃんはそれに心打たれた様子である。
そして華代ちゃんはしばらく考え込み、ぱっとひらめくように顔を上げた。
「要するに皆がついて来てくれるようになればいいんでしょ?だったら任せてよ!」
「え─」
10号が何か言おうとした途端、それは始まった。
「!?」
突然10号の身体がうずきだす。
筋肉モリモリの身体がみるみる細くなってゆき、柔らかくなってゆく。
そして固い大胸筋の部分は大きな二つのふくらみへと変わっていく。
「な…な…!?」
声を上げる暇もあらばこそ。
ぐんぐんと背が縮み、固かったはずの臀部がやわらかく突き出す。
それに伴い、寸胴な身体が細腰になってゆく。
「ぬあ…」
角刈りの髪は瞬時に伸び、頭頂部やや後ろでまとまって下に流れ、一種のポニーテールをつくる。
右側の前髪が長めにたれ、目にかかるくらいになる。
そしてその目も、まつ毛が濃くなりやや切れ長に変化してゆく。
「……!!」
変化に耐えようとするように、10号はしゃがみこむ。
その間にも、顔面は変化してゆく。
固い輪郭は女性らしいそれとなり、唇も大人の女性らしくなる。
いつのまにか目にはアイシャドウ、唇にはルージュが塗られていた。
「こ、これは一体……!?…うあっ!?」
一旦止まったかと思うと、今度は服が変化し始めた。
ランニングシャツの上にジャージ上下という、いかにも体育教師然とした服装が、みるみる変わってゆく。
シャツはYシャツとなり、ネクタイも現れる。
「うわわ!?」
今度はジャージが変化する。
上のジャージはスーツの上に、下のジャージはそれに見合ったスカートとなる。
「ひ……」
スカートの中でトランクスが一枚のパンティへと変化していった。
そしてどこからともなくストッキングが足にかかり、靴がハイヒールと化す。
「はい、これで出来上がり。その美しさなら皆ついて来てくれるよ!」
「う、美しさ……だと!?」
変化が終わり、華代ちゃんの言葉を聞いて慌てて10号はなぜか持っていたハンドバッグの中から手鏡を取り出す。
「─こ、これは!?」
そこに映っていたのは、
長く前髪をたらした紫のポニーテールに、切れ長の目をした、ボディプロポーション抜群の女性であった。
いつのまにか眼鏡をかけている。
その姿は、「女性教師」そのものであった。
「こ……この姿は…」
しばし呆然とする10号。
「近頃はまた学園モノのドラマ増えてきたしね♪あ、お礼はいらないよっ。じゃぁ、頑張ってね♪」
そう言うなり、華代ちゃんは姿を消した。
後には10号だけが孤独に残されていた。

「……ある意味、助かったようだな、皆」
「はぁ、それが…」
「?どうした?」
「あの姿になって以来、ますます厳しくなってしまい……まるで教師です」
「…マジかよ……やってられんな…。いっそクビにしようか?」
「それはやめたほうが…。彼…女の美しさに魅入られてる職員が多くて、皆怒りますよ。それに今のところ、各部門とも支障はありませんし。何より…、あれだけ美しい人を手放すのも勿体無いかと…」
「…貴様という奴は…。まぁいい。前のようにグラウンド60周とかはなくなったようだしな。以前よりかは楽になるか……」
「そうですね…。そうだ、ボス、あいつの名前は如何致します?一応半田姓を名乗るということになるのですが…」
「ああん?そんなもん深く考えるな。燈子(とうこ)でいいだろ。熱血だし」
「判りました。そう申請しておきます」
「申請て…、そんな所作ったっけか?」

おまけ

Q:何故みぃの高性能華代探知機が作動しなかった?
A:オーバーヒートしたので強制冷却に電源を使いまくり、結果彼女が一時機能停止していたのだった。なお、再起動したのは2時間後である。