「華代ちゃんシリーズ」



「華代ちゃんシリーズ・番外編」
「ハンターシリーズ」
「いちごちゃんシリーズ」

作・真城 悠

ハンターシリーズ44
『燈子さんの子守り奮闘記』
作・マコト

私は「ハンター10号」。
ある組織に所属する、コロンビア帰りの熱きハンターだ。
しかし、偶然出遭った我々の敵、「真城華代」により私は変身させられ、見た目20代の女教師となってしまった。
その為、犠牲者の称号「半田」を苗字に、「半田燈子」を名乗ることになった。
しかぁし、こんなことで私はめげぬ!
熱き心さえあれば、不可能なことなど何も無い!
─そして、私はひたすら己を磨き続ける。
「真城華代」という名の敵との戦いの為に。
さぁ、今回の訓練内容は──?



「ふぅ……」
暑い日差しの中。
一人の美女が道を歩いていた。
上下揃った白のスーツに、右側だけ長く垂らした前髪。そして長い髪をうしろで根元で縛り、流している。
おまけに黒ぶちの眼鏡。その見た目は「美しい女教師」であった。
その女性は、一つのアパートの前で立ち止まった。
「ここか……」
そのアパートを見上げる女性。
何処にでもある、ごく普通のアパートである。
「割といいところに住んどるんだな…。ええと…5階か。元気にしとるだろうか2号は…」
なんとなくおじんくさい言葉をはく女性。
彼女の名は半田燈子。
その名の示す如く、ハンターにおいて華代被害を受けた、ハンター10号のなれの果てである。
彼女は今、かつて真城華代に挑み、敗れ去り、それが元でハンターを寿退社した、元ハンター2号の家へとやってきていた。
「……ああああああ、納得いかん!何故に私が子守りをせねばならんのだぁぁぁぁぁ!!」
エレベーターの中で一人叫ぶ燈子。
ことの始まりは、つい昨日のことである─。



「およびでしょうか、ボス」
「おお、来たか」
ハンター最上階、司令室。
燈子はボスに呼び出され、ここに来ていた。
「10号、確かお前、保育士の免許もっていたよな」
「え─まぁ、持ってますけど」
少し顔を曇らせて燈子は答えた。
実は燈子、かつては大の子供好きだった。
まだ男であったとき、初めは子供達と触れ合う為に保育士になろうと思い、免許を取った。
しかし、研修の際にその暑苦しい顔のせいで、園児達に泣かれるわ恐がられるわ…。
それがもとで、すっかり子供が苦手になってしまっていた。
そのため、ハンター内でもりく(6号)と伊奈(17号)を苦手としている。
「そうか、持っているか。ならば10号、一つ言おう」
そう言ってボスは立ち上がり、デスク後ろの窓の方を向いて言った。
「2号を覚えているな?あいつは今結婚して、幸せな家庭を築いている。─だが、明日、子供を置いてでかけなければならない事情ができたらしい。で、我々を頼ってきたわけだ。─そこで、だ、10号」
そこで一旦言葉を切り、ボスは振り向いて続けた。
「お前、2号んとこ行って子守りしてこい」
「は……い?」
燈子は一瞬、我が耳を疑った。
「今……何と?」
「だーかーらー、2号ん家行ってガキの面倒見て来いって言ってるんだよ!」
「……」
しばしの沈黙。
「──っ、何で私がそんなことをせねばならんのです!もっと適任者がいるでしょう!?特にいちごなんかが!」
確かに。
いちごは、ひょんなことから赤ん坊を育てなくてはならなくなっている。
「……あいつは今引きこもっとる」
と、ボス。
「な、何で!?」
そう問う燈子に、呆れ顔で言うボス。
「おまいのせいだおまいの。おまいの”訓練”のせいで殆どのハンターが体調を崩しておるのだ」
実際、まともに動けるのは子供型2人と7号・14号・31号にお前くらいなものだ、とボスは付け加える。
「じゃぁそいつらにやらせれば!」
「いやな……りくは伊奈とともに真城華代の遊び相手になっておるし、ななちゃんは今日に限って休暇をとっておる。14号と31号は何かアップグレード中らしいから手が離せんそうだ。……ということで、もはや現在まともに行動できるのはお前だけなんだよ」
と、しめくくるボス。
「──じょ、冗談じゃありませんよ!拒否させて……」
「言っておくがこれには”絶対命令”を適用するからな。拒否は不可能だ」
「ぐ……そんな……」
その言葉に燈子はひるんだ。
”絶対命令”──
それは、ボスのみが一ヶ月に一回のみ発令できる拒否不可能の命令である。
過去、これを発動したことは殆どなく、ボスが本気で行かせるつもりなのもここから判る。
ちなみに、燈子が男であったときにコロンビアへ飛ばすのにも使われた。
「と、言うわけで。ほれ、これが2号ん家までの地図、それに交通費だ。──あ、それとな。何がおきても状況を見て判断しろ。我々はあまり支援できんかもしれん」
そう言ってボスは会話を打ち切った。
「……わかりました……」
仕方なく、燈子はそれらを受け取って司令室を後にした。



「──ええい、今思い出しても頭に来る!みんな軟弱すぎだっ!」
それが自分の所為だとわかっていないで怒りを撒き散らす燈子。
チーン♪
「と……」
いつのまにか彼女を乗せたエレベーターは5階にきていた。
燈子はエレベーターから降り、元2号の住居を探す。
「ええと…555…555、と、あった」
555という番号の書かれたドアの前で燈子は立ち止まる。
そこには確かに現在の元2号の苗字が書かれたプレートが入っていた。
ピンポーン♪
チャイムを押す。
しばらくしてドアが開き、中から美しい女性が現れた。
「はーい、――あら、もしかして……ハンターの方?」
「ああ。──ええと、2号、だよな。私だ、10号だ」
「ええ!?」
燈子の言葉にびっくりする元2号。
「ああああ、あなた、あの10号なの!?」
かつての10号を知る元2号。
あの暑苦しくアイアンマッソーな10号が、今や見紛うばかりの美人となっているのだ。
驚かない方がおかしいだろう。
「まさかあなたがうちの子達を……?」
怪訝な顔をする元2号。
それは仕方ないことなのだが。
「大丈夫だ。出来る限りの努力はする。心配せずに行って来い」
そういってポン、と元2号の肩を叩く燈子。
「……分かったわ。必要なことはこの紙に書いておくから、あとは頼むわね。それじゃ、行ってきます」
そう言って元2号はエレベーターに入っていった。
「一体どこへ行くんだ……?」
燈子は気になって下を覗いてみる。
暫くして元2号がでてきて、止めてあった車に乗り込んだ。
助手席には、一人男がいる。
おそらくは元2号の、夫──つまりかつての元2号の部下であった者だろう。
「……さて、入るかね」
そう呟いて、燈子はドアノブを廻した。



一方その頃。
どこともわからぬ森の中。
恐らくはかくれんぼでもしているのだろう、3人の少女がそこで遊んでいた。
3人はみな6〜9歳くらいで、一人は白い服、もう一人は黒い兎耳、そしてあと一人は麦藁帽子をしていた。
言うまでもなく、真城華代と、彼女と遊ぶハンター6号・半田りく&ハンター17号・半田伊奈である。
「ねーねー、疲れたよぅ、どこかで休みたいよぅ」
そう言うのは伊奈であった。
「休むって言ってもぁ……ここ、どこかわかんないし」
りくはそう言って悩む。
それに気付いて華代が近寄ってきた。
「むむ、りくちゃん、悩み事?」
「え゛っ!? あー、いや、その」
しまった。
華代に困っているのを感付かれてしまったようだ。
──どうする?「なんでもないよ」でいいか?
――しかし、伊奈が泣きそうだなぁ……。
――まぁ、休むところくらいなら、性転換とかおこりえないだろ……
意を決して、りくは華代に言った。
「伊奈ちゃんが疲れたんだって。どこか休めるところ無いかなぁ」
「そっかぁ……結構遊んだもんね。……ええと、ちょっと待っててね」
そう言うなり華代は目をつぶり、右手の人差指と中指を額に当てて意識を集中する。
どこかでみたようなポーズである。
「……何やってんだ?」
訝しげな顔をして華代を見るりく。
すると華代がポーズを戻す。
「いいところが見つかったよ!こっち来て!」
そう言うなり華代は森の道を走り出した。
「あ、待て……じゃない、まってよ、華代ちゃ〜ん!」
「おいてかないでよぉ〜っ」
慌ててりくと伊奈は後を追いかけていった。



「ふぎゃぁ、ふぎゃぁ、ふぎゃぁ!」
「あああ、いい子だから泣き止んでくれ、な?」
場面は変わって元2号宅。
燈子は必死に、泣いている赤ちゃんをあやそうとしていた。
しかし、保育士の免許を持っていたとはいえ、長い間子供に触れていなかったのですっかり忘れてしまっていた。
そのため、中々あやせないでいた。
「あああ、この場合どうするんだったか……ええと、2号の紙に確か……あれ?」
いつのまにか、元2号から貰った紙が机の上から消えていた。
その机の下で、もう一人の子供が何かしている。
現在、元2号の子供は2人。
二人とも面倒見が必要な年齢である。
そして、その上の子供はさかんにくしゃみをしていた。
「まさか……」
ある一つの予感が燈子の頭をよぎる。
泣き止まない赤ん坊を抱いたまま、燈子はその子に近づいた。
「ええと……朱雀くん、だっけ」
「ずず……なーに、お姉ちゃん」
その子――朱雀くんは鼻をすすりながらこちらを向いた。
「私が─―いや、お姉ちゃんがここにおいてた紙、知らんか─―じゃない、知らないかなぁ?」
たどたどしく聞く燈子。
すると鼻を垂らして朱雀くんは言った。
「あれ、お鼻かむのにつかっちゃた」
「何ィィィィィィィィィィィ!?」
なんてことであろうか。
元2号から譲り受けた、必要事項の書かれた紙はすでに亡き者となっていた。
「ふぎゃぁ!ふぎゃぁ!」
「ああ、よしよし……げ、漏らしとる!!」
燈子は慌てて赤ちゃんのおむつを換えた。
なれないので時間がかかった。
そして朱雀くんを見る。
「こぉぉぉんのガキィ!なんてことを……、と、いかんいかん……」
思わずはっとばす所を抑えて、落ち着いて考える。
(くそう……どうすればいい!? ああああ、考えがまとまらぬ……腹筋50回ほどすれば落ち着くかもしれぬが禁止されてしまったし……)
ちなみに禁止された理由の第一は周りからの強い要望だそうだ。
「ほぎゃぁ!ほぎゃぁ!ほぎゃぁ!」
「ずずー……」
なおも赤ちゃんは泣き続け、朱雀くんは鼻を垂らし続ける。
「だめだ……もう、キレそうだ……」
ああ、育児放棄するお母さんたちの心情が分かる気がする。
そんなことを考えていたら、
ピンポーン♪
「――客?」
何とか我に返り、赤ちゃんをベッドにおいて応対しに行く燈子。
他の住人からの苦情だろうか?
そんな一抹の不安を抱えながら、燈子はドアを開けた。
「「「こんにちはー」」」
「──へっ?」
そこには。
三人のちっこい女の子がいたのだった。



「……ええと」
冷静に、状況判断しようと努める燈子。
――なぜだ?なぜりくや伊奈、果ては真城華代までここにいる?
――一体何がおきたというのだ!?
「お─―」
「「お邪魔しまーす♪」」
燈子が何かを言う前に、華代と伊奈は勝手に上がっていってしまった。
玄関に残される燈子とりく。
「りくよ……これはどういうことだ」
こめかみがあきらかにピクピクした状態で燈子が問い掛ける。
「いや、あのな。伊奈と俺と華代で遊んでて、伊奈が疲れたって言ったわけよ。そしたら華代がこっち来てって言うからついて来てみたら……」
「……」
燈子は言葉を失った。
恐らく、華代がこの部屋にした理由は一つ。
「あ、お姉さんがここで子守りをしてる人ですね」
奥から華代が戻ってきた。
「あ──あの」
華代の方はもしかして燈子を覚えていないのだろうか。
「奥にいた子――朱雀くんから聞きましたよぉ。ついでに、私たちもここで遊ばせて貰っていいですか?」
「な――」
それは、燈子にはあまりにも衝撃的な一言であった。
「そんなの――」
「いいんだって!ねぇ、ここで遊ぼうよ!」
燈子が何かを言う前に、りくがそんなことを言ってしまった。
「ありがとう!伊奈ちゃん、奥に行こっ!」
「うん!」
そう言うなり、華代と伊奈は部屋に入っていってしまった。
「……どぉぉぉぉぉいうつもりだりくぅぅぅぅぅぅぅ!?」
りくを睨みつけ、怒鳴る燈子。
「抑えてくれ……。華代の機嫌を損ねでもしてみろ、それこそこの世のピンチだ……」
そう言ってりくは溜息をつく。
「ぐ……」
確かに、華代の機嫌を損ねるのは得策ではないし……。
─―と、燈子の中であることを思いついた。
「……いいだろう。但し条件がある」
そういってにやり、と笑みを浮かべる。
「な、なんだよ」
思わず後ずさるりく。
「りく。お前も私と共々子守りをするのだぁぁぁぁぁぁっ!」
「でぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

しかし。
「ふぎゃぁ!ふぎゃぁ!」
「おお、よしよし……うう、いつまで……」
「あ、コラ伊奈ちゃん、それ食べちゃ駄目!」
「えーん、お腹すいたぁ」
「お鼻……かみたい」
「きゃっ!服の裾引っ張らないで!」
最早てんやわんやである。
りくに加え華代も手伝ってくれることになったのだが、伊奈は子守りされる側になってしまい、結果として更に混乱するはめになった。
「うがぁぁぁぁぁ!!もう嫌だ!誰か優秀な保育士でも連れて来ぉぉぉぉぉいっ!」
「――っ、バカ、燈子!」
「――あ゛」
りくの制止も間に合わず、その言葉はしっかりと華代の耳に届いていた。
「そっか!プロの保育士さん連れてくればこんな苦労しなくてもいいじゃない!なーんで考え付かなかったかな私たち?」
「いやあの……華代ちゃ」
「うん!任せといて!ちょっと待っててねー!」
一人納得して、出て行ってしまう華代。
「……やってしもうた」
ガクリと膝をつく燈子。
「気にしちゃ駄目だ……俺も昔同じ失敗しちまったよ……」
そう言って彼女の肩をぽんと叩くりく。
――そして。
暫くした後、アパートの周辺に悲鳴の渦が巻き起こった。



「ただい……まぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
帰ってきた元2号が見たものは。
何処からか更に増えてきた子供たちと、わけもわからぬまま保母さんにされて彼らの子守りにあたる人々によって占拠された我が家であった。
「こっこっこれわぁぁぁぁ!?」
「に……2号……」
「ひっ!?」
突然真下から声。
そこには、精根尽き果てた燈子とりく、遊びつかれて眠った伊奈が倒れていた。
いつのまにか華代はいなかった。
「じゅ、10号……これは一体……」
ひきつる顔で問う元2号。
燈子は何とか身を起こして言う。
「……真城華代、恐ろしすぎる……。やっぱ子供は……こ、わ、い……ガクリ」
そう言って燈子は意識を失ったのだった。



「ふむ。そうか。……で、10号は修行の旅に出たと」
「はい。子供嫌いを治す為だとか……」
「……無理だろうな」
「でしょうね」
「しかし、だ。あいつだけ旅に出るのはいい。――何故に他の職員までいなくなっておるのだ?」
「どうやら彼女についていくつもりらしいですよ。……意外と人気のある人ですし」
「Mが多いのかうちの組織は……? ――で、お前もその一人なわけか」
「っ!? な、何故それを!?」
「見て分かるわい戯けが!なんで旅行鞄なんかこの部屋に持ってきとるのだおまいは!?」
「あ゛……」