「華代ちゃんシリーズ」



「華代ちゃんシリーズ・番外編」
「ハンターシリーズ」
「いちごちゃんシリーズ」

作・真城 悠

ハンターシリーズ46
『19番目の聖職者』
作・マコト



ここは、○田空港。

言うまでもなく、日本の空の玄関口である。

そのロビーに、二人の女性が立っていた。

「遅いな……何をしておるのだ」

おっさんくさい言い方をするのは、見た目は20代半ばといったところか、切れ長の目に眼鏡とスーツが似合う、美しい女性である。

「そうですねぇ。計算では既に到着しているはずなんですが……」

そう言ったのは、深緑色のロングヘアーに群青色の瞳をたたえた、可愛らしい女子高生くらいの子だった。

二人は、それぞれハンター10号・半田燈子とハンター31号・石川美依という。

二人とも女性であるが、その実単なる女性というわけではない。

燈子は、人類の敵・真城華代により性転換させられてしまった男のなれの果て。

またみぃは、その真城華代に対抗すべくつくられたアンチ・カヨ・フォース(AKF)シリーズの31号機たる生体アンドロイドである。

……いずれにせよ、ぱっと見は分からないが、純粋な女とは言えない二人なのだった。

「ところで燈子さん」

「む?」

スポーツタイプの腕時計を見ていた燈子に、みぃが話し掛ける。

「今度帰ってこられる19号という方、どのような方なんですか?」

「うむ……」

そうして、燈子は顎に手をやる。

そう。
今日二人がこんな空港くんだりまでやってきていたのは、一人のハンターを迎える為だった。

「私は彼が入ると同時期にコロンビアに飛ばされたからな、詳しくは知らんのだ。――ただ、敬虔なクリスチャンだとは聞いておる」

「敬虔なクリスチャン……ですか」

燈子の言葉に、鸚鵡返しするみぃ。

「なんでも『本場の教会を見に行きたい』とか言って、自分から海外出張へ出たそうだ」


「はぁ…あ、あの人じゃないですか?」

「む?」

みぃが指差す方向に、燈子は目をやる。

「ッ!?」

瞬間、言葉を失った。

動く歩道を渡ってくる一人の男。

しかし、その姿は、

紛れも無く、キリスト教の聖職者であった。

そう、その男、この空港で堂々と神父の正装をして歩んでいるのだ!


「……」

暫し呆然とする燈子。

「あの〜、ハンター19号さん、ですか?」

そんな燈子をよそに、みぃが一人その男に話し掛ける。

「? そうだけど……もしかして、君がお迎えの?」

その男――ハンター19号は、やんわりとした口調でそう言った。

見た目、30代後半といったところか。とても優しい印象がある。

「はい! 私、ハンター31号です。そしてあちらがハンター10号さんです」

「ふぅん?」

19号は燈子を見てそう呟いた。

「初めまして。ハンター19号です」

そう、19号は燈子に言った。

「あ――は、ハンター10号です……」

引き攣った笑みを浮かべながら、燈子は彼の手を握った。

――な……何を考えとるんだこいつは!?

――神父の服装とは……ただでさえ巫女やら看護婦やらバニーやらチャイナやらと色々いるというのに……。

「どうかしましたか?」

硬直していた燈子に話し掛ける19号。

「はっ!? い、いや! さぁ、か、帰ろうか」

慌てて燈子は駐車場へと駆けて行く。

「……?」

不思議そうに19号は首をかしげた。




「――というように、主はいつでも貴方がたのことを見守っておられます……」

『……』

ハンター本部にて。

19号を歓迎するパーティが、ここ、広間(?)で開かれていた……んが。

「――そして、パウロは聞いたのです。『サウロ、なぜ私を迫害するのですか』と。それは紛れも無く――」

『……』

いつのまにかそれは、19号自身による朗読会のようなものになっていた。

「長いな……」

「長いわね」

そう呟くのはおなじみハンター1号・いちごと、ハンター28号・双葉。

「そもそもなんで俺達はこんなモン聞いてなきゃならんのだ?」

家は浄土真宗なんだが、と呟くいちご。

「大体、誰が『聖書の話してくれ』なんて頼んだんだよっ!?」

「あ、それ私ですー」

そう言ったのは、他でもない、みぃであった。

「……なんで?」

呆れ顔で問う双葉。

「えー? だって私興味あったんです。私、キリスト教のことはあまりインプットされてなかったんです」

「皆を巻き込むなよ……」

頭を抱えるいちご。

「うう……足が痺れたぁ……」

そう漏らしたのは、巫女服姿の少女、ハンター35号・半田みこ(本名:谷澤鋭吉)。

実は全員、正座で話を聞かされているのであった。

「巫女がそんなことで音を上げるな」

と、教官然とした口調で言う燈子。

「そんなこと言われても……。大体俺はなりたくて巫女になったわけじゃないんすよ」

そう、彼女もまた華代被害者である。

「――おや? どうやら少々話が長引いたようですね……。では、今日はこのくらいにしておきましょうか」

そのやり取りに気付いたのか、19号は聖書を閉じ、立ち上がる。

「ふぅ……やっと終わった――って、ちょっと待て、『今日は』?」

安堵しかけた瞬間、いちごの頭を嫌な予感がよぎる。

「ええ。続きはまた明日、ということで」

そう言って、19号は慈愛の笑みを浮かべ、深く礼をして会場を後にした。

「は……はははは……」

皆、ただ乾いた笑いをあげながら拍手を送るしかなかった。




数日後。

ハンター本部最上階・司令室。

「なんだか、皆気力が無くなっておるようだが」

「そうですね……」

ボスと部下Aは、お茶を飲みながら談笑(?)していた。

「なぜだろうな?」
10号によるシゴキはもう無くなったというのに、とボス。

「それは多分、19号の所為です」

「ふむ?」

部下Aの言葉に、顔をあげるボス。

「ここのところ、毎日のように奴が聖書朗読会みたいなものを開いていて、それに飽き飽きしているみたいですよ」

「……」

ボスは唖然とした。

「このままじゃ緊急時に差しさわりが出そうですね……」

「――うむ。いた仕方あるまい。19号を呼べ」

「はっ」

ボスの命令に、部下Aは直ちに壁の受話器を手に取った。



「――何故です!?」

19号は抗議の声をあげた。

「何度も言わせるな。お前のその行為の所為で色々な所に迷惑が掛かっておる」

「そんな……ただ私は皆に教えの素晴らしさを説こうと……」

「――では問おうハンター19号。貴様は宣教師か? それともハンターか?」

ボスは目を細め、19号をにらみつけた。

「……っ」

それに、彼は言葉を失った。

「とにかく、これ以上『布教』は禁止だ。まぁ、宗教の自由は束縛せんよ。それを他人に押し付けるのは明らかに間違っておるがな」

そう言って、ボスは背中を向けた。

「……分かり、ました」

悲しみのどん底といった表情で、19号は部屋を後にした。




「一体どうすれば……」

ハンター本部付近にある公園。

普段はハンター6号・半田りくがそこで哀愁に浸っているブランコに、19号は座っていた。

「ただ、私は主の教えの素晴らしさを皆にわかってもらいたいだけだ……。だが、それは理解されないのか……?」

そうして、うなだれる19号。

そんな時、

「おじさん、どうしたの?」

「えっ……」

話し掛けられて、思わず顔を上げる。

そこには、白い服をきた、小学生くらいの女の子が立っていた。

「――貴方は?」

不思議そうに彼は尋ねる。

「あ、私はこういう者です」

少女は鞄の中から、一枚の紙切れを取り出し、19号に手渡した。

”ココロとカラダのお悩み、お受けいたします――真城 華代”

そう、その名刺には書かれていた。

「真城華代、と言うのか君は」

そう尋ねる19号。

――10号(燈子)と同じく海外生活が長かった為か、すっかりと彼女のことを忘れているようである。

そんな人がハンターに多いような気もするけど、まぁ今に始まったことではない。

「はい、セールスレディやっています」

笑顔で華代ちゃんは言った。

「セールレディ……か。具体的にはどういう?」

興味を持ったのか、そう19号は問う。

「そうですね。皆さんのお悩みを解決して差し上げるのが最大のお仕事です」

「悩みを解決……」

その言葉を聞いて、思わず19号は彼女を「凝視」する。
「っ!?」

そして、言葉失う。
彼女から、光のようなオーラがほとばしっていたのだ。

――私には、ものごとの「神性」を見る能力がある。

――先ほどから彼女には、凄まじい「神性」を感じる……。

――まさか、彼女は主の遣わした天使なのか!?

「お願いします! 私の悩み、是非聞き届けてください!」

胸の十字架を握り締め、許しを乞う容で彼は華代ちゃんに言った。

「? は、はい」

少し戸惑った華代ちゃんだが、とりあえず彼を立たせる。

「ええ。実は――」

そうして、19号は先ほどのことを華代ちゃんに喋ってしまった。

「ふむふむ。要は、皆にもっとその教えを知ってもらいたいから、なんとか出来ないかってことですよね」

要約して華代ちゃんが聞く。

「ええ、そうです」

そう言うと、

「なら手があります。じっとしててくださいね」

「え――」

問う暇もあらばこそ。

「!?」

変化は、突然神父を襲った。

「な――!?」

急激に縮む身体。

そうして、次第に大きくなる胸と臀部、逆に細まる腰。

「っ!?」

奇妙な感触とともに、股間の存在感が消えてゆく。

「あ――う!?」

続いて、顔面が変化を始める。

大きくつぶらな瞳になり、鼻は小さく、口元は可愛らしくなってゆく。

そして、ばさりとのびる髪。

それは背中の中ごろまでいき、質感は男性のそれから変わる。

そして、その色は綺麗なピンク色に。

「な、何が……!?」

一通り、身体の変化が終わった後、今度は服が異変を起こす。

豪華にみえた神父服は、次第に黒く染まっていき、長袖ワンピースの形状を取る。

そして、肩口から首辺りが分離して白くなる。

つまりはカソック。

そのサイズは変化した19号の姿にぴったりになり、靴は(なぜか)編みブーツに変化する。

更に突然、頭を帽子が覆う。

――そして、ようやく変化は止まった。

「これでよしっと♪」

ぱんぱん、と手を払いながら華代ちゃんは言った。

「――あ、貴方は一体何を――っ!?」

そう言って、19号は自分の声に驚く。

「さ、鏡をどぞどぞ」

そう言って華代ちゃんは手鏡を19号に渡した。

「!?!?!?!?」

19号は愕然とした。

そこに映っていたのは、神父服を着た30代の男ではなく、

少し変わった帽子のカソックに身を包んだ、10台前半の少女だったのだから。

帽子の形状は、通常のシスターの被るヴェール状ではなく、よくファンタジーなどの女性神官が被るようなつばの無い円い形のものである。

「これ――が、私……?」

あまりのことに呆然とする19号。

「こんな可愛い娘になら、どんな人だって教えを説いてもらいたいはずですよっ♪それでは!」

「えっ、あ、ちょっと――」

その言葉はどこから聞こえたのか。

19号が振り返った所には、白き天使はいなかった。




どさっ。

「――なんだこの書類の山は」

「登録変更届ですな」

「ふむ――どこが変わっているというの……」

「――お気づきになられましたか」

「これは……みな、宗教か……」

「そのようですな。しかも――基督教です」

「まさか19号の奴の影響か!?」

「はぁ。そのようで」

「あいつ……まだ懲りてなかったのかっ!」

「い、いえ! 実は……あいつ、華代被害にあっておりまして……」

「何だと!?」

「その……可愛らしいシスターの姿になって帰ってきまして。それにうちの男共が集まって教えを乞いに……」

「……んなアホな……。――ったく、仕方ない。19号に伝えろ。宣教はほどほどにしろとな」

「了解しました。――そうだ、彼――女のネームはいかが致しましょう?」

「まぁ、あれだ。19号だし、郁美でいいだろ」




この日以来、ハンター本部には礼拝堂が設置されましたとさ。