「華代ちゃんシリーズ」



「華代ちゃんシリーズ・番外編」
「ハンターシリーズ」
「いちごちゃんシリーズ」

作・真城 悠

ハンターシリーズ50
『銭湯へ行こう!』
作・マコト

「寒いな……」
黒く長い髪をポニーテールに束ねた少女が呟く。
2月も終わり、ようやく春の兆しが見えてくる頃だというのに。
「みぃ、今の気温分かるか?」
その女の子が、同年代くらいの緑のロングヘアーの子に問い掛けた。
みぃと呼ばれた少女は暫し目をつぶり、言った。
「現在気温2℃。春には程遠いですぅ」
「うわっ、寒いはずだ……。さっさと行こうぜ、皆」
身を震えさせながら、ポニーテールの少女――ハンター1号・半田いちごは後ろに叫んだ。
『おー』
それに呼応して、多くの男女がぞろぞろと歩き出す。
「――ったく、何だってガス系設備が壊れるかね……」
いちごがぼやく。
そう。
今朝、対真城華代組織「ハンター」本部にて、科学部門主任のハンター14号・石川恭介が新型機関の実験に失敗、施設の半分をごっそりとやっちゃったのである(怪我人0)。
そんな訳で今日は、ハンター・職員全員で銭湯に行くことになったのだ。
無論、経費は全て恭介持ちである(施設修理代を含めて)。
「お父様がご迷惑をおかけしまして……ごめんなさいです」
しょんぼりとするみぃ。
実は彼女、恭介が作り上げた生体アンドロイド「AKF-Type31」なのである。
「大丈夫よ、そんな謝らなくても。気分転換になっていいんじゃないかしら?」
そう言うのは、ハンター28号・半田双葉。
極普通の高校生に見えるが、彼女も非常勤ながら立派なハンターである。
「そうですよー。恭介さんに罪はありません。罪は全て、我等が父が贖ってくださっているのですから」
ニッコリと微笑み言う、ピンク色の髪をしたシスター姿の少女。
ハンター19号・半田郁美――洗礼名モニカである。
ちなみにいちごとは姉妹でも何でもない。
人類の敵「真城華代」によって女性へと姿を変えられたハンター達の「記号」、それが「半田」という姓なのだ。
「モニカさん……。――そうですね、ありがとうございますぅ」
ようやく笑顔になったみぃ。
「ところで銭湯っつったってよ、こんな大人数がいける場所なんてあったのか?」
いちごの問いかけに、みぃは微笑みながら答える。
「はい。お父様がお作りになられた超大規模な銭湯が、人工島「天竜島」に建設されてますぅ。結構CMとかやってると思いますよぅ」
「何ぃ!? あの施設、14号の持ち物だったのか!」
驚愕する一同。
――恭介って一体……。



大型船(恭介の私物らしい)を使い、件の人工島へ行く。
その施設は昨年10月くらいにオープンした、巨大入浴施設だ。
ジェットバスや打たせ湯等、様々な湯を非常に多く取り入れており、銭湯というよりも最早レジャー施設の様相を呈している。
ただ、あくまで入浴施設のカテゴリに入るため、男女別になっている。
「何だとぉぉぉ、男女別ぅぅぅぅ!?」
声をあげたのは、ハンター5号・五代秀作。
数学に関する知識で右に出る者はおらず、また特殊な能力を持つ男だ。
ただし、相当な天然ボケの上、いちごにぞっこんである。
「そ、それじゃぁいちごといっしょに入れないじゃないかぁぁぁぁ!」
「何言ってやんだテメェはぁぁぁぁぁっ!」
ゲシッ!
「ぐはぁっ!」
いちごのライ○ーキックが秀作に炸裂する。
その衝撃で船が大きく揺れた。
「あまり……船を……揺らさんで……」
ぐったりした様子で言うのは、銀色のロングヘアーを首辺りで結んだ、この季節なのに黒のノースリーブの上からデニムのジャケットを着ただけの少女。
「だらしないな、黄路疾風。このくらいで音を上げていては、私を討つことなどできないぞ」
彼女の隣に座る黒いショートヘアの少女が言った。
こちらはコートを羽織り、エメラルドをあしらったブローチ、そして翠碧の瞳がストレンジな雰囲気を醸し出している。
「ぐぅ……おのれ浅葱千景……、き、貴様は酔わない……のか?」
黄路疾風と呼ばれた銀髪の少女が、青ざめた顔で黒髪の少女――浅葱千景に問い掛ける。
この二人はハンターではない。
かたや元暗殺者、かたや用心棒で、仕事上のライバルであったのだが、共に「真城華代」によって性転換させられ、今はハンター本部に居候する身となっているのだ。
「私は乗り物には強いからな。そういうお前は、そんなのでよく仕事を続けてこられたものだ」
ふっ、と笑みを浮かべる千景。
「くっそぉぉぉ……あとで覚えてろ……うっぷ!」
突然疾風は立ち上がり、口を抑えながらデッキへと走っていった。
「先が思いやられるな……」
溜息をつく千景であった。



「ここですか。なんか空気がいいですわ、人工島ですのに」
船は無事(?)天竜島に到着した。
モニカは、素直にそんな感想を漏らした。
一緒に歩くいちごも言う。
「そうだな。緑も多いし……あ、百恵。疾風の様子はどうだ?」
彼女達の後ろから現れたのは、白衣の女性――ハンター100号・半田百恵。
医師であり、治癒という特殊能力を持つ。
「ただの船酔いだからな、能力を使うまでもない。一応薬飲ませておいたし、じき元気になる」
疾風が船酔いの挙句ぶっ倒れた為、航海中ずっと看病してもらっていたのである。
「すまないな、感謝する」
同じく一緒に歩いていた千景が頭を下げる。
「何、仕事だ。――だが、お前としてはあいつに倒れてもらっていた方がよいのではないのか?」
そう、彼女の看病を頼んだのはほかならぬ千景であった。
「まぁ、な。――けれども、流石に船酔いで逝かれては寝覚めが悪い」
頬を掻きつつ答える千景。
「――ふっ、まぁいい。おや、あれがそうじゃないのか?」
百恵の指差す先には、巨大……そう、largeではなくhugeといえる建造物が在った。



「ここから別れるのか」
一行は、施設内の入浴場入り口まで来ていた。
入り口は二つ、それぞれ「男」「女」の暖簾が掛けられている。
「じゃぁ、俺達は……女でいいのか?」
いちごがみぃに尋ねる。
「そうですねぇ。被害者さん専用、というのはありませんしぃ。水野さん達がよければいいんじゃないですかぁ?」
と、みぃは後ろにいた女性――ハンター事務員・水野真澄と沢田愛のコンビに流した。
「そんなの、考えるまでもないと思うけど?」
「そうよねぇ。貴方達だってその姿で男湯行くわけにいかないでしょ? 私たちは構わないわよ。ね、桃香」
二人は頷き、さらに同じ事務員である安土桃香を見る。
「私もOKですよ。だって……」
怪しげな瞳でハンター6号・半田りくを見つめる桃香。
「うぐ……」
それに気付き、りくは戦慄した。
りくは兎耳を生やした少女――幼女に近いが――の姿になった、華代被害者のハンターの一人である。
そして、桃香はりくをものすごく可愛がっていた。
「お、俺、トイレ行って来――うわっ!?」
「だぁめ。逃・が・さ・な・い♪」
逃亡を図ったりくを後ろから抱き上げる桃香。
「じゃぁ決まりですねぇ」

『ちょっと待て!』
そう言ったのはハンター10号・半田燈子と秀作。
燈子は長年コロンビアで活動していたが、その後帰ってきて被害に遭った。
現在の姿は美人教師といっていいほどスーツと眼鏡がよく似合う。
「ど、どうしたんだよ二人とも?」
「そ、そんな、女と一緒に入れるわけがなかろうが!」
「そーだそーだ、いちごは俺と一緒に入ぐほぉっ!?」
秀作が言い終わる前に、彼はいちごの鉄拳によって壁に叩きつけられていた。
「じゃぁどうするんだよ、燈子。お前だけ男湯入って、野郎共の目の保養をさせんのか?」
ぱんぱんと手をはたきながら問ういちご。
「ぐ……!? そ、それは……」
その光景を想像してしまったのか、燈子は狼狽してしまった。
「いい加減覚悟を決めろよ燈子。……俺なんかもう慣れちまった」
どことなく哀愁をたたえた顔でいちごは言った。
――「慣れ」は恐いものなんだろう。
「おーいみんなー、入らないのー?」
既に脱衣場まで行っていた双葉がみんなに呼びかける。
「――ええい、ままよ!」
そう言い捨てて、燈子はどかどかと「女」の暖簾をくぐっていく。
「ふっ……。さて、俺らも行くか」
苦笑しながら、いちごは他の女性と共に入っていった。
「いぃちぃごぉぉぉ〜〜……」
なにやら後方で、引き摺られる音と秀作の声が響いていた。



「うっわぁー! すっごぉぉぉい!」
そこを見て、双葉は感嘆の声をあげた。
想像していたただっぴろい浴場もあれば、お湯のスライダー、流れるお風呂、ジェットバスに打たせ湯にサウナに氷風呂に薬湯!
その他、様々な「お風呂」が彼女達を出迎えてくれた。
前述したとおり、ここはレジャー銭湯なのである。
あくまで銭湯なので真ん中に巨大な仕切りがあり、天井で男女つながっている。
「すごいすごいすっごぉぉぉぉい! こんなにすごいなんて!」
おおはしゃぎする双葉。
「ほぅ……これはこれは。銭湯とは言えないものかと思えば、ちゃんとタイルに絵を描いてある」
壁のタイル一面に描かれた富士山の絵を見て、千景は感心した。
「よっし、入ろうか――って、どしたそこの2人?」
いちごは、なかなか脱衣場から入ってこようとしない燈子、ハンター35号・半田みこを見つけて言った。
「むぅぅぅ……! こ、これ以上は……」
「ちょっと、俺には刺激が……」
そんなこんなで入ろうとしない二人。
みこは、元々神社の神主の末っ子である。
まだ17歳である為、こんな桃色ユートピア(?)は慣れていない。
そして燈子はというと、これまた女に縁がなく、見たことがあるのは変身後のおのれの身体のみなのだ。
一度決心したはずが、「銭湯はバスタオル一枚の他は何もつけない」ということに気付いた途端これなのだった。
そう、ここは銭湯。水着など着ていいはずがない――!
「なーに言ってるのよ。さっさと出てきなさいって」
「そうですわ。皆入らないと楽しくないですわよ」
横から現れた水野とモニカが二人の両手を引っ張る。
「うわわわわ、ちょっと待て! 分かった! 分かったから!」
「うはぁぁぁ!」
二人は浴場へ引き摺られていった。
「何やってるんだか……お、疾風。もう大丈夫なのか?」
いちごが呆れながらそれを見送ってると、疾風がふらふらと入ってきた。
「ああ、なんとかな。……それにしても」
「ん?」
じっと、いちごの胸を見つめる疾風。
「な……なんだよ」
「大きいな。うらやましい」
……。
「はぁ!?」
いちごは素っ頓狂な声をあげた。
「な、何を言いやがる!? ――ていうかお前、そんなんでうらやましがってどうすんだよ!?」
「ふんっ。俺はな、自分の性別がどうであろうと関係ない。要は千景と対等な状況で決着をつけられればいいのだからな。……だが」
そこまで言って疾風は目を伏せる。
「如何せん、その、身体的に奴より劣ってる感がしてならんのだ」
「……」
絶句するいちご。
確かに、千景はその肉体年齢の割に胸は結構ある。
それに比べ、疾風のは「ぺたぺた」とまでいかないが、やはり小さい。
「――あー、その、なんだ。なんとかなるって」
ひきつった顔でいちごは言った。
「どうにかって、どうやってだ」
「いや……その……」
疾風に問い詰められて狼狽するいちご。
「ふっふっふ……それはですねぇ……」
「っ!?」
声に振り向く二人。
「そ、それは、何なのだ、みぃ」
興味津々で声の主――みぃに聞く疾風。
「それは――揉むことですぅ!」
……。
「おお、そうなのか!」
疑わずに疾風は手をポンと叩く。
「そうなんですよぅ。お父様が言うには、千景さんも珊瑚さんも燈子さんも、みぃんな揉んで大きくなったんですってぇ」
「うをい!」
根も葉もないデマを垂れ流すみぃにツッコむいちご。
「なるほど、千景もその手合いか……。よぉしいちご、練習台になってくれ」
「私も、一度いちごさんのを……」
そう言ってわきわきと疾風とみぃが手を動かす。
「何故俺!? 手前のものでしろよ! う、うぁぁぁぁ、やめろーーーー!」
いちごの絶叫が銭湯中に響く。
――当然、向こう側の男湯にも。



「何か……すごいことになってそうだな、女湯は」
いちごの絶叫を聞いて、ハンター23号・二岡光吉は言った。
「ああ。――くそっ、一体どうなってるんだ向こう側は!」
ハンター24号・西良信が拳を握り締める。
「あああ、この壁一枚向こうにいちごが、いちごがぁぁぁ……」
壁に張り付いたまま涙を流す秀作。
……半ば変質者じみてきている。
「〜♪」
一方、浴場の隅でなにやらハンター7号・七瀬銀河はごそごそとしていた。
「あん、7号、何してんだ?」
光吉が近くに来て覗き見る。
「ふっふっふ……こういう日こそチャンス! 凄まじいまでのショットが撮れるはずだ!」
そうして取り出したのは、ケーブル状のもの。
「そ、それは!? まさか……!?」
驚愕する光吉。
そう、それは紛れもないデジカメであった。
実は恭介謹製の「全天候・全地形・全状況」対応の超高性能スーパーデジカメである。
雨の日だろーが雪で反射しよーが海の中だろーが灼熱の溶岩の上だろーが、あらゆるものを補正できる上、耐水・耐圧・耐塵・耐熱加工もバッチリなのだ。
「まさか……それで!?」
「その通り! ――というわけで、協力して欲しいんだけど」
銀河が何をしようとしているのか、それはあえて言うまい。
「やろうじゃないか! どうすればいい?」
良信が興奮した顔で言う。
他のハンターも頷いた。
「とりあえず、踏み台になるモノ――風呂桶が一番いいかな――を持ってきてくれないか?」
『おう!』
銀河の指示に従う野郎共。
そして瞬く間に即席の踏み台ができた。
高さはおよそ3m、よくもまぁ作れたもんである。
当然のごとく不安定で危なっかしく、一人登るだけで精一杯だろうか。
「よし! じゃぁ撮ってくる。その後はみなさんご自由に」
そう言って、デジカメ片手に登りだす銀河。
すると、
「待て、7号」
「え?」
先ほどまで泣いていた秀作が低い声で言った。
「何ですか、5号先輩?」
「いちごも……撮るのか?」
「ええまぁ、そりゃ高値で売れますし――って、うわ!?」
突然、秀作が台になっている桶を登りだす。
無論、台はぐらぐらと揺れ出す。
「ちょ、ちょっと5号先輩!? 危ないですって!」
「いちごの裸は俺が最初に見るんだぁぁぁぁぁぁ!!!!」
猛りながらなお登る秀作。
もう目がヤバイ。
「7ごぉぉぉぉ、そこをどけぇぇぇぇぇ!!」
「お断りします! シャッターチャンスを逃すわけにはっ!」
登る途中で争い始める二人。
「何やってるのかしら?」
女湯の方で、双葉がその争いの音に首をかしげていた。
途端、
ピキ……ピキピキ……。
なにやら音が仕切りからし始めた。



――ハンター本部。
恭介は後始末を終え、一息ついていた。
「ふぅ。――あ、そういえば「ハイパー銭湯天石」(銭湯の名前)、仕切りが壊れちゃったからベニヤで誤魔化してたんだっけ……。まぁいいか〜、何もおきないさっ、多分♪」
とことんマイペースな人間なのだった。



ピキピキピキ……ビキッ!!
「え?」
「あ?」
「お?」
バリバリバリ……ドッシャーーン!!
『でっ!!』
衝撃で下に落ちる銀河と秀作。
ベニヤ一枚に仕切られていただけの二つの浴場は、今、完全に一つとなった。
「……」
おいかけっこをしていたいちご達が止まる。
「い、いちごぉぉぉぉぉ!!」
顔から血の気が引いた銀河を押しのけて、秀作が立ち上がる。
瞬間、
パラッ……。
秀作の腰のタオルが取れる。
秀作の後ろには男のハンター&職員達、いちごの後ろには女のハンター&職員達。


――そして、時は動き出す。
『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
天竜島一体に、黄色い悲鳴がこだました。



「現場にいなくて助かったな、ほんと」
「ええ。――ですが、暫くは休業でしょうか? 女性職員がみな出勤していません……一部の男性職員も」
「5号とななちゃんは病院送りか。――5号はともかく、なぜななちゃんまで?」
「盗撮しようとしていたのが奥さんにばれたようです」
「……はぁ。いっそ春季休業として一週間休みにでもするか?」
「いい考えですね! 私もたまには羽根を伸ばしたくて――」
「貴様に休みはない。どっさりと仕事が残ってるからな」
「そ、そんな!?」