「華代ちゃんシリーズ・番外編」 「ハンターシリーズ」 「いちごちゃんシリーズ」 ![]() 作・真城 悠 |
ハンターシリーズ52 『おかしな二人』 作・ヒラリーマン |
今日も今日とて、ハンター本部内に黄色い声が響き渡る… 「「待てぇぇぇ〜〜〜!!千景ぇぇぇ〜〜〜!!」」 「「しつこいぞ!!疾風!」」 長く美しい銀髪を靡かせながら未だ寒いのにヘソ出しの短い黒のノースリーブにローライズジーンズ姿の中学生位の美少女がこれまた同年代のショートカットが似合うエメラルドグリーンの瞳をして上品な黒のミニドレスを来たお嬢様風の美少女を追いかけ回していた。 この風景を傍目から見ると… 「「も〜〜〜お!!ちーちゃんたら、まってよぉぉぉ〜〜〜!!」」 「「うふふふっ、捕まえてご覧なさいな」」 …と、いう風に見えるのだが… 追い掛ける銀髪の美少女の手には名刀と誉れ高い『四代兼重』…の、成れの果てである模擬刀『かねしげ。』が握られていた。 この少女、かつて精悍な男であり、裏社会に『白銀の風』と言う異名を轟かせていた用心棒で武術の達人、その名を『黄路 疾風』という。 かつてボディーガードとして雇われながら、その依頼主を『碧眼の暗殺者』…つまり男時代の『浅葱 千景』によって殺され、さらに自らも千景の手によって傷を負わされ、得も言われぬ屈辱を味わった。それ以来千景の事を恨み執拗に付け回す事となったが、ひょんな事で『真城 華代』の手によって今の姿に変えられてしまった。 …今日も朝から恒例の鬼ごっこ(?)の始まりだった。 いちご「ま〜たやってやがら、あいつら…」 水野「本当に仲好いのねえ〜あの二人。食事とトイレとお風呂、それとドラマの時間以外はいっつも…さすがに月一回のアノ日は3〜4日お休みするみたいだけど…」 沢田「あの年頃の女の子って理解できないよね」 水野「でも疾風ちゃんって、元・男だったんでしょ?」 いちご「ああ。なんか千景を追い掛けてきて組織の前に居座ってたらしいが、華代に性転換されてしまい、不憫に思ったボスが居候させたらしいけど…」 水野「へえ〜?千景ちゃんを追い掛けてきただなんて、ひょっとして疾風ちゃんって千景ちゃんの元彼?」 沢田「でも、現在は疾風ちゃんも女の子でしょ?じゃあこれってレ○ビア○?」 …と、まあいつも女はろくな考え方をしないものだ。 (キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン) 千景「待て!昼休みだ!しばし休戦としようではないか、それに私は午後から買物に出掛ける予定でな」 疾風「仕方あるまい!今日も命拾いしたな!」 …数分後、食堂に仲良く並んで座り、鍋焼きうどんをすする二人の姿があった。 疾風「買物に行くなどと言って、よもやそのまま姿をくらますのではあるまいな?…ちゅるちゅる…」 千景「ばかな、私の戻るところは今やここしか無い。逃げも隠れもせん!…もぐもぐ…」 疾風「そうは言っても、信用できん。俺もついて行くぞ」 千景「好きにするがよい。『岡野榮泉』の豆大福を買いに行くだけだ」 …ところで、近くのテーブルでこの二人の会話に聴き耳を立てていた水野・沢田両女史の姿が在った。そして、おもむろに立ち上がると、つかつかと二人のテーブルの前に来た。 水野「ねえねえ、千景ちゃんに疾風ちゃん午後からお出かけするの?」 沢田「疾風ちゃん、外は未だ寒いわよ。そんな格好じゃ風邪引いちゃうわ」 疾風「い、いや、あの〜」 水・沢「と、言うわけでお出かけするならあたし達に服のことまっかせなさ〜い♪」 疾風「あ、いや、け、結構です…」 水・沢「そんな遠慮しなくても!」疾風「あわわわ〜〜!」 疾風は半ば強引水野・沢田両女史に両腕をつかまれ引きずられる様に女子更衣室の方に連れて行かれた。 千景「気の毒に…」 水野「疾風ちゃんスタイルいいのねえ〜」 沢田「やっぱミニスカートが似合う年頃だもんね。ちょっとコギャルっぽくしてみる?」 水野「このピンクのキャミ可愛んじゃない?このデニミニと合わせてみようか?」 疾風「…あ、あの〜、なんかさっきよりも薄着になった気がするんですが…」 水野「だいじょ〜ぶ!若いんだから上にダウンジャケットでも羽織ればいいのよ」 沢田「髪の毛はどう?長いしツインテールにしてみようか?」 疾風「た、たすけてー!」 1時間後、疾風の部屋の前に千景の姿が在った。 千景「おい、そろそろ出掛けることにするぞ」 ドアが開くと髪の毛をツインテールにし、ピンクのキャミソールに膝上20?pはあろうかと思えるデニムのミニスカートを履き、ルーズソックスにスニーカー、そして白のダウンジャケットを羽織ってすっかり可愛らしくなった疾風が幾分頬を染めながら出て来た。 足はしっかりと生足だ。 千景『(うぷっ)…いかんいかん!ここでうっかり吹き出せばますます奴に火を付けるだけだ』 疾風「ど、どうした?な、何か可笑しいか?」 千景「い、いや何でも無い…、それでは出掛けるとしよう」 千景はと言うと何時もと違い黒のタートルに黒の細かいチェック柄のミニに黒のタイツ、そして黒のブーツを履き、例に依ってトレンチコートを羽織っていた。 疾風「う〜〜!な、何か脚の間がスースーする!千景、貴様どうもないのか?」 千景「郷にいれば郷に従え、何でも慣れだ…しかし、何故私の様に防寒対策をせんのだ?」 疾風「あの二人が『若い娘は生足よ!』等と言って何も掃かせて貰えなかった」 二人は電車に乗っていた。 千景「一つ忠告しておこう。お前の様に大股を拡げて座るとスカートの中身がいたく男の劣情を煽るぞ」 疾風「「えっ?…あっ!きゃあぁぁぁぁぁ〜〜!!」」 その瞬間前に座っていた男の客達は一斉に顔を伏せた。 某駅で降りて二人は雑踏の中を歩いていた。 千景「さっきは鼓膜が破れるかと思ったぞ。全く何という声を出すのだ?」 疾風「…す、すまん…じ、自分でも無意識に…」 疾風は顔を真っ赤にし消え入りそうな声で答えた。 千景「もう一つ忠告しておこう。お前はその姿で外出するのは初めてだから、これから幾度となく男共がやれ茶を飲まんか、やれ飯を食いに行かんか…などと声を掛けてくるに違いない」 疾風「ありがたい事ではないか?」 千景「いや、それはあくまでも罠に過ぎぬ。奴等は巧妙に餌を蒔き、さらに親密な関係を我々に要求してくるのだ」 疾風「まるでマフィアのやり口だな」 千景「そこでその対抗策として、次の様な戦法が挙げられる、『私付き合ってる人がいるの』とか『友達と待ち合わせているの』などと言う方法が有る。これで大抵の場合は無益な争いから避けられる」 疾風「ふむ、戦わずして相手を制する、武術の究極の極意にも相通ずるな」 千景「だが、これでも相手が退散せぬ場合…」 疾風「ふむふむ」 千景「『うぜぇーんだよ!このバ〜カ!!』と言い、鋭く相手を目で威嚇する!」 疾風「ほ〜う、眼力で相手を制するのか?」 千景「さらに所謂相手が『イケメン』と言う種類の男なら、『食事だけならいいわ』とか言って馳走になるという手もある」 疾風「成程、しかし貴様も中々女の事に詳しいな」 千景「あの二人に色々と教わったのだ」 疾風「ほう、あの二人中々の策士だな。ところで『イケメン』とはどんな奴だ?」 千景「さあ?水野さんと沢田さんに聞いただけだから?解らなければ私達が判断するから携帯端末に付いているカメラで画像を転送してこい、と言っていた」 二人が他愛も無いお喋り(?)をしながら歩いていると、背後に駆け寄って来る者の気配を感じた。 男「ねえ君達!」 千景「来たぞ…」疾風「応!」 二人は同時に振り向くと、棒読み台詞の様な口調で、 「あたし付き合っている人がいるの!」「あたし友達と待ち合わせているの!」 男「…?」 『…どうも効果が無い様だ』『もう一つの手を使うか』 又二人同時に… 「「うぜえーんだよっ!!バ〜カ!」」と、またもや抑揚のない棒読み口調で… 男「いやいや、御免御免!変な誤解をされたみたいだね」 千景・疾風「はっ?」 男「実は僕はこういう者なんだ」と、名刺を差し出した。 …そこには『マダムの友社 Kyawaii編集部 池面(いけも)正之』と、書かれてあった。 池面「いやあ、君達を見た途端、ズキーン!と来てね。是非、うちの雑誌のモデルに成って貰えないかな?」 疾風『…おい、モデルとは何だ?』 千景『…色々な綺麗な衣装を着て写真を撮られるというやつだ』 池面「実は今日来て貰う予定だったモデルの娘が二人共インフルエンザでダウンしちゃってね、撮影に穴開ける訳に行かないから、急遽街頭で誰か代わりの女の子を捜してたんだよ。そこに偶然現れたのが君達だったという訳さ。無論、幾らかの謝礼はさせて貰うよ。もし、OKなら早速うちのスタジオで衣裳合せをしたいんだけど?」 疾風『…この男が所謂、いけめんという奴か?』 千景『…名前から察するにどうもそうらしいな』 千景・疾風「…しょ、食事だけならいいわ…」 池面「えっ?いやいや食事どころかちゃんとモデル料も払わせて貰うよ」 二人は流されるままに男について行った。男の務める出版社は直ぐ近所で、その中に撮影スタジオがあった。三人が撮影スタジオに入るとスタイリストとカメラマンが待ち構えていた。 「池面君代わりの娘は見つかったの?」 池面「バッチリっすよ!紹介します。千景ちゃんと疾風ちゃん!二人とも中学生らしいんだけど学校名は勘弁して欲しいらしくて…あっ、お二人さん、この人達がスタイリストの松嶋さんと売出し中の女性カメラマンの山崎さん」 松嶋「よろしくね」山崎「どうぞよろしく」 千景・疾風「…あっ、よ、宜しくお願いしま〜す」 松嶋『ちょ、ちょっと池面君!この娘達何処で見つけて来たの?』 池面『いや、たまたまうちのビルの近くを歩いてたんで声を掛けたんですけど?駄目ですか?』 山崎『駄目どころか!この娘達絶品よ!プロのモデルの子でもこれだけの逸材はそういないわ!しかもそれぞれ個性が有ってかたやお嬢様風かたやボーイッシュなコギャル風、よく二人セットで見つかったものね?』 池面『そ、そうでしょ』 疾風『お、おい何か変な具合に成って来たな』 千景『仕方あるまい、こうなれば成るに任せるか』 疾風『貴様はよく落ち着いて居られるな』 千景は身につけていた銃を判らない様に外しそっとバッグの中に隠した…と、みるみる表情に変化が現れ、冷徹な無表情さが消えおっとりとした笑みを浮かべた表情に成った。 松嶋「じゃあ貴女達、早速で悪いけど、こっちに来て衣裳替えしてくれる?」 千景はにっこりと微笑むと『はい、解りました』と応えた。 疾風『…全く、奴の変わり身の速さには付いて行けん!』 二人は様々な衣装に着替えさせられ、カメラの前でポーズを取らされた。千景はお嬢様風の落ち着いたファッション、疾風の方は闊達としたギャルっぽいファッションとそれぞれ個性に合わせたスタイルで… 山崎「はいっ!千景ちゃ〜んこっちみて〜…うんうんいいわよその顔。疾風ちゃん、ちょっと笑顔が硬いかな〜?何か好きな食べ物とか彼氏の顔思い浮かべて〜…そうそう、いいわよ〜!」と、 次々シャッターが切られてゆく。…やがて、撮影も最終段階になった。 山崎「二人ともお疲れ様!あと数ショットだけだからね!」 松嶋「で、最後なんだけど、水着のショットを撮りたいの。」 千景「え〜?恥ずかしいな〜!…でも、可愛く撮って下さるなら喜んで…疾風ちゃんもいいですわよね?」…キラッとその目にちょっと悪戯っぽい光が宿った。 疾風「…み、水着?い、いや、あのっ、そのっ!」…疾風にとって嫌な記憶が蘇る。先日、ハンター組織の浴場施設が壊れ、全員で銭湯に行った時、そこで千景に対する敵愾心を一層煽る事と成ったのだ… 固まってる疾風をよそにスタイリストと水着選びを始めた千景… 松嶋「あらっ?千景ちゃんって着?せするタイプなのね?以外と胸有るじゃない。」 千景「え〜?そうですか〜?でも肩が時々凝って…そういう点で疾風ちゃんが羨ましく感じる時がありますわ」と、聞こえよがしに言った。そして、この一言が決定的に… 疾風「「うわあああああ〜〜〜〜ん!!」」 突如疾風は叫びながら飛び出して行った。その目に一杯涙を浮かべて…。 松嶋「ど、どうしたの?疾風ちゃん?」 千景「ほんと、どうしちゃったんでしょうねえ?」…クスリと笑みを浮かべる千景であった。 翌る日のハンター本部内… いちご「今日は馬鹿に静かだな?」 水野「ほ〜んと、あの二人、喧嘩(?)でもしたのかしら?」 沢田「それがね、疾風ちゃん昨日何か機嫌悪そうに帰ってきて、いきなり食堂へ行って牛乳をがぶ飲みし始めたの」 「???」 沢田「それから手の平を胸の前で合わせてフーとかハーとか呼吸運動し始めたの。今も部屋に閉じ籠もって牛乳飲みながら、例の運動やってるみたいよ」 いちご「なんだそりゃ?」 水野「やっぱりあの年頃の娘は理解出来無いわ…」 (完) |