「華代ちゃんシリーズ」



「華代ちゃんシリーズ・番外編」
「ハンターシリーズ」
「いちごちゃんシリーズ」

作・真城 悠

ハンターシリーズ54
『春うらら』
作・ヒラリーマン

 すっかり春めいて来たある日の午後、ここハンター組織の事務室内、トレーナーにローラーズジーンズというラフなスタイルのポニーテールの美少女がパソコンのキーを一心不乱に叩いていた。その隣には若い男が欠伸をしながら鼻をほじっていた。
「はああぁ〜暇だなあ〜…こう事件が無いって言うのも退屈だなあ〜…ところでさ!いちご」
「何だ五号?デートの誘いならきっぱりお断りだぜ。俺は報告書の仕上げに忙しいんだ」と、いちごと呼ばれた美少女はつれなく返事を返した。
「いや、俺今日ちょっと用事があってさ、早い目に切り上げるわ。うんじゃ!」
そう云うと五号と呼ばれた若い男『五代 秀作』は机の上の片付けもそこそこに事務室を出て行った。
ちょっと、いちごは拍子抜けした…『なんだ?何時もならしつこく誘うのに?』

数分後、いちごは仕事の気分転換にと組織内部のカフェに居た。ミルクと砂糖をたっぷり入れたコーヒーとシュークリームを前に『?? 次郎』の小説を読んでいた。…と、そこへ…

「あら、いちごちゃん、ティータイム?」いちごにとって女としての大先輩であり、アドバイザー兼ファッションコーディネーター(?)総務部の水野・沢田両女史が現れた。

水野「一人なの?秀作君は?」沢田「いっつもいちごちゃん命で、べったりくっついて来る秀作君が居ないのも変ね?」
いちご「ああ、あいつなんか用事が有るとかで、仕事もそこそこに出掛けましたけど」
水野「ふ〜ん?でもいちごちゃんをほっぽといて一人でどこかへ出掛けるなんて、今までの秀作君には無かった事ね」
沢田「ひょっとして誰かさんと会ってるんじゃない?」
水野「とすると…これは一大事よ、いちごちゃん!」
いちご「な、なんで一大事なんすか?だ、第一俺は元男だし、秀作の事なんて何にも思ってないし…」
水・沢「「へ〜〜え〜〜?」」
いちご「な、な、何すか?その顔?」
水野「だって、…ねえ?」沢田「あたし達新年会でいちごちゃんの衝撃の告白っていうのを聞いちゃったもんね」
いちごは頬を染めながら「あ、あれは酔っぱらって自分でも訳が判らなく成ってて…」
水・沢「「ふ〜〜ん?」」
いちごは冷めたコーヒーを一息で飲み干すと「げほっげほっ!…お、俺仕事に戻ります!」と這々の体でカフェから出て行った。
水野「う〜ん…やっぱりあれは…」沢田「まんざらでもなさそうね…」

いちごは事務所に戻ると再びパソコンのキーを叩き始めたが、どうもさっき水野・沢田両女史の言った言葉が妙に心に引っかかる…『なんで俺が秀作の事を気にしなくちゃいけないんだ?俺は元男だぞ?なんで男なんかに…ああっ!どうも気分が乗らねえや!ちょっと気分転換に出掛けるか?』

いちごはやや暮れ始めた早春の都会(まち)を歩いていた。昼間は大分暖かく成ってきたとは言え、まだ夕暮れには肌寒い。

『あっ?あれは…』いちごは前の方から歩いてくる若い男女のカップルに気が付いた。
それは間違いなく男の方が『5号・五代 秀作』であった。そしていちごと同年代位だろうか、髪の長いデニムのミニスカートがよく似合う美少女を連れていた。それを見た途端いちごは、心の中にどうしようもない気持の高ぶりが沸き上がってくるのを抑えきれなかった。そしてその二人から逃れる様に脇道へ外れようとした時…

「あれっ?いちごじゃないか?どうしたんだよこんな所で」
「…あ、あら…ご、五代…く、ん」

「珍しいな〜お前が一人で出歩くなんてさ…あ、そうだ紹介するよ。こいつが俺の…」
と秀作がそこまで言いかけた時、いちごの感情の高ぶりが限界に達していた。

「「今晩は、五代君!綺麗な人とご一緒でお楽しみ中みたいね!ご心配なく!邪魔するのは野暮だからわたしは直ぐ消えるわ!せいぜい楽しんでらっしゃい!」」…いちごは顔が引きつりそうになりつつも無理に冷静さを装うと、一気に捲し立てた。…自分でも意識しない女言葉で。

「お、おい!いちご…」
「「じゃあ失礼っ!!」」

いちごは急ぎ足で二人から逃げる様に離れていった。…その綺麗な瞳に涙を浮かべて。

「変な奴だなあ?何ぷりぷりしてんだか?」
「ねえ、お兄ちゃん。今の人が同僚のいちごさん?評判以上に綺麗な人ね」
「ああ、でもなんか機嫌悪そうだったけど何があったんだろう?」
「まったく!お兄ちゃんったら女の子に熱心な割には女心が解ってないんだから。」
「へっ?」
「きっといちごさん誤解したのよ、私達の事。もお〜、会ってすぐにあたしの事、大学受験で上京してきた実の妹だってきちんと紹介してくれ無かったのよ?」

「そ、そうだったのか…」
「「いっちごおおお〜〜〜〜!!誤解だあああ〜〜〜!!俺の好きな女は世界でお前一人だけだあああ〜〜〜〜!!」」


ボス「何だ、またいちごが引き籠もってるのか?」
部下A「はあ、何か水野さん沢田さんの話によると泣きベソかきながら帰ってきてそのまま部屋に閉じこもったとか」
ボス「理由は?」
部下A「はあ、それが二人に聞いても『野暮な事聞かないで!』と言われまして…とりあえず5号の奴が必死で説得してるみたいですが」
ボス「そうか…それなら放っておけ」
部下A「引っ張り出さなくて好いんですか?」
ボス「春だなあ…」
部下A「はっ?」