「華代ちゃんシリーズ」



「華代ちゃんシリーズ・番外編」
「ハンターシリーズ」
「いちごちゃんシリーズ」

作・真城 悠


ハンターシリーズ55
『柱の傷は』
作・匿名希望


カリカリカリ…、
サク…。
「痛!」
「あ…。
 大丈夫?」
「はあ…、
 だからこれ嫌なんだよ…」
「文句言わないの!
 大事な成長の記録なんだから!」
「成長の記録なら身体測定があるだろ。
 わざわざ柱に傷をつける必要は…」
「それじゃあ情緒ってものが無いよ」
「クナイでコンクリート削って何が情緒なんだか…」
半田りくは呟いた。
「まったく…、
 せめて耳切らないように気をつけてくれよ」
「はいはい」
安土桃香は半分も終わっていなかった作業を再開した。
カリカリカリ…、
サク…。
「痛!」
毎年この時期りくの兎耳に怪我があるのはこういう理由からである。


「これで完成っと!」
「やっと終わったか…。
 さてと、早く100号に…」
「こんな所で何してるの?」
「あ、華さん」
「いやちょっと…」
突然真沙羅華が現れた。
柱を削っている所を見られたのはさすがに気まずいらしく桃香は少しどもった。
「あら、成長の記録ですか?」
「ええまあ…」
「そうか…。
 確かにこのぐらいの年の子って普通は成長する物ですよね…」
「あの…、
 何かあったんですか?」
「私がりくちゃんぐらいの年だったときなんだけど、
 他の皆と比べて何故か私だけ妙に背が高くてずっと肩身の狭い思いをしてきたんですよ…」
「背が高いのがそんなに悪い物なのか?」
「女の子には切実なもんだいなのよ」
「よくわからん…」
「でも、子供は成長する物ですよね。
 だから普通背が高いのはいい事のはずなんですよね…」
「あの…、
 さっきから気になってたんですけど…」
「何ですか?」
「何でこんな所に来たんですか?
 確か身体測定結果の整理をしてたはずじゃあ…」
「ああ、早めに終わったからちょっと外の風にでも当たってこようと思ったんですよ」
「気をつけてくださいよ。
 もう夜も遅いんですから」
「ありがとうございます。
 それじゃあそろそろ…」
そう言い残すと華はその場を立ち去った。
「何だったのかしら…。
 ま、いっか。
 じゃありくちゃん、私達も…」
桃香が振り向いた先にはりくはいなかった。
いつのまにか100号の所に向かったらしい。

暗闇の中に2人分の影が立っていた。
1人は女の子、1人は大人の女性らしい。
「久しぶりですね」
「15年前は迷惑をかけちゃってすみません…」
「いつのまにか姿を消しちゃうんだから驚きましたよ。
 15年の間に見違えるほど成長しましたね」
「でも…」
「確かに貴女は私達とは大きく違う所があります。
 でもそれがどうしたんですか?
 他の皆と違っててもいいじゃないですか。
 それが個性なんですから」
「あの…」
「なんですか華さん?」
「え?
 今華さんって…」
「言いましたよ。
 だってそれが今の名前じゃないですか。
 わたしに貴女の人生にあれこれ口出しする権利はありません。
 貴女が選んだ道を歩くのは貴女自身です。
 わたしじゃありません
 貴女が真沙羅華としての人生を選んだ、
 ただそれだけじゃないですか」
「…」
「さてと…、
 そろそろ行きますか…」
そして少女の影は揺らぎながら消えた。
「さようなら…」
女性の影はそう呟くと明かりの灯った基地へと歩みだした…。

『わたしの名前を呼んでくれてありがとう、
 華代ちゃん…』