「華代ちゃんシリーズ」



「華代ちゃんシリーズ・番外編」
「ハンターシリーズ」
「いちごちゃんシリーズ」

作・真城 悠


ハンターシリーズ57
『サクラサク』
作・ヒラリーマン


ここはハンター組織内に在るカフェテリア、その窓際のテーブルの一つに長く美しい黒髪をした少女が座っていた。高校生位だろうか、前髮をカチューシャで留めたその顔は美女(?)揃いのハンター組織内に於いて勝るとも劣らない美少女だった。
春らしく白いTシャツにピンク色のカーデガンを羽織り、ベージュのロングスカートを穿いてしとやかに座り、レモンティーを優雅に飲む姿は彼女の育ちの良さを窺わせる。春の温かい木漏れ日がカフェの窓を透して彼女に降り注ぎ、まるで一枚の絵画のような風情を醸し出していた。
周りの男達はひそひそ声で『おい…うちの組織にあんな娘居たっけ?』 『なんか五号の妹らしいぜ。大学受験で上京して来たとか…』『へ〜え?あいつにあんな可愛い妹がいたのか?』
少女はそんな事を気にも留めずに参考書を一心に読んでいた。…と、そこへ長い髮をポニーテールに纏め、トレーナーにジーンズというラフな格好をした同じく高校生位の美少女がやって来た。そして座っている少女に声をかけた。

「お待たせしちゃって、ごめんね。純ちゃん」
「お早うございます。いちごさん。お忙しいのにすみません」
純と呼ばれた少女は立ち上がりペコリと頭を下げた。

「ううん、いいのよ。丁度非番の日だし、お兄さん急に海外出張になっちゃって、慣れない都会で一人は寂しいでしょ?あたしも久々に羽を伸ばしたいし」いちごと呼ばれたポニーテールの少女がにこやかに応える。

「先日は誤解を受ける様な事に成って御免なさい」
「えっ?あっ、ううん、べ、別に気にしてないわ。第一、秀…五代君とは何でも無いの、ほ、本当よ!本当に…」と、言いながらも何故か顔を赤らめるいちごであった。

その様子を見て、クスリと笑う純と呼ばれた少女…彼女の名は『五代 純』と言い、ハンター5号こと『五代 秀作』の実の妹で、大学受験の為上京して来ているのであって、先日、上京して来た日に兄と一緒に歩いていた所にいちごとばったり出会し、いちごが変に勘ぐってふて腐れて帰って行った時の事を思い出して可笑しくなってしまうのだった。

「でもいちごさんって、兄から聞いていた以上に綺麗な方で本当にびっくりしました。兄が一生懸命になるのも無理ないなあって。わたしもこんなお姉さんが居たらなあって思いましたもの」
「えっ?いやだ、純ちゃんったら!」と、ますますいちごの顔が赤くなる。
「そ、それより早く出掛けましょう!」「あっ、はいっ!」

兄の秀作が急にアメリカへ出張することとなり、留守中受験間際の妹の面倒をいちごに託して行った。いちごは勉強ばかりでなくたまには息抜きも必要かと思い、純を街に連れ出す事にしたのだった。

二人はすっかり暖かくなった春の町並を歩いていた。飛び切りの美少女二人が歩いているとそれだけで春の到来を実感させてくれる。

「さてっと、純ちゃん何処か行きたい処有る?」
「わたし秋葉原へ行ってみたいんです。じつはパソコン自作していて、ちょっと欲しいパーツが有るんです」
「えっ?うふふ、やっぱり兄妹ね。」

二人は何軒かのショップを巡り、純はメモリとビデオカードを購入した。

「純ちゃんって面白いのね、普通この年頃の女の子って、ファッションにお金をかけるのに…」
いちごがそう言うと、純は一瞬寂しげな目をして「変ですか…?」と言った。
「い、いやそういうんじゃないんだけど、あたしもどっちかって言うとその方面は疏い方だし」

すると、すぐに純の目は元の輝きに戻り…
「うふふふ、何か私達気が合いそうですね。ねえ、いちごさん、どこかでお茶しません?」
「そうね、少し歩き疲れちゃったし」
「わたし、メイド喫茶に行ってみたいんです」
「あ、あはは、そ、そう?」…じつはいちごはメイド姿にトラウマを持っていた。

「「お帰りなさいませ、お嬢様ぁ〜〜!!」」

メイド姿のウェイトレス達に迎えられ、二人は窓際の席に落ち着いた。

「ふうっ、ちょっと疲れちゃったね」
「いろいろ引っ張り回しちゃって御免なさい」
「え、いいのよいいのよ。少しは気晴らしになったかしら?」
「て、ゆーか、いちごさん疲れません?」
「ううん、大丈夫よ」
「じゃなくて、女言葉をしゃべるのに疲れてないかなあ〜と、思って…僕はもう疲れましたよ…」
「そんなこと無い…って。え、えええええ〜〜〜!?
「はあ〜〜やっぱり女の子の言葉って難しいですよねえ?中々慣れないや」
「じゅ、純…ちゃん、一体君は…?」
「僕も貴女と同類ですよ、いちごさん…」

純はゆっくりと自分の身の上を語り始めた…
「あれは、去年の春3年になったばかりの時でした。こう見えても俺、元アメフト部のエースクォーターバックで春の対外試合に出場した時です。タッチダウンパスを二本決め、14−0で前半戦を終えハーフタイムに入って両校の応援合戦が始まったんです。俺たちの高校は男子校で色気も何にも無い、学ラン姿での応援です。それに引き替え、相手の高校は共学校で可愛いチアリーダー達がポンポン振りながらの応援でした。それをベンチの方から俺たち3年生のレギュラー5人が見ていたんです。」

『くそ〜〜、いいなあ〜!あんな可愛い娘等に応援して貰えてよ』
『まったくだ羨ましいなあ。それに引き替え俺たちの高校は…』
『憧れるなあ〜〜』
ちょうど、その時でした。
『お兄ちゃん達何か悩み事があるんですか?』

何処から入ってきたのか小学生低学年位の可愛い女の子が俺たちのベンチに居たんです。

『あたしこういう者なんです』と、その子は俺たちに名刺を配ってきました。確か…『しんじょう はなよ』…とか?書いてあった様な気がします。

そしてその子は俺たちに…
『お兄ちゃん達あの可愛らしいチアリーダーさんに憧れているんですね?』
『ああ、それに俺たちの高校は男子校だろ?男女共学ならもっと楽しい高校生活が出来るんだろうな〜て思ってさ』

『なるほどなるほど、じゃあそのお悩み今解決して差し上げますね。そ〜〜れ〜〜!』

その瞬間俺たちの周りに真っ白な霧の様な物が立ちこめ、そのまま俺達は5人共気を失いました。
…暫くして、俺を誰かが揺り起こすのが解りました。

『純…純、純ってば!早く起きなよ!後半戦がはじまっちゃうよ!』…誰か見知らぬ女の子の声でした。
『えっ?た、大変だ!早くグラウンドへ行かないと!』と、俺が目を覚ましたのは、ベンチではなく応援席でした。

目の前には見知らぬ…でも、その顔には何処か見覚えのある可愛らしい女の子達が4人、チアリーダーの格好をしてポンポンを持って立っていました。よく見ると、彼女達のコスチュームの胸の処に母校のネームが入ってました。そして、コスチュームの色も明らかに母校のスクールカラーでした。

『もうっ!純ったら寝ぼけないでしっかりしてよ!はいっ!これっ!』そう言うとポンポンを俺に手渡してくるのです。ふと、自分の身体を見下ろしてみると、彼女達と全くおなじ格好をしていました。悪い夢でも見ているのかと思い、両手で頬っぺたを叩いてみました。…けど、痛いだけでした。

『そうっ!純、やけに気合い入ってるじゃない。じゃあ後半戦も張り切っていくわよ!』驚いた事に俺の身体は勝手に習った事が無い筈の様々な振り付けのダンスを次々とこなしてゆきました。
そして、応援席を見渡すと男子校で有ったはずなのに、半数がブレザーとチェックのスカートに身を包んだ女子高生だったんです。そして母校のアメフト部は3年生の居ない、1,2年生ばかりの若いチームになっていたんです。つまり俺達3年生は全員女の子に変えられチアリーダーとして後輩達の応援にまわっていたんです。

驚いた事に俺以外の4人は男の時の記憶が全く残って無くて、生まれた時から女の子だったという風に記憶が置き換えられていました。
そして、それは俺の家族や親戚、周囲の人達にも及んでおり、両親や兄貴も俺が生まれた時から女の子だと言うし、子供の頃の自分の写真やビデオなんか見ても全部女の子としての自分の姿しか見当たりませんでした。やはり俺は自分が男になっていた夢でも見ていたのか?それとも、二重人格で男としての別人格が芽生えたのか?と、随分思い悩んでました。

ところが、兄貴のやっている仕事の内容を知ってからはやっぱり自分は男だったんだという確信がして来ました。そして、兄貴の話から俺と同じ様な境遇の人がハンター組織内にも沢山いる事を知ってその人達と会って話をしてみたいと思ったんです。

「じゃあ君は男に戻して貰うために此所に来たのか?」
「いいえ、一時はそう思った時も有りました。でも、両親も兄貴も俺が生まれた時からの女だと思ってるし、親にしてみれば俺の花嫁姿や孫の顔みるのを楽しみにしてるし、そして…」
「そして?」
「そして、中にはいちごさんの様に再性転換が不可能で一生女として生きなければならないかも知れない人がいると聞いて、…それに、最近女の子として生きてみるのも悪くはないなあって思い始めたんです」
「なぜ?」
「実は…えーと…同じクラスに好きな子が出来たんです。勿論男の子ですよ。そしてそいつの前では、演じるでもなく自然に女の子してる自分に気づいたんです」そう言うと純は少し顔を赤らめた。

「ふ〜ん、そうか。若いって奴はいいなあ〜」
「えっ?でもいちごさんも充分若いじゃないですか。見たところ俺とそう年が変わらない様に思いますけど?」
「ふっ!俺はもと三十男だ。だからこんな身体になっちまった時には随分苦労したぜ」
「でもいちごさんってすごく女っぽいじゃないですか。特に兄貴の前ではまるっきり女の子してるじゃないですか」

見る見るいちごはまっ赤になり…

「「なっ、何を言うんだお前は!?そ、そんな事ありえん!!」」
「ははっ、そういう可愛い所に兄貴が惹かれるんでしょうねえ。俺が男でも放っておきませんよ」
「ば、馬鹿っ!そんな事より受験頑張れよ!」
「わかってます。そして必ず合格して、またこの街に戻ってきます。」
「ああ、待ってるぜ」
「その時は又よろしくお願い致しますわ、いちごお姉様」
「ええ、いつでもいらっしゃいな」


…その半月後、純の合格通知が自宅に届いたという。

                                                                                     (完)