「華代ちゃんシリーズ」



「華代ちゃんシリーズ・番外編」
「ハンターシリーズ」
「いちごちゃんシリーズ」

作・真城 悠

ハンターシリーズ58
『ゴウゴウの奇妙な災難』
作・城弾

 「そいつ」と接触することはっ!
 性転換を意味するッ!!
 それが! それが! 真城華代なのだッッッッッ!!!!


 
ゴウゴウの奇妙な災難
作:城弾

「次のミッションだが…55号。君がやってくれるな」
 ハンターの施設。その司令室。
 「ドドドドドド」と効果音をさせながらソファでふんぞり返っていた青年は、ボスの言葉にも動こうとしなかった。
「聞いているのかっ? 大郷豪樹ッ!」
「郷と豪が繋がるからゴウゴウで55号。かはは。くだらねー」
 反抗的な態度の55号にいらついたところに、傍らのハンターが余計な茶々を入れるから怒りの矛先を向けられる羽目に。
「やめなっ。八つ当たりは見苦しいぜ」
 やっと55号は立ち上がった。190を超える長身。彫が深いもののいい男の部類に入る。
 ハンターの制服の黒い上下の上だが、ところどころに奇妙な改造がくわえられている。
 どことなく「ガクラン」を連想させる。
 それはいいが右腕を後頭部越しに左頬に当て、左腕を背中に回すポーズはかなり奇妙なもので…
 しかしお構いなしに大郷豪樹は言葉を紡ぐ。
「神出鬼没の『真城華代』を捕らえて無効化する…だったな。ボス。そのミッションで今まで何人ものハンターがひどい目に遭っているのを知っていてオレに命じるのか?」
「そうだ」
 非情と思えるボスの言葉だが、それが一番なのも確か。
「やれやれだぜ。コイツは厄介なミッションだが…やらなきゃならねーよーだな」
 そういう言い方で了承を表現して55号は出口へと歩く。だが立ち止まり振り返る。
「それからボス。オレを番号で呼ぶな。本名で呼びたくないなら……ゴウゴウって呼んでくれ」
 それだけ言うと彼はゆっくりと部屋を後にする。完全に立ち去ってからボスのサポートをしていたハンターが
「ボス。なんであんなやつに」
たまりかねて詰め寄る。
「基本である『能力』があるのはもちろんだが、奴の最大の武器はあの心臓だ。いままではほとんどにおいてその場のハンターはパニックを起こしていたからな。冷静に対処できれば突破口があるかもしれない」
「そんなもんですかね。あいつも失敗して『半田姉妹』の一人になりそうなオチかと」
「いうなよ…本当になりそうだし」

 新宿ッ!!! 日本でも有数の繁華街を有する場所ッ!
 ここにゴウゴウはやって来ていた。
(かつては28号がここで華代と接触。そして巻き込まれて今の姿になったと言う。
 特に本人が望んでいたとも言われている…つまり狙ってここに来たと言うからかなりの確率で現れそうだがな)
 そこからゴウゴウはこの場所にいた!
 そしてその読みは的中した。不幸にもッ!

「おにーちゃん」
(来たな…コイツは肝っ玉と言う奴を据えて掛からないといけないようだぜ)
 ゴウゴウはわかっていながらあえてゆっくりと振り返る。
「俺を…呼んだのか?」
「はい。そーですよ」
 データベースにあるとおりの姿。数多くの「被害者」達の証言とも一致する可愛らしい女の子。
(こいつが…真城華代ッ! 数々のハンターを「善意」で女に変えた宿敵ッ!)
 静かだが凄まじいオーラを放つゴウゴウと、にっこり微笑む可憐な少女。
 腹ペコの虎の前でのん気に胡桃を食べているリスと言うのがこの場合もっともな喩えッ!
 そしてその「リス」が行動を起こしたッ!

「申し遅れました。私、こういうものです」
 差し出される一枚の名刺。それを受け取ると言うことは自分で自分の死刑執行のサインをするも同然ッ!
 だがなんとっ! ゴウゴウはそれを受け取った。
「ご丁寧にありがとう。真城…華代ちゃんかな?」
「はい。よく間違える人多いんですけど、お兄さんは間違えませんでしたね」
「ああ。たまたまだろうさ。ところで…『ココロとカラダの悩み』とあるが…」
「なーんでも解決しますよ」
 両手を広げて得意げな華代。これだけ見たらどこにでもいるただの女の子。
 まぁいささか服装が余所行き過ぎなところはあるが。
「そうか。なら一つ頼みがある」

 自殺行為! 華代を知るものが見たら55号の言葉はそうとれた。
 しかし 、これも策の一つ!
「実は…俺は男の中の男を目指している。だが鍛えるだけじゃどうしようもない部分もあってな。それをどうにかしたい」
 そう。彼はストレートに男性性の強化を依頼したのだ。
 「ハンター」が処理する華代被害のほとんどは性転換。
 ここで反転どころか元の性を強化させたらどうか?
 華代がその効果を認めたら?
 むろんフェロモン過剰な女や、マッチョな男が増える危険性もある。
 しかし、少なくとも性転換よりは対処しやすい。

 そう。55号の作戦は華代に性転換以外の解決をさせることだった。

「わかりました。ちょうど別口の依頼もありましたし。二つまとめて解決ですね」

(な…何!? なんて言ったッ? 「別口」だと? 既に依頼を受けていたのか? まずい。「半田いちご」の例がまさにそれだ)
「ああ。待ってくれ。俺の言った事、ちゃんとわかってるかな?」
 このとき逃げればまだ助かったかもしれない。
 だが逆転の可能性にかけて念を押したのが命取りになった。

「はい。男の中の男を目指している…つまり逢いたいんですよね」

「違う」とすら言わない。
 55号はいきなり背中を見せて走り出した。
(こ…コイツはやばいっ。聞き違いか思い込みか。とにかく華代は俺を女にしてその「男の中の男」と逢わせる気だ。こうなったら仕方ねぇ。息が続く限り走る。逃げるんだよぉぉぉぉぉぉーっ
 恥も外聞もない逃げっぷりだったが遅かった。彼は盛大に転倒した。
「な…なんだっ。どうして26.5センチぴったりの革靴が脱げるッ? 大きくなって…違うッ。これは女の足だっ」
 そう。彼の肉体は女性化を始めていた。だから下半身も縮みバランスを崩し転倒したのだ。
 逞しく広がる肩幅は狭く華奢に。節くれだった手は白魚のようにッ!
 平たく分厚い胸板は柔らかく豊満なふくらみへと変貌する。
「か…変わる……KUWAAAAA…俺の体が女へとっ…GWooooo…この軋みッ! この不条理ッ!」
 分析をしている間にも猛スピードで肉体は変わる。
 既に男のシンボルは消失していた。ウェストも細くくびれ折れそうなほどに。
 浅黒い肌は雪のように白く。
 唇はやや厚目。だがふっくらと。名残としてはつり気味の目。
 髪の毛も瞬間的に背中まで伸びる。
「WWWWWRRRRRRRYYYYYYYY…………」
 それが断末魔だった。
「えーっと。ちょっと気に入らないかもしれないけど、制服だからガマンしてくださいね」
 次に衣類が変わるのだが、奇妙なことに今までの事例と違いまったく飾り気のない。
 それどころかスカートですらない上下になる。
「これで終わりです。後はここにお迎えが来ますから待っててくださいね。それじゃ」
 一仕事終えて上機嫌の華代は立ち去る。
 残されたのは生まれたての女…

「しかし…こっぴどくやられたもんだな」
 我々はこの少女を知っている。いや。清潔な印象のポニーテールに見覚えがあるッ!
「いちご…迎えと言うのはあんたのことか?」
 可愛らしい声で尋ねるがいちごは首を横に振る。
「影から見守っていたわけだが、なす術もなかった。さぁ帰ろう。とにかくそのひどい服だけでも何とかしよう。なに。沢田さんと水野さんなら頼まなくても可愛い服を着せてくれるさ」
 だがゴウゴウの災難はこれからが本番だった。
 いきなりパトカーが取り囲んだと思うと、制服警官に取り押さえられる。ちなみにいちごは「保護」された。
「な…なんだ? なんだ?」
 目を白黒させている間にゴウゴウは手錠をうたれ、パトカーに押し込まれて護送されてしまった。
「あのーあいつがなにをしたと?」
 恐る恐るいちごは尋ねる。
 この場でなったばかりの姿である。罪を犯しているとは思いがたい。
 本来の姿で何かしていたのなら余計逮捕されるはずもない。
 もっとも既に罪を犯した女と瓜二つと言うなら話は別だが。
「ん? あの女は緑海豚刑務所からの脱獄犯でね」
 それだけ言うと「刑事」もパトカーに乗り込んで立ち去った。
「あー。今度はそういう設定なのね」
 さすがにいちご。もうこの状況には慣れっこで、状況把握も素早くなっていた。

 無実の罪で投獄されたであろう55号を引き取るべく、まずは問題の刑務所へ出向くボスといちご。
 ボスはスリーピースに帽子。いちごはブレザーの女子学生服姿だった。
 変わり果てた55号と面会するが

「なんだ。ボスたちか。帰りな。俺はしばらくここから出ない」
 当の本人が出所を拒否した。
「何を言ってる? 女になったばかりのお前が罪を犯しているはずがないだろう。さぁ。ここから帰るぞ」
 しかし頑として首を盾に振らない。やがて時間が来た。
「申し訳ないがここまでにさせていただく」
「高倉さん」
 いきなり55号の表情が変わった。恋する乙女に。
 唖然とするボスといちご。
「ま…まさかっ。お前ッ」
 そう。渋さ全開の看守に恋してしまったのは間違いない。
 確かにこの看守。高倉は男らしかった。
 そして55号もストイックさを打ち出していた。つまり目指した姿がここにある。
 だからでたくなくなったらしい。
 自分が女になって目指せなくなったのと、肉体的に恋の対象になるのが相乗効果を引き起こした。

 だがいちごには一つ疑問があった。質問を看守にぶつける。
「つまらない質問ですが…看守さん。結婚は?」
「しませんでした。仕事と結婚したようなもんですよ。まぁこんな女囚たちばかり見ていたら女に絶望もしてしまいますが。
けど、あの小さな女の子につい『やまとなでしこに逢いたい』といってしまったのですが、あの娘はいい子だ。
家に帰れないからほとんどここであの子と一緒になったようなものですな」
 それで納得した。どうして華代が55号をこの看守の嫁ではなく女囚にしたのかが。
「ただ、どうしても名前を教えてくれなくて。調書にも名前がないので番号で呼ぶしかないが、番号で呼ぶと不機嫌そうにするし」
「ここ」
「は?」
「あの娘の名前は『半田ここ』です。身元引き受けの私が言うのだ。間違いないです」
「はぁ」
 ここで本当に時間切れ。刑務所から出て行くことになる。
「あの…ボス。いいんですか?」
「仕方あるまい。本人が望んで刑務所にいるんだ。しかも相思相愛。引き裂くなんて野暮はなしだ」
 それだけ言うとボスは帽子を深くかぶりなおしてつぶやく。

「やれやれだな」