「華代ちゃんシリーズ」



「華代ちゃんシリーズ・番外編」
「ハンターシリーズ」
「いちごちゃんシリーズ」

作・真城 悠


ハンターシリーズ59
疾風が行く?
作・マコト




五月も過ぎようとしているこの頃、ある施設にて。

「はー、はー」

すててててて……。

遠くに走り去っていく足音。

その方向を睨みつけながら、息を切らしている少女が一人いた。

髪は美しく長い銀髪で、それを無地の紐で首辺りで束ねている。

15歳くらいか、やや幼げながらも整った顔立ち。

 服装はジーンズの上に黒いノースリーブ一枚。

「くそぅ……浅葱千景……次こそは、はぁ、絶対、捕まえて、はぁ、やるからなぁ……はぁ」

手にした長い日本刀を握り締め、少女――黄路疾風はそう呟いた。

 

 

「――外へ?」

秘密組織「ハンター」施設内・カフェテリア。

そこにてハンター28号・半田双葉はパフェを食べつつ尋ねた。

「ああ。よくよく考えたら、俺はここに来て2度しかこの辺りを歩いたことが無い。その時はとんでもない目に遭ったがな。まぁ、今度は一人でまわってみようと思うわけだ」

答える疾風。

「ふぅん……。で、なんで私に?」

「ほら、君は伊奈やいちごを除けば只一人の現役女子高生じゃないか。何かお薦めの場所やらを知ってないかと思ってね」

「なるほどなるほど……」

パフェをほおばりつつ頷く双葉。

山のようにあったパフェは、いまやその半分程度になっていた。

「――いいよ、色々おしえてあげる!」

「ありがとう。感謝するよ」

「でもその代わり――」

「?」

すると双葉はにっこりと笑い、

「今日、奢ってね♪」

などと言った。

「……」

疾風はがまぐちを覗き込む。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

そして頭を抱え込むのだった。

 

 

 

 「何々、まずはこの通りを進むべし。色々な店があるので、とことん入るべし……とな」

双葉から渡されたノートを読みつつ、歩道を歩く疾風。

彼女は、施設の外、少し行った場所にある街を歩き回っていた。

「――だが、この通りは……」

そこを見て、立ち止まり疾風はげんなりとする。

なぜならば、

「ブティック、化粧品店、ヌイグルミ屋、エステサロン、美容院、宝石店、ブランド店、ランジェリーショップ……」

そう、その通りにある店は皆、女性向の店ばかりだったのだ!!

 「……はめたな双葉」

恨みがましい目で虚空を見つめる疾風。

本当はこういう場所ではなく、有名スポットやらもっと大衆的な場所を教えてもらいたかったのである。

「仕方ない。ここまで来たのだ、覗いてみようか」

そう呟くと、疾風は通りを再び歩き出した。

 

 

「いらっしゃいませー」

最初に入ったのはランジェリーショップ。

実は疾風、女性化してからというもの、色々な人からのお下がりで生活していたのだ。

さらに、大抵は上に下着をつけないので、少し前に双葉や水野達に怒られたことがある。

 「たまには自分で買わねばな……」

疾風は自分が男性であったことへの執着心はカケラもない。

要は、彼女と対等になれさえすればいいのだ。

「とはいえ、どのようなものを買うべきか……。――あ、確か双葉ノートに書いてあったか?」

思い出したように疾風はノートをめくる。

「――あ、あったあった。何々……『下着はとにもかくにも可愛いものを。一枚は勝負系を買うべし』、か。だが、可愛いものといわれてもな……」

長い間男だったのだ、そんなものどう判断できようか。

それに、勝負系とは何であろ?

首をかしげながら、疾風は店員に尋ねてみることにした。

偶然にもすぐそばに店員がいた。

「あの、すみません」

「はい。どうされましたか、お客様?」

大人の色気溢れる女性店員が応じる。

「あの……可愛い系の下着なるものを選びたいのですが……俺――私にはちょっと……」

すると、店員さんの目がキラーンと妖しく光った。

「分かりました。では私が選んで差し上げますので、どうぞこちらへっ♪」

「え? いや、その、ちょっと!?」

はっしと手を掴まれ、そのまま試着室まで連行される疾風であった。

 

 

 

「ありがとうございましたー」

店員の声が聞こえる。

「――」

疾風は、店の外で呆然となっていた。

何故か? その理由はご察しの通りである。

手には大きな紙袋。

あれよあれよという間に色々と買わされていたのであった。

「――はっ、いかんいかん! この程度では、千景のヤツに笑われてしまう……! ええい、気を取り直して次の店だっ!」

そうして今度は、ヌイグルミ屋へと入っていった。

 

 

「ぬいぐるみ、か……。伊奈や燈子に一つずつでも、買っていこうかな?」

疾風は店内に置かれた多種多様なぬいぐるみを見て呟いた。

ちなみに伊奈――ハンター17号は小学生の少女にされてしまった、殺人鬼。

燈子――ハンター10号は教育指導主任の、美人教師風にされてしまった者である。

伊奈はともかく燈子は典型的な体育系性格であり、ぬいぐるみは全く似合わない。

しかし疾風は数日前に、偶然燈子が狐のヌイグルミを抱きしめて幸せそうにしているのを目撃していたのだった。

「伊奈はチャッキーの、燈子は狐のでいいか……。――ん?」

ふと目をやると、そこには可愛らしい猫のヌイグルミがあった。

どことなく某小学高校生のお父さんのような形状である。

「――」

疾風の目の色が変わる。

何かが、彼女の中で動いた。

瞬間、彼女はそのぬいぐるみももって、即座にレジへと並ぶのだった。

 

 

 

「次はここへ行くか。――にしても、ずいぶんと荷物が増えたなぁ……」

元々の体力はそんなに落ちてないので、疾風にはこの程度の荷物は苦にならない。

そんなこんなで入っていったのは、化粧品店であった。

「ふむふむ、『コスメは肌に合うものを選ぶべし。まだ少女程度なのだから紫の口紅など、ケバ系は避けるべし』か。――しかし、化粧もあまり分からんぞ?」

やはりここは店員に聞くべきである。

しかし、疾風は躊躇った。

また先ほどの二の舞になったら――。

「あれ? 疾風さんじゃないですかぁ」

「む?」

ほえほえとした声。

その主の方向に顔を向ける。

「みぃ、か。何でここに?」

そう、そこにいたのは、ハンター31号且つ生体アンドロイドAKF-Type31、みぃこと石川美依であった。

「私もちゃんとお化粧とかするんですよぅ。アンドロイドでもお肌に気を使うんですからぁ」

 「そ、そうなのか……知らなかった。――そうだ、丁度いいな。みぃ、よければ俺のも選んでくれないだろうか?」

アンドロイドとはいえ知合いの女の子。

疾風が頼むにはうってつけであった。

「ほぇ? いいですよぉ。じゃぁちょっと待っててくださいねぇ」

そう言ってみぃは商品棚へと向かう。

暫くして、様々な小瓶を持ってみぃが帰ってきた。

 そして、そのままレジへ並ぶ。

「あ、お金は俺が――」

「大丈夫ですよぅ。お父様からお小遣い600万円貰ってますからぁ」

「ぶっ……! あ、相変わらず、まさに桁違いだな……」

みぃの父、つまり製作者であるハンター14号・石川恭介は、超巨大財閥の長男である。

もっとも、家を継ぐのは弟らしいのだが。

「ありがとうございましたー」

会計を済ませ、みぃが戻ってくる。

「はぃ、これですぅ」

そう言って彼女は紙袋を疾風に手渡した。

「ああ、ありがとう。助かった」

「いえいえ。お礼はあなたで――お化粧させてくださいっ!」

「いっ!?」

そのまま疾風はみぃによってトイレへと連行されるのであった。

 

 

 

「じゃぁまた遊びましょぉねぇ〜」

店を出て、疾風はみぃと別れた。

「……はは、はははは……」

引き攣った笑いを浮かべる疾風。

彼女の顔は、ナチュラルながらも綺麗に化粧されていた。

 

 

 

「今日はここで最後にするか……」

そうして疾風は宝石店へと入る。

「うわぁ……」

そこは、きらびやかな宝石がショーケースで輝く、装いも見事な宝石店であった。

「凄いな……って、なぬ!?」

ショーケースの中の値段を見て、驚愕する疾風。

とてもではないが、疾風の所持金で買えるような代物ではなかった。

「ぬぅ……本当にこんなものを女性が好むのか……?」

少なくとも、自分で買う機会はあまり無さそうである。

等と考えていると、

ダダダダッ!バンッ!!

けたたましい音を立てて、数人の男が入ってきた。

全員、目出し帽を被り、手には一般には普通まわらないような銃器。

「全員床に倒れろ!」

そのうちの一人が叫ぶ。

(強盗――!)

疾風は瞬時に床に倒れる。

――背中の刀袋に手をかけながら。

「そこの娘、こっちへ来い!」

「っ!?」

男は疾風の方を見て言った。

(くっ……俺を人質にでもする気か?)

仕方なく、疾風は強盗の方へと行く。

無論、刀袋の口を緩めながら。

ちなみに彼女、今は背中に荷物を背負っているので、刀袋は見えにくい。

そしてそのまま、彼女は男に肩をつかまれた。

「いいかぁ! 警察を呼ぶなよ、さもなきゃこの娘の命はないからなぁ!」

そう言って、強盗達はショーケースを壊し始めた。

飛び交う悲鳴。

暫くして、強盗達は完全に店内の宝石を取り終えた。

「よし、ずらかるぞ! その娘も連れて行け、人質だ!」

そう言って男達は脱出を図る。

その時、疾風の手を引っ張ろうとした男の手が、彼女の胸に触れた。

ぽよん♪

「んっ……! ――って、きっさっまっらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ぷっちん。

疾風の中で何かが切れた。

「ふんっ!」

バッ!

「!?」

瞬時に疾風は手を振り解き、紐を解いて柄を引く。

すぐさま、刀身が姿を現す。

模擬刀「かねしげ。」。

稀代の銘刀「四代兼重」のなれの果てである。

刀身は金属でこそあるが、刃はついていない。

「よくもこの俺を辱めてくれたな……覚悟しろっ、成敗!!」

そうして疾風は、刀を構え、強盗団向かって駆け出した。

「――う、撃てッ!!」

恐らくはリーダーであろう、その男の号令の元、他の男達は一斉に銃を構える。

タイプはマシンガン。

やや古めの型だが、撃たれれば 普通人間は即死する。

そして、号砲一閃。

ズダダダダダダダダダダッ!!

銃弾の雨が疾風に降り注ぐ!!

――だが。

「!?」

驚きは強盗団だけのものではない。

疾風を除く、その場に居合わせた全員であった。

キキキキキキキキキキキキキキキィンッ!!

降りしきる弾丸。

それをあろうことか、疾風は目に見えぬ刀裁きで全弾斬りおとしているのだ!

「笑止! この程度の弾、よけられずに何が剣豪かっ! それに、アイツの弾の方がもっと鋭く速いわ!!」

そう、 疾風は知っている。

こんなただ弾を撃ちつけるだけの輩など比べ物にならないような銃技を持つ者を。

彼女と比べれば、こんな弾など、児戯も同然――!!

「ば、馬鹿な――!?」

うろたえる強盗の一人。

刹那。

「貰った!」

「っ!?」

一瞬、疾風の姿が消える。

そして、

「覇ッ!!」

ゴキッ!!

「がはっ……!?」

一人が崩れ落ちる。

瞬時に懐に飛び込んでいた疾風は、下から「かねしげ。」を一気に薙ぎ、男の首へ叩きつけたのだった。

「な――」

「遅い」

「え――」

驚愕の間を与えることもなく。

ゴッ!!

疾風は二人目を地に伏せた。

残るは三人。

「な、何だこいつ――!?」

恐怖に顔を引き攣らせつつも、リーダー格は外へと逃げ出した。

そして疾風を牽制しつつ、残りの二人も外に出る。

「待て!!」

後を追う疾風。

しかし、

ガォォォォン……。

外に出たときには、既に強盗団は車で逃走を図っていた。

既に発進している。

「逃さん!」

そう吠えると、疾風は刀を正面に構えた。

「鬼・神・覚・醒、斬!!」

シュバァァァァァァッ!!

気合と共に振られた刀から、巨大な光の刃が打ち出される。

そして、その光は逃亡する強盗団の方向へ直進していく。

「んな馬鹿なぁぁぁぁぁぁ!?」

悲鳴をあげる強盗達。

刹那、

ゴォォォォォォォン!!

憐れ、強盗団の車は爆発四散した。

「む……ムチャクチャだ……」

リーダーは黒焦げになりながらもうめいていた。

 

 

 

「疾風ーっ」

「あ、いちご」

パトカーのサイレンが鳴り響く中、疾風の元にいちご達ハンターがやってきた。

「これ一体どうしたんだ? 出動命令があって来たけど、もうこんなになってたんだが……」

「ふっ……」

すると、疾風はくるりと後ろを向き、手を腰に当て、言った。

「この俺を怒らせればこういうことになるのだ!」

高らかに笑う疾風。

すると、

「あれ、疾風ちゃん、その荷物は?」

「はっはっはっは――は!?」

双葉に言われて気付く背負っていた荷物入れからは、ヌイグルミが飛び出ていた。

それも、疾風が目ざとく買った、猫のヌイグルミであった。

 「ほほぅ、疾風、お前ヌイグルミ趣味があったのか……」

負傷者手当ての為に来ていたハンター100号・半田百恵が意地悪く言う。

「ちっ、違うんだ、これは!!」

「あら、よく見たら……何時の間にか化粧してるじゃない!」

「これはみぃが……」

「お、こっちは――うわ、どピンクの下着……」

「あーっ、勝手に人の荷物開けるなぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 

「――で、疾風はどうした?」

「はぁ、部屋に引き篭っております」

「やっぱりか……。結局、あいつも女になるということに対して羞恥心があるんじゃないか」

「そのようですな。別に男に戻りたい、というわけではないようですから、単に慣れないだけでしょうけれども」

「うむ。しかし、早く立ち直ってもらわねば。彼奴の剣道教室は職員に好評だからな。――ん? 燈子も修行の旅に出たのか?」

「ええ。疾風に皆の前で堂々とヌイグルミをプレゼントされたのが効いたのでしょうか?」

「――別に趣味についてとやかく言うつもりはないのだがなぁ。何の修行に出たんだか」