「華代ちゃんシリーズ」



「華代ちゃんシリーズ・番外編」
「ハンターシリーズ」
「いちごちゃんシリーズ」

作・真城 悠

ハンターシリーズ60
『空中元素固定の術』
作・Zyuka

 ざんっ!

 空を切る音とともに振り下ろされた薙刀が、畳張りの地面に到達する。

美風  「――!?」

 その薙刀の持ち主の考えでは、自分の攻撃は相手にあたっていなければならないはずだった。だが……

 ビュッ!

 軽い風きり音とともに、彼女の胴に何かがあたる感じがする。相手の、薙刀だ。

静香  「勝負あり、ね!」

 タイミングは、完璧だった。
 相手の、一瞬見せた隙を逃さず振り下ろした薙刀。
 避けられる訳がない、と確信していた。
 必殺の一撃……といっても、高校生の部活で使う模擬刀でまさか相手を殺せるわけがないが……それを放ったはずだった。
 しかし、もしも、相手の見せた隙が、自分を誘導するための演技だったとしたら……

 きっ……知らず知らずのうちに、対戦相手をにらみつけていた。

静香  「……どうしたの? 美風」

 対戦相手は、激しい動きをして疲れたのだろう、バサッと頭につけた防具を取り、フゥと息をつく。
 自分はまだ汗もかいていないし、息も乱れていない。スタミナ面では、勝っているのだ。
 しかし、そのほかでは劣っている。
 特に……

静香  「……何か、心配事でもあるの?」
美風  「……!」

 精神面。
 今、自分は大変な悩みを抱えているのだ。

美風  「…………ありがとうございます、南野先輩…………」

 あらゆることを考えて、整理し、纏め上げ、何度も反芻して、美風はやっとそれだけのことを言った。

美風  「でも、私が今抱えている悩みは、自分自身の物、先輩にだって話せません」
静香  「もしかして……恋の悩み?」
美風  「……いえ、その……」
女生徒A「え、ほんと!?」
女生徒B「あの美風ちゃんに恋人発覚?」
女生徒C「相手は誰?」
女生徒D「あんた絶対恋人なんか作らないって思っていたのに」

 対戦相手の一言に、周りの女生徒たちが過敏に反応する。

女生徒B「もしかして……野火生徒会長?」
全員  『え……』

 一人の女生徒が発した言葉が、周りの空気を凍りつかせる。

静香  「へぇ……そ〜なんだ……」

 今まで静かな、落ち着いた大和撫子って雰囲気だった南野静香(シャレじゃない)の表情が豹変する。

静香  「美風ちゃん、今度は無制限一本勝負をやってみる?」
美風  「あ、あの、あの、違うんです南野先輩!」

 手をブンブン振り回して否定する。
 そこには、薙刀を華麗に扱う女流戦士達の姿はなく、かわいらしい女子高生達の姿あった。

 ここはS県D市にあるとある高校。
 一応、武術系の部活動を推奨するとかで、敷地内に“煉武館”なる和風の体育館があった。
 そこを使用している部活は七つ、男子柔道部、女子柔道部、男子剣道部、男子相撲部、男子弓道部、女子弓道部、そして女子薙刀部……
 その女子薙刀部に所属している黄路 美風(おうじ みかぜ)。銀色の髪が特徴的な彼女は一年生ながら、薙刀部の部長、南野静香と互角に戦える人間として、一目おかれる存在だった。
 が、互角に戦える=勝つ事ができる、という事ではない。
 いつもであれば三回に一回ぐらいは白星を奪えるのだが、今日に限っては一度も勝つ事ができない。

双刃  「美風ちゃん、何か気にかかることでもあるのかな?」
武蔵  「……双刃、いつからここにいる?」

 煉武館の片隅にて、二人の男子高校生が話しこんでいた。

双刃  「もちろん、取材のために張り込んでいたに決まっているじゃないか。わかってないなぁ武蔵は」

 一人は仮面こそつけてはいないが、剣道の防具と竹刀を身につけた剣道部員。つまりこの煉武館の利用者。
 もう一人はこの学校の制服とカメラ、眼鏡のどう見ても文型の人間。腕に新聞部という腕章をつけている。
 剣道部員の男子生徒は三剣武蔵(みつるぎ むさし)、新聞部の男子生徒は犬飼双刃(いぬかい そうは)。
 二人とも美風と同じこの高校の一年で、クラスメイトだったりする。

武蔵  「しかし、本当に彼女、調子悪そうだな」
双刃  「う〜ん、そういえば、今日の授業中もなんか元気なかったな」

 そう言って一枚の写真を取り出す。

武蔵  「お前……授業中一体何やってるんだ?」
双刃  「無論、ガールウォッチング」

 双刃の眼鏡がキラリと光る。

武蔵  「あっそ」

 武蔵は、友人に対して、冷淡な目を向ける。しかし、変わり者が多いこの学校で双刃はまだまともな方だ。
 と、そんな二人に美風が近づいてくる。

美風  「……三剣武蔵……相手をしてくれないか?」
武蔵  「? 南野先輩はどうしたの?」
美風  「急な生徒会の仕事が入ったと、野火生徒会長の使いが来たの」
武蔵  「ふうん」

 南野静香は、生徒会副会長も勤めている。さらに、野火健太生徒会長と深い中だという。

双刃  「そういう情報は、俺が一番詳しかったりする」

 双刃が、何の自慢にもならない事を言う。

武蔵  「で、相手って?」
美風  「無論、戦いのっ!」

 ビュッ!!

 美風が言い終わるよりも速く、武蔵の竹刀が美風の眼前に突きつけられた。

美風  「……!」
武蔵  「南野先輩が言ったとおりだな。今日の君にはどこか迷いがる。それじゃ俺にだって勝てやしない……」
美風  「…………」
双刃  「何か悩み事があるの? 俺達でよかったら相談に乗るけど」
美風  「…………悩み事か…………あなた達に話してどうなるかなんてわからないけど…………聞いてくれる?」
武蔵  「……………………」
双刃  「何でも話してくれていいよ。俺は、どんなときでも女性の味方だ」
美風  「…………確かに、私には悩みがある。でも、あなた方に話してどうにかなるのか……?」
双刃  「ま、話すだけ話してみたら? とりあえず誰が好きなの?」
美風  「そういうものではないの! 実は、兄の事なの!」

武蔵  「“兄”?」

 武蔵の言葉に美風は黙り込む。

双刃  「話してみなよ。俺にだって可奈と理奈、そして舞姫って女の兄弟がいる。一応、彼女達の悩みを聞いてるから、何とか対応できると思うよ」
武蔵  「俺は、さやかから相談を受けたことはないな。乙姫からはよく聞くけど」

 ちなみに、犬飼可奈、犬飼理奈、犬飼舞姫は双刃の姉妹、三剣さやか、三剣乙姫は武蔵の姉妹だ。

美風  「…………私には、兄がいます。名は黄路疾風……聞いたことはありますか?」
武蔵  「いいや?」
双刃  「どっかで聞いた覚えはある……師匠の所で見せてもらった写真にその名の人がいたかな?」
美風  「では、はがき職人の“SilverWind”といえば……?」
双刃  「それならあるな。確か、坂牧深雪ちゃんのラジオ番組ではがきが読まれてたな」
武蔵  「いいのか? その名を出して?」
美風  「兄は、裏の世界で用心棒をやっているんです。はがき職人は、その殺伐とした世界の中で、唯一の楽しみだといっていました」

武蔵  「はぁ?」

 武蔵と双刃は一瞬わけもわからず呆然とする。

双刃  「うらの、せかい?」
武蔵  「ようじんぼう?」
美風  「……今風に言えば、SPといった方がいいかもしれないけど……」
武蔵  「ああ、黒服にサングラスの人達ね」
美風  「最近兄からの連絡が途絶えているの。何でも、守りきれなかった人の仇を打つといって出立したきり……」
武蔵  「返り討ちにあった、のか?」
美風  「いいえ、それはないと……一応、剣の腕は一流だから。それに、“SilverWind”のはがきは今もいろんな番組に送られてきているでしょ?」
双刃  「まあね。俺もそうラジオを聴くほうじゃないけど」
美風  「だけどその“SilverWind”のはがきにも、最近変化がおきているの!」
武蔵  「?」
美風  「なぜか、胸の悩みに関するものとか、女の子のような悩みの相談が増えているのよ!」

 どうしてか知らないが、美風の瞳がだんだん据わっていく。

武蔵  「……単に同じラジオネームの他人じゃないか?」
美風  「だけど文体はほぼ同じなのよ。これから推測するに……兄には彼女がいる!! 私に断りもなく、兄に近づいた女がいる!!」
武蔵  「恋愛は個人の自由だと思うけど」
双刃  「いいや、いずれ家族になる人間ならきちんと知っておくべきだ」

 そう言って、双刃が立ち上がる。

双刃  「わかったよ美風ちゃん。そういうことなら俺達も協力しよう」
武蔵  「俺も巻き込まれるのか?」
美風  「……何かアテがあるの? 兄は裏の世界の人間よ。彼女も、裏の世界の人間かもしれないのよ」
双刃  「なら、俺の師匠に会ってみる?」
美風  「師匠?」
武蔵  「ああ、あのカメラマンの」
美風  「…………カメラマン…………?」

双刃  「師匠も、裏の世界に関係してる人間だから」

武蔵  「ここは、どこだ? 双刃……」

 まるでどこかの特撮番組に出てくる“自称”秘密基地にそっくりなその外見。

美風  「何なの、ここ……?」

 その建物の一回はカフェになっていて、武蔵、双刃、美風の三人はそこにいた。
 ちなみに武蔵も美風も高校の制服に着替えている。が、武蔵は竹刀を、美風は薙刀をしっかり持ってきていた。

双刃  「ええ、師匠、いないんですか!?」
桃香  「ゴメンね双刃君、7号さん、今一族の集まりっていうのに行っているのよ」

 双刃の知り合いらしい、三つ編み眼鏡の女性が三人に対応している。

双刃  「一族の集まりって……わざわざ集まるほどたいした一族なんですか?」
桃香  「そりゃ7号さんを見てるだけならそう考えるのも無理ないけど、大河さんや美々さんとあってみなさいよ。はっきり言って怖いわよ」

 どうやら7号という人物が双刃の師匠らしい。

 ここは一般人にはあまり知られていないある組織の本部だ。
 通称、ハンター組織!!
 とある目的のために、特殊能力を持った人々が集められた組織だった。

双刃  「まいったなぁ、師匠なら、何か知ってると思ったんだけど」
桃香  「ふうん、裏の世界で行方不明になったお兄さん、を探しているんだったわね。私でよければ協力するけど」
双刃  「………そういや桃香さんって、皇賀忍軍の忍者だったね」
武蔵  「どういう組織なんだここは!?」

 武蔵が、つっこみを入れる。

桃香  「どうでもいいでしょ。所詮高校生には関係ない……と思う、組織よ。じゃ、美風ちゃん……話してみて」
美風  「ええ、兄の名は……」

 そう美風が切り出そうとしたときだった。

誰か  「ご注文はお決まりでしょうか!!」

 甲高い声がそれをさえぎる。ウェイトレスが注文を聞きに来たのだ。

桃香  「あら、はや……」
誰か  「ご注文、承ります!!」

 かわいらしいウェイトレスの制服を着た、中学生くらいの銀色の髪をした女の子は、桃香の言葉もさえぎって声を上げる。

武蔵  「……じゃあ、俺ジンジャエール」
桃香  「私はいつものウーロン茶ね」
双刃  「じゃあ、俺は君の写真を一枚……」
誰か  「へ?」
武蔵  「おい、双刃……」
双刃  「いや冗談。俺はコークカルピスをお願いするよ」
誰か  「は、はい、注文を繰り返します、ジンジャエールが一点、ウーロン茶が一点、コークカルピスが一点、オレンジジュースが一点でよろしいですね」
美風  「え……? 私はまだ注文していないんだけど?」

 ビシィッ!!

 ウェイトレスの少女は凍りついた。

美風  「まあ、オレンジジュースを頼もうと思ってたけど……」
誰か  「た、確かに注文を受け付けました!!」

 美風の言葉を待たず、ウェイトレスはカフェのカウンターの方へ走っていった。

美風  「……どっかで会った事あったかなぁ?」

 自分と同じ銀髪の少女を見送りながら、美風は再び桃香に向き合う。

美風  「とりあえず、私が探しているのは兄の、黄路疾風……まあ、裏の世界の人間だから、知っている人間の方が少ないかもしれないけど……」
探偵少女「ほお、黄路疾風の妹か」

 突然、美風の後ろから声がかかる。

桃香  「あら、千景ちゃん」
双刃  「千景ちゃん?」

 そこにいたのは、中学生くらいの少女だ。

千景  「失礼、私は浅葱千景。あなた達の会話が聞こえたので、ちょっと気になってな」
双刃  「なんか、かたっ苦しいしゃべり方をする子だね。かわいいけど」

 双刃が素直に感想を述べる。

武蔵  「浅葱、千景……? もしかして、翡翠の名探偵!?」

 武蔵がびっくりしたように声を上げた。

美風  「知ってる人?」
武蔵  「ほら、数ヶ月前まで世間を騒がしていた探偵少女だよ。小次郎のやつが記事をスクラップしていたからよく覚えているんだ」
美風  「乙姫ちゃんが? へぇ、そういう趣味あったんだ」

千景  「その通り、人探しなら私に頼んでくれたらいい」
美風  「……でも、兄は裏の世界の……」
千景  「裏の世界でも、私は情報網を持っている。それに黄路疾風は知らない人間ではない」
誰か  「千景っ!!」
美風  「!?」

 いきなりの大声に驚いて声の主を探すと、先ほどのウェイトレスがトレイにジュースを持って立っていた。

千景  「どうした? ウェイトレスが大声を出して。皆びっくりしているではないか」
誰か  「いや、その……」

 と、そこへ……

いちご 「なんかにぎやかだな」
真澄  「あら、桃香、お客様?」
愛   「叫んでるのは、誰なのかしら?」

 やってきたのは半田いちご、水野真澄、沢田愛の三人だった。

武蔵  「ここって、女しかいないのか?」
双刃  「師匠がいるから、違うんじゃないか」
美風  「男性も少しは、いるみたいだけど……」

桃香  「あ、いちごさん、水野先輩、沢田先輩。こちら七瀬さんの弟子の犬飼双刃君とその同級生の三剣武蔵君と黄路美風ちゃんです」

 桃香が、高校生三人を紹介する。

いちご 「師匠って……? 7号の奴、何の師匠をやってんだ?」
双刃  「あ、カメラの師匠です」
真澄  「ななちゃ……あ、七瀬さんってプロカメラマンだったっけ?」
桃香  「七瀬さんって、世界中の風景を撮ってるんですよね〜写真集も何冊か出てますよ」
双刃  「俺の父親が出版関係の仕事をしていて、その関係で知り合った。後、師匠の甥っ子はうちの可奈や理奈と同じ学校だし」
愛   「あの人、割とまともな表の顔も持ってたんだ……」
武蔵  「表の顔……?」
美風  「まともに考えるの、馬鹿らしくなってきた……本当に兄の手がかりがこんな所にあるのかなぁ?」
愛   「お兄さん?」
千景  「ああ、彼女は黄路疾風の妹だそうだ」
いちご 「黄路疾風って……!」

 同じテーブルに座り談笑を始めるいちご、真澄、愛、桃香、千景、武蔵、双刃、美風……その近くでこそこそ隠れるように……それでいて8人の会話を一言も聞き漏らすまいとしている人間がいた。銀髪の女子中学生ウェイトレス……の姿になっている黄路疾風……その人だ。

疾風  「何で美風のやつがここに来るんだ?」

 美風は、疾風と同じく要人警護のSPになるため訓練を受けているはずだった。ただ、女性である美風は、将来的には女性高官専用SPになるため、世間の一般常識を身につける必要があり、そのため普通の高校に入ったと聞いていた。
 というか、剣の腕をひたすら磨く事しかしなかった疾風の方がおかしいのか?

疾風  「美風……」

 昔は、剣の稽古を共に行った。疾風が幼い頃から知っている唯一の女性といっていい。
 しかし、疾風が用心棒として行動するようになってからはだんだんと疎遠になり、かの浅葱千景の件でそれを決定付けた。
 疾風は誰にも連絡する事などしないまま、千景を探し続けた。そして今は華代の手によりこの姿だ。
 千景と対等の条件で戦うためこの姿になった事に後悔などないが、それを妹に知られるとどうなるか……

疾風  「どうせなら、ばれることなく帰ってほしい……」

 疾風は自分に都合のいいことを考えながら妹の同席者達を見た。

 美風と共にやってきたゲストキャラ二人が自分のことを知っているわけがない。
 いちごは……黙っててくれるだろう。そういうことに関しては信頼のできる人物だ。
 水野真澄と沢田愛は……多分黙っていてくれる……そう思いたい。
 安土桃香は……はっきり言ってよくわからない。疾風の事は知っているだろうが、付き合いがほとんど無いので何を考えているのかわからないのだ。
 まあ、いつもウサミミ少女……りくを追いかけまわしているイメージしかないから無理もない。
 そして、浅葱千景……

疾風  「こいつだ……私のことをばらすとしたらこいつしかいない」

 疾風はそう確信した。
 ちらり、とこちらに流した視線、そこに含まれている微妙な色合いは、疾風をおちょくるときと同じものだ。
 今は静かに、しかし興味深そうに、美風の話を聞いているが、いつ疾風の正体をさらけ出すか……

疾風  「もしそういうことになったら……千景を叩き伏せなければならない……完膚なきまでに……」

 そう決意し、トレイではなくいつもの模造刀を握りしめる疾風であった。
 そして千景の動きを少しも見逃すまいと凝視する。

千景  「つまり、美風殿は兄は裏の世界の人間なので、見つけ出すのはいくら翠碧の名探偵である私でも難しい、と」
いちご 「見つからない方が幸せだったりして……アハハ……」
武蔵  「? それってどういう意味? まさか……」
双刃  「それはないんじゃないか? だって世界が違うもん」
桃香  「クス……似たようなものだったりして」
愛   「なんかそっちもワケありのようね」
美風  「まあ、兄がそうなってるとは思いません。だってあの方々には……」

 まだ疾風の正体をカミングアウトするような発言は出てきてない。が、時間の問題である。

桃香  「そういえば、七号さ……七瀬さんの甥と妹さんが同じ学校ってことは、もしかしてあなた方の妹さん、美咲とも同じ学校だったりするのかしら?」
武蔵  「みさき……? その名、さやかから聞いたことがあるなぁ。知り合いですか?」
桃香  「私の弟子……まあ、双刃君と七瀬さんの関係とはちょっと違うけど」
魅夜子 「あのね、あのね、私のお姉様の魅智琉お姉様も同じ学校なんだよ」
双刃  「へぇ、奇遇」

 って、いつの間にかもう一人会話に加わってるし……どっから出てきた空魅夜子……?

疾風  「今はまだ大丈夫でも……」

 疾風は、いつ正体が明かされるかと気が気でない。そのため、背後から近づく者達に気がつかなかった。

秀作  「は、や、てちゃ〜ん、何してるのかな?」
疾風  「!!?」
恭介  「疾風さん、僕にはジンジャエールをお願いするよ」
伊奈  「あたし、苺牛乳。お願い、疾風お姉ちゃん」
美依  「私はいつものオレンジジュースをお願いします。疾風さん」

 現れたのは、ハンター5号、五代秀作とハンター14号、石川恭介、ハンター17号、半田伊奈、ハンター31号、石川美依だった。

美風  「はやて……?」
秀作  「あれ? 君達は?」

 秀作が、テーブルに座る団体のうち、見慣れない三人の男女に目を向ける。

武蔵  「どうも、三剣武蔵です」
双刃  「犬飼双刃です。で、こちらが黄路美風ちゃんです」
恭介  「新人のハンターさん?」
美依  「三人にはハンター能力の数値はありません。多分今回のゲストキャラでしょう」
伊奈  「あれ? 黄路って……」

 くるっと、伊奈が疾風の方を見る。もしこれが秀作や恭介なら、ボコボコニして次の言葉を阻止する事もできただろう。しかし、幼い伊奈相手ではそんな事はできない。

伊奈  「もしかして、疾風お姉ちゃんのお姉さん?」
魅夜子 「違うよ伊奈ちゃん。美風さんは、疾風お姉ちゃんの妹さんだよ」

 ビシィ!! ガランガラン!

 疾風が凍りつき、トレイと模擬刀が床に転がる。

美風  「……どういうこと……? まさか、あなたがほんとうに疾風兄さん……?」
疾風  「い、いや、その……」

 呆然と見詰め合う、兄と妹……いや、姉と妹といった方がしっくり来るか……

 ?@ 納得する
 ?A 否定する
 ?B 確認する

 これは美風に与えられた選択肢だった。
 さて、どう行動するか? まずは?B 確認するだった。

美風  「双刃君、あなたにとってお兄さんって何?」
双刃  「うん? ……一般的に言うなら、年が上の男の兄弟……ま、俺や武蔵は双子だったから、同い年でも兄っていえるな」
美風  「武蔵君は?」
武蔵  「俺は一応長男だからな。乙姫とさやかは妹だから……そういえば乙姫は弟として扱ってくれっていってたなぁ」
美風  「他の皆さんは……」
桃香  「私は兄弟いないから」
魅夜子 「私にいるのはお姉様です」
秀作  「あ、おいらには妹がいるよ」
恭介  「僕には弟がいるよ」
美依  「私としては他のAKFの皆さんが兄弟と言えますね」
真澄  「私達に兄弟がいるかどうかは作者の人しだいだから」
愛   「私やいちごちゃんたちもそうだよね」
いちご 「なんか、俺たちは半田姉妹って呼ばれてるけど」
千景  「私には……いるわけがないか」





美風  「で…………あなたは…………」

 長い沈黙の後、美風は疾風に振った。

疾風  「…………」

 疾風は沈黙するしかない。

美風  「もし……あなたが本当に疾風兄さんだったとしたら、いったい何がどういう原因でそんな姿になったの? 妖精にでも、お願いして、魔法をかけてもらったの?」
疾風  「妖精……? いや、私は魔術師の手によってこの姿に……」
美風  「ま・じゅ・つ・し〜?」
疾風  「ああ、華代と言う名の魔術師だ」
美風  「華代? 何それ? 武蔵君、双刃君、知ってる?」
双刃  「知らないなぁ。ま、俺達は別設定の世界からのゲストキャラだから仕方ないと思うけど」
武蔵  「まあ、兄弟が女の子になった者の気持ちが、わからないわけじゃないけどね」
いちご 「? どういう意味だ?」

 武蔵の言葉に、いちごが反応する。

双刃  「あ、それはこういうことです」

 双刃が、三枚の写真を取り出す。
 そのうち一枚には、四人の人物。次の一枚には、三人。そして最後の一枚には、二人の……

桃香  「あれ、これって……? まさか……」

 一枚目は、眼鏡以外の相違点が見られない、二人の男子高校生……眼鏡をかけているのはここにいる双刃のようだ。それとその妹らしき二人の少女……この少女達も双子らしくよく似ている。
 二枚目は武蔵と、それによく似た男子高校生そしてその二人の妹らしい一人の少女。
 三枚目は、よく似た二人の少女。だが、この二人はよく見ると人間じゃないらしい。一緒に写りこんでいる対比物は明らかに大きいし、その二人の背中には透明な羽がある。

桃香  「妖精ってやつでしょ? 甘魅からきいたことがあるわ」
双刃  「そのとおり。ついでにこっちは舞姫。俺の元双子の兄ね」
武蔵  「こっちは乙姫。昔は小次郎って言う俺の双子の弟だった」
双刃  「二人とも、妖精に体を盗られて、かわりに妖精の体をもらったってわけさ。まあ詳しくは……」

 ジャージレッドさんの秘密基地へどうぞ。ここは話を進めるために、ちょっと省略します。

双刃  「ま、いうなれば俺達は似たもの同士ってことだね美風ちゃん。身内に性転換者がいるっていうことで」
武蔵  「やな似たものだな」
愛   「うちも似たようなものね。血のつながった身内というわけじゃないけれど、職場の人間が性転換してるって言う……」
真澄  「ちょっと、沢田……」
双刃  「? 何?」
いちご 「いや、なんでもないなんでもない」
武蔵  「と、いうわけだ。俺らは、君の兄が性転換者だったとしても気にしない」

 武蔵は、そういうと、慰めるように美風の肩を叩いた。ちなみに、美風疾風姉妹(!?)はここまで無言だった。が、

美風  「納得できるわけないでしょう!!」

 美風は突然、大声で叫ぶ。

疾風  「美風……」

 ビュッ!!

 美風は、荷物から模擬刀の薙刀を取り出すと疾風の鼻先に突きつけた。

美風  「兄さん……その姿になっても用心棒としての力量は変わっていないんでしょうね?」
疾風  「……それは……」
美風  「勝負よ……!!」
疾風  「へ……?」
美風  「かつてはかなわないほどの実力の差があったわね。いえ、今もそうだと思っていたわ。でも、こんな状況になってるなんて……いいわ、わかってる、最初に見たときから何か感じるものはあったのよ」
双刃  「美風ちゃん……?」
美風  「私達黄路家の人間は代々要人の守護を仕事としてきたわね。そのためにはそれ相応の強さが必要だった。かつて白銀の風とまでいわれたその強さ、今もそのままかどうか、試してあげるわ!!」

 美風の背後に炎が見える……こんなキャラだったかな?

疾風  「美風……わかった、お前がそれで納得するというのなら……」

 疾風は、ゆっくりとあたりを見渡すと、近くに落ちていた模擬刀、かねしげを拾い上げた。

千景  「やれやれ……なら私がいい所へ案内してやろう」

 今まであまり発言しなかった千景がその場をまとめた。

 ハンター組織本部……いくら目立つ建物でも、職員・ハンター以外の者が入れる場所は限られている。
 それにしても、その職員・ハンターさえも知らない場所を組織の居候である千景が知っているというのはどういうことだろうか?

真澄  「こんな場所があったのね」
愛   「はじめて知ったわ」
いちご 「俺も……」

 そこは、組織本部の地下だった。いくつかの秘密通路と、ちょっとしたホールのような大きな空間がそこにはあった。

千景  「ななちゃんや、そこにいる桃香嬢等はよく利用しているようだったが? ここの事、前から知っていたのでは?」
桃香  「ええ、結構便利だったわ……いやな職務から逃亡するのにね」

 ふられた桃香は、遠い目をして言う。

真澄  「ああ〜〜!! もしかして、桃香がいっつもいい所でいなくなるのってここを利用していたのね!!」
愛   「7号さんもしょっちゅう本部内で行方不明になるわね。そうか、ここを使ってたのね。さすがにボスや秘書の女性、部下Aさんは知っていたみたいだったけど」
伊奈  「あのね、伊奈ね、前にここでお昼寝してたの!」
恭介  「おや、あそこで動いているのって僕が開発した清掃マシンだね。そうか、ここの掃除はあれがやっていたのか」

 恭介がマイペースに言う。

千景  「さて、メイン二人の用意ができたようだ」

 ザッ……

 美風は、いつもの部活で使う武道着を身につけ、手に薙刀を持っている。
 一方疾風は、黒のノースリーブの上からデニムのジャケットという、いつもの格好だった。そして、手にはかねしげが握られている。

桃香  「さて、この勝負の審判は、他流の者として皇賀流忍者、安土桃香がつとめさせて頂きます。急所攻撃などの反則行為などがあった場合、即刻勝負を中断させますのでそのつもりで……では……」

 二人の少女が、お互いの武器を構える。

桃香  「はじめっ!!」

疾風  「はぁ!!」

美風  「はっ!!」

 お互い、“風”の名を持つ戦士が交錯する。

 カァン!!

 二つの武器が鋭い音を立て合うと、二つの風はまったく予想もできない方向へ移動し、再び相手に向かって吹く。
 あるときは突風、あるときは竜巻、またあるときはそよ風、台風、逆風とめまぐるしく変化し、常人にはその動きを追う事すら許されない。

武蔵  「あ、惜しい。もう半歩踏み込めてたら決まってた」
千景  「ふむ、疾風は体も武器も変化しているから、昔のようには動けないかもしれないと思っていたが……なかなかどうして」
いちご 「あの剣も華代によって変化したものなんだから、一種の華代被害者いえる。だから、きちんと扱えるのだろう」
伊奈  「あ〜ん、目が疲れてきた」

 この四人と桃香あたりは動きを追えている。が、ほかの者は……

双刃  「いいなぁ……戦う女性って言うのも」
美依  「処理能力数値、最大……戦闘数値測定中」
魅夜子 「二人ともすごいですね」

 本当に追えているのかいまいちよくわからない者。

恭介  「う〜ん、全然どうなってるんかわかんないね」
秀作  「どっちが優勢なのかなぁ?」
真澄  「二人とも怪我しないでね」
愛   「う〜ん、美風ちゃんって、どんな服が似合うんだろう?」

 男性ハンター二人と、女性事務員の二人は追えていないらしい。

 ギンッ!!

 美風の鋭い突きを刀の背で受け流す。

千景  「模造刀何だから背で受ける必要は……そうか……!」
いちご 「手加減……」
武蔵  「え、でも……槍や薙刀なんていうリーチの長い武器を刀で相手にする場合、3倍の力量が必要だって言うけど?」
千景  「剣というのは元来、戦いには向かない。実戦では、飛び道具の方が有利だからね。日本刀であれば拳銃の弾などを切り落とす事も可能だけど、西洋の剣などはそうはいかなかった。実際、騎士と呼ばれるものが持っているのは儀式用か、自決用だったと言われている」

 拳銃の弾を切り落としたのは、かつて千景と敵対していた疾風だった。そのため、ターゲットの暗殺のために姿を現し、疾風に傷を負わせる必要があったのだ。

美依  「確かに、私のデータベースにある騎士のイメージは、手に長い槍を持っています」
桃香  「私も刀派です。といっても忍者刀ですけどね。槍や薙刀は携帯に不便なんですよ」

 そう言って桃香は腰につけたちょっと大きなポーチから、かわいらしい兎のマークが入った筒を取り出す。どうやらこれ、忍者刀らしい。

真澄  「桃香、まさかあなたも暗殺業をやってたの?」
桃香  「私は情報収集方です。忍者といっても、色々あるんですよ」

 外野が騒いでいる間にも、二つの風の激突は続く。確かに、技量では疾風の方が上回っている。だが、疾風に美風を傷つける気はないし、刀と薙刀という武器のリーチの違いが、その技量の差をなくしている。

疾風  (リーチの長い武器は接近戦に弱い……どうにか懐に飛び込めたら……)

 疾風は剣を振るいながら、美風の様子を観察する。一瞬……一瞬のスキでも見つけられれば……その時、美風が薙刀を大きく上段に構えた!!

疾風  (……チャンス!!)

 直後振り下ろされる痛烈な一撃!!
 が、それを寸前で避け……

疾風  (今だ……!!)

 疾風は一歩で美風の懐に飛び込む!! こうなったら、薙刀という長い武器は役に立たない。
 と……美風は躊躇なく薙刀を手放した。

千景  「疾風!!」
疾風  「へっ……」
美風  「はぁっ!!」

 ズン!!

 美風の、素手による強力な一発……

 疾風は、一瞬のタイミングで避ける事に成功する。
 しかし……美風の攻撃が当たった床はえぐれている……

真澄  「今のは……何……?」
桃香  「気による攻撃……もしかして、発勁?」
愛   「ハッケイ?」
桃香  「ええ、体内の気をコントロールして一気に放つ古流空手系の必殺技よ。美風ちゃん、そんなもの、使えるのね」
武蔵  「うちの高校じゃ武道系の部活に所属している人間はほとんど使えるぞ。特に俺達みたいな武器を使う人間はね。武器破壊や武器を使えない最接近戦に持ち込まれた時用に」
双刃  「俺みたいな文科系の人間にも基礎は叩き込まれる。大変何だよまったく」
いちご 「いったいどういう学校なんだ? お前らの通っている学校って……?」
双刃  「ドラ・ザ・エモン高校」
いちご 「いや、学校の名前を言われても……」

疾風  「千景の声がなければ、避けられなかった……」

 疾風は千景の方を見る。その隙に、美風は落とした薙刀を拾い上げる。

疾風  「――!!」

 が、美風は攻撃してこない。大きく肩で息をしている。


美風  「さすが……疾風兄さんね……」
疾風  「美風……」
美風  「姿形は変わってしまっていても、攻撃の型、気迫、駆け引きなどは変わっていない。間違いなく、あなたは私の兄、黄路疾風のようね……」
疾風  「美風……わかってくれたのなら、この勝負、ここまでにするか?」
美風  「……いいえ、一度始めた勝負は決着がつくまでやめる事はないわ」

 そう言って、美風は息を整える。

双刃  「勁による攻撃って、とんでもなく体力を使うからな。避けられた時に勝負は決まったと思うけど?」
武蔵  「だから息を整えていたんだろ?」

 気功系の技、発勁は、高校に進学してから教えられたもので、ここ数ヶ月の間に身につけた技だ。それゆえ、一発放つだけでもとてつもなく体力を消耗する。それに、普段めったに使わないので力加減がわからなかった。
 だから、とんでもない威力の攻撃になってしまったし、スタミナももう残り少ない。

美風  (南野先輩の真似をして見ても所詮駄目だったわね。こうなったら……)

 美風はそう決意し、構えを取る。

美風  「奥義・風神…………」
疾風  「風神!?」
美風  「鬼神覚醒でも使う? いいわ。最後の勝負、お互いの必殺技で決めましょう!」

いちご 「なにやら大技を使うみたいだな」
武蔵  「う〜ん、大丈夫かなぁ。勁を使って体力もう残ってないんだろ?」
双刃  「よし、いいシーンが撮れそうだ」
伊奈  「わぁ、面白そう♪」

疾風  (鬼神覚醒なんか使えるわけないだろ)

 疾風は風神の構えを取る美風を真正面に見据え、考える。手にある武器はかねしげ……刃の無い模造刀……

疾風  (――!!)

美風  「奥義・風神!!」
疾風  「居合い・疾風!!」

 斬ッ!!

美風  「あ……」
 兼重が本来の長さと姿があれば、居合いは美風を切り裂いていただろう。だが、疾風は兼重の中途あたりを持って居合いを放った。それゆえ、美風の胸元を浅く薙いだだけだった。
 美風の風神は発動しなかった。やはり体力が続かなかったのが原因と思われる……

桃香  「そこまで! 勝者は疾風ちゃん!」

 桃香が試合の終了を宣言する。

美風  「に、兄さん……」
疾風  「成長したな……美風……」

 美風の目に、過去の疾風の顔と今の疾風の顔がダブって見える。

恭介  「終わったようだね」
双刃  「結構いいシーンが撮れたなぁ。今度師匠にも見てもらおう」
真澄  「二人とも、大丈夫?」
千景  「ふ……」

 こうして、二人の姉妹の勝負は……

 パサッ……

疾風  「え……」
美風  「あ……」

 疾風の鋭い居合いは、美風の胸元を見事に切り裂いていていた。防具と、その下にあったものを切り裂き、素肌を露出させる……

武蔵  「あ、あらら……」
双刃  「おおっ!!」
恭介  「おやおや」
秀作  「わぁ」

 いっせいに反応したのは男どもと……

桃香  「皇賀流・眠煙弾!!」

 ぼふんっ!!

 桃香の投げた煙玉が男どもを包み込む。

恭介  「ちょっと見えないよ……」
秀作  「何するんだよ桃香ちゃん……」
双刃  「あれ、なんだか眠く……」
武蔵  「俺たちの出番はここまでのようだね……」

 やがて煙が消えると、男達は深い眠りについていた。

桃香  「大丈夫? 美風ちゃん」

 桃香は男達を無視し、美風に駆け寄る。
 そして……

桃香  「あれ? 美風ちゃんって、胸にさらしをまいていたの? へえ、結構胸あるんだ」
美風  「あ、はい」

 そう、美風は服の下にさらしをまいていたのだ。その事実に疾風は衝撃を受ける。

疾風  「さ、さらしって……どういうこと、美風……」

 疾風が美風に再会し、まず注目したのがその胸元だった。言っちゃ悪いが、過去の記憶とてらし合わせても全然成長していないなぁ。と、思っていたものだ。
 だからこそ、美風を真正面に見据えても、平静でいられた。
 だけど!!

愛   「駄目だよ美風ちゃん、さらしは胸の形が悪くなるんだよ」
真澄  「ブラジャーは持ってないの?」
美風  「一応、持っているんですけど……なんかつけるといつもブカブカで……」
桃香  「? 寄せてあげてる……?」
美風  「寄せてあげる?」
桃香  「ええっと、これなら……

 (ちょっと純粋な女性達の確認作業のシーンがありますが、都合によりカットします)

いちご 「俺達、あそこにいってはいけない気がするんだが……」
千景  「ここにいる私達でも衝撃が強いのに、真正面で見据えてい疾風の衝撃はもっと強いでしょうね」
魅夜子 「? どうしてです?」
美依  「それはね、深い理由があるんですよ」

真澄  「いい、美風ちゃん、ブラジャーはそういう風に直立姿勢でつけるものじゃないの」
愛   「前かがみになって、そうそうそしてつける」
桃香  「背中や、お腹の肉を胸に集めるのよ」

 先輩女性三人にブラジャーのつけ方のレクチャーを受ける美風。

桃香  「美風ちゃんって、高校に通っているんでしょ? 体育の時間とか部活とかの着替え、どうしているの?」
美風  「いつ何時敵が現れてもいいように、早着替えの技術を身につけていたんです。小学校の高学年ぐらいから……だから、さらしのほうが便利で……」
愛   「今までさらしだったの?」
真澄  「はい、出来上がり」
桃香  「この武道着、破れちゃって着れないね……」
美風  「制服、もってきてますけど……」
桃香  「いいわ。水野先輩、沢田先輩、ちょっと離れてて……美風ちゃん、動かないでね」
美風  「?」
桃香  「皇賀流くノ一秘技、変姿装々曲!!」

 ぶわぁさ!!

 それは一瞬様々な色の布が広がったようにしか見えなかったが、よく見ると糸や針、はさみなどもチラッと見える。

桃香  「別名、空中元素固定の術……」

 そこにいた美風は先ほどまでの武道着姿ではなく、かわいらしい洋服を着せられていた。

桃香  「どう、私なりにコーディネートしてみたんだけど」

 桃香は、ハンター事務員の制服ではなく、眼鏡でも三つ編みでもなく、忍者姿になっている。変姿装々曲をやるのには、事務員姿では無理だったのだろう。

いちご 「……そうか、りくの服はああいう風に作っていたのか……」
美依  「確かに、りくさんの服の持ち量は半端じゃ無いですよね。一着一着、ああいう風に作ってたんですね」

 いちご達は今回出番の無かったハンター仲間の秘密の一つを知り、そしてちょっと同情した。
 いっつも桃香に付きまとわれているりくは日に何回も服を変えている。いつもあの術を食らっているとなると、納得がいく。

桃香  「ああ、この武道着はちゃんと直して返すから、安心してね」

 桃香の手には、たたまれた武道着があった。

疾風  「美風……」
美風  「兄さん?」

 これまで無言だった疾風が、苦しそうに声を出す。

疾風  「その胸……」
美風  「?」
疾風  「その胸、どうやって大きくしたのか教えてくれ!!」
美風  「はぁ!?」
疾風  「いや、言い方が悪かった、でも俺は胸を大きくしたいんだぁ!!」
美風  「どういう意味っ!? もしかして兄さん、身も心も女の子になっちゃったの!? ……ああ、そういえばこの前ラジオでやってた兄さんの葉書……あれって兄さん自身の悩みだったのね!!」
疾風  「ああ、確かに!! だがそれにはある理由があって……」
美風  「何よそれ!! 私兄さんに彼女ができたって、内心不安だったのよ!! それが何!? もう兄さんとはいわないわ、疾風ちゃん、そう呼ばせてもらうわ!! それでいいわよね!!」
疾風  「いや、美風、お前は妹だろ?」
美風  「そんな姿で兄貴ズラしないで!! ああもう、兄さんのバカバカバカ〜〜〜〜!!」

 二人とも胸のつかえが取れたのか、いつ終わるとも知れない口げんかが始まった。
 そこには、仲の良い姉妹の姿があった。

千景  「やれやれ……これで丸く収まったのかな?」
いちご 「丸いか? コレ……」
魅夜子 「いいじゃないですか、姉妹が仲良くなって♪」


 めでたしめでたし…………なのかなぁ……?


 おまけ


疾風  「あのお、安土さん……」
桃香  「あら、疾風ちゃん。別に私のことは桃香でいいわよ。で、なにか用?」
疾風  「あの、美風にやった変姿装々曲ってやつ、俺にもやってくれないか……?」
桃香  「へ?」
疾風  「あなたの作る服……おうだあめいど、っというやつか……なかなか似合った服を作ってくれる……だから、俺に似合いの服を作ってもらいたいんだ」
桃香  「…………」

 桃香は、何かを考えるように疾風を見つめる。

疾風  「…………ダメ、か…………」
桃香  「いいわよ。ただし、条件があるわ」
疾風  「へ?」

 桃香は、にっこりとこう言った。

桃香  「猫耳をつけてくれたらね♪」


   おしまい