「華代ちゃんシリーズ」



「華代ちゃんシリーズ・番外編」
「ハンターシリーズ」
「いちごちゃんシリーズ」

作・真城 悠


ハンターシリーズ61
『Moonlit Maiden No.35』
作・あのよろし



 その日、ボスの部屋には珍しい客人が来ていた。
「では、最終確認だ。谷澤鋭吉君」
 ボスはできるだけ威圧感を与えないような声を心がけながら、眼前の人物の名前を呼んだ。
「はい」
 返事をしたのは、見た目十代半ばぐらいの少女。何故か巫女装束という浮世離れした服装をしている。
 『鋭吉』という名前は、女性にしては勇ましすぎる印象を受けるが、彼女の事情を知れば仕方のないことと納得できる。
「君は、本当にハンターになりたいのか?」
「はい」
 控えめな返事は、鈴を転がすような声とあいまって、儚げな印象をボスに与えた。
 後ろでひとつに束ねられた流れるような黒髪は、蛍光灯の無機質な光の下でも艶やかな煌めきを放っている。白く、丸い小顔には一かけ
らのしみも、一粒のにきびもない。頭を支える頸は驚くほど細く、やはり皺やかげりのひとつも見当たらない。きっちりと折り目がつけら
れ、隙なく着こなされた赤と白の巫女衣装。その端から覗ける手足もまた小さく、可憐である。
 少し力をこめて触れれば砕け散ってしまいそうな手弱女。真っ直ぐに見つめ返してくる目には夜空に浮かぶ月のように穏やかな光をたた
えていた。
 これだけの容姿を持つ少女が実は元男性であるなど、いったい誰が信じるだろう。ボスの手元には変身以前の写真もあるが、それと目の
前の少女が同一人物であるとは絶対に思えない。
 しかし、それこそが宿敵、真城華代の恐ろしさなのだ。ある意味、この現実離れした完璧なまでの美しさこそ、華代被害に遭った証でも
ある。
 ボスは、少女から手元の資料に目を移した。資料には彼女、いや、彼に関するデータが記載されている。何度も目を通した上、内容は部
下から報告済みだったので、いまさら読み返す必要もない。
 傍らに立つ秘書に、その資料を渡す。
「なるほど、わかった。君をハンターとして採用しよう。そして、君が望んでいる元の姿に戻るための協力も、全力で行う事にしよう」
「ありがとうございます」
 少女は両の手を前に組み、深々と頭を下げた。頭の動きと連動して、束ねた髪の毛が首をまわって肩にかかる。
「正式な書類などはまた後日に用意する。今日の面接はここまでだ。この後は、何か予定はあるかね?」
「いえ、特には」
 体を起こし、ぎこちない手つきで髪の毛を払いのけながら、少女は返事をした。
「では、組織内を少し見回っていってくれたまえ。建物の構造の把握と、課員への挨拶をかねてな」
「わかりました。そうします」
「うむ。それでは、今日はご苦労さん」
「ご苦労様です」
 少女は回れ右して部屋の出口へと向かった。
「失礼します」
 最後は軽く頭を下げて、少女はボスの部屋から出て行った。
 部屋には男二人、ボスと秘書が残される。

「……どうでしょうか、彼女は」
 暫くしてから口を開いた秘書に、ボスは憂鬱そうに答えた。
「17歳で、女子高生で、アルバイトで、巫女さんで、元男で、現美少女で……」
 最後のほうは消え入りそうな声だった。
「いろんな意味でギリギリですね」
「まったく、組織のありようが真剣に問われる時期だというのに……」
「だったらなんで採用したんですか」
「仕方が無いだろう、人手が足りないんだ。36号の報告が本当なら優秀な人材である事は間違いないんだ。何より華代の被害者をってお
くわけにはいかんだろう。元に戻せないなら元に戻せないなりに面倒を見なければな」
「しかし、大丈夫でしょうかね、彼女は」
「……なんとも言えんな」
 ため息が、部屋の空気を老け込ませる。


 ハンター組織本館廊下。
 数人の男達が群れて話をしていた。
「おい。あの話、聞いたか」
「あの話って?」
「あれだよあれ、新入りの話」
「おおっ。聞いた聞いた。現役の女子高生が入ってくるって話だろ」
「それも実家は神社で、手伝いで巫女さんをやってるとか」
「マジか! この組織もだんだん俺達のニーズが分かってきたな」
 彼らの体つきは全員違っていたが、身にまとうオーラは共通していた。
 休日には電気街や明治通りのあたりで見受けられそうな人物ばかりである。
「よし、オレの彼女候補の中に入れてやるか」
「ふてぶてしい野郎だな。俺に決まってんだろ」
「なんでお前なんだ。巫女さんはオレの専売特許だぞ」
「じゃあ間を取って俺ってことで」
「お前は引っ込んでろ。彼女がオレ色に染まることは去年の有明の時から決まってんだよ」
 男達の具体性のないみにくい争い。
 このパワーこそが今の日本を支えているといっても過言ではない。
「お前はこの前、ナースに目覚めたって言ってたじゃないか」
「ああ、巫女とナースの夢コラボはもはや宇宙の真理だ。したがって、ナースもオレのものだ」
「この浮気者が。オレのマックスハートを邪魔するんじゃねぇ」
「何がマックスだ、このメイド教信者が。早くカフェインの取りすぎで逝ってしまえ」
「とにかく、俺に任せておけばそれで大丈夫だから」
「コミケのチケット取り損ねた馬鹿が何言ってやがる」
「それを言ったら手前こそ、春のイベントでハンマー堂の同人誌、転売分買い損ねたじゃねえか」
「うるせえ、とにかく制服のパイオニアはオレだからなぁ……」
「……っておい、ちょっと待て。あれ」
 一人の男が会話をさえぎり、進行方向の遥か先のほうを指差した。
「あれが件の新ハンターじゃないか?」
 男が指し示す先にはしずしずと歩く巫女さんの後姿がある。
「あ、そうだよ。あれだよ」
「よし、俺が言ってくるからお前らは帰れ」
「はいはい。じゃあ、俺、行ってきマース!」
「あ、待て、俺が先だって言ってんだろ」
 男達はなんのかんのと揉めながら、結局全員で目的地に向かっていった。いつもどおりの騒がしい、そして迷惑な集団行動である。
 近づくにつれ、巫女服を着ているのがとても小さな女の子である事がわかった。身長160cm無いだろう。男達のストライクゾーンの下のど
真ん中だ。
 少女は迷子になっているのか、あたりをキョロキョロ見回しながらゆっくりと歩いている。したがって、男達が追いつくのに大した時間
も労力もかからなかった。
 曲がり角に差し掛かったところで、少女は男達に追いつかれる。
「ねぇ、そこのキミィ」
 粘っこい声に呼ばれた気がして、少女は振り返った。
 そして、一歩後退った。
「キミが噂の新ハンターでしょ」
「は、はい」
 少女は脅されているわけでもないのに怯えたような声を出した。が、男達はそれには気付かず、少女を取り囲むように群がり始めた。
「やっぱりそう。いやぁ、一目で分かったよ」
「何してるの、こんなところで」
「あの、建物の中を見ておけと言われて」
 オドオドした挙動に琴線を刺激されたのか男達の顔が気持ち悪いくらいに崩れる。
「ああ、な〜る」
「じゃあ僕が案内してあげるよ」
「馬鹿、俺だよ。俺以外誰が行けるっていうんだ」
「アホどもはほっといて、僕と行こうか」
「あ、手前え、抜け駆けしてんじゃねえよ」
「もうこの際みんなで行くか」
「じゃあ、お前帰れ」
 不毛な言い争いがまた繰り返される。いつの間にか少女は放っておかれている。
「巫女さんは俺のフェイバリット属性だって言ってんだろ」
「俺だってこの前神社に巫女見してきたよ。で、つまみ出されたよ」
「だったら今もつまみ出されとけ」
「オマエモナー」
「うわっ、その発言イタすぎ。逝ってよし!」
 少女は最初こそ怖がって動きを止めていたが、会話の内容から男達の正体を見破れたらしい。意味の分からない専門用語が飛び交う口げ
んかを冷めた目つきで傍観し始めた。
「この前、同人誌譲ってやっただろ」
「あれはずれだったからノーカウント。変なシミ付いてたし」
「お前はこの前の写真撮影で散々バターやったんだからもういいだろ」
「あんなもんじゃ俺の小宇宙はウマーなことにならん!」
「ああ、もう、うるさい!」
 一人の男が大声で会話の流れをきる。
「とにかく俺と行けば間違いないから!」
 比較的からだの大きいその男は乱暴に少女の肩に手を掛けようとした。
「触らないでください」
 少女は迫り来る手を少し後ろに下がってかわす。
「じゃあ俺が」
「お断りします」
 真後ろにいた別の男が抱き締めようとして来るのも身をひねって腕から逃れる。
 彼女はそのまま周りを取り囲む男達の輪をすり抜けた。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
 慌てて肩にすがりついて来た男がいたが少女は振り返らない。手を振り払ってすたすたと歩いて行こうとする。
「ああ、もう、だから、待ってってば」
 数人の男達が先回りして彼女の道をふさぐ。
「俺らが案内してあげるって」
 いい加減しつこい男達に、怖い以上に腹が立ってきたのだろう。少女は苛立たしさを押さえた口調で言った。
「大丈夫です。一人で行けますから」
「いやいや、それは駄目だよ」
「こういうシュチュでは男がエスコートしなきゃいけないんだな、これが」
「そうそう、女の子一人じゃ危ないし」
 この建物の中でどんな危険があると言うのか。いや、そもそも、自分達こそ危険因子ではないのか。
「まあ、そういうわけだから」
 なおも手をのばしてくる男達。体の小さな女の子を前に普段からは考えられないほど強気だ。抵抗することなど考えていないのだろうか。
たとえ抵抗しても、力で十分勝てると踏んでいるのか。
 少女は目を細めた険しい表情を見せた。
「いい加減にしないと……」
 少女がある行動にうつろうとしたとき。
「ドゥフー!」
 廊下の向こうから不思議な音が聞こえてきた。
「うん?」
 少女も含め、その場にいる全員が音源の方に振り返る。
「ドゥゥフゥゥゥゥゥ!」
 何だかよく分からないものが、雄たけびを上げながらこちらに近づいてきていた。縦横の比が1:1に近い、球のような体型をした、
たぶん人間であろうものが、全力疾走してくる。その正体を少女が知っているわけはなかったが、男達はよく知っていた。
「あ、あれは64号!?」
 男のひとりが声を上げる。
「何、64号だと!」
「あいつは女性課員に対するセクハラで懲罰房に閉じ込められているはずだ。なぜここに!?」
 その答えは、近づいてくる男によってもたらされた。
「巫〜女〜タ〜ン〜!」
 獣のうなり声というか、消化不良に苦しむ動物の声というか、とにかくひどくくぐもった声が廊下中に響き渡る。
「そうか! 奴は1km先の女の子の匂いすらかぎ分ける変態的嗅覚の持ち主」
「そのうえ、『ムーンリットメイデンざくろ(通称:MMざくろ)』の限定版DVDを全巻3本ずつそろえるほどの巫女フェチ」
「この娘の存在に気付かないわけがないし、あの巨体がうちの貧相な牢屋に閉じこもっていてくれるわけもない!」
 64号と呼ばれた男は巨体に似合わぬスピードで男達のもとに近づいていった。いや、男達のもとにではなく、巫女服を着た少女のもと
にはせ参じようとしていた。
「ドゥフフフッ!」
「に、逃げろっ!」
 一人が声をかけると、全員がそれに従う。
 怒涛の勢いで距離をつめてくる64号に恐れをなした男達は、今の今まで会話していた少女の事などすっかり忘れて逃げ出そうとした。
しかし、いつものクセで無駄に説明的な台詞をはいていたのが災いした。
 男達が逃げに入るより、大男が突進してくるほうが早かったのだ。
「ブフフゥゥゥゥン!」
「あべしっ!!」
「あまにょっ!!」
「あぶらばっ!!」
 それぞれ思い思いのきめ台詞をはきながらふきとばされる。あるものは壁に、あるものは天井に叩きつけられ、行動不能に陥る。
 そんな男達にになど目もくれず、64号は目当ての少女のほうに振り返った。
「ブフゥ……ブフゥ……」
 鼻息荒く、汗も激しく、目を爛々と輝かせ、嬉々とした表情を浮かべ、手を前に出した前傾姿勢。
「うっ……」
 圧倒された少女はじりじりと後ずさる。普通に生きていたらこんな特殊な状況にはそうそう遭遇しないはずだ。身の危険を感じているの
だろう。こめかみの汗から緊張が伝わってくる。
「フッ……フッ……フフフ」
 64号は歓喜のあまり叫びだしてしまいそうだった。
 自分が求めてやまなかったものが目の前に用意されている。しかも、周りには誰もいない(目に入ってない)。いつもはできないあん
な事やこんな事、さらにはそんなことやどんなことも今ならできてしまう。
「ドゥフッ、ドゥフッ、ドゥフフフッ!」
 しばらくの間テレビもない狭い部屋に閉じ込められていたせいで、64号はいつも以上に理性的な判断ができなくなっていた。欲望が暴
走し、肉体がそれに従う。
「ブファァァァァ!」
 64号は歓声を上げた。
 たっぷりと脂肪の乗った体を躍動させながら、64号は少女に向かって突貫する。
「巫女タン、いただきま〜す」
 圧倒的な質量を持つ大男を前に、少女の清き体はもはや風前の灯かと思われた。少女はおびえ、体を丸めて縮こまってしまう。
 しかし、実際はそうではなかったのだ。
 64号の太短い腕が、今まさに少女に接触しようした、その瞬間。
 少女の体が消失した。
「ドゥフッ!?」
 目標を見失い、無様に床を舐める64号。バランスの悪い体はそのままの勢いででんぐり返りし、彼はその視界にふたたび少女の姿をと
らえた。
 実際には少女は消えてなどいない、64号がそう錯覚しただけだった。彼女は64号の腕が自分の体をとらえる刹那を見切り、後方に跳
躍して襲撃をやり過ごしたのだ。
 およそ5メートルの間をあけ、少女は64号と対峙する。その両腕はなぜか袖の中にしまわれていた。
「ムゥゥ、逃げるなぁっ!」
 64号はのっそりと立ち上がる。
「ドゥフフフゥッ!」
 馬鹿の一つ覚えの突進。数秒前と同じ状況が再現される。
 ただ、先ほどとは一つだけ違うところがあった。
「………………」
 無言のまま少女が両腕を袖の中から出す。その手には、どこから用意したのか体半分を覆い隠すほど大きな扇子が左右一つずつ握られて
いた。
「ドゥファァァァ!!」
 そんな変化など気にもせず、64号の体が少女の体に覆いかぶさらんとしたその時。
「セイヤァッ!」
 少女は裂帛の気合と共に扇子を64号の下半身に向かって振り下ろした。
「ブフアァッ!?」
 予想だにしなかった攻撃をもろに食らった64号の体は、その大きさからは信じられないほど宙に舞い上がり、そのまま天井に激しく激
突した。まもなく、重力に従って地べたに真っ逆さまに墜落し、ゴゴン、と大げさなほど大きな音を立て、床に頭から突き刺さった。
「………………」
 少女はひっくり返った達磨のようになっている64号の元に近づき、ぞうりを履いた小さな足で、無慈悲に蹴りをいれた。絶妙な平衡を
保っていた巨体はなすすべなく倒壊する。
 その様を見届けた後、彼女は口を開いた。
「化け猪か、だいだらぼっちか、はたまた信楽焼の狸の付喪神か……。なんだか良く分からないけど、とりあえず退治しておこうか」
 少女は袖の中に扇子をしまいこみ、代わりにばらけた竹刀のような竹の束を取り出した。これまた袖の中に隠しておいたにしては明らか
に大きすぎるがそれをつっこむ者はどこにもいない。少女は新たに取り出した獲物を片手に、うつぶせになって悶絶している64号に後ろか
ら近づいていった。
「どこの山から迷い出て来たのか知らないけど、俺に襲いかかって来たのが運のつきだったね」
少女は獲物をしっかり握り、大きく振りかぶった。そして。
「妖怪退散っ!」
渾身の力を込めて64号の尻にむかって振り降ろした。
「ブヒャァァァァ!」
 鞭のようにしなる竹の束が何本も炸裂し、64号はたまらず悲鳴をあげた。這ったまま逃げ出そうとする64号だったが、少女はそれを許さな
かった。
「汚い悲鳴あげてんじゃねえよ!」
 容赦のない追撃が64号の背中に加えられる。
「ブファァァァァ!」
 攻撃が炸裂するたびに、獲物の竹はどんどん枝分かれしていく。それに従い、獲物の威力は飛躍的に増大していく。
「その歪んだ根性と腰骨、この場で矯正してやるからありがたく思いな!」
「ブギャァァァァァ!」
 悲痛さを増してく64号の悲鳴は、仮想世界が第二の住居の方々には刺激が強すぎたらしい。周囲にいる男達は誰一人として64号を助けよ
うとはしなかった。可憐な外見を裏切る、少女の残虐な振る舞いを見て、ただただ、お互いに抱き合って震えていることしかできなかった。
「この卑しい家畜がぁ!」
「ブヒィィィィィィ!」
 少女、谷澤鋭吉の蛮行は、騒ぎを聞きつけた別のハンター達にとめられるまで続いた。


 後に、現場を見た人間はこう語っている。

 ハンターIさん
「まさに地獄絵図だった。あんなに小さな娘が、あんなにでかい64号を踏み付けにしてるんだから。あいつは嫌いな奴だったけど、タンカ
で運ばれるぼろ雑巾みたいなあいつをみたら、さすがに可哀想だと思ったよ。……お見舞い? いや、行かないけどさ」

 居候Tさん
「大男が女の子に乱暴していると聞いて駆け付けてみたら、状況は全く逆で、女の子が大男をしばき倒していた。それも、鬼か夜叉のよう
な形相でだ。さすがの私もすぐには体を動かす事ができなかったよ。しかも、その女の子は新しい同僚だと言うじゃないか。まったく、恐
ろしい奴が入って来たものだ」

 ハンターSさん
「最初にあった印象で『泣き虫属性』だと決め付けていたが、それは間違いだったようだ。可憐な容姿と、それに似合わぬ非情な舌剣。そ
してあの暴力性。はっきり言おう、彼女はパーフェクトだ! 女性化ハンター初のSキャラゲットォォォ!」


「……で、64号はどうなったんだ?」
「はい、分厚い脂肪のおかげで見た目ほど大した怪我は負っていないようです。ですが、精神面でのダメージは大きかったようで、部屋の
中で『巫女タン怖い、巫女タン怖い』って、うなされているようです。労災はどうしましょうか」
「出しておいてやれ。あと、新入りはどうした?」
「いちおう、注意だけはしておきましたが、途中で36号にさらわれまして」
「あいつも何を考えているんだか……」
「どうしましょうか」
「正当防衛でことを済ます。それ以外はしなくていい」
「過剰防衛では?」
「命と貞操の危険が迫っていたと言われたらそれまでだ。余計な事はしなくていい」
「では、そのように」
「全くどいつもこいつも……」
 ボスは胃薬を引き出しから取り出した。水無しで飲めるやつだ。
「……ところで、なぜいちごが引きこもっているんだ」
「水野と沢田に巫女服を着せられて、ファッションショーをさせられたとか」
「いつもの事じゃないか。何をへこんでるんだ」
「いつもの事だからへこんでいるのでは」
「何でもいい。早く引きずり出せ。研修プログラムの会議やるんだから。一桁ナンバーは全員集合だ」
「珍しくまともな理由ですね」
「余計な事を言っている暇があったら早く行って来い。30分後に第三会議室だ」
「了解」
 秘書はそそくさと部屋を出て行った。
「はぁ……。今度はもう少しまともで、普通の奴が入ってきて欲しいもんだ」

 こんなボスの思いもむなしく、以降数ヶ月にわたり、個別の意思を持つたくさんの真城華代達によって、組織内はコスプレパーティ状態
にされていくというのはまた別のお話。



 時期的には『お墓参り』『月白の巫女』から『島国の白酒』までの間。
 まだ、61号も32号も男で、コスプレパーティがはじまったばかりの頃です。

参考:「島国の白酒少年少女文庫 作品)」(あのよろしさん)
白衣の天使 (少年少女文庫作品)」(あのよろしさん)
月白の巫女 (少年少女文庫作品)」(あのよろしさん)
…を読んでいるとより楽しめます(^^。