「華代ちゃんシリーズ・番外編」 「ハンターシリーズ」 「いちごちゃんシリーズ」 ![]() 作・真城 悠 |
ハンターシリーズ62 『ファントム・ビジネス・カード』 作・マコト |
公然の秘密ともいうべき、巨大な基地である。 その地下――どのくらい地下なのかわからないくらい地中深くに、その部屋はあった。 並ぶ4つのカプセル。 うちのひとつ、「??17」と記されたものは既に開いており、中身は存在しなかった。 そして、残る3つのうちの一つ。 「??20」と記されたそれに、変化がおきていた。 ギィィィィィ。 なんとッ! 機械的にしっかりと固定されていたハズのカプセルの蓋がッ! いとも簡単にッ! 操作もなしに開いていっているのだッ! しかし、ほんの20cm程あいた所で、それは止まった。 だが次の瞬間、 ヒュウッ!! 何か小さなモノが、その中から飛び出していった。
「よぉ、ここ」 「誰かと思えばいちごか……やれやれ、面会ご苦労なこった」 数日後、とあるところにある刑務所。 そこで一人のポニーテールの少女が、囚人の女性と面会していた。 「何度も言ってるが、俺はここから出る気はねーぜ」 「ああいや、今回はその件じゃない。安心しろ」 「? じゃぁなんなんだ」 そう聞かれると、 いちごと呼ばれたポニーテールの少女は、ジーパンのポケットから一枚の紙切れを出した。 そしてそれをここと呼ばれた囚人に差し出す。 「調書――フッ、こいつは懐かしいぜ」 ここに差し出されたもの、それはある事件に関する調書であった。 「今更このことを穿り返してどうするつもりだ」 「いやな、ちょっとこれに関係する出来事があってな。一応事実関係をとりたいから話を聞きに来たんだよ」 「そうか……いいぜ、話してやる。あれは10年前――」 そうしてここは語りだした。 10年前の惨劇を――。
10年前、初代ハンター科学班。 そこにおいて、人類の敵・真城華代を調べるグループに一人の男がいた。 金髪白肌、当時のハンター本部において、唯一の外国人。 名をジオ・ブランドー。 ハンター20号であり、皆からはZIOと呼ばれていた。 本来彼は1号達同様、実際に行動するタイプなのだが、彼は自らすすんで科学班に身を投じていた。 周りに知られぬようある秘密の研究をする為である。 それは名刺。 数ヶ月前に、性転換騒動のあった現場に落ちていたものを、科学処理で封印して運び込んだものである。 そう、それこそがッ! かの真城華代のッ! 名刺だったのだッ! 彼は誰にも――そう、本来この名刺を研究しているチームにも悟られることなく、一人で研究を進めていった。 「すばらしい……この名刺に秘められた力さえあればッ! ヤツにッ! ゴウゴウにも勝てるッ! ――いや、ゴウゴウどころかここのどのハンター達ですら目ではないッ!」 そう意気込んで研究を続けるZIO。 かつて、ZIOとゴウゴウは親友であった。 だが、幼いころから、ハンターとなった時でも、ZIOは自分より優れていたゴウゴウを追い抜くことはできなかった。 そこから生まれた嫉妬心。 そして、目をつけたのが「名刺」だったのだ。 彼は名刺の力を研究し、利用しようとしていたのであった。 だが研究するにつれ、目的はゴウゴウを追い抜く為であったことから、いつの日か誰よりも自分が最も優れていると皆に示す為となっていった。 ――しかし、ある日。 ドタドタドタ……バンッ!! けたたましい音を立てて、ドアが開かれる。 「な、なんだ!?」 ざわめきだす職員たち。 「静かに!」 現れたのは、ハンターを監視する役目を担う「ハンター秘密警察署」の署長・ハンターガイストこと柚木陽介。 そして、彼に直属する10人の「ガイスト」。皆それぞれ違う色のマントで顔を隠している。 さらには、なぜかハンター55号、すなわちゴウゴウまでもがいた。 「ゴウゴウ……!? 貴様……!」 驚愕するZIO。 「今回こちらに来たのは他でもない、おまえたちの中に裏切り者がいるからだ」 ハンターガイストの言葉に、驚愕する科学班の職員達。 「そいつは真城華代の名刺を利用して何かを変えようとしている。――だが、そいつは名刺の研究グループではない。そうだな、ガイスト02」 「そのとおりです」 ガイストの言葉にうなずく赤マントの男。 マントには「02」の文字。 「名刺の力を利用して悪事を働こうとしている者、それは――ハンター20号、ジオ・ブランドーッ、貴様だッ!」 瞬間、その場にいた全員の目がZIOの方へ向く。 「な……!?」 驚愕するZIO。 ――バカなッ! バレるはずがッ! バレるはずがないッ! このZIOの行動がッ! 「――この俺がァ? そのような証拠ッ! それを提示してみてから言えッ!」 多少動揺しながらもZIOはそう切り返した。 ――そうだ、科学班の研究室は機密保持のために監視カメラは一切動いていないッ! 入り口ゲートには金属探知機があるから小型カメラも入れることはッ……! 「――02、マントを取れ」 ガイストに言われてマントを取る02。 『――!!』 現れた姿に、ZIOだけでなく科学班の全員が言葉を失った。 なぜなら、マントの下から現れた男の顔は、科学班メンバーの一人だったからだ。 「貴様……スパイだったのかッ!」 「正義の為だ、悪く思うな」 そう言って再びマントを羽織る02。 .「くッ…! だが、それだけではなァ!」 往生際の悪いZIO。 「――やれやれだぜ」 すると、今まで黙っていたゴウゴウが突然口を開いた。 「知ってるか? 名刺に関わった人間は白衣を着るとだな……肩が左右高さが違うようになる」 『!?』 ゴウゴウの言葉に、名刺の研究グループは思わず肩に手を触れた。 「う、嘘だろ!?」 「ああ、嘘だぜ! だが……ホシは見つかったようだな」 その言葉に再び全員の目線が一人に集まる。 ――すなわち、肩に手をやっていたZIOにッ! 「ゴ、ゴウゴウ……! はめたなッ! このZIOをッ! 親友のこの俺をッ!!」 絶叫するZIO。 「勘違いするなZIO」 そう言って、ゴウゴウは帽子を目深にかぶった。 「親友だろーが何だろーが関係ねー。俺は俺のすることをしたまでだ……。――いや、親友だからこそ、か。俺も残念だぜZIO、こんな結果になるとはな」 「――!」 言葉を失うZIO。 すると、 「――わかったよゴウゴウ。俺は自首する」 諦めた顔をして、ZIOは両手を差し出した。 「ZIO……」 いきなりの行動にとまどうガイスト達。 彼等は気づいていなかった。 この時ZIOがあるものを、袖に忍ばせていたことをッ! 「なぁゴウゴウ」 「?」 突然、ZIOがゴウゴウに話し掛ける。 「人間ってのは能力に限界があるなぁ。 策を弄すれば弄するほど、人間には限界があるのだよ」 「……?」 言葉の意味がわからず、ゴウゴウも少し動揺する。 その瞬間をZIOは見逃さなかった。 「フンッ!」 バッ! 気合とともにZIOは後ろへと跳んで、袖から一枚の紙切れを出した。 そう、「真城華代」の名刺をッ! 「何ィッ!? あいつ、いつのまにッ!」 驚愕するガイスト。 「――チッ、まずいことになっちまった……!」 珍しく慌てるゴウゴウ。 しかしすぐさま構え、体勢を整える。 「フフフフッ、甘い、甘いぞゴウゴウッ! もはや無駄、何もかもこの俺には無駄ァッ!」 叫びつつZIOは、名刺を天に掲げるッ! 「やめろZIOッ! 皆、奴に名刺を使わさせるな――ッ!」ガイストの言葉で、その場にいた全員がZIOに向かい走り出す。 だが。 「いいや! 限界だ! 使うね! ……ゴウゴウ! 俺は変わってやる! この名刺のッ! 力をもってしてッ! 俺は人間をやめるぞゴウゴウ――!!」 刹那、 カッ! 『うわぁぁぁぁッ!?』 名刺から発せられたすさまじい閃光が、研究室を包み込むッ! 「な、何だ、この光はッ!? 一体、何が起こっているッ!?」 「チッ、最悪の結果だぜこいつはッ……!」 ガイストとゴウゴウが次々に言う。 「GUAHHHH、変わっていくッ! 人間をブッチギリに超越したッ! 新たなる存在にッ! URYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」 閃光の中、ZIOはそう叫んだ。 ――そして、光が止み。 そこから現れたモノは――。
「――人間じゃなかった、と」 「有り体に言えばそーいうことだ。確かにZIOの望みは叶えられたのさ」 メモをとりつつ、いちごはここの言葉を聞いていた。 「なるほどなるほど。……納得がいったよ。サンキュな」 「俺は事実を述べたまでさ……。――ところで、だ。そもそもこれに関わる出来事ってのは何だったんだ?」 「ああそれか? ――ホラ、こいつだよ」 そう言っていちごは一つの虫かごを取り出した。 「――ッ、こいつは!?」 驚愕するここ。 なぜなら、その虫かごでは、 「こらー! 出せッ! 出せってのー! こーこーかーらーだーせー!!」 体長20cmくらいの、短い金髪をした妖精のような美少女が暴れ回っていたのだ。 耳が長く、肩が露出した緑色のワンピースの背中――こっちもあいている――から、トンボのような羽が二対出ている。 「ZIO……」 ぽつり、と呟くここ。 そう。 この、「可愛いが暴れん坊」な妖精こそが、あのZIOの今の姿だったのだッ! 「あーっ、なんだかよく覚えてないけど気に入らないヤツ! そっから出て来い! あたしと勝負しろー!」 ゴウゴウを見るなり、虫かごが壊れそうなくらい大暴れしだす妖精ZIO。 ――どうやら、以前の記憶が曖昧になっているようだ。 何故だか口調その他も変わってしまっている。 「少し前に本部の中を飛んでたのを14号が捕まえたのさ。それで、こいつが何者かの確認・照会をしてた先にお前に行き着いたってことさ。――なるほど、確かに”人間”じゃねぇわな」 「ボスが厳重に封印しといたはずだがな……。――流石は俺達ハンターの親分、ツメが甘いぜ」 笑いながら言うここ。 「どーでもいーからさっさと出せー!」 ドンドンと虫かごを内側から蹴りつける妖精ZIO。 「――封印した理由がわかる気がする」 「だろ」
「――面影も何もないな」 「まぁ、それが真城華代ですし。――しかし、どんどんと変り種が増えておりますなぁ」 「全くだ。アンドロイドに三つ子にチャイナにシスターにナース……どういう集団なのだ我々は……」 「心中、お察しします。――所で、この氷まだ融けないんでしょうかね」 「全く、ZIOのやつめ。冷凍能力なんぞ発揮しおって……。おかげで部屋は-10℃……今は夏だぞ?」 「そういえば恒例の名前の件ですが、今回はいかがいたします? ZIOはイングリッシュですし」 「うーむ。――そうだ、確か妖精になんとかベルっていたな」 「ああ、ピーター・パンのティンクルベルですか」 「そう、それだ。それをもじって、そしてあいつの名前をとって……ジオーネ・ハンターベル、でどうだ?」 「本人が気に入りますかねぇ?」 「おまえは今まで名前に関して何人の希望を聞いてきた?」 「……う゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん……」 |