「華代ちゃんシリーズ」



「華代ちゃんシリーズ・番外編」
「ハンターシリーズ」
「いちごちゃんシリーズ」

作・真城 悠


ハンターシリーズ71
なずなちゃん
「新幹線大突撃」

作・高樹ひろむ


 あたし、なずな。ブレザーの制服が良く似合う美少女です(きゃっ、言っちゃった)。以前は男の子だったんだけど、小さな女神様が現れてこの姿にされちゃったの。
 またまた今日も困ってる人の声が聞こえる、なんとか助けてあげなくちゃ。だってこの能力、そのためにさずけてもらったんだから。ね、女神様。
たとえ火の中水の中、今日も世のため人のため、なずな行っきまぁ〜す!

(毎度毎度ドジばっかり踏みやがって、いいかげんにしろ!)

 

 

なずな、博多へ

 ある土曜日、あたしは博多へと向かっていた。何のため? 福岡にある有名な神社、太宰府天満宮へお参りするため。

 俗に天神様と呼ばれる天満宮は全国に主なものが三つある。京都の北野天満宮、山口の防府天満宮、そして福岡の太宰府天満宮。いずれも学問の神様である菅原道真公がまつられている神社で、合格祈願に訪れる人も多い。

 

 男だったあたしは同人誌即売会の会場で小さな女の子に出会い、そこで今の姿である女の子に変身させられてしまった。それだけならばまだしも、年齢まで若くされてしまったがために大学生を続けることができなくなってしまった。

 仕方が無いので単位制高校へと編入することにしたが、いずれはまた大学を受験することになる。ならば、たとえ神頼みと言われようとも今のうちから合格祈願でもしておいた方がいいんじゃない?

 それならいっそこの際三天神を一気にお参りしてしまえということで、計画を立てて旅行に出ることにした。(というのは単なる口実で、旅行がしたかっただけなんだけど)北野天満宮、防府天満宮と無事お参りを済ませ、あたしは新山口駅から新幹線に乗り込んだ。

 

こだま727号 車内

 新幹線に乗り込み座席に座ると同時にあたしを睡魔が襲う。(まあどうせ博多駅は終点なんだし、乗り越すということは有り得ないわね)

 朝も早かったし一気にお参りしたので疲れていたのだろう、あたしはいつしか眠りについていた。

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 と、あたしの頭の中に声が聞こえて来る。これは夢?

「助けて、だれか助けて……悪い人に捕まってるの」

 いや、夢じゃない。明らかに助けを呼んでる心の叫び、でもいったいどこから? すっかり目を覚ましたあたしは、心を研ぎ澄まして精神を集中する。

 これはかなり遠くから、少なくともこの車内じゃなさそう。かなり後ろの方から聞こえてくる。精神を集中して心の中で相手に向かって呼びかけてみる。

「どこ? あなたはどこにいるの?」

「新幹線の中、確かスーパーのぞみ123号と言ったっけ。グリーン車に爆弾とナイフを持った男が……」

 やっぱりこの車内じゃないんだ、それじゃ一旦降りて乗り換えるしかないわね。距離からいってすぐ後ろを走ってるはずだから、途中で降りて待ってればすぐに来るはず。

「待ってて、あたしが助けてあげる」あたしはそう心で呼びかけ、新幹線を降りる準備をした。

 

 あたしは意を決して小倉駅で新幹線を降りる。ここで待ってればいいのよね、あぁ待ち遠しい。

発車ベルの音とともに、乗ってきたこだま727号が発車していった。

 

小倉駅

 小倉駅のホームでしばらく待つ。とその時、「まもなく列車が通過いたします」のアナウンスとともに、轟音を立てて列車が通過していった。

 ま、まさか。あたしはあわてて時刻表を繰る。嫌な予感がひしひしと襲ってくるのがわかる。「あれれ? なんでこんなのあるの? そんなはずは……」

 

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小倉   レ

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 あたしは思わずこぶしを胸の前でくっつけ「やぁ〜ん、間違えちゃったぁ!」

ととと、ぶりっ子なんかしてる場合じゃない。とにかく追いかけなければ。 あたしは駅の外に出るとタクシー乗り場へと急ぐ。急がなきゃ、急がなきゃ。

 とにかく早く追いつくために、タクシーをつかまえ……ん? タ・ク・シ・ー・? そんなもので新幹線に追いつけるわけないじゃないの。

「やーん、また間違えたよぉ〜、こんなことしてちゃいけないのに。どうしよう、どうしよう。こんな時、こんな時は……そうだ」

 あたしはスーパーのぞみ123号を思い浮かべると両手を上げて叫ぶ。

「なずな、テレポテーション!!」そう言うが早いか、あたしの姿が消え失せる。

 

スーパーのぞみ123号

1号車 普通車自由席 禁煙

 あたしはスーパーのぞみ123号の中に姿を現わす。そのとたんすってーんと派手にすっ転ぶ。そして後ろへ向かってゴロゴロゴロと転がっていく。

「これがホントの『転娘』てか、てへっ♪」そんなこと言ってる間に、あたしはドアを突き破って次の車両に転げ込む。

 

2号車 普通車自由席 禁煙

 あたしは転がりながら考えた。なんでこんなことに?

そういえば重大なことを忘れていた。新幹線は走っている。その中に何も考えずにテレポートしたら、同じ速度で後ろへ飛んでいくのは当り前。

 とりあえず、一旦外に飛ぶことにしようかな。「なずな、ぬるぽテー……」

「ガッ!」という音とともに後頭部を殴られる。いたたたたた……ふと見ると、耳の無い猫のような動物がハンマーを持って立っている。どうやらNGワードを言ってしまったらしい。

「やーん、間違えちゃったぁ〜」という間にドアを突き破って次の車両へ。

 

3号車 普通車自由席

 でもこのままではらちがあかない。そうだ、空を飛んだらどうだろう?

「なずな、飛びまーす!」体がふわりと浮かんだ。へへっ、あったまいいっ!

 と思う間に頭からドアに突っ込む。「えへへっ、失敗失敗。」

 

4号車 普通車指定席 禁煙

 とりあえず一旦止まりたいな。でもどうやって? ドアを思いっきり蹴れば反動で止まれるかな。

「なずなキィー……」しかし次の瞬間スカートが捲れあがってパンティが丸見え。「いや〜ん、見ないでぇ〜」

スカートを押さえるや否や、ドアを蹴破って次の車両へ飛び込む。

 

5号車 普通車指定席 禁煙

 どうも止まるのはうまくいかないみたい。しかし、ドアを壊してばっかりでいいのかな? なんとかできる方法は……そうだ。あたしは手を広げて叫んだ。「なずな、開けゴマ!」

 そのとたん、先々の通路の扉が全て開く。「やったぁ、えへっ♪」と言う間もなく広げた手を扉の両側にぶつけてしまった。いてててて……

 

6号車 普通車指定席 禁煙

「……代と申します。悩み事がありましたら……」

「危な〜〜い!どいてぇ〜〜〜!」あたしはなんとか少女をかわして脇をすり抜ける。その時名刺か何か巻き上げたみたいだけど、拾う暇無いし仕方ないよね。「ごめんなさぁ〜い」

 

7号車 普通車指定席 禁煙

 いよいよ次がグリーン車ね、きっと犯人はここに。どうやったらうまく倒せるかな? 相手を気絶させるあの技でいこうかな、他のお客さんも気絶するけど。

(この前みたいに言い間違えないように、慎重に慎重に……)「なずな……

 

8号車 グリーン車 禁煙

 ……フラッシュ!」

 あたしの体がものすごい光を発する。8号車の乗客はほとんどが気絶する。

 って、あれ? 犯人らしき人はいない。どういうこと? あ、そうか。グリーン車は1両じゃないんだ。

「ごめんなさ〜い、失敗失敗。それじゃ気を取り直してもう一度。なずな……

 

9号車 グリーン車 禁煙

 ……フラッシュ!」

 あたしの体がものすごい光を発する。9号車の乗客はほとんどが気絶する。

 こんどこそ当たりのようだ。人質をかかえてナイフを持ってる男がいる。もちろん気絶はしてるみたい。考えてる暇など無い。犯人をかかえこみ人質を引き離す。

「やったぁ、大成功!えへっ♪」そのとき「ガン!」とものすごい衝撃が。

 

0号車 グリーン車

 見ると、犯人が頭から血を流している。さっきの衝撃は犯人の頭をぶつけた音だったのか。

「犯人さん、ごめんなさぁ〜い」しかし答えは返ってこない。どうしちゃったのかしら? ま、いいか。後でゆっくり考えることにするわね。

 

11号車 普通車指定席 禁煙

(どうも犯罪が起きた臭いがする。もう少し前、グリーン車あたりか)考え事をしながら少女が歩いてくる。危ない、ぶつかるっ! そのとたん、少女が銃を取り出して……何をする気かしら?

 あたしはすんでのところで少女を避ける。「ごめんなさぁ〜い!」そのとたん弾が飛んでくる。いたたたたたた……やっぱり。

「全く失礼しちゃうわね、プンプン!」

 

12号車 普通車指定席 禁煙

「お弁当にお茶、ビールにおつまみはいりませんか?」車内販売のワゴンを押してる女性がいる。このままだとぶつかる、どうしよう?

「どいて〜〜っ」あたしは叫ぶ。が、女性は気付いてくれない。なんとか上に舞い上がって避けようとするが、運悪く足を引っ掛けてしまった。激しい衝撃音と共にワゴンが倒れ、珈琲のポットやおつまみ等の商品が散らばる。

「ごめんなさ〜い、今時間が無いの。悪いけど後にして〜」

 

13号車 普通車指定席 禁煙

 あれ? 新幹線の天井ってこんなに低かったっけ? と思う間に、あたしは天井に頭をぶつける。「いたたたた……」しまった、さっき舞い上がった時そのままにしてたからそんなことに。

 じゃ下へ降り……と、今度は床に頭をぶつける。「またたたた……」いけない、言葉が混じっちゃった。それでもなんとか態勢を立て直して次の車両へ。

 

14号車 普通車指定席 禁煙

 そろそろ脱出方法を考えないと。どこかドアか窓を開けて出るしかないけど……でも新幹線のドアは走ってる時は開けられないし、窓だって開かないし。さっきの「開けゴマ」なら開けられるだろうって? でも横についてるドアをどうやって? 仮に開けられたとしても、こんなスピードで飛んでるのに横から出れるわけないじゃない。何かいい手はないかしら?

 

15号車 普通車指定席

 天井を強引に持ち上げて、そこから脱出するというのはどうかしら? 念動力を使って……「なずな、サイキコネシス!」そう言ったとたん前方にタライが現れ、あたしはそこに突っ込む。

「がぁ〜〜〜〜〜〜〜ん!!」とタライが激しい音をたてる。やっぱ突然タライが現れるというのはお約束ね。ってド●フや現代魔法じゃあるまいし、それ違うだろ! (はわわ〜、サイコキネシスといおうと思ったのに……)

「また間違えちゃったよぉ〜、え〜ん」

 

16号車 普通車指定席

 ああああ、とうとう最後まで来ちゃった。もう後がない。そこへ、後ろの運転室から車掌さんが現れる。「車掌さん、どいて〜〜!」結局避けきれず、車掌さんもろとも運転室に突っ込む。「いや〜〜〜〜〜〜ん!!!」

 と言う間もなく、あたしは犯人と車掌さんをかかえて、ガラスを突き破って車外へ。

 

スーパーのぞみ123号 車外

 車外に出たその時、犯人の手から何かが転げ落ちる。あれは確か爆弾の……起爆スイッチ。

 

 「どっかぁぁぁぁぁーーーーーーーん!」激しい爆発音、そしてものすごい衝撃とともに爆風が襲ってくる。あたしは車掌さんをしっかりと抱えて衝撃に耐える。あれじゃ、きっと犯人さんは……

「犯人さん、かわいそう。とうとうお星様になってしまったのね」

 涙を流す暇も無く、あたしは車掌さんを抱きかかえたまま頭を激しく地面にぶつけて気を失った。

 

小倉〜博多間 地上

 「お客さーん、駅じゃないところから乗ったら困りますよぉ。切符はどうしたんですか?」車掌さんは怒っている。あたしはそんなつもりじゃなかったのにぃ。

 

「ごめんなさ〜い、失敗しちゃったぁ、てへっ♪」

 あたしはそう言って頭を軽くげんこつで叩くと、ウィンクしながら舌を出した。

(またやっちゃったぁ〜、でもまあいいか。次こそ何とかするわよ!)

 

 はたしてスーパーのぞみ123号はどうなったのでしょうか? それはまた別のお話で。今日はこれにておしまい、じゃまたね!

 

後日、ハンター本部

(私が新大阪発車直後に調べたけどあんな娘いなかったはず。新大阪〜博多ノンストップだったからどこか途中で乗り込むなんて絶対考えられないし。

ということは真城華代の被害者か? 確かに華代らしき人物はいたからそれは考えられるか。しかし、だとするとなぜあんなスピードで飛んでたんだ? 理由がわからん。それとも魔法使いか超能力者が外から瞬間移動? だとしてもなぁ。)

(まさか、彼女が新幹線のスピードを失念していたなどというわけはないよな? もしそうなら超がつくドジっ娘ということになるが……そんな馬鹿な)

 

 浅葱千景はひたすら考え続けたが、名探偵の推理力といえどもあまりに馬鹿馬鹿しい真実を受け入れることはできなかった。

「ちっくしょぉ〜、私が捕まえるはずだったのに手柄を横取りしやがって。 犯罪が起きる予感はひしひしと感じてたのによぉ〜」

 こうなったら彼女を探し出してここに連れてきてやるぞ、と千景は心に決めたのであった。