「華代ちゃんシリーズ」31



「華代ちゃんシリーズ・番外編」
「ハンターシリーズ」
「いちごちゃんシリーズ」

作・真城 悠


ハンターシリーズ87
『イルダさんの挨拶回り』
作・ELIZA


注:この作品には、登場人物のイルダ・リンカーンが一神教に狭量であるという設定上宗教的な話題が登場します。(米国の基準では年齢制限がかかる可能性もあります。)
そのため、宗教的な話題に対して不快感を感じる可能性のある人は、以下の文章を読まないようにしてください。

 

イルダさんの挨拶回り

 

私はイルダ・リンカーン、秘密結社で非常勤「ハンター」として働いています。

私をこの世界に呼び出した存在でもある真城華代により、不随意に変身させられてしまった人を元に戻すのが基本的な仕事です。

私の場合、入田利康さんとしての生活もしなければならないので、毎回出動できるわけではないのですが…

さて、今回の仕事は何でしょうか…

 

―初日―

 

 49号「挨拶回り、ですか。」

  ボス「うむ、新人の君には速く組織になじんでもらう必要がある。このハンター一覧を見て、順番に挨拶をしていきなさい。」

 49号「分かりました、それでは失礼します。」

 

挨拶回り1人目:ハンター1号の場合

 

 49号「ハンター1号、半田 苺さんですね。

     はじめまして、ハンター49号、イルダ・リンカーンと申します。」

  1号「ああ、俺のことはいちごと呼んでくれ。」

 49号「俺という呼称を使うなんて、やはりあなたの心は殿方なのですね。そうなのでしたら、まずは外見から男らしくしないと。…ほら、三つ揃いがとてもお似合いです。」

  1号「そ、そうか?」

 

この1時間後、皆に「宝塚の男役」と囃されたいちごは引き篭もることになる。

 

挨拶回り2人目:(元)ハンター2号の場合

 

 49号「はじめまして、ハンター49号、イルダ・リンカーンと申します。お困りのことがありましたら、できる限りでお手伝いいたします。」

 元2号「早速で申し訳ないのですが、うちの子供たちの面倒を少し見てもらえないでしょうか。1時間ほど出かける間だけでいいので。」

 49号「分かりました。

     …みんな、何をする?」

子ども達「おはなし、して!」

 49号「じゃあ、『聖書』という本に書いてあるお話をしますね。」

 

 49号「…そして、生贄を乗せる台の上に息子イサクを乗せて、アブラハムお父さんは包丁を振り上げた!」

子ども達「うわーん。」

 49号「…怖かった? じゃあ、別のお話をしましょう。」

 

 49号「…そして、手足に釘が打ち込まれて十字架にはりつけられたの。」

子ども達「えーんえーん。」

 49号「…怖かった? じゃあ、別のお話、そう、シンデレラにしましょう。」

 

 49号「『シンデレラや、カボチャを持ってきておくれ。』

     …朱雀くんもカボチャを持ってきてくれるかな?」

  朱雀「持ってきたけど、どうするの?」

 49号「『馬車になれ!』、ほうら、馬車が用意できましたよ。」

  朱雀「おばちゃん、すごい! 本当にカボチャが馬車になった!」

 49号「私も魔法使いの端くれ、これくらいはできるわ。

     (…子どもへの布教なら、こんなものね。)」

 

注:1つ目の話は「創世記22章」、2つ目の話は「ルカによる福音書23章」です。

 

挨拶回り3人目:ハンター3号の場合

 

 49号「…はじめまして、ハンター49号、イルダ・リンカーンと申します。あ、マスターさん、ダークスタウトとフィッシュ&チップスを2つづつ。」

  3号「新入りにいきなり奢られるような筋合いはないわね。     くすぐってやろうか?」

 49号「…そんなことをしたらどうなるかわかっていますか?」

 

1分後、珊瑚はバーを飛び出し、そのまま行方不明となる。

 

挨拶回り4人目:ハンター5号の場合

 

 49号「…何かお困りのことは?」

  5号「うーん、困っているという訳じゃないけど、一度いちごになってみたかったんだ。」

 49号「…ハンター1号さんのことですか? 一時的にならできますが。それ!」

  5号「お、おお〜!」

 

ゴスッ

 

 49号「…なによ、あの変態。」

 

6時間後、五代秀作が血を吐いて倒れているのが発見された。

 

挨拶回り7人目:ハンター10号の場合

 

 49号「はじめまして、ハンター49号、イルダ・リンカーンと申します。」

 10号「そうか。ハンター10号、半田燈子だ。

     …これからドライブに行くんだが、一緒に乗るか?」

 

 49号「(は、吐きそう…。何とかしないと…)」

 10号「…何だ!? 車が宙に浮いた?」

 49号「…ありがとう、ございました。今度は、私が、空の旅を、ご提供しましょう。」

 10号「うわあぁぁぁぁ!!!!」

 

2時間後、空中での急加速、急停止に着いていけなかった半田燈子は、荷物をまとめて修行の旅に出た。

 

今日はここまでですね。

ハンターは100号までいるそうなので、先は長いです、がんばりましょう。

 

―2日目―

 

 49号「今日も挨拶回りの続きですね。」

 

挨拶回り8、9人目:ハンター14号とハンター31号の場合

 

 49号「はじめまして、ハンター49号、イルダ・リンカーンと申します…」

 31号「なぜ目をそらすのですか?」

 49号「ごめんなさい、目のやり場に困ってしまったので。

     …あなたが悪いのではないですよ。

     あなたがそのような格好でも羞恥心を感じないプログラムを組んだ人が悪いのです。」

 

1時間後

 

 49号「はじめまして、ハンター49号、イルダ・リンカーンと申します。…あなたが美依さんの制作者ですね、あの子にどういうプログラムを仕込んだんですか!」

 14号「どういうことですか?」

 49号「美依さんがどんな格好で街中を歩き回っているかご存じないのですか!」

 

その日から3日間、恭介は美依の精密検査を続けたという。

 

挨拶回り10人目:ハンター17号の場合

 

 49号「こんにちは。イルダ・リンカーンです…!」

 17号「あれ、何で刺さらないんだろ?」

 

ボンッ

 

 49号「…鋼鉄製のコルセットがなかったら、殺されていたわね。」

 

3時間後、伊奈は全身に大火傷を負った状態で発見された。

 

挨拶回り11、12人目:ハンター19号とハンター20号の場合

 

 49号「…これは困りましたね、相手はシスターではないですか。」

 20号「お姉ちゃん、どうしたの?」

 49号「ええと、ジオーネちゃんだっけ…

     そうだ! ジオーネちゃん、モニカさんにちょっと悪戯をしたいんだけど…」

 

10分後

 

 49号「こんにちは…あら、踏絵の最中、失礼しました。」

 19号「え、あわわ…!」

 49号「大丈夫ですよ、私もクリスチャンではないので。(踏み踏み)

     …え、じゃああそこの逆さの十字架は何なのですか?」

 19号「…!」

 

 20号「面白かったね。」

 49号「ありがとうね、ジオーネちゃん。

     お礼に…『精霊さん、力を貸して』。

     …精霊さん、この子としばらく遊んでやってくださいな。」

 20号「お姉ちゃん、ありがとう!」

 

1時間後、打ちひしがれた郁美と精霊が帰ってしまって自棄になったジオーネが残された。

 

挨拶回り13、14、15人目:ハンター23号とハンター24号、ハンター27号の場合

 

 49号「ええと、この人たちは至って平凡な人たちなのですね…

     そうです! 平凡ならばこれができます!」

 

 49号「はじめまして、ハンター49号、イルダ・リンカーンと申します。私の特技は魔法とダーツ、クルーザーの扱いなのですが、あなたたちの特技は何ですか?」

 

「平凡でないこと」を訊かれた事に嬉々として自分の特技を紹介する3人、黙々とメモを取るイルダ。

 

30分後

 

 49号「…元が平凡だから、平均値にちょっと特技を足すだけで簡単にキャラクターシートが埋まるわ。

     試してみましょう…3人とも完璧ね。」

23号達「…!」

 

イルダの言葉を盗み聞いてしまった3人は、この後3日間に渡って引き篭もることになる。

 

注:イルダ・リンカーンは、半田未来と同じく他人に変身する(ただし個人能力は変化しません。)ことができます。ただし、そのためには相手の能力を全て記録した紙(キャラクターシート)が必要になります。

 

挨拶回り16人目:ハンター28号の場合

 

 49号「はじめまして、ハンター49号、イルダ・リンカーンと申します。」

 28号「私、双葉。半田双葉よ、よろしくね♪

     そうそう、丁度ケーキ作ったんだけど、食べる?」

 49号「そうですか、それではご相伴に与らせてもらいます。」

 

 49号「(普通のケーキだと思っていたら…これは不意を打たれたわ。)…双葉さん、これは砂糖の使い方が絶対的に間違っていると思うのですが。」

 28号「そう? このくらいの甘さでいいと思うけど。」

 49号「ウェディングケーキは、完全に砂糖の層で包んで固く作らないと腐ってしまいます。砂糖を使うべきは内側ではなく外側です。

     あと、生地にはブランディーを入れるべきでしょうね。」

 28号「これ、ショートケーキなんだけど…」

 49号「だとしたら、生地の作り方が根本から間違っていると言わざるを得ませんね。」

 

1時間後、喫茶店で1人「2.8kgパフェ」を食べる双葉の姿が目撃された。

 

注:イルダ・リンカーンのケーキの認識は一般的な感覚とずれています。

ウェディングケーキ:最上段を最初に子どもが生まれたときに食べるため、とにかく甘くして保存が利くようにしたケーキ。

ショートケーキ:ビスケット台を基本とした、サクサクしたケーキ。

 

挨拶回り17、18、19人目:ハンター30号の場合

 

 49号「双葉さんのところで長居をしすぎてしまいました。

     今日はもっと回る予定だったのに…」

 

 49号「はじめまして、ハンター49号、イルダ・リンカーンと申します。

     以後、よろしくお願いします。」

半田美央「俺が半田美央だ、よろしくな。で…」

 49号「他のハンターの人にも挨拶をしないといけないので、これで失礼します。」

半田美央「あ…行っちまった。」

半田美登「おーい、美央。どうしたの?」

半田美央「新人のハンターが挨拶に来たんだが、俺にだけ挨拶して帰っちまった。」

半田美玲「私たち、3人で1組なんですけどね…」

 

挨拶回り20人目:ハンター35号の場合

 

 49号「この辺りに35号さんがいるはずなのですが…

     あれは…悪霊!?」

 35号「しまった、逃げられた!

     おい、伏せろ、危ないぞ! …悪霊が祓われた!?」

 49号「はじめまして、ハンター49号、イルダ・リンカーンと申します。

     お取り込み中、失礼しました。」

 35号「ハンター35号、半田みこです。

     …あなたにも除霊能力があるのですね。

     しかも私のものとはやり方が違う。」

 49号「私とて魔女(ウィッカ)の端くれ、この程度はできて当然です。

     ところで、私の能力とあなたの能力は違う、とおっしゃっていたのですが、

     気になりますね。

     ちょうど夕食の時間帯ですし、レストランでゆっくりお話でもしませんか?」

 

この日の夜、みことイルダが組織の近くのファミリーレストランで語り合っているのが目撃されている。

 

ハンターって、登録されていても会えない人が多いのですね。

この調子なら、挨拶回りも早く終わるでしょう。

…あ、PCRの結果解析を忘れていました!

明日からは入田利康さんになって2、3日研究室に篭もる必要がありますね。

 

注:PCR…試料として入れた遺伝子と同じ遺伝子を大量に作る機械。遺伝子の解析には絶対必須となる。

 

―3日目―

 

 49号「あれから1週間以上経ってしまいました。

     メモは…組織のハンターへの挨拶回り、35号まで終わる、でしたか。

     次は39号さんですね。」

 

挨拶回り21、22人目:ハンター39号とハンター63号の場合

 

 49号「ええと、この辺りですね…

     あ、あれは!」

 63号「何だ!?」

 49号「問答無用! 『深層心理探査』『連結』『白昼夢』『悪夢』!」

 39号「ええと、ハンター49号、イルダ・リンカーン君だったかな。」

 49号「あ、はい。

     そういうあなたはハンター39号、半田未来さんですね、はじめまして。」

 39号「君は何をしたのかな?」

 49号「真城華代に、本人が考えうる限りの悪夢を見させています。

    辱められたことへの仕返しです。」

 39号「あー、ここにいるのは真城華代じゃなくてハンター63号、半田睦美君だから。」

 49号「え…!? 大変! 魔法を解除しないと!」

 

時既に遅く、睦美は6日の間再起不能に陥った。

 

注:イルダ・リンカーンは、「ガープス ハンター・シリーズ ?版」のサンプルシナリオ「ロールプレイ」で真城華代に恥ずかしい思いをさせられています。

 

挨拶回り23人目:ハンター44号の場合

 

 49号「こんにちは、ハンター49号、イルダ・リンカーンと申します。

     ハンター44号、宍戸祢子さんですね。」

 44号「違う! 魂の名前、獅子村嵐こそがこのあたしのトゥルー・ネェィム!」

 49号「え!? 真の名を教えてくださるのですか!?

     少し試させてもらいますね。『伏せ』『お手』『おかわり』。

     …すごい、本当に真の名ですね。」

 44号「あたしは犬ではなーい!」

 

その後、イルダ・リンカーンと別れてから、44号はいつもに増して暴走したそうだ。

 

注:真の名(トゥルー・ネーム)…その人物の存在そのものに直結している名前。相手

の真の名を知っている場合、魔法で影響を与えることが非常に簡単になる。そのため、

自分の真の名を知っていても他人には普通教えない。

 

追記:44号の嗜め役が欲しい場合、イルダ・リンカーンを使ってください。ただし、彼女が魔法を使うのは最後の手段です。また、イルダ・リンカーンの魔法は44号(イルダ・リンカーンは「レオネルさん」と呼びます。)には強力にはたらきます。(例えば、筋力を1.5倍にしたり走る速度を2倍にしたりすることも簡単にできます。)

 

挨拶回り25人目:ハンター55号の場合

 

 49号「はじめまして、ハンター49号、イルダ・リンカーンと申します。

     あなたがハンター55号、半田ここさんですか?」

 55号「Yes I am! チッ♪ チッ♪」  

 49号「英語で答えたと言うことは…。英語で話したほうが判りやすいのですか?」

 55号「Exactly.(そのとおりでございます)」 

(以下英語)

 49号「「無実」で投獄されたなんて…服役生活はつらくないですか?」

 55号「Yes! Yes! Yes! Yes! Yes! (つらい)」 

 49号「模範的に振舞って、早く釈放されようとは思わないのですか?」

 55号「No! No! No! No! No! (思わない)」 

 49号「あなたは罪を犯してないわけですし、私の魔法で釈放されるようにしましょうか?」

 55号「No! No! No! No! No! (必要ない)」 

 49号「では何か、この刑務所の中に居たくなるような理由があるのですか?」

 55号「Yes! Yes! Yes! Yes! Yes! (ある)」 

 49号「まさか、この刑務所の中に好きな方が居られるのですか?」

 55号「Yes! Yes! Yes! (居る)」 

 49号「Oh my god! (…女性同士で!?)」 

 

1時間後、ハンター組織内で5号からもらったいちごのデータベースを基に、いちごの

キャラクターシートを書いているイルダ・リンカーンが目撃されている。

 

注:会話は英語なので、「Yes」は肯定文、「No」は否定文に対応しています。また「キャラクターシート(シナリオ)を書く」というのは、いちごの「引き篭もり」と同様の意味を持つ行為です。

 

挨拶回り26人目:ハンター64号の場合

 

 49号「…思わぬ時間をとってしまいました。

     次は…これは危険ですね、入田利康さんになって行きましょう。」

 

入田利康「俺がハンター49号の別形態、入田利康だ。」

 64号「ドフッ、何で別形態なんだ!」

入田利康「あんたが腐れマンチキンという話を聞いたのでな。」

 64号「『腐れ』はともかく、『マンチキン』は撤回しろ!」

入田利康「そうか、お前はマンチキンではないのか。

     …では、ジェイン・オースティン原作の『エマ』は知っているか?」

 64号「もちろんだ! OVAを含め、DVDは全巻持っているぞ!」

入田利康「そうか、では『エマRPG』についてじっくりと語ろうではないかね。」

 

1時間後

 

 64号「本当に失礼致しました!! 『師匠』と呼ばせてください!」

入田利康「ただ漫然と眺めているだけでは『エマ』は極められない。

     実際に登場人物の振舞いを実践してこそ見えてくるものがあるんだ。」

 

入田利康「…話を『エマRPG』に絞らせ、イルダ・リンカーンの持つ19世紀イギリスの常識を駆使したから『勝てた』ものの、そうでなかったら完全に負けていたな。64号、恐ろしい奴よ…」

 

挨拶回り27人目:ハンター77号の場合

 

 49号「はじめまして、ハンター49号、イルダ・リンカーンと申します。」

 77号「はじめまして、なずなさん、イルダです。」

 49号「…!?」

 77号「ごめんなさい、間違えました。なずなです。(突然派手に転ぶ)」

 49号「大丈夫ですか?

     …よく転ぶのでしたら、スカートの丈を長くして、ドロワーズなどの下着もしっかりしないと。」

 77号「でも、あたしの場合、スカートの丈が長いとどこかに引っ掛けて破いてしまうので、余計に恥ずかしいことになるんですよ。」

 49号「…」

 

挨拶回り28人目:ハンター86号の場合

 

 49号「はじめまして、ハンター49号、イルダ・リンカーンと申します。

     ハンター86号、山本春さんですね。」

 86号「はい。どうぞ『はるさん』とおよびください。

     いるださんですね、よろしくお願いします。」

 49号「…ところで、私も一応医師の資格を持っているので判るのですが、あれは麻酔用の粉ですね。

     麻酔科の医師たるもの、麻酔はちゃんと保管しておかないとだめですよ。」

 86号「…え、ええ、そうですね。」

 

ぷすっ

 

注:イルダ・リンカーンには、「麻薬は悪い」という道徳的観念がありません。(「法律で禁止されているから、不法に所持するのは悪い」という観念はあります。)

 

挨拶回り29人目:ハンター87号の場合

 

 49号「…ええと、何をしていたのでしたっけ?

     そうです、挨拶回りです。

     …メモには86号さんにまで会った印がついていますから、次は87号さんですね。」

 

 49号「はじめまして、ハンター49号、イルダ・リンカーンと申します。」

 87号「(聞いていない)」

 49号「もしもし、新しく入ったハンターの、イルダ・リンカーンです。」

 87号「あ、今日から新しく入った事務員の人ですか。

     じゃあ、早速この帳簿のチェックをお願いします。」

 49号「あの…

     仕方ないですね、「会計」技能つきで『自動化』!」

 

挨拶回り30人目:ハンター96号の場合

 

 49号「はじめまして…って、誰もいませんね。

     まさか…『不可視看破』。」

 96号「私の存在に、気がついたようですね。

     しかし『不可視看破』とは。冗談も程々にしてください。

     私は不可視ではありませんよ。」

 49号「…! ごめんなさい! これからはあなたが見えても見えないように、あなたに声をかけられても聞こえないように振舞いますから、許してください!」

 96号「そこまで言ったつもりはないのに…」

 

挨拶回り31人目:ハンター97号の場合

 

 49号「はじめまして、ハンター49号、イルダ・リンカーンと申します。」

 97号「いや…血はいやああぁぁ!!」

 49号「…え? グッ!」

 17号「わー、赤くてとっても綺麗。

     恭介お兄ちゃんのナイフ、よく切れるや。」

 49号「…はぁ、はぁ。

     (回復するか無力化するか。この状況では両方はできないわね…)」

 17号「もっと綺麗なの見せてー。」

 49号「…! 『傷移動』!

     …あれを思いついていなかったら、殺されていたわね。」

 97号「いや、いや…いやああぁぁ!!」

 49号「97号さん、大丈夫ですか!?」

 

この日、伊奈は全治3週間の肉体ダメージを、空奈は全治3週間の精神ダメージを受けた。

 

挨拶回り32人目:ハンター100号の場合

 

 49号「はじめまして、ハンター49号、イルダ・リンカーンと申します。」

100号「…悪いが、患者が来たようだ。」

 

担架に乗せられて運び込まれる五代秀作。いちごに半殺しにされたらしい。

 

 49号「この人の場合自業自得だと思うのですが…」

100号「まずいな。全身複雑骨折のうえ内臓破裂か。」

 49号「それは何とかしないと! 『完全回復』!」

  5号「う…ん。ここは?

     …まずい! 100号の治療で貯金が底をつく!」

 49号「いえ、私が治療したので、後で10ペンスだけいただきます。」

  5号「ありがとう! 君は天使だ!」

100号「…君にも治癒能力があるのか。商売上がったりだな。」

 49号「でも私には内臓破裂を治すのが精一杯です。あなたにも治癒能力があるので

     したら、後の骨折の治療はお願いします。」

100号「そうか、じゃあ後は私がやるから君は帰って休んでくれ。

     …さて五代君、君は全身を複雑骨折しているのだが、どこを治すかね?骨折1箇所につき治療代100万円だ。」

 

やれやれ、やっと挨拶回りが終わりました。

今日はもう遅いですし、報告は明日にしましょう。

 

―4日目―

 

  ボス「…これが君の部屋の鍵だ。君がここで暮らすための準備は全て整えてある。これらが君の身分証明証や免許証、銀行の通帳だ。これまでの給与は既に振り込んである。」

 49号「ええと…日本円が良く分からないのですが、英国ポンドでいくらですか?」

  ボス「大体でよければ、200で割ればポンドになる。」

 49号「非常勤でこんなに!? ありがとうございます!」

  ボス「ところで、挨拶回りはどうなった?」

 49号「ハンター100号まで無事終了致しました。」

  ボス「…言い忘れていたのだが、この組織にはハンター以外にも様々な人がいる。

     ここに纏めておいたから、この人たちにも挨拶をしてきなさい。」

 49号「分かりました、それでは失礼します。」

 

挨拶回り33人目:柚木陽介の場合

 

 49号「…! きゃああぁぁ!! 痴漢ですうぅ!! (逃げ出す)」

  1号「成敗! …って柚木さんじゃないですか。」

柚木陽介「ゲホッ、何でおれが痴漢呼ばわりされなきゃならんのだ。」

  1号「…柚木さん、ファスナーが開きっぱなしです。」

 

挨拶回り34人目:ガイスト☆レッツの場合

 

ガイスト「偽名を使うとは許し難し、成敗するっ!」

 44号「魂の名前、獅子村嵐は絶対に外せない!」

 49号「はじめまして、ハンター49号、イルダ・リンカーンと申します。2人とも、どうなさいました?」

ガイスト「44号、貴様を打ち倒し、「獅子村嵐」の名を2度と使えないようにしてくれる!」

 49号「何ですって!? レオネルさん、『馬鹿力』『機動力倍化』!

     これで相手を打ち倒してください!」

 44号「恩に着る! ヘェルッ! アンドッ! ヘヴンッ!!

     …ありがとう、助かったよ。」

 49号「いえ、どういたしまして。

     (…せっかく知った真の名が使えなくなるのは困りますからね。)」

 

挨拶回り35、36人目:水野真澄と沢田愛の場合

 

 49号「この人たちは…一般職員なのですね。

     女性になったハンターの「先輩」になっていると言うことですが…」

 

 49号「はじめまして、ハンター49号、イルダ・リンカーンと申します。」

水野真澄「あら、新しい娘ね、はじめまして。私が水野真澄で、こっちが沢田愛。よろしくね。」

 沢田愛「…凄いじゃない、いい服のセンスしてるわ。ただ、ちょっとスカート丈が長すぎるかな。あと、女の子なんだから、お化粧はちゃんとしないと。」

 49号「…あなたたちが娼婦のように殿方の劣情を煽る格好をなさることに関しては何も言いません。

     ただ、そのような破廉恥な行為を他人に強請するのはやめてください。」

 

次の日から、水野真澄と沢田愛は長期休暇を取った。

 

挨拶回り38人目:浅葱千景の場合

 

 49号「はじめまして、ハンター49号、イルダ・リンカーンと申します。」

浅葱千景「すまないが、今君に出す「きみしぐれ」を蒸しているので手が離せない。」

 49号「お菓子ですか。では、ちょっと失礼して…私がお茶を淹れましょう。」

 

浅葱千景「…で、なんで緑茶がこのような形で出てくるか、なのだが。」

 49号「あ、牛乳で淹れた方がよかったですか?」

浅葱千景「私が言いたいのは、なぜ紅茶用のティーセットで緑茶を淹れるのか、ということです。」

 

挨拶回り39人目:黄路疾風の場合

 

 49号「はじめまして、ハンター49号、イルダ・リンカーンと申します。お困りのことがありましたら、できる限りでお手伝いいたします。」

黄路疾風「困ったことか…浅葱千景に対抗できるよう、胸をもっと大きくしたいな。」

 49号「つまり、メリハリのある体形になりたい、ということですね。…では、コルセットでウエストを締めればいいでしょう。…そう、これをこうして…それ!」

黄路疾風「#$@%&〜!!!」

 

挨拶回り40人目:半田ケイの場合

 

 49号「次が終われば本当に挨拶回りは終わりですね。

     挨拶回りが終わったら、使用人を雇って新しい生活の準備をしましょう。」

 

 49号「はじめまして、ハンター49号、イルダ・リンカーンと申します。」

  ケイ「ハンターになれなくて求職中の居候、半田ケイだ。」

 49号「求職中ですか…そうだ! あなた、私のところで雑役女中をしませんか?

     給金は…大奮発して3000円でどうでしょう?」

  ケイ「それは時給か?」

 49号「ご冗談を。年俸に決まってるじゃないですか。」

 

注:イルダ・リンカーン(ヴィクトリア朝)の感覚では、労働者の賃金を基準に考えると1ポンド≒30万円となりますが、現代の為替では1ポンド≒200円です。(イルダ・リンカーンは使用人の年俸に15ポンド≒450万円を想定していたわけです。)

 

これで本当に挨拶回りは終わりですね。

私自身の生活のめども立ちましたし、やっと少し落ち着けそうです。

ただ、給料をもっと上げて貰えないと、使用人が雇えません。困ったことです。