「華代ちゃんシリーズ」



「華代ちゃんシリーズ・番外編」
「ハンターシリーズ」
「いちごちゃんシリーズ」

作・真城 悠

ハンターシリーズ90
『アイデンティティーの問題』
作・yuk

「ボス! なぜかものすごい久々な気がしますが華代による性転換事件が発生しました!」

部下Aがあわててボスの部屋に駆け込んできた。

「何だと!? 部下A、なぜかものすごい久々な気がするが、詳細を説明しろ!」

まじめな顔でボスがたずねる。

「少女服のデザイナーがモデルがほしいといったところ……」

「自らを少女にされたか……よし、なぜかものすごい久々な気がするが、ミッションだ。誰かいるか?」

「だめみたいです、みんな正月ボケしてます。」

「なんだと!? ここは職場だというのに! たるんでるんじゃないか!?」

「ボスほどではないでしょう。」

ボスの部屋には、カルタや独楽、凧に羽子板とさまざまなおもちゃが散乱していた。

そしてボス自身はみかんが上に乗ったコタツの中で精一杯まじめな顔を作っていた。

「だって、ニコちゃんと一緒に遊びたかったんだモン。」

「ほらほら、いい大人がだってとかモンとか言わない。さっさとコタツから出てきてください。」

しぶしぶコタツから出るボス

「で、本当に誰も使えるやつはいないのか?」

「見渡した限りでは。」

「それなら」

そのとき、部下Aの後ろ、入り口のほうから声をかけられた。

「おお! はるじゃないか。お前が行ってくれるのか?」

そこにいたのは春だった。

「お前が行ってくれるなら安心なんだが……」

「すいません、首領さん。私はお店の方が忙しいので出られません。」

「そうか……」

目に見えて落胆するボス

「でも、私の弟子を貸し出しましょうと思ったのですが。」

「弟子?」

「はい。まだ若いですが私がじきじきに鍛えましたからそれなりには使えるはずです。」

「それは心強い。頼んでいいか?」

「解りました。一郎、二郎いらっしゃい。」

「「はい!」」

どこからともなく一瞬で二人のよく似た侍風の少女らしき人間が現れた。

「俺は畑江 一郎だ。よろしくたのむ。」

「畑江 二郎、参上しました。」

二人は中途半端な武士口調で自己紹介した。

「この子達は双子なのです。」

「ほう。一郎、二郎と聞いて男かと思ったが女か。」

「俺は男児だ!」

「俺も男です!」

ボスの一言にものすごい勢いで食って掛かる一郎と二郎。

「そ……そうか、すまん。」

あまりの勢いにたじたじになるボス。

「すいませんね。この子達、女顔を気にしてるみたいなんですよ。」

「それは、すまなかった。よし、では君達をハンター16号、26号に任命する。よろしく頼んだ。」

「拝命仕った。」

「承りました。」

「頑張ってくるのですよ。」

一郎と二郎はボスの部屋から一瞬で姿を消した。

「なるほど、春が育てただけあってなかなかすごいじゃないか。」

「ひとつだけ、心配事があるのですが……」

「心配事?」

「あの子達、いろいろほかの方達とかぶってるんですよ。」

 

ミッションへ向かう途中、二郎は一郎にたずねた。

「ねぇ、兄上。」

「なんだ?」

「俺達って双子ですよね。」

「ああ。そうだ。」

「このはんたぁ組織には確か三つ子もいたらしいですよね。」

「そうだな。」

「それって俺達はその二番煎じってことでしょう? しかも一人分お得感がすくない。」

「まぁ、そうなんだろうな。」

「それでは愛電停とかいうものが確立できないではないじゃないですか。」

「アイデンティティーか。」

「そう。それです。」

ちなみに二郎は片仮名ことばがつかえない。その辺も春にかぶってたりする。

「しかも俺達は俺達の中のみでもいろいろかぶってるじゃないですか。」

「そんなのその30号のほうでも同じじゃないか。」

「あっちはそれでもそれぞれ一人称からしてばらばらだけど俺達は一人称から《俺》で同じじゃないですか。」

「まぁ、そうかもしれんな。」

「ところで、話は変わりますが、まだ目的地につかないんですか?」

「……俺の魔眼からするとそろそろ着くはずなんだが……なぜか離れてる気がする。」

一郎は、右目が七号のように魔眼なのに17号なみに方向感覚がない。……かぶってる。

「……そんな無駄な能力なら封印してあげましょうか?」

二郎は12号のように他人の能力を1つ封印できる。……やっぱかぶってる。

「と、とにかく急ごう。目的地はここから東だ!」

「兄上、そちらは西南西です。」

 

ようやくのことで目的地についた二人は被害者を元に戻した。

「これで任務は終わりだな。……む? 俺の魔眼が近くに華代がいると告げている……」

「では、そちらのほうも対処したほうがいいですね。」

「ここからむこうのほう。南に1キロくらいだ。」

「兄上、そっちは北北西です。」

「……とにかく! 急いで真城華代を捕まえるんだ。」

「解りました!」

二人が勢い込んで出発しようとしたとき

「ちょっと待った!」

後ろからつかまり一郎は派手にこけた。

そこには今回の被害者である少女服デザイナーのおっさんがいた。

そうとう汚いオッサンなのでモデルになってくれる人がいないのもうなずける。

「なんだ? いきなり?」

「モデルがいなくて困ってたんだよ。ちょっとモデルやってくれよ。」

「俺は男児だ!!!」

「え? ……それでもいい! きみにインスピレーションを感じた!」

「あ? え? ぎゃ〜〜」

むりやり連行される一郎

「兄上……達者で暮らしてくださいよ。」

「ちょっおまえまでっ……」

哀れ一郎は連れて行かれてしまった。

「よし、俺は華代をさがしに行きましょう。」

あっさり兄を切り捨て二郎は華代探索にむかった。

 

「兄上の言うとうりだとするとこの辺だと思いますが……それにしても、本当に俺達はほかの人達とかぶってる。

せめて兄上と俺との違いくらいはわかるようにしたいものですが……」

「お姉ちゃん何かお困りですか?」

そのときいきなり後ろから声をかけられた。どうやら少女のようだ。

「俺は男です! ってあなたどなたですか?」

「あ、すいませんお兄ちゃん。私はこういうものです。」

少女は手に名刺を持っていた。その名刺には

『ココロとカラダの悩み、お受けいたします マシロ カヨ』

と書かれていた。

「皆さん私の名前を間違えるのでカタカナにしてみました。」

しかし、二郎は片仮名が読めない。

「え、とそれで君は何なのかな?」

「はい! 私は皆さんのお悩みを解決しているのです。お金なんていりませんよ?」

「そうなんだ。実は……」

二郎は決してやってはいけないこと、つまり華代への相談をしてしまった。

「俺は兄といろいろな面でかぶってる……つまり同じなんだ。」

「はい。」

「そこで、せめて兄とちがうところを増やしたいんだ。」

「なるほど。解りました! では……えい!」

華代が気合を入れると二郎の体は男から女へ変わっていった。

それに伴いその服もかわいいものに変化していった。

「え? この力って? まさか……華代!?」

「はい。そうですよ。名刺渡したじゃないですか?」

二郎は兄と違うところがほしい、といったばかりに女性にされてしまった。

「やはり男性と女性というものは決定的に違いますからね。」

しかし……もともと美少女顔だったため顔はそのままだ。

性別が変わっても元の姿とあまり変わらない。96号とかぶってるが……まぁ、目立たないしいいか。

「ってこれじゃあまり意味がないよ!」

「それでは、またのご利用をお待ちしています。」

華代はやっぱり人の話を聞かずにどこかにいってしまった。

「おい! 二郎!」

そこに変なオッサンデザイナーに連行されたはずの兄がやってきた。ものすごくかわいい格好で。

「あ……兄上……俺、華代に女に変えられたみたいです……」

「……そうか……とりあえず戻ろう。ミッションは成功している。」

「はい。」

 

「で、その後一郎と二郎はどうなった?」

「はい。一郎はいちごのように部屋に引きこもってます。」

「かぶってるな……理由は?」

「一郎が着せられた服が巷で大ブレークしているからです。」

「そうか……二郎は?」

「二郎ははるさんのお店でやけ食いをしているようです。」

「こっちは双葉とかぶってる……どこまで行ってもかぶってるな。」

 

「ぱふぇのお代わりください!」

「あらあら。二郎……もう二郎では変ですね。では、散(ちる)にしましょうか。

散、もうそろそろやめなさい。」

「これがどうして食べないでいられるというのですか?」

「いえ、そうではなく……双葉さんの分がなくなるとあとでひどいことになるんです。」