「華代ちゃんシリーズ」



「華代ちゃんシリーズ・番外編」
「ハンターシリーズ」
「いちごちゃんシリーズ」

作・真城 悠

 西暦200X年。

 突如、巨大怪獣「ジゴラ」が太古の眠りから目覚めた。

 蹂躙され、瓦礫の山と化していくビル街。その上、ジゴラが口から吐く怪光線は、逃げ惑う人々を、次々と性転換させる。

 このままでは、日本中の性別が逆転してしまう。

 そこで政府は、性転換事情のスペシャリスト「ハンター」に出動命令を与えた。

 しかし。

 

 

 ここは、ハンター総指令室。

 ドアを開けると、客用のソファーが向かい合っている。正面には、大きなボス専用の席が。

 

 ドン!!

 

 鈍い音が、部屋中に響く。ボスが、机を思い切り叩いたのだ。

 「どういうことだ? 通信機器を使えない、テレビもつかない、電気もない」

 「オラ東京さ行くだ〜」

 「なんのこっちゃ!」

 

 薄暗い総指令室の中。ボスと部下Aの顔に、不気味な陰影が刻まれている。

 なぜ、電気をつけないのか? 理由は簡単。ジゴラのせいで、電気系統がストップしているからだ。

 

 部下Aは、ぽつりと呟く。

 「いちごを始めとしたハンター……ウキウキしていましたね」

 「怪獣を見られるからだろ」

 「いえ、男に戻れるからでしょう」

 「くそぉ……あいつらだけ、怪獣見れてぇ……」

 「聞いちゃいないな……」

 ギリギリと歯噛みし、眉間にしわを寄せるボス。部下Aは、それを呆れた表情で見ている。

 「ほら、ボス。電池式ラジオがあります。それで現場の状況を見ましょう」

 「やだいやだい! 直接見たいよお!」

 「ボスが動いたら、基地はどうなるんですか?」

 「ふーんだ!」

 ボスはいじけ、みかん箱の中に頭を突っ込む。入りきらない足が伸びている様子は、犬神家を連想させる。

 部下Aは、肩をすくめ、ラジオのスイッチをつけた。

 

 ザ……ザザッ……ザッ

 

 微かなノイズとともに、古ぼけた真空管ラジオは声を上げる。まるで、起き抜けの欠伸のように。

 

 「あ、ジゴラです!! ジゴラが現れました!!」

 

 切羽詰ったような、アナウンサーの声。これが、人類の命運と性別を賭けた戦いの、幕開けであった。


華代ちゃんシリーズ(番外編)

(ハンターシリーズ)

ジゴラがやってきた
流離太






 

 

 ご覧下さい、みなさん!

 見渡すところ、瓦礫、瓦礫、瓦礫の山!

 こわいですねぇ、おそろしいですねぇ。

 

 私は、本日が初仕事の「万条目健二」。

 目の前にいるのは、音響マンの「一平君」。私の幼馴染です。

 

 え、お前の紹介はいらない? ノリってやつだよ、ノリって。

 一平。今の部分はカットな。

 え、生放送?

 

 ……大変失礼をいたしました。初めてなものですから、ついうっかり。

 気を取り直し、サクサクッと進めていきましょう。

 

 

 なんて、言った途端!! う、うおおおお!!

 な、なんでしょう!? 突如、大地を揺るがす地響きが!! 日本沈没か!?

 これでは、まともに立っていることすらできません!!

 も、もしやこれは!?

 

 あ、ジゴラです!! ジゴラが現れました!!

 ビルの間から、顔をぬぅ――っと!!

 とてつもない威圧感です!! 0点のテストを見つけたおふくろ百人分!!

 それにしても、ジゴラなんていう安易なネーミングをつけたのは誰でしょう?

 え、触れちゃ駄目?

 ごめんなさい。

 

 

 えー、ジゴラの体長は高層ビルほど。

 姿は、ビニール風船のワニといったところ。非常に丸っこい体系をしております。

 目つきがふてくされた子どものように悪く、背びれは食パンを連ねたみたいです。

 

 描写が可愛すぎる?

 いやいや、俺は見たままを報告してるだけで。

 

 と、そんなやり取りをしている間に……ああ――っっ!!

 なんということでしょう、そんな馬鹿な!!

 いや、ありえないって、マジで!!

 あ、そういえばこれはラジオですね。つまり、これを聞いている方は、何が起きたか全くわからないということですか。

 羨ましいだろ! やーい!

 

 ……なんてのは冗談です。

 いや、本当に冗談だって。だから、クビにしないで。

 

 

 ただ今、目の前で起きた光景は、超常現象さながらです。

 ジゴラの光線を浴びた野郎はおにゃのこに。おにゃのこは野郎に。それぞれ性転換していきます。

 

 うっわ!! あっぶね!!

 

 いや!! え!! ちょ、もう少しで光線当たるところだったぞ!!

 女になるって、女に!! やだよ「美人キャスター万条目ちゃん」とかになったら!!

 いや、帰るわ!! 俺、帰るわ!!

 

 ……はい、駄目ですよね。お仕事がんばります。

 

 

 おおっとぉ!!

 我々が、内輪も……いえ、しばし目を離している間に、謎の集団が現われました!!

 ポニーテールの少女を先頭に、小学一年生くらいのうさ耳幼女など、とにかく列を成しています!!

 一体、なにをしようと……。

 

 まさか!!

 

 やめるんだ!! そっちに行ってはいけない!!

 そっちに行ったら、男に!!

 君たちのような可愛い娘が男になるなんて……。

 

 ああああああああああっっ!!!

 光線を、浴びてしまったあっ!!

 

 可憐な少女達が、次々とむさい野郎に変貌を遂げていきます!!

 悪夢です!! 目覚めたら、絶対ナイトメアが胸の上に圧し掛かってるぞ!!

 

 

 いや、本当に目の毒です。この光景は、虎馬となるでしょう。

 それにしても、我々に、やつを止めることはできるのでしょうか!?

 

 と、そこに!!

 颯爽と、自衛隊が現われました!!

 遅すぎる!! 遅すぎるぞ、税金泥棒!!

 

 ……なんてこと、全く考えてませんよ?

 いや、だから、砲塔を、こっちに向けないで……。

 

 

 さあ、偉そうに……じゃなくて、勇ましく登場した自衛隊!!

 がんばれ!! 負けるな!! そんなにボカスカ撃って、弾代がいくらになるかわからないけど!!

 

 ですが、怪獣映画のお約束は健全!! 蝿でも叩くかのように、戦闘機が潰されていきます!!

 ああっ!! ジゴラがキン○ョールを撒き散らした!! これはやりすぎです!!

 こんな舐めた相手に、我々は敗北してしまうのでしょうか!?

 

 

 おおっと!! そんな私の声に応えるかのごとく、何者かがジゴラの前に立ちはだかりました!!

 見たところ、女子高生ニ人組。顔立ちから言って、どうやら双子のようです!いいですね、姉妹丼。

 いえ、もう一人現われました! 三つ子だったようです。 どうやら、二人を止めに現れたようです。しかし、説得に応じず。

 あ、歌です! 歌を歌い始めました!! 双子だけあって、息がピッタリです!! おっと、三つ子でしたね。ごめんなさい。

 ところで、歌など歌ってどういうつもりでしょうか?

 

 ああっ!!

 ジゴラが、ジゴラが立ったぁ!! じゃなくて、ひざまずいたぁ!!

 なるほど!! ジゴラの感情を沈める作戦ですね!!

 そこで、待っていたかのように黒コートの少女が銃を向ける!! やれえ!! 一思いにやっちまえっ!! ゲハハハハハハ!!

 

 

 ……おや?

 どうしたことでしょう。少女が、銃を降ろします。 一体、何が……。はっ! ジゴラの様子がおかしいです!!

 あ!! よく見れば、目にうっすらと涙が浮かんでいます!!

 

 ……そうか。

 みなさん、思い出してください。

 ジゴラは、核実験の影響で生まれた怪獣です。本来は大人しく、友好的な生物だったのかもしれません。

 それが、人間のエゴで、あんなことに!!

 そう!! 彼も、被害者なわけです!!

 そんなやつを攻撃して、何が楽しいんだ!! 鬼!! 悪魔!! 作者の犬!!

 

 ……え? ジゴラは、別に核実験と何の関係もない? それに、適当なこと言っていいのか?

 いいんだよ。市民ってのは、こういうお涙頂戴話が好きだから。

 

 

 ああ! なぜ彼は人間に生まれなかったのでしょう!? ジゴラが、人間なら仲良くできたのに!!

 

 ……え? 「それがおじさんの願いですか?」って? 俺はおじさんじゃないよ。

 それはいいとして、誰君? あ、名刺。どうも。ええと、まじょう……

 ああっと!!  今、突如現われた白いワンピースの少女が、ジゴラに近づいていきます!! 外見から言って、小学生くらいです!!

 危ない!! 引き返せ!! しかし、少女に私の声は届かず!!

 

 おおっと!! 少女が両手を高らかに上げた!!

 三つ子や黒髪の女の子が逃げる逃げる!! 一体、なんなのでしょうか? このチキン女ども!!

 あ!! 白いワンピースを着た少女の体を、光が包み込んでいく!!

 いえ、少女の体だけではありません!! ジゴラや街さえも、白い光に支配されていきます!!

 

 わわっ!!?

 こっち来た!! こっちにも来ました!!

 

 い、一体!! 一体、なにがどうなっているんだぁぁぁぁぁぁぁぁ……

 

 

 

 

 

 ……

 ……

 ……――ん? お、俺……生きて、る?

 

 だはぁぁぁぁぁ……よかったぁ。

 全く、こんなところで死ねるかっての。

 いつの間にか、ジゴラも女の子も消えてるし、どうなってんだろな?

 あ――、なんか疲れたな。帰って寝るか。

 なんか、足下もスースーする……し?

 

 

 あれ?

 

 

 なんで、俺がスカート穿いてるの?

 それに、声もなんか変だし、胸だって……。

 

 え?

 

 えええええええええっ!?

 お、女になってる!?

 ちょ、どうして!? え、ジゴラが!? うそ、いや、わけわかんねえよ!!

 一平!! どこ行った!?

 

 え、ハーイって……あんた誰?

 一平!? うっそ!? お前も女に!!?

 ん? ここは危ないから、とりあえず安心なところに逃げよう?

 いや、そう言ってるお前の目が、なんだか危ないんだけど……

 って、ちょ!? なにするんだよ!? キャッ!!

 待て待て待て待て!! 俺たちは男同士で!! いや、今は女同士だけど!!

 いや、とにかく!! ま……あっ……はんっ! や、やめ……

 

 

 はぁ……はぁ……。い、以上、現場からお伝えしました……ゃんっ!

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 「やっほ――!」

 「ただいま帰りました」

 ボスの部屋を空け、三つ子が入ってくる。言わずもがな「美央」、「美怜」、「美登」のみそっ娘トリオだ。

 「お前らだけか?」

 部下Aは、怪訝そうな顔をする。

 「ああ、俺らと軌跡だけだ。いちご先輩達は、引きこもってる」

 「やはり、あの白服少女は真城華代?」

 「そう。巻き込まれたってわけさ」

 溜息を吐き、美央は応える。

 無理もない。せっかく、男に戻れたと思ったのに、また女になってしまったのだから。

 部下Aは、心の中で、密かに同情する。

 「で、軌跡はどこだ?」

 美央は、ドアの方を顎でしゃくる。

 そこには、部屋をじっと覗き込んでいる黒髪黒コートの少女が。「軌跡」だ。

 「なにをやっている?」

 「気にするな。性分だ」

 部下Aの言葉を意に介さず、抱いていた「なにか」を、美登に押し付ける軌跡。

 「わたしに子守は似合わない。任せる」

 ドアが、ガチャリと開く。軌跡は、長い髪とコートをなびかせながら、部屋を出た。

 廊下に、カツーンカツーンと、靴音だけが響き渡る。

 「相変わらず、無愛想なやつだ。それはともかくとして……」

 部下Aは、美登の腕の中に目をやる。そこには、三歳くらいの幼女がいた。

 大きな、黄昏色の瞳。への字に結ばれた口からチラッと見える八重歯。スカートや袖から伸びた、人形のような小さな手足。

 肩まである緑がかった髪は、スマイリーマークの髪飾りで、チョコンと留めてある。

 幼女は目つきをギョロつかせ、部下Aを睨んでいる。そして、大きく口を広げ……

 「しゃ――っ!」

 「わっ! こいつ、噛み付こうとしたぞ! これはなんだ!?」

 「子っども〜♪」

 美登は、すかさず答える。

 「いや、見ればわかるよ。どこから連れてきたって聞いてるんだよ」

 「ジゴラですよ」

 美怜が、間髪いれずに言う。

 部下Aは、目を見開く。よく見ると、子どものおしりから、緑のしっぽがピョコッと飛び出している。

 「も、もしかして……真城華代が!?」

 美怜は、こっくりとうなずく。

 「でしょうね。以前にも、似たような事例が報告されていますし」

 「まだ三歳くらいだったんだな、ジゴラ……だから子守唄が効いたのか」

 「まあ、あれほど大きな生物を人間にしましたからね。たぶん、巻き込まれた者も何名かいるでしょう」

 「落ち着いた時、また出動か……面倒くせえ」

 美央は肩をすくめ、溜息をつく。

 「うぅん……信じられん」

 額にしわを寄せ、腕組みをする部下A。そんな彼を、ジゴラは相変わらず睨んでいる。

 

 「……とりあえず、組織で預かる以外ないだろうな。どんな危険性を秘めているかわからん」

 部下Aは、三人に目を向ける。

 「ボスに代わり、お前たちをその子の世話係に任命する。なにかあった時は、得意の歌で黙らせろ」

 部下Aの言葉に、美央は慌てる。

 「ちょ、待ってくれよ! なんで俺たちが!?」

 「託児所に預けるわけにもいかないだろ? お前たちなら事情を知ってるし、いざとなったら例の歌で」

 「いや、オレ達だって『子守唄でも歌うか?』って、思いつきでやったことで」

 「適当だったんかい!!」

 「ごめんなさい。私は止めたんですが……」

 「あはは! ボクが提案したんだよ!」

 「でも、結果オーライだったよな? あれ意外に、手段なんか思いつかねえし」

 「まったく、あなた達はお気楽トンボなんだから……」

 溜息をつく美怜。ふと、美央は、思い立ったように辺りを見回す。

 「そういえば……ボスはどうしたんだよ?」

 美央の言葉に、ぴたりと動きを止める部下A。

 「いや、その……。ボスは、怪獣を、見れなかったと、言って……」

 苦笑を浮かべながら、途切れ途切れに語る。

 

 「引きこもっておられる」

 

 

 「う、うぅ……見たいよぉ。怪獣が見たいよぉ……」

 暗い部屋の中。ボスは体育座りしながら、肩を震わせていた。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 こんにちはんこ〜、流離太です♪

 メイデンズ連載が終わり、アホな話を考えてしまいましたです(−−;)

 おまけに、怪獣好きなボス、空気な三つ子と暗殺者、ジゴラ幼女体……これらキャラを制作した方々、まことにすみません(土下座)

 また、彼女らと作品をつむぎたいので、再びリベンジの機会を与えていただくと幸いです。

 

 

 さて、そんな彼女のデータです。

 

 

 名前:半田ニコ(25号)

 

 元怪獣少女。

 本人が願ったのかなんなのかわからないが、三歳くらいの幼女になってしまった。

 ボスの提案により、ハンターとして、組織に身をおくことになった。

 ニコという名前だが、いつも仏頂面をしており、滅多に笑わない。

 まだ言葉を覚えていなく、会話は「あー」、「うー」のみ。

 

 今のところ↓

 

 軌跡→水鉄砲からおいしい水飴をくれる人。

 三つ子、水野さん、沢田さん→遊び相手。

 部下A→攻撃対象?

 

 と考えている。

 

 詳しい能力は、調査中。

 実は、性転換能力は健在。

 

 

 では、また会いましょう♪