「華代ちゃんシリーズ」



「華代ちゃんシリーズ・番外編」
「ハンターシリーズ」
「いちごちゃんシリーズ」

作・真城 悠

 
祭囃子が聞こえる。
 あなたは音の方へと歩みだす。

 灯篭の明かりが見える。
 あなたは光の方へと首を伸ばす。

 ふと気がつけば。
 あなたは踊りの列に加わっている。



 ――Kayon Parden――

 


華代ちゃんシリーズ(番外編)
(ハンター・シリーズ94)
ゆきむしのう頃に 序章
 〜前夜祭編〜

流離太

 


 それは、丁度コートが手放せなくなった頃のお話です。

 季節は、もうすぐ冬。吐く息も、ホットミルクのように真っ白です。
 おや? 窓の外を、白いものがちらちらと舞っています。雪でしょうか?
 いいえ、雪虫ですね。
 雪が降る頃に現われる、冬の使い。これから、ますます寒くなりそうです。


 「雪虫……か。どうだ、今度の週末にでも、モツ鍋で一杯やらないか?」
 変わって、薄暗い部屋の中。黒いスーツに身を包んだ、背の高いおじさんが、窓の外に目をはせつつ言います。横に立ち尽くしている部下らしい人は、溜息を吐きました。
 「ボス……そんなことより、ハンターの方をどうにかしてください。みんな出払っていて、人手不足なんですよ!」

 ああ、おじさんは、ハンターのボスさんでしたか。漆黒の闇に生きるこの方達には、純白の雪なんて関係ありませんね。
 「一人もいないのか?」
 「はい、一人も。みんな、華代被害のために出払っています。本来仲間への処罰が目的の、ガイストさえ出動しています」
 「うぅん……今日は多いな。やはり、真城華代が増えているというのは、本当か」
 ボスさんは指を組み、天井を凝視しています。
 残っているとしたら、水野さんと沢田さんくらいですね。でも、あの人達に、能力はありません。
 ボスさんは、おもむろに立ち上がりました。と同時に、口を開きます。
 「よし、わしが行こう」
 部下Aさんは、一瞬、時が止まったような気がしました。
 「……は?」
 「だから、わしが行くんだよ。留守を頼む」
 ああ、なるほど。ボスさんも、ハンター能力を持っているんですね。
 ですが、部下Aさんは必死に反対します。
 「だ、駄目です! ボスが動いたら、どうなるんです!? 行くなら、私が行きます」
 まあ、確かにそうですね。ボスさんは、これをどう返すのでしょう?
 「お前、ハンター能力ないだろ。今のところなにもないし、お前は留守番していろ」
 ありゃ、これまた正論。部下Aさんはぐうの音も出ません。


 そんなこんなで、ボスさんは、仕事へと向かいました。
 華代ちゃんの被害に逢い、女の子になっていた人々。彼女らを、男に戻してしまいました。


 その帰り道。
 「あたたた……久しぶりに能力を使うと、腰に来るな……」
 あらあら、ボスさん腰を押さえています。大丈夫でしょうか?
 「はぁ、もうちょっと若ければなぁ」
 溜息を吐くボスさん。背中には、哀愁が漂っています。元気を出して欲しいものですね。

 と、その時。
 「それが、おじさんの願いなのですか?」
 鈴を転がすような可愛らしい声が、背後でしました。
 ボスさんは、ギクリとしました。悩み事を聞いてくる女の子といったら……もちろんあの娘ですよね?

 ――このままでは、女の子になってしまう。

 心臓が、ドッキンドッキンと高鳴ります。ボスさんは、勇気を持って、振り向きました。
 と同時に、拍子抜けしました。後ろにいたのが、華代ちゃんじゃないからです。
 見たところ、小学校中学年くらい。ふんわりと、背中まで流れる蒼い髪。しっとり濡れた、まんまるお目々。空色の、長袖ワンピース。スカートから伸びる足は、華奢で、ミゾレのように透き通っています。
 「初めまして、ボクはこういう者です」
 女の子は、不釣合いなほど大きな肩掛けバッグから、なにかを取り出します。それは、名刺でした。

 ――セールスレディー見習い 真城里華――

 「セールスレディー……見習い?」
 「はい、今日からお仕事スタートです。華代先輩の下で、りっぱなセールスレディーになるのですよ。にぱ―☆」
 里華ちゃんは、にこやかに笑います。やっぱり華代ちゃんの関係者ですか。
 ボスさんは「しまった」という顔をしています。危険が再びやってきたわけですからね。
 とにかく、さっきの呟きが、お願いと勘違いされているよう。これはまずい。急いで訂正しないと。
 ボスさんは、できるだけの笑顔を取り繕って、里華ちゃんに話しかけます。 本音を言うと、不審者に見えます。
 「あのねぇ、お穣ちゃん? おじさんは」
 「わかっていますのです。若返りたい。それがお願いなのですね?」
 「いや、だから」
 「お願いなのですね?」
 「その」
 「お願いなのですね?」
 あらあら。里華ちゃんは、全く話を聞きません。
 こうなったら……逃げるしかありませんね。ボスさんは、スタコラサッサと逃げていきます。
 「はぅ! ま、待ってくださぁい!」
 ボスさんの背中に、トタトタという足音と困ったような声が響きます。あらあら、肩にかけた大きな鞄がとっても重たそう。
 里華ちゃんは、離れていたら性転換能力が使えないようです。
 これはしめたもの。ボスさんは、安心しながら走り続けました。
 しかし。

 ひゅぅぅぅぅぅぅ……

 上空から、変な音がします。とんびかな? と、思ったのもつかの間。

 どっし――んっ!!!

 ボスさんの1センチ前に、電話ボックスが落ちてきました。危ないですねえ。もう少し前にいたら、潰れたピザのようになっていました。
 「は……え、あれ」
 ボスさんは、開いた口がふさがりません。よく見ると、電話ボックスは、根こそぎ引っこ抜かれたよう。一体、誰の仕業でしょう?
 背中に、冷たいものが走ります。冬だから……ではなさそう。

 どすん!! どすん!! どすん!!

 今度は、自動車が降ってきます。ボスさんは、車と電話ボックスの檻に、囲まれてしまいました。
 もう、逃げ場はありません。
 「ふぅ……ちょっと重かったのです」
 目の前の車から、女の子の声がします。ほどなく、里華ちゃんがドアを開け、ひょっこり顔を見せました。可愛らしい表情は、満面の笑みに溢れています。
 「あ……あ、あぁ……」
 おやおや、ボスさんは、腰が抜けてしまいました。すっかり恐れをなしたようで。

 ずり……ずりずり……

 里華ちゃんは、肩掛け鞄を引きずりながら、ゆっくりゆっくりと、ボスさんに近づいていきます。小さな手には、いつの間にか、鉈が握られています。
 「くすくす……ココロと体の悩み……解決しますのです」
 にっこり微笑む里華ちゃん。
 数秒後、ボスさんの絶叫が、辺りに響き渡りました。


 そして、場面は数時間後のハンター基地へと移ります。
 「えぐっ、ぐすん……こ……こわかったよぉ……」
 部下Aさんの胸の中で、女の子がすすり泣いています。体操服にブルマ姿で、年齢は小学生くらい。小柄な体を、プルプルと震わせています。
 可哀想そうに。なにか、よっぽど怖い目にあったのでしょうね。
 頬をポリポリとかき、部下Aさんは口を開きます。
 「あのですね……ボス。ちょっと、離れてくれませんか?」
 おや、女の子の正体は、ボスさんでしたか。なるほど、里華ちゃんのおかげで若返ったんですね。知らない方がよかった。
 「まったく……あなたまでやられてくるとは。隊員達が帰ってくるまで、しばらくその姿でいてくださいよ?」
 「う……今すぐは、無理か」
 ボスさんは、おっきな目に涙を一杯溜め、上目遣いで見つめてきます。あ、部下Aさんのお顔が夕焼け色に染まりました。
 「ん、どうした?」
 「な、なんでもありません! そんなことより……ボスが行った地区に、新たなハンターを派遣しました」
 部下Aさんは、慌てて話題を逸らします。そりゃ、おっさんにときめいたなんて、口が裂けても言えませんよね。
 「派遣って……みんな出払っていたんじゃなかったのか?」
 ボスさんは、キョトンとした表情で聞きます。
 「いえ。運よく、二名のハンターがいました。えっと……78号と82号を」
 「なっ……!!?」
 あらあら、どうしたのでしょう? ボスさんの林檎色の頬が、みるみる収穫前の色に変わっていきます。
 「どうかしたのですか?」
 「バッカモン!!」
 ボスさんの怒声が、あたりに響きました。その姿では、あまり迫力はありませんが。
 「78号を外に出すなと言ったのを忘れたのか!! この鳥頭!!」
 「す、すみません! なにぶん、人手不足だったもので……」
 部下Aさんは、ひらに謝ります。が、もう78号は、出動してしまったよう。
 「くそっ……何も起きなければいいのだが、な……」
 ボスさんは、心配そうに空を眺めます。ふわふわと、相変わらず雪虫が、綿毛のように漂っていました。



[次回予告]

 まっくらな森に入った旅人がひとり。
 しばらくすると花畑に出た。

 いちめんの花畑に入った旅人がひとり。
 しばらくすると森に出た。

 森と花畑に入ったふたりは。
 きっといつかめぐり会う。

次回「ゆきむしのまう頃に 第壱章〜札流し編〜」






「おまけ 〜NG版〜」


 こうなったら……逃げるしかありませんね。ボスさんは、スタコラサッサと逃げていきます。
 「はぅ! ま、待ってくださぁい!」
 ボスさんの背中に、トタトタという足音と困ったような声が響きます。あらあら、肩にかけた大きな鞄がとっても重たそう。
 里華ちゃんは、離れていたら性転換能力が使えないようです。
 これはしめたもの。ボスさんは、安心しながら走り続けました。
 しかし。

 ひゅぅぅぅぅぅぅ……

 上空から、変な音がします。とんびかな? と、思ったのもつかの間。

 どっし――んっ!!!

 ボスさんの上に、電話ボックスが落ちてきました。ほんの僅かな差ですね。もう少し後ろにいたら、潰れたピザのようにならなくて済んだのに。



 「ハイ! カットカット!」
 辺りに、監督の苛立った声が響きました。
 「あぅ〜ごめんなさぁい!」
 「ったく、仕方ないな……代わりのボス補充しといて」
 「これでNG何回目だよ……」
 ADさんはぼやきながら、むさいおっさん達が身を寄せている檻に、一歩一歩近づいていきました。




 





 こんにちはんこ〜、流離太です♪
 このお話は、以前ストーリー道場に投稿した「ゆきむしのまう頃に」の採録版です。
 タイトルを見てご存知の通り、このお話は人気ゲーム「ひぐらしのなく頃に」のパロディです。
 パロディらしき要素はまだ見えませんが、まだ前夜祭。
 よろしければ、いま少し、見習いセールスレディー里華の活躍を見守ってくださいませ。


 さて、そんな彼女のデータです。


 名前:真城里華

 セールスレディー見習い。
 ピンクのリボンがついた水色のワンピース、同色のベレー帽、背中まである蒼い髪が特徴。
 いつも自分より大きな肩掛け鞄を引きずっており、中には鉈を始めとしたあらゆる道具が入っている。

 「ボク」、「〜なのです」、「にぱ―☆」といった可愛らしい口癖を持つが、依頼達成のために手段を選ばないという点は、真城華代以上。
 しかし、見習いのため、その能力は限定されている。
 また、怪力を誇り、自動車を軽々と投げ飛ばせる。

 イメージキャラクターは、勿論「古手梨花」。
 声優は、田村ゆかりさんです。


 最後にひとつ。 大変申し訳ありません、ボスを性転換させちゃいまして(――;)  今後、絶対元に戻るので、ご容赦のほどを。



 では、また会いましょう♪