「華代ちゃんシリーズ」

「華代ちゃんシリーズ・番外編」
「ハンターシリーズ」
「いちごちゃんシリーズ」

作・真城悠


ハンターシリーズ99ゆきむしの ま う頃に 壱章 〜札流し編〜』 作・流離太

ハンターシリーズ99
『ゆきむしのう頃に 壱章 〜札流し編〜』
作・ 流離太



 「戻せない!? どういうことだ、ガイスト!! なに? 戻れなくて困ってるハンターもいるのに、差別はいかん? 冗談じゃない!! わしはボス――おい、ガイスト? もしもーし!!?」
 薄暗いハンター基地内部にある、ボスの部屋。
 受話器に耳を押しつけ、体操服姿の幼女が怒鳴っている。里華被害に遇ったボスの、なれの果て。
 「まったく……わしはこんな姿になるわ、78号が出動するわ、今日は厄日だな……」
 黒塗りの机に手をつき、ボスは大きく溜息を吐く。肩まであるツインテールが揺れ、部下Aの心をくすぐる。

 ――って、私はなにを興奮してるんだ!? よりにもよって、ボス相手に。

 部下Aは、慌てて妄想をかき消そうとする。しかし、桃色の霞は、ぺたぺたとまとわりついてくる。
 今のボスは、本当に魅力的だ。
 しっとりと艶やかな黒髪。虹彩を放つ澄んだ瞳。ブルマから伸びた脚は雪像のように白く、すぐ折れてしまいそう。
 一見すると幼い少女だが、椅子の上で足を組んでいる態度は紛れもなくボスのもの。そのギャップが、また――

 「――おい、なにをジロジロと見つめている?」

 ハッと我に返る部下A。顔を上げると、ボスがいぶかしそうに自分を見ている。
 部下Aは、急いで話題を変える。
 「そ……その、命令に背き、本当に申し訳ありませんでした。ですが、やつも大分落ち着いてきましたし、大丈夫かと」
 ボスは、しばらく間を置き、口を開く。
 「……――今日が何の日か、覚えているか?」
 ハッとする部下A。ボスは、言葉を続ける。
 「札流し祭の日だ」 
 沈黙が、部屋を満たす。部下Aもボスも、まばたき一つしない。まるで、時が止まったかのよう。
 しかし、無情にも時は流れていく。窓の外では、ゆるゆると、ゆきむしが漂っている。

 ――さぁ、いつまでもここに留まってはいられない。我々も、先へ先へと進まなければ。
 振られた賽の目がいくつか、確かめるために。






 ハンター78号「前原ナオ(まえばらなお)」は、ハンター本部の近くを歩いていた。バットを引きずり、荒い息を吐きながら。

 「はぁ……っ…………はぁ……」
 年はおよそ17。髪は耳にかからない程度。高校生らしく、近所の高校のブレザーに身を包んでいる。
 その後ろを付かず離れず付いていくのは、ハンター82号「羽入紫苑(はにゅうしおん)」。ナオの世話係りの少女だ。
 セーラー服を着ており、年はナオと同じくらい。背中まである髪に、白いリボンをちょこんと留めている。
 「ナーオっ!」
 「うるさい、黄色い声で話しかけるな」
 先程から紫苑が話しかけた回数は、124回。しかし、ナオはまともに取り合ってくれない。
 紫苑は大きな溜息を吐く。白い息は、キラキラしたダイヤモンドダストとなり、外気に溶けていく。
 「――あのさぁ、ナオ。そんな目を血走らせながら金属バット持ち歩いてたら、警察に補導されるよ?」
 「うるさい。んな連中が来たら、オレのバットが火を噴くぜ」
 「いや、火を噴くのは相手の拳銃だから! とりあえず、仕舞おうよそのバット。心のドアに」
 「うるさい。オレの心のドアは、そんなしょっちゅう開けられないんだよ」
 「どうでもいいけど――あんた、文頭に『うるさい』って付けなきゃあたしと会話できないの?」
 「うるさい」

 そんな他愛ない会話を続けながら、二人は街路樹の並ぶ小道を歩いていく。落ち葉には霜が下り、踏みしめるたび、スナック菓子の上を歩くような感触が返ってくる。
 「――大体、なんでお前が付いて来るんだよ? 華代被害者を元に戻すくらい、オレなら1500秒で遂行できるな」
 「私が、ナオのお目付け役だからに決まってるでしょ! あんた一人だと、なにしでかすかわかんないじゃん」
 腰に手をあて、紫苑は言ってのける。
 むっと眉をしかめるナオ。しかし、事実だから言い返せない。
 「それに、あんた守れるのは私だけだし」
 調子に乗って、紫苑は言葉を続ける。
 「オヤシロ様の祟りから」


 刹那、
 ナオは足を止める。

 肌を刺すような北風が、サァッと紫苑の髪を撫でる。
 ハッと紫苑は口を押さえる。――が、全ては後の祭り。


 ――失敗した。


 「オヤシロ様」は、ナオの前では禁句。特に「札流し」の日である今日、絶対口にしてはいけない言葉。
 でも、全ては後の祭り。時間を戻すことなどできない。つくづく、自分の愚かさが嫌になる。

 ちらりとナオに目を移す紫苑。
 背中を向けたまま、ナオは屹立している。

 ――これは、相当ショックを受けてしまったか……。

 恐る恐る、紫苑はナオに呼びかける。
 「あ、あのさ……ナオ……」
 「か……」
 ナオはぷるぷる体を震わす。

 「か、かぁいいよぉっ!! タコさんかぁいいよぉっっ!!!」

 ナオは目を細め、一方向を指差しながら両腕をバタつかせている。
 指差された方向を見れば、たこ焼き屋の屋台が。
 さらに目を凝らせば、油でギトギトになったプレートの側に、鉢巻を巻いたタコのぬいぐるみがチョコンと置いてある。恐らく、あれのことを言っているのだろう。

 「おも、おも、おも――……おっ持ち帰りぃぃぃいいいいいいっ!!!」

 言うが早いか、たこ焼き屋へ脇目もふらずに駆け出していくナオ。去った後には、土煙がもうもうと立ち込めている。
 紫苑は、呆れ果てたように顔を押さえる。
 「はぁ……あんた、相変わらず可愛いものに目がないね。男の癖に」
 そう。ナオは、可愛いものを見つけると、衝動的に飛びついてしまう癖を持っているのだ。それこそ、お人形から少女まで。一度行きずりの少女に飛びついて、お巡りさんのお世話になったこともある。

 まぁとにかく、

 ――さっきの言葉、聞いてなくてよかった……。

 紫苑は深々と胸を撫で下ろし、ナオの後を追う。
 電信柱の陰から、二人の様子を伺っている存在がいるとも知らずに。



 「おっちゃん、たこ焼きふたつ!」
 「あいよっ!」
 ねじり鉢巻を締めたおじさんが、ほくほく顔でたこ焼きのパックを手渡す。
 ふんわり白い湯気が広がり、ソースの匂いがぷぅんと香ってくる。
 「はい、ナオの分はこっちね。紅しょうが抜きのやつ」
 「あ、ありがと……覚えててくれたんだ」
 「そりゃ、私はナオの」
 「お世話係だって言うんだろ?」
 たこ焼きのパックを両手で持ち、ナオは紫苑の言葉尻を奪う。
 「だけど、あんまガキ扱いするんじゃねぇよ。この前なんて、ちょっと疲れたって言ったら、タクシー呼びやがったよな。基地まで五分くらいの距離なのに」
 「はいはい。――あ、熱くないよう、ふぅふぅしてあげようか?」
 「それがガキ扱いだって言ってるんだよっ!!」
 二人は口論を続けながら、近くのベンチに腰掛ける。木陰にあるため、心なしか肌寒い。

 「んじゃ、いっただっきまーすっ!」
 紫苑は、爪楊枝を器用に使い、たこ焼きをほおばる。カリッとした皮に歯を入れた瞬間、とろりとした生地が口いっぱいに広がっていく。
 「あひゅひゅっ! はふはふぅ……――うぅん、おいし! やっぱり、ここのたこ焼きは最高だよっ! ね、ナオ?」
 紫苑は恍惚の笑みを浮かべ、隣のナオに目を移す。
 しかし、ナオは――


 「うわぁあぁぁああああああああああああああああッ!!!」


 突如大声で叫び、たこ焼きパックを地面に叩きつける。その勢いは、卓袱台をひっくり返す星一徹のごとし。
 「ちょっ!! ナオっ!?」
 「はぁ……はぁ……」
 肩で息をするナオ。目をカッと見開き、額一杯に皺を寄せるその顔は、悪鬼のよう。
 紫苑は、心配そうにナオの顔を覗き込む。
 「一体、どうして……? ――あ、まさかマヨネーズ嫌いだった? 確かにおじさんも、たこ焼きにマヨネーズは邪道だと思う。けどね、味というものは常に作り変えられるものであって、今やマヨネーズにたこ焼きは主流だと――」
 「別にたこ焼きの味にこだわってるわけじゃねぇよっ!! 俺は海原雄山かっ!!」
 「じゃ、なんなの?」
 ナオは、気まずそうに目を逸らす。
 これは、ただごとではない。

 「……聞いて驚くんじゃねぇぞ?」

 ピリピリとした空気が、ナオの言葉を介して伝わってくる。
 一体、どうしたというのだろう? 紫苑には、見当も付かない。まさか、今日のことと何か関係が……。
 紫苑は、ゴクリ生唾を飲み込む。
 そして、ナオ君がボソッと呟くことには、


 「爪楊枝が入ってて……――飲み込みそうになったんだ」


 「…………は?」
 五秒後、ようやく紫苑は声を発する。状況が理解できず、目が点になっている。
 ナオは、面倒くさそうに声を張り上げる。
 「だからぁっ!! 爪楊枝がたこ焼きの奥まで入ってて、飲み込みそうになったんだっ!!」
 「――え……いや、それだけ!?」
 あまりにも馬鹿馬鹿しい答え。そんなの、ナオの不注意じゃないか。
 紫苑の全身から、へなへなと力が抜けていく。
 「あったりまえだッ!! あの親父、事故に見せかけて俺を殺そうとした!! あいつも、オヤシロ様の手下なんだ!!」
 「いやいやいや、そんわけないじゃん!! 爪楊枝がたまたま奥まで入るなんてよくあることだし!!」
 「嘘だッ!!! それに、よく見ればお前のたこ焼きの方が俺のより大きかった!!」
 「ちょっ、ただの逆恨みっっ!!」
 言い争いを始めるナオと紫苑。やはり、食べ物の恨みは恐ろしい。微妙に論旨がずれている気もするが。


 と、その時――

 「いやいや、お二人さん! 相も変わらず仲がいいね〜」
 ベンチの後ろから、間延びした声が聞こえてきた。
 振り返れば、そこにはよれよれのコートを着た三十代くらいの男が。
 「山川……」
 紫苑は、嫌悪の眼差しを男に向ける。

 「山川夏夫」。それがコートの男の名前。旭新聞の記者で、ハンター基地によく出入りしている浮浪者のようなやつ。

 山川は頭をかきながら、締りのない笑みを浮かべている。
 「やぁ、丁度よかったよ。今月さ、うちの文化部もネタがなくなってきて困ってたんだよ。よかったら、またカフェを取材させ――」
 「お断りです」
 キッパリとした口調で、紫苑は言い放つ。
 紫苑は、山川が嫌いだった。
 ヘラヘラした口元が。
 薄汚れた赤錆色のコートが。
 いつも脇に抱えているお菓子袋が。どれも生理的嫌悪感を催させる。

 が、山川は全く気にしない様子。余裕の態度を崩さない。右掌で後頭部を抑え、大声で笑う。
 「あっはっは、手厳しいな! いやぁ、怖い娘だね。ナオ君、付き合うなら相手を選んだ方がいいよ? 絶対尻に敷かれるから」
 「だっ、誰がこんな小姑みたいな女とっっ!!」
 「はっ?! こ、こっちだって、ナオみたいなガキ、願い下げだよーだっ!! んべっっ!!」
 「あー、すげー。青春ドラマみたいだな……紫苑ちゃんにナオ君、意外といいカップリングかも?」
 「「冗談はやめてくださいっっ!!!」」
 「うん、息ピッタリ」
 顔を真っ赤にし、ぜぇぜぇと息を吐く二人。
 山川は二人の様子を嬉しそうに眺め、話題を変える。
 「いやね、今回の記事『なつかしの故郷特集』で行こうと思ってるんだけどさ……よかったら、君達の故郷の話について聞かせてくれないかな?」
 「取材は結構です――と、言ったはずなのですが?」
 山川とナオの間に、紫苑はずいと割り込む。
 が、山川は紫苑を無視し、ナオに視線を向ける。
 「君の故郷――鹿骨市雛見沢村――結構面白い話とか転がってるんじゃない? 例えば、今日なんて札流し祭だよね。村の守り神にして祟神オヤシロ様を祭る日でもあり――」
 一呼吸置き、山川は口の端を歪める。

 「君の幼馴染――公由さとし君が神隠しに遭った日だ」


 瞬間、
 ナオは、カッと目を見開き、金属バットを順手に持つ。しかし同時に、紫苑がガッチリナオの手を掴み、首を振る。
 「――山川さん、その耳は飾りですか? 私は確か、お話できないと申し上げたはずですが……」
 紫苑は声のトーンを一段落とし、山川を睨みつける。瞳には鋭い光を宿し、得物を見つめる猛禽類のように、山川をガッチリ捉えて放さない。
 山川は、相変わらず得体の知れない笑みを浮かべて立ち尽くしている。

 沈黙が、数秒間場を支配する。
 それを破り捨てるかのように、紫苑はナオに手を差し伸べ、
 「――行こ、ナオ」
 公園の出口に爪先を向ける。
 「あるぇ、いいのかなぁ? このままだと俺、あることないこと記事に書いちゃうかもしれないよ」
 二人の背中に山川のおどけた声がかかる。が、紫苑はそれを振り払うかのように、ナオの左手を強く引きながら、足を動かす。

 こんなやつにこれ以上構っていられない。せっかく、ナオが過去のトラウマから立ち直りかけているのに、これじゃあ蒸し返すことになる。
 ナオには、笑顔でいてほしい。私の願いは、ただそれだけ。
 「俺、結構知ってるんだけどなぁ。――ハンター78号『前原直哉』。鹿骨市雛見沢村に在住していたが、12歳の時に父親の仕事の都合で上京。その三年後、都内の私立高校に入学し、ハンター82号『羽入紫苑』と知り合う。その縁で、ハンター組織にスカウトされる」
 山川の言葉に構わず、紫苑は大股歩きでずんずん進む。

 「――嘘だな」


 ピタリ……と、紫苑は足を止める。


 「本当は、もっと前に出会っている。――詳しく言えば、五年前のこの日」

 ――なんで、


 「前原直弥が暴行未遂事件を起こした日にね」


 ――なんで……知ってるの?


 「小学生一年生の少女が、金属バットを持った通り魔に遭遇。幸いにも怪我は無し。被害者少女の証言によると、犯人は中学生くらいのお兄さん」


 ――あれは、


 「電信柱の陰から突如お兄さんが飛び出してきて、少女を襲撃。――が、お兄さんと同い年くらいのお姉さんが少年を羽交い絞めにし、少女は難を逃れる。少女以外の目撃者は無し。結局、事件は迷宮入り」


 ――あの事件は、


 「もしかしてさぁ、そのお姉さんとお兄さんって――君と前原直弥じゃないかな?」


 ――私とナオだけの秘密だったのに……。


 紫苑の体中から、引き潮のように血の気が引いていく。
 寒い……体全体のぬくもりが、凍える外気へ散布してしまったかのように。
 一体、この男はなんだ? 数年前にナオが起こした通り魔事件は、確かに少女の心にトラウマを植えつけたかもしれない。でも、新聞という媒体に取り上げるには、あまりに物寂しく、些細なこと。
 ――いや。そもそも山川の目的は、通り魔事件ではない気がする。そう、もっと別の……。

 「……紫苑?」
 ナオが、心配そうに紫苑の顔を覗き込む。
 ……駄目だ。あんな危険な男にナオを近づけちゃ――駄目だ。
 紫苑は、ぎゅっと両拳を握り締める。
 「ナオ……悪いけど、山川と二人にさせて……」
 「ぅ……で、でも…………」
 ナオはうつむき、口ごもる。恐らく、紫苑を心配しているのだろう。
 普段は強がっているけど、本当は気弱で優しい。前原ナオは、そういう男だった。
 「……心配しないで。大丈夫――私は、大丈夫だから」
 紫苑は、腰を勢いよく捻って振り向き、山川に視線を向ける。
 山川は、相変わらずニヤニヤと下劣な笑みを浮かべている。
 「――で、何を聞きたいの?」
 「はっは、話が早いねぇ! ――じゃあ、君らがさっき座っていたベンチで仲良く座って語り合おうや」
 ベンチに深々と腰掛け、山川は勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
 紫苑は憮然とした表情で、山川の隣にドカッと腰掛けた。



 「――はぁ……」
 前原ナオは、大きく溜息を吐いた。
 情けない。女の子一人守れないなんて。

 山川の言った通り、紫苑とは五年前に出会った。金属バットで道を歩いていく少女に殴りかかった自分を、背後から羽交い絞めにしたっけ。
 「てめぇっ、放しやがれっっ!!! あいつは、あいつだけは――」
 「いやいや、落ち着きなよ! ――ほら、飴ちゃんあげるから」
 「いらねぇよっっ!!!」
 まるで、子どもをたしなめるように、紫苑はナオを止めた。それが、紫苑と交わした最初の会話。
 それから、紫苑は毎日のようにナオに話しかけてきた。

 「ねぇねぇ、そんな風にバット持ち歩いてたら危ないよぉ〜?」

 「あのさぁ、お昼一緒にどうかな? シュークリーム、確か好きだったよね?」

 「ナーーオっ! 早くしないと、置いていっちゃうよーーっ!」

 最初は、なんてお節介なやつだって考えてた。いつも口うるさく、用もないのに自分についてくる。どことなく姉貴風を吹かせて。
 ――でも……いつの間にか、紫苑と居ることが当たり前になっていた。いつの間にか、紫苑の後を付いていく自分がいた。いつの間にか……――本当に、いつの間にこんなことに。

 話に夢中になっている紫苑と山川の側を、ナオはそっと離れる。
 さっさと任務を終わらせ、ハンター基地に帰ろう。

 ――今日は、札流し祭の日なのだから……。


 金属バットを右肩に掛け、ナオは曇り空を仰ぎ見る。
 ふわふわ、
 ひらひら、
 たくさんのゆきむしが舞っている。まるで吹雪のように空を飛び交い、遠くの空へと吸い込まれていく。
 それを追うように、ナオは一歩、二歩と足を運ぶ。


 正直、実感が湧かない。
 雛見沢村から東京に出てきて早五年。もう、昔のことが夢のよう。
 紫苑との生活は楽しくて、キラキラと輝いていて――雛見沢の暗い思い出は、次第に風化していく。オヤシロ様への憎しみさえも。
 ――いや。
 本当に夢だったのではないかとさえ思う。雛見沢という村に住んでいたことも、いじめられっ子だったことも、さとしと一緒に遊んだことも、

 そのさとしがオヤシロ様にさらわれたことも。


 ふと、ナオは我に返る。
 気付けば、公園の中心に立っていた。
 時刻は黄昏時。淡いオレンジ色の光が遊具に染み渡り、静かな影を落としている。場は寂寥としており、時折吹く風が周囲の木々やブランコを微かに揺らす。
 いつの間に、こんな場所へ来てしまったのだろう。見慣れた場所なので引き返せるが、依頼人のいる方向とは正反対。まったく、無意識の力とは恐ろしい。
 ナオは、歩みを止める。

 
 ――――あれ?

 今――自分が立ち止まった時――足音が、ひとつ多かった気がする。
 まるで、今までナオに歩調を合わせていた人間が、慌てて歩みを止めたかのよう。


 「……――みぃ」
 小さく鳴くような声が耳に届く。間違いない……はっきり聞こえた。幼い、
 少女の声が。
 同時に、とことこという足音が背後から響く。ナオの前に、回りこんでくるつもりだろう。


 ざわざわと、体中の血液が小波を立てて騒ぎ出す。これは……警告。自分の敵が誰なのか、なによりも本能がわかっているらしい。

 ――終わってなど、いなかった。

 やはり、続いていたのだ。幼い日からずっと続いていた悪夢が。

 ――オヤシロ様の祟りが。


 「――みぃ」

 クールになれ、前原ナオ。相手は、ずぅっとお前が捜し求めていたやつじゃないか。お前は、やつを倒さなければいけないんだ。
 ――さとしの仇を取るために。

 金属バットを握っている左手の握力が、掌から吹き出た汗を絞り出すかのように、ぎゅっと強まる。
 心臓が、胸を突き破って躍りださんばかりに、激しく波打つ。
 唾を飲み込む音が、体の芯まで響く。

 足音は――ナオの視界の中で止まる。
 「彼女」とナオの距離は、約1mほど。世界の終わりを告げるかのような夕陽に彩られ、ナオの眼前に立ち尽くしているのは、7歳くらいの少女。
 背中まである、蒼く、柔らかな質感を持つ髪をなびかせ、膝丈ほどのスカートがついたワンピースでその身を包んでいる。

 ――少女は、

 ――ナオを見上げ、

 ――口角を上部に釣り上げ、

 ――言い放つ。


 「……――見ぃ……つけたぁ……」


 青服の少女「真城里華」の左手には、いつのまにか握られていた。刃渡り1mほどの、鈍く光を放つ、
 鉈が。





 「――前原直弥と公由さとしは、兄弟のように仲がよかった。当時体が小さく、近所の子どもからいじめられていた前原直弥を、公由さとしは守っていた。それこそ、兄貴のように――そうだな?」
 ベンチの上で足を組み、手帳を読み上げる山川。それを終えると、隣の紫苑に相槌を求める。
 紫苑は、むすっとした表情で、首を縦に振る。
 「仰る通りです。ナオの親は両親とも出稼ぎに行ってて、遊び相手と言ったらさとしくらいだったそうです」
 「だが、その関係にも終わりの時が来た」

  紫苑の肩が、ぴくんと跳ね上がる。

 「丁度、九年前のこの日――オヤシロ様を祭る札流し祭の日に、公由さとしは行方不明になった。地元ではちょっとした騒ぎだったそうだね? オヤシロ様の神隠しだ、って。バリバリ頭から食われちまったんじゃないかな」
 山川は、さもおかしげに、くつくつ笑う。
 ぎゅっと両手を膝の上で握り締め、紫苑はポツリと呟く。
 「オヤシロ様は――そんなことしない」
 紫苑は握る力をさらに強める。指には爪が食い込み、うっすら朱がにじんでいる。
 「さぁ? 俺はオヤシロ様じゃないからわかんねぇよ。――まぁ、どっちにしろ、前原直弥がオヤシロ様を憎んでいることには変わりないな」
 吐き捨てるかのように、山川は言う。
 一体山川は、どういうつもりだろう。紫苑には、山川の何を考えているのか全く見えない。オヤシロ様のことを知りたいようだったが、山川は十分すぎるほど知っている。今更紫苑に聞くようなことなんて、ないはずだが。

 ああ、早く話を切り上げたい。任務を終わらせ、ナオと一緒に基地へ帰りたい。
 今日のナオはとっても怯えている。さとしの仇を取るためにオヤシロ様を倒すなんていっているけど、本当は怖いだけ。恐らく、一分一秒でも外にいたくないはず。
 ナオ……――ごめん。
 「――で、ここからが本題だ」
 紫苑を現実に引き戻すかのように、山川は再び口を開く。慌てて紫苑は顔を上げる。
 「俺の包囲網をもってしても、どーしてもわからないことが三つある。まずひとつ」
 山川は、人差し指を空に向かって、ビッと立てる。
 「前原直弥の不審な行動。あいつがオヤシロ様を憎んでいたって言うのは、雛見沢の住人に聞いてわかった。――だがな、解せないんだよ」
 「な、なにが……?」
 「やつが真城華代について、何度か過激な発言をしていることだよ。やつは、真城華代の存在を許さない。平たく言えば、華代を抹殺しようとしている」
 「そ、それも、最近では収まってきました!」
 「そうかもな。だが、前原直弥以前そうだったことは、紛れもない事実。――あぁ、そうそう。そういえば、例の通り魔被害に遭った少女、白いワンピースを着ていたらしいな」
 山川の言いたいことはわかる。恐らく、少女が真城華代に似ていたから襲ったと言いたいのだろう。
 「で、二つ目。行方不明になった公由さとしの行方。これに関しては……まぁ、自力で調べるよ。で、肝心の三つ目だが――」
 山川が三本目の指を立てかけた、まさにその時だった。紫苑の携帯電話が、突如けたたましく鳴る。
 紫苑は、確認もせず、慌てて通話ボタンを押す。
 「――おい、82号」
 「あ、部下Aさんですか。こにゃにゃちは〜」
 「大空の梅干に〜――って、やらすなっ! 仕事は終わったのか?」
 「あっはっは! 全然ですよもぅ!」
 紫苑は、腰に手を当て、けたけたと高らかに笑う。
 「馬鹿かお前はっっ!! 今まで何やってたんだっっ!!!」
 「いやね、ナオと仲良くお仕事がんばろうとしたら、どっかの新聞記者が――」
 電話をしながら目を泳がす紫苑。が、数秒後、頭の中が白一色に変質する。

 ――いない。

 この近くの……どこにも。
 「――ねぇ、部下Aさん……ナオ……いなくなっちゃった……」
 「なっ?! なんだって!!?」
 「ごめんなさい……ちょっと目を離した隙に……」
 「あいつは五年前よりパワーアップしてるからな。暴れたら、周辺は焼け野原だぞ――わかった、今すぐ応援をやろうっ!! お前も、できるだけ78号を探してくれ!!」
 部下Aはそれだけ言うと、電話を切る。紫苑の耳に届くのは、ツー、ツー、という無機質な電子音だけだった。
 「いやぁ……なんか大変なことになっちゃったね? え、もしかして俺の話に動揺しちゃって、周りが見えなかった?」
 「……す」
 「は?」
 夕闇の逆光を浴び、影絵のように屹立する紫苑。その中で唯一見えるのは、カッと見開かれた目。瞳に映し出されているのは、牙のように鋭い光。


 「ナオになんかあったら――絶対、ぶっ殺してやる」


 それだけ言い捨て、紫苑はナオを求めて走り去る。
 地の底から響き渡るような声。その時、紫苑はいつもの快活な自分を忘れ、一匹の獣になっていた。





 「食らいやがれぇえええっっ!!!」
 ナオが叫ぶと同時に、乾いた炸裂音が公園中に響く。特性かんしゃく玉の破裂した音だ。かんしゃく玉と言っても、その威力はコンクリート塀を吹き飛ばすほど。ナオは、これを始めとした強化型花火を、いくつも持ち歩いている。
 ――が、里華も負けてない。右へ左へ体を捻りながら、けんけんぱっとかんしゃく玉を避わす。
 「みぃ☆ さっきから花火を投げまくってるけど全然ボクに命中しなくて、かわいそかわいそなのです」
 「うるせぇっ!! お前こそ、ちょこまか避けやがってっっ!! 今日こそぶち殺してやる――オヤシロ様ぁ……」
 「みー、ひどいのです……ボクは、直哉のことが大好きなのに。にぱ〜☆」
 「わけわかんねぇこと言ってるんじゃねぇよっっ!!! これでも食らいやがれぇぇええええええっっ!!!」
 言うが早いか、ナオは右袖から強化型ロケット花火を引き抜く。だが同時に、隙を作った。その一瞬を、里華は見逃さない。ダッと右足で大地を勢いよく蹴り、ナオ目掛けて一直線に飛ぶ。同時に体を大きく右に捻り、
 鉈を横薙ぎに払う。
 ブンッ、と重い刃先がギロチンの勢いで右から左へ移動する。
 瞬間――左手に握られた棒状の花火の束は、上部と下部に両断される。

 まずい。
 懐に飛び込まれた。
 接近戦に切り替えねば。

 ナオは右手でバットをつかもうとする。――が、間に合わない。
 里華は、つっこんだ勢いを利用し、ナオを押し倒す。土煙が舞い、ナオは仰向けに倒れる。

 「はぁ……はぁ……っ」

 バットは、右手の指先に転がっている。が、里華が怪力でナオの右腕をガッチリ掴んでいるため、ぴくりとも動かせない。
 頭上では、里華が鉈を掲げている。夕日の逆光で顔はよくわからないが、恐らく満面の笑みを浮かべているだろう。
 絶体絶命……ナオには、もう、打つ手がなかった。
 「やっと捕まえましたのです☆ すぐに終わるから……大人しくしていてほしいのです」

 里華が言い終わった途端、
 「くっ……――ぅぅ……はぁ、ひふ……ぅ」
 ナオの体に変化が生じる。
 肩幅がどんどん狭まり、手足は服の中に収納されるかのごとく縮んでいく。
 男にしては細い指がさらに小さく、繊細に。
 肌は、白く、肌理細やかに。
 茶色がかった髪は毛先から薄紫色に染め上げられ、肩目掛けて伸びていく。
 「はひ、ぅ……ふぁ……、は……ぅぅ……」
 熱い……体が、燃えるように。
 体が女の子に変化しているせいだけでない。自分が真城里華によって、されるがままにされているため。それが、ナオにとって、一番悔しいことだった。大好きだった親友の仇ひとつ取れない自分が……情けない。

 まもなく、ナオは変化を終えた。里華と同年齢くらいの幼い少女へ。
 「――さぁ、一緒に行きましょうです……直哉」
 ナオの髪を優しく撫で付けながら、里華は微笑を向ける。
 結局、なにも変わらない。さとしや紫苑の後ろで怯えているだけの人間だったんだ。少しは強くなれた気でいたのに、オヤシロ様と戦うことに、さとしの仇を取るために命まで掛けていたのに……その結果が、これ。

 ――ごめん、さとし。
 ――オレ、やっぱり泣き虫ナオのままだった。
 ――だけど、会えるよね?
 ――オヤシロ様の世界に行けば、さとしに。
 ――後もう少しだから……待っててね。

 ナオの目じりから、涙が一滴流れる。自分の至らなさを嘆く、悔恨の雫。
 ――刹那、


 「あらあらぁ〜。もう諦めムードですの? 本当に、情けないっちゃありゃしないですわね、ナオ」

 公園の入り口から、甲高い声が響き渡る。
 ふと目を移せば、黒い影が屹立している。小学生一年生くらいのちっこい体に、口角を釣り上げた不敵な表情。夕日に溶けるような短めの金髪。緑色のワンピースからのぞく足は、黒いタイツに包まれている。
 あれは――  「オーホッホッホッホ! 地域限定30号にしてハンター1の策略家『北条沙登』が、楽してズルしていただきですわーーっ!」
 「し、師しょ……ぅ」

 北条沙登――前原ナオの師匠にして、自称ハンター1の策略家。今ナオが持っているトラップの腕は、全て沙登から教わったもの。
 沙登は、人差し指をビシッと里華に向ける。
 「ナオ、しっかりご覧あそばせっ! 武器は使いどころ――あなたのようにやたらめったらに使えばいいわけではないことを、あの女を使って証明してさしあげますわっ!」
 「みぃ☆ お邪魔虫さんは、」
 里華はおもむろに立ち上がり、
 「どこかに」
 鉈を両手に沿え、
 「消えて欲しいのですよッ!」
 ブーメランのように放り投げる
 ひゅんひゅんと唸りを上げ、鉈は沙登にプロペラのように迫る。沙登は、こめかみぎりぎりに鉈を避ける。
 「みー、すごいすごいのです☆ パチパチ」
 にぱっと笑い、里華は無邪気に拍手する。

 「――でも、知っていますですか? ブーメランは、帰ってくるのですよ?」 
 ハッ、とナオは気付く。
 そう、里華の言う通り。沙登が回避したブーメランは、Uターンし、里華の手元に戻ってくる。軌道にあるのは、
 ――沙登の後頭部。
 「師匠ッ!! 後ろッ!!!」
 朦朧とする意識を振り払い、鈴を転がすような声で叫ぶナオ。が、遅い。沙登と鉈の距離は、もう1メートル。
 が、沙登は待ち伏せていたかのように体を半回転し、小石を鉈に向かって投げつける。途端、鉈はベクトルを沙登の左側に変え、茂みの中に落ちる。
 「オーッホッホッ! 勝利のお味噌汁は美味しぅございますわねぇ! ブーメランなんて、ちょっと進行方向を変えればこんなもの〜! ――さぁ、真城華代もどき。丸腰のあなたが、わたくしとナオの二人を相手にすることが出来ますか?」
 沙登は高らかに笑い、カップ味噌汁をすする。どうでもいいが、何処から出したのだろう?
 里華はといえば――しゅんと首を垂れている。恐らく、状況と力量の差がわかったのだろう。このまま戦っても分が悪いことに。
 「みぃ……残念なのです。せっかく、直哉を迎えに来たのに……」
 里華は髪をふわりとなびかせ、陽炎のように輪郭を揺らめかせる。そして、
 「雛見沢で――待ってるから」

 とだけ呟くと、夕闇の中に溶け込んでいった。
 風が、汗ばんだナオの頬を、優しく冷ます。辺りに残っているのは、微かに軋むブランコの音と、からすの鳴き声だけ。

 「――ナオッ!!!」

 公園の入り口から、聞き覚えのある声がする。ふっと首をそちらに向ければ、そこには膝を押さえ、荒い息を吐いている紫苑が立っていた。
 あぁ、そうか……ナオが勝手にいなくなったから、もしかして心配して探していたのかもしれない。本当に、心配をかけてしまった。謝らないと。
 「あのさぁ……」
 と、ナオが言いかけた途端、
 紫苑は、力いっぱい、ナオを抱きしめる。
 「ふ、ふぇ……はゎゎっっ?!! ちょっ、紫苑っっ?!!」 急に抱きしめられ、ナオは体がカァッと熱くなる。
 正直、気恥ずかしい。女の子に抱きしめられたことなんて、今までなかったから。今のナオも女の子だけど。
 が、紫苑はお構いなしに、ナオを抱く力をますます強める。
 「――紫苑?」
 「ごめんね……本当にごめん、ナオ……ごめんなさい……ごめんなさい……」
 紫苑は何度も謝り続け、地面に涙をはらはら落とす。その姿は、いつもの気丈で明るい姿からは想像できないほど、ボロボロで、今にも壊れてしまいそうで……。
 ナオは、小さな手で、そっと紫苑を抱き返す。まるで、幼子を安心させるかのように。





 「――そうか。幸いなのは、怪我人がひとりも出なかったことだな」
 ハンター基地本部、ボスの部屋。
 沙登の報告を聞いたボスは腕組みし、額に皺を寄せる。相変わらず、格好は付いていないが。

 「それにしても気になりますわね。ナオと真城里華――まるで、以前からの敵同士みたいでしたわ。なにか、因縁がありそうな様子でしたし……」
 「いずれにしても、雛見沢に調査に行く必要がありそうだな。もしあそこに真城華代の秘密が隠されているとすれば、我々ハンターにとっても大きなプラスになるだろう。――その時は、頼むぞ?」
 「オーッホッホ! ナオの特訓もありますし、わたくしが付いていかない道理はありませんことよー!」
 「――そういえば、78号はどうした? 確か、真城里華にやられて幼女化したと聞いたが……」
 「あぁ、ナオなら――」


 ハンター事務室。

 「へぇ〜、この子がナオちゃんか〜」
 「あ〜んなに生意気だったのに、こ〜んなにちっちゃくなっちゃって〜」
 事務員の水野さんと沢田さんは目を細め、紫苑を取り囲んでいる。
 「あれ? な〜んでお顔を見せてくれないのかな? かな?」
 「あはは、ごめんなさい。ナオのやつ、女の子になってから、弱虫に拍車がかかっちゃって……私の後ろから出てこないの」
 困った表情で頬を掻く紫苑の後ろに隠れているのは、ダボダボの学ランを着た七歳くらいの少女。柔らかな質感を持った髪を肩の辺りで小さなツインテールにし、怖々様子を伺っている。
 「やだぁ! ますますかぁいい〜」
 「あ、あの……ぇと、ナオさん、怯えてるんじゃないですか?」
 口元を押さえ、おずおずと言うのは、ハンター48号「半田四葉」。今日は、赤頭巾ちゃんの格好をしている。
 「あれ? 四葉ちゃん、もしかして嫉妬してる?」
 「心配ないわよ〜。ナオちゃんとお揃いのお洋服着せて、可愛がってあ・げ・る」
 「はゎ……あぅ……そ、そぅいうことじゃなくてぇ……」
 両手をもじもじこすり合わせ、四葉は困った表情を作る。

 と、その時。
 紫苑の後ろに隠れていたナオが、紫苑の前に進み出る。うつむきながら。

 「え、ナオ? 大丈夫なの?」
 「じゃあ、レッツお着替えターイム! このエンジェルモートの制服なんてどうかな?」
 「違う違う! やっぱりバット娘って言ったら、こっちの天使の羽付きワンピースで――あれ、ナオちゃん?」

 沢田さんが、ナオの変化に気付く。ナオは、ぷるぷると肩を震わせ、なにか呟いている。

 「…………な」
 「え?」
 バッと顔を上げるナオ。その瞳は一杯の涙でうるうるしている。


 「――オレに近づくなって、言ってるんだよぉっっ!!! ばかぁっっ!!!」


 ひゅぅぅ……ん――パチンッ!!!
 スパパパパンッ!!

 「きゃぁああああああっっ!!! ひぅっ?!!」
 「あちゅぃいっっ!!!」
 「ど、ドラゴン花火だよぉっっ!!!」
 ハンターの火薬庫、ナオの強化花火が一斉に火を噴いたらしい。水野さんや叫び、わたわたと慌てふためく。
 ナオは泣き喚きながら、花火を投げ続ける。
 「ふぇええええええんっ!!! ばかばかぁっ!! どっか行っちゃえぇ!!!」
 「ちょ、ナオ、やめ――ひゅひぃっっ!!!」


 ナオはその後、事務室を飛び出し、ねずみ花火のごとく基地内を飛び回ったらしい。ハンター全員で大捕り物を演じた結果、怒ったイルダがナオの花火に全て火をつけ、なずなが水の代わりにガソリンを撒くという大惨事にまで発展した。が、それはまた別のお話。
 とりあえず、今日も、ハンター基地は騒がしい。






[次回予告]

 探し物はどこですか。
 果てしなく続く空の彼方?

 探し物はどこですか。
 どこまでも深い海の底?

 探し物はなにげない所に。
 ほら、あなたのポッケの中。

次回「ゆきむしのまう頃に 第弐章〜神曝し編〜」








「ミニミニ劇場番外編 〜お祝いはめいぷるに倣ってチキンライスで〜」

 ボス「……――今日が何の日か、覚えているか?」
 ハッとする部下A。
 部下A「おめでとうございます。とりあえず、お赤飯の用意を――」
 ボス「……頼むから、その言葉はギャグだと言ってくれ」







「ミニミニ劇場番外編2 〜鏡よ鏡よ鏡さん〜」

ナオ「はぅ〜〜おっもちかえりぃぃ〜〜☆」
ボス「ナオは何をお持ち帰りしているんだ?」
部下A「鏡です。自分の女の子になった姿がかわいかったようで」
ボス「ナルシスの鏡か」





{ゆきむしのまう頃にお疲れ様会}


流離太(以下るっち)「こんにちはんこ〜、流離太です♪」
ナオ「ハンター78号、前原ナオです」
里華「見習いセールスレディーの、真城里華なのです。今回の後書きは、四人で仲良くわいわいなのですよ☆」
るっち「いやぁ、いよいよゆきむし第一話完成。序章の投稿から数ヶ月、我が故郷北海道もすっかり春景色です(−−;)」
里華「大丈夫なのです☆ 作品の完成時には、恐らく冬になっているはずなのですよ」
ナオ「いや、わからないぞ? もしかして、また一年経って今度は夏に」
里華「それでは、ゆきむしじゃなくてひぐらしの出番なのです」
るっち「はっはww ひっどい言われようwww」
ナオ「そういえば――この作品は『ひぐらしのなく頃に』のパロなのに、どちらかといえば劣化コピーっぽい内容になってきたな」
里華「シリアス展開が入ってきて、雰囲気も華代ちゃんシリーズというよりはホーリーメイデンズっぽいのです」
るっち「うぐぅ……それは私も感じていたよぉ。実質、今まで書いた華代ちゃんシリーズの中で、一番流離太色の濃い作品かも」
里華「なるほどなのです。るっちはパクリ作品、しかも劣化コピーが得意なのですね」
るっち「いや、得意っていうのは劣化コピーの方じゃなくって!!」
ナオ「まぁ、それはどうでもいいとして、今回のことで色々謎が出てきたよな。まず、オヤシロ様について」
るっち「あぁ、本編でさとしを*した雛見沢の守り神ね」
里華「ぷぅ、オヤシロ様はそんなことしないのですっ!」
るっち「でも、本編ではナオがオヤシロ様を憎んでるよね?」
里華「それは、直哉が『さとしを攫ったのはオヤシロ様』という村人のデマを信じたためなのです」
るっち「うぅ〜〜ん、それだけであんなに怒るかな? あの態度、絶対オヤシロ様が犯人だって確信持ってるように見えるよ。それに、ナオと里華の間にもなんかあるっぽいし――」
里華「み、みぃ……なるほどなのです。あと、直哉は仇とか言いながら、オヤシロ様にびびっていたのです。なんであんなに怯えているのか、ボクにはまったく見当が付かないです」
ナオ「だから――オヤシロ様が祟り神だからだろ?」里華「だ・か・ら、オヤシロ様はそんなことしないのですっ!」
るっち「あとさ、ナオがなんで華代ちゃんや里華を憎むのかもわからないよ。うぅん、ナオはつくづく謎が多いキャラだ――あぁ、そうだ。謎といえば、紫苑にも謎が」
ナオ「ほぇ? あいつはただのお節介焼きだろ」
里華「みぃ、言われてみればそうなのです。なんであんなに直哉にべったりなのかもわからないですし、オヤシロ様を信仰しているような台詞も喋ってたのです」
るっち「さっすが里華ちゃん♪ ナオとは大違いww」
ナオ「ぅ、うっさいっ!! ――そ、そういえば、オヤシロ様の悪口言われて、動揺していたな」
るっち「そう。彼女は確かハンター基地周辺に住んでいるはずだったから、雛見沢の信仰とは無関係なはず。――ひょっとして、ナオが紫苑ちゃんを勧誘した?」
ナオ「しねぇよ!! あ、あとさ、気になるといえば山川も。ほら、あいつも謎多いから」
るっち「あぁ、あいつ。あいつは多分あの事件に関係ないでしょ(トオイメ)」
ナオ「な、なんで?」
里華「それは、山川は知る人が知るキャラだからなのです。にぱ〜☆」

るっち「では、以上で後書きを終えますっ! これを読んだ方には、自分なりの真相を推理していただけると大変ありがたいです♪ できれば、感想掲示板にその推理を書き込んでほしいなとか」
ナオ「図々しいわ。第一、お前のちんけなシナリオなんて、誰だって簡単に作れるお手軽小説だろ」
るっち「ぁ、ぁぅ……そりゃないわ(TT) 少なくとも、天爛さんは騙せたよ? あの人さえ騙せれば、まず真相に辿りつける人はいないかなとかなんとか」
里華「でも、ばれるかもしれませんよ? 何人かには」
るっち「まぁ、一番の問題は、そこまで真剣に話を読んでくれる人がいるかというもんだいで――」
ナオ「まぁ、そんなこんなもあったが、とりあえずキャラ紹介いこうぜ?」


 名前:前原ナオ(前原直弥)

 ハンター78号。
 一人称は「オレ」で、大好物はシュークリーム。
 元は学ランの似合う普通の17歳だったが、黒服の男達――ではなく、真城里華によって女の子にされた。
 肩ほどまである白に近い薄紫色の髪の毛を小さなツインテールにしている。
 武器はバット(エス○リボルグ)に強化花火、トラップ。別名「ハンター組織の火薬庫」と呼ばれるほどたくさんの火薬とトラップを持ち歩いている。
 臆病な性格で、泣きっ娘。自分に近づく紫苑以外の相手には、泣き叫びながら容赦なく花火を食らわせる。
 また、かぁいいものが大好きで、見つけたら見境なくお持ち帰りしてしまう。
 真城里華と、なにやら因縁がある。

 イメージキャラクターは、「前原圭一」+「竜宮レナ」+「北条さとこ」+「羽入」+「撲殺天使どくろちゃん」。
 声優は、堀江由衣さんです。


 名前:羽入紫苑

 ハンター82号。
 一人称は「私」。
 セーラー服の似合う女子高生で、ナオのクラスメイト。
 背中まである黒髪の頂に、白いリボンを留めている。
 暴走しがちなナオのお目付け役で、半保護者。
 姉御肌な性格で、世話焼き女房タイプ。たまにお節介が過ぎて、ナオに怒られることもしばしば。
 しかし、ナオの敵には容赦がなく、徹底して牙を向く。

 イメージキャラクターは、「園崎魅音」+「園崎詩音」+「羽入」。
 声優は、雪野五月さん――って、いちごちゃんとWキャストじゃんww


 最後にひとつ。
 北条沙登は天爛さんから貸していただいたキャラです。勿論、あのみそっ子の分身のひとりww 天爛さん、並びに、四葉ちゃんの作者であるふうさん、どうもありがとうございました(ペコリ)
 では、次回はいよいよ雛見沢編。そして、早くもさとしの行方がわかります。じゃあ、また会いましょう♪