「華代ちゃんシリーズ・番外編」 「ハンターシリーズ」 「いちごちゃんシリーズ」 ![]() 作・真城 悠 |
ハンターシリーズ14 (いちごちゃんシリーズ) 『いちごちゃん戻れたっ!?』 (後編) 作:真城 悠 |
(前回までのあらすじ) 潜伏工作員として女子高に送り込まれたいちご。任務とはいえ、“女子高生” としての生活は一ヶ月に及び、何一つ連絡も受けられないいちごは、見も心も女性化する不安に苛まれ始めていた。 それを聞いた同僚の沢田から、ある日電話が入った…… 「はいもしもし――」 時間的にも幸いだった。 これが授業中などだったら、携帯を取ることなど出来なかっただろう。 放課後、一人でいる時に沢田からの連絡が入ったのだ。 『……』 だが、待望の連絡も何やらノイズがするばかりであった。 これは……? しばらくその音に集中するいちご。 洗濯のりのいき届いた清潔な制服と、シャンプーの香りがほのかに残る髪の毛が、好感度を盛り上げている。 何かがこすれる様な物音……盗聴器か? それなら沢田さんの音声による指示が無いのも頷ける。恐らく幹部クラスの服にでも取り付けたのだろう。 ……なんてリスクの高いことをするのか。だが、今はその心使いがありがたかった。 『…………いちごのことだがな――』 確かに聞こえる。音量こそ小さいが感度良好だ。 『ああ……そういえば、そんなのもいましたね……』 わ、忘れてたのかっ!? ま、まさか……まさかな。 『……で、いつまであのまま放っておくつもりなんだ?』 『さあ……特に予定も無いですし――』 な、何だと? 何か目的があって潜入している訳じゃなかったのか? 『……今はどうしてるんだ?』 『なかなかうまく “女子高生” してるみたいですよ』 『……全くなあ……あいつもいい加減観念して、女になっちまえばいいのに……』 『そうですよねえ……。しかも大人の女ならイリーガル(非合法)工作に使いようもありますけど、あのナリじゃねえ――』 『オトコとか出来ないのか?』 『女子高ですよ。無理でしょう』 『何も生徒同士でなくとも……教師とか――』 『それはドラマの見すぎですよ……』 『一応あの女子高の近くに…………』 ここからノイズがひどくなった。 その後も断片的な単語は聞き取れるものの、会話の内容までは分からなかった。 そして、電源を取らないタイプだったその盗聴器は寿命を迎えたらしく……全く音がしなくなった。 そうか……オレって……もう組織から必要とされていないのか――。 通常ありえない会話を聞いてしまったのだ。これは間違いなく組織の本音だろう。 確かに女になってからこちら、対「華代被害」工作はあまりやっていない。 スパイとして使うにも、女子中学生という風貌は実に中途半端であった。 何より、この状況下で全く連絡が無いのがいい証拠であった。 多分、このまま放置されるか……あるいは潜伏工作中に連絡を取ったことで首を切られるか。 組織の性格上 “消される” なんてことは無いと思うが……いずれにせよ、全く戻る兆候も見せないいちごは組織の「お荷物」になりつつあるのかも知れない。 “女子高生”になってから、いちごは初めて授業をサボった。 一応保健室で体調不良を理由に正式に手続きを取っているのが律儀ではあったが……品行方正で教師の信頼も厚いいちごは、すぐに帰宅の許可が出た。 体育館の裏でスカートがコンクリートの床に直接接地するのも厭わず、座り込む。 今、真正面から覗き込まれたら、恐らく下着がモロ見えになってしまうだろう。 だがそれも、どうでもいいことのように思われた。 体育館から元気のいい黄色い声が、かすかに聞こえてくる。 この学校、女子高なのに体育はブルマなんだよな……。 ハンター1号だった頃から年下の女性なんか興味なかったから、ミドルティーンのブルマ姿にそれほどそそられなかったのだが…… ……このところ、とみに関心が無くなっている。 まさか……本当に女に興味が無くなっているんじゃ…… ぶるぶるっ! と長い髪を揺らす。 だが、それで現状が変わるわけでもない。 いちごは取りとめもなくクラスメートとの会話を思い出していた。 白馬に乗った王子様に、眠っているところをキスで起こしてもらいたい……か。 まさしく夢物語である。だが、それも悪くないような気がしていた。 「……おねーちゃん!」 心臓が止まりそうになった。 「何か困った事はありませんか?」 「……この辺だっけか?」 さほど利口そうではない男が一人、通学路を歩いていた。 「うーん、今の今まで定時連絡を忘れてたんだよね……いちごの奴、怒ってるかなあ――」 ハンター5号だった。 「……観測計によると、この辺に出現してもおかしくないんだけどなあ」 「悩み……悩みはある――わよ」 「どんな? ……あ、あたしこういう者です」 報告通りだった。その名刺には、紛れもなく問題の文字が掘り込まれている。 「ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代」 動悸が高鳴っていた。 これは千載一遇のチャンスである。こいつを上手く誘導できれば…… だが、それは至難の業であろうことは予想がついた。しかも2号に無理やり聞き取り調査をした報告書によれば、彼女は早合点が凄まじく、とても複雑な指示など出せるものではないと。 「そう、ねえ……理想の異性のこと……を知りたい……かな――」 「ふむふむ。理想の異性ねえ……」 行ける……? のか? 「さっきも似たようなこと言われたわ。何でも白雪姫みたいにキスで起こされたいって」 その言葉に一瞬背筋が凍った……が、よく考えてみれば今のこの身体である。これ以上悪い状況なんてあるのだろうか? それこそ「白雪姫」にされて王子のキスで起こされようが、今の状況と大差無いではないか! やけくそになったいちごの何かが吹っ切れた。 「うん。理想の異性のことがもっと知りたいわ」 滑らかに女言葉が出てくる。この生活の成果である。 「よっしゃ! まっかせてっ!」 胸を張る少女。「そうねえ……それじゃあ今日は特別サービス!」 「……え?」 「とりあえず、お姉ちゃんはこれから “理想の異性” について思い浮かべて。あたしはみんなのリクエストも大体聞いてあるから、みんなまとめてサービスしてあげる!」 何だ、典型的な “集団性転換” 現象じゃないか……。 確かに甚大な被害である。……だが、その為に我々「ハンター」組織があるのだ。男に変えられた女子校生たちは我々が元に戻せばいい。 唯一問題があるとすれば、目の前に宿敵・華代がいるにも関わらず、本来の任務である「華代の無害化」を推し進めるのではなく、自らが元の姿に戻ることに利用してしまう――言わば “業務上横領” 的行為である。 だが、背に腹は替えられない。 「うん、分かった」 嬉しそうに頷くいちご。 「え? あ……な、何よこれ?」 体育の授業を受けていた生徒が悲鳴を上げた。 見る間に服がむくむくと、そのサイズを大きくしていくではないか! 「きゃあああああっ!」 紺色のブルマが白いホットパンツに変わっていく。それはふくよかなヒップにはいかにも窮屈であった。 「あ……、こ、これは……」 むくむくとその背が高くなり、たくましくなっていく女生徒たち――。 各教室でも混乱は始まっていた。 「きゃああっ!」 「な……何なのよーっ!?」 花も恥らう乙女たちは、それぞれ “理想の異性” へと変貌していった。……そして、同時に全員が眠りにつくように意識を失っていく。 「これ……は……」 目の前にしても信じられなかった。 先ほどまでは華奢な身体をやわらかい女性物の下着と、可愛らしい制服に押し込めていたのだ。 だが今は、かつての岩のような筋肉と、見上げるような肉体を取り戻していたのだ! 「ありが……と……華代……ちゃ――」 ハンター1号の意識もそこまでだった。彼もまた他の全ての女子生徒と同様、その場で深い眠りに落ちていった…… ハンター5号が辿り着いた時には、既に惨劇は終わっていた。 「あぉ……なんてこったい――」 普段は決して入ることの出来ない “女の花園” に、半ば公然と潜入ことが出来る……ハンター5号は、不謹慎にもそんなことを考えていたりした。 「ここって女子校だよな……みんな男になってる……のか?」 その通りだった。女生徒全員が “理想の異性” に姿を変えられ、そして意識を失っていたのだ。 「もしかしたらみんな結構嬉しいのかもしれないけど……まあ、ここは戻してあげないとね――」 全員が気絶しているので作業は楽だった。全校生徒というかなりの人数ではあったものの、小一時間もしないうちに作業はほぼ完了する。 「それにしても……肝心の『華代』にはまた会えなかったな。……一体どんな女の子なんだろう?」 あくまで能天気な5号である。 目に付くところの生徒は全員戻し終わったのだが……奇妙なことに探知機にはまだ反応がある。 はて? 更衣室は言うに及ばず、トイレまでくまなく回ったのに―― 探知機を頼りに、ようやく体育館の裏に辿り着く。 「ああ……いたいた、最後の一人。ふーん……それにしても、こりゃまた随分マニアックな趣味だなあ。 こんな陰気な大男が “理想の異性”? まあいいか。……元に戻してあげよう」 “還元” 作業に入る5号。間抜けなように見えても、彼もまた “ハンター” なのだ。 「えーとまず身長を縮めて……うん、このくらいかな。 ……でもっておっぱいを、更にお尻をぷっくりと……よしよし。 女の子だからウェストを細くして……と。でもってオ○ン○ンはいらないから無くして――」 テキパキと作業を進める5号。 「髪も思いっきり長くしてあげよう……って復旧作業だから元に戻してるだけなんだけどね」 相手が寝ているのを良い事に、独り言がやたらと多い。 「……まあ、こんなもんかな」 そこにはだぶだぶのスーツにくるまれた美少女が眠っていた。 「そうだな、折角だからサービスしてあげよっかなーっ」 ニコニコする5号。「……制服なんて毎日着てるでしょ? だから……よし、白雪姫もびっくりの綺麗なドレスをば――」 少女は雪のようなドレス姿となった。 “姫” らしくティアラや、お化粧も忘れていない。 「……コンクリートじゃ可愛そうだよね」 目の前にベッドを出現させ、5号は少女の身体を優しく抱え上げると、そのふかふかの布団に横たえようとした。 「……うーん、ちょっとサービスし過ぎかな……まあいいや、とにかくこの辺で――」 その時だった。 慣れないことをするもんだから、5号はベッドの縁に思いっきり蹴つまづいてしまうっ! 「……わわっ!」 バランスを崩した5号は、自らが作り上げた “白雪姫” めがけて一直線に倒れこんでしまうっ! むにゅり! 思いっきりその胸に手をつき、おっぱいを鷲づかみにしてしまうっ!! しかも…… 「んんっ!」 よけきれずに、そのさくらんぼのようなくちびるに5号のくちびるが「ぶっちゅ〜っ」と押しつけられたっ! 次の瞬間……“姫” は目を覚ました。 「……で、結局引き篭もっている――と」 「はあ」 「5号は大丈夫なのか?」 「とりあえず当分入院です」 「全く……折角あと一歩というところだったのに――」 「まあその……5号のアホが定時連絡をぜんぜん行っていなかったみたいで……」 「無事に戻ってきただけでもよしとするか」 「いやその……今度は『女子高生』になってますから……」 「何だ」 「年齢がちょっと上がったみたいなんで――」 「……そうか。じゃあ出せ。身体計測をやり直す」 |