←前へ 次へ→

ハンターシリーズ182
『ハンター組曲 1番「秋葉原のある1日:その1」』

作・ELIZA

 

8月30日、午前0時

「…何を読んでいるんだ?」
「今日送られてきた原稿に混じって、別の漫画のネームが入ってた。」
「へぇ、どんな?」
「続きものの最初の部分だけだったからよく解らないけど、構図もネタもいまいちだね。そもそも「神格」という特殊な用語の説明が何もない。」
「見たとこ、大きな×が書いてあるから、没ネームなんじゃないのか?」
「だと思う。明日…じゃないな、今日だ、とにかく朝にでも送り返すよ。」

8月30日、午前6時

変な夢を見た。
私は元々人間ではなかったのでその心は人間と異なり、それゆえに見る夢も人間のそれとは根本的に異なるのだけれども、それでもその夢の内容が不可思議にしか思えず、

「…私が“真城”様から任命された神格“留”? “留”様は理沙の信仰する神格のはずよ。」
「…ん。おはよう、おかあさん。」
「おはよう。起こしちゃったかしら?」
「おかあさんおかあさん、すっごくいいゆめをみたの。」
「へえ、どんな夢?」
「ははにあえたの!」
「そう、どんな人だった?」
「あのね、おかあさんだった!」

という朝の会話が始まった。それはすぐに理沙の祈りの時間を告げる目覚まし時計に邪魔されてしまったのだけれど、私が見た夢と奇妙に符合していたので、そのことについて考えざるを得なかった。
理沙は私のことを「おかあさん」と呼ぶ。それは私が理沙の母親だからというわけではなく里親である私がそう呼ぶように言ったからで、理沙は本当の母親のことを「はは」と呼ぶのだけれど、それが解っているからこそ理沙の話が私の見た夢と繋がった。
夢の中で私は人間になる前の姿でいた。この姿が神格“留”の本来の姿という設定らしく、春先輩や“真城”様が私を新入りの神格として扱ってくださったのだけれど、その中で神格“留”の「影」として現れた理沙が私を「はは」として泣きついてきたのだ。
私がどこにいるのかは全く解らなかったのだけれど、そこは神格達の会議の場で、私はそこで「自分の「居場所」が決まるまでの猶予期間の間、いわゆる「人間たちの世界」で定命の存在として暮らしたい」という願いを聞いてもらい、“真城”様に現在の姿を与えられた。
その後は全てが白線社に間違って届いた没ネームだったということにされて、そこで目が覚めてしまったのだけれど、奇妙な符合があって筋を通しうるので私には奇妙な現実感を持って感じられた。

「ふあぁ〜あ。」
「…あ、おはようございます。」
「おはよう。友ちゃん、舞ちゃん。理沙は今お祈りをしているから、邪魔しないで待っていてね。」

洗面所に行って顔を洗っていると、友ちゃんと舞ちゃんが起きてきた。2人は理沙の友人で、理沙と一緒によく「冒険」をするのだけれど、今日もその一環である。本当は3人だけで外泊して秋葉原周辺を1日「冒険」したいようだったが、それはいかに舞ちゃんの前世が立派な社会人でその能力が残っているとしても、保護者達からも社会からも許し難い行動であるので、私がついて行くことになったのだ。
とはいえ、私の役割はこのビジネスホテルの予約等、子どもではできない行為と一部の荷物を預かることだけで、2人の両親から面倒をみるよう頼まれているものの私は本当に3人を見守るだけですんでいる。この年齢の子どもでこれができるのは、やはり舞ちゃんが指導的役割を果たしているからだろうと、私には思われた。

「…そっか、理沙ちゃんは今“留”さまにおいのりをしているんだ。」
「“留”様って、「幸運」と「財宝」で「思わぬ失せ物の発見」を司る神格だったっけか?」
「そうよ。私も理沙に聞いたくらいしか知らないんだけどね、生まれたての神格で、理沙以外に信じている人はいないんだって。」

話している間にも、私の中には温かいものがこみあげてきていた。理沙が“留”様に祈りをささげている時間は、何かは解らないけれど私の中にも温かいものがこみあげてくるので私が一番好きな時間なのだけれど、先の夢が真実だとするならば全てが繋がってしまうように感じられた。私が一時の間人間として暮らしている神格であるならば、神格としての能力や知識を持ち合わせていないことは合理的であるし、理沙が“留”様に祈りをささげることで私に祈りのエネルギーが届くのも納得がいく。
しかし、夢の内容が本当だとすると理沙は私から生まれたことになる。それ自身は理沙の言葉と合致し、私と理沙がよく似ている理由ともなるのだけれど、私は理沙を生んだわけではないし、そもそも私は男性を知らない。イルダのお嬢ちゃんの話によると「影」は神格の性質が他のものを拠り代とすることで生まれる分身だから自分が理沙を生む必要はないのだけれど、それでも私には受け入れにくいことに思われた。
それに、神格達の会議の場で話し合われていたその他の話題もにわかには信じがたいものだった。“真城”様とその臣たる多頭の神格、その頭の幾つかは眠っているのか喧々囂々の議論をしているのか、その様子を窺い知ることは出来なかったのだけれど、少なくともその中の複数の頭が、自分らは十分な影響力と権力を行使できるようになったので、春先輩、夢の中では神格“春”と呼ばれていたが、と神格“黒”、そして現在の“真城”様の「影」に、それぞれの「役職」を続ける義務がなくなったというのだ。春先輩は以前に神格“黒”との間にいざこざがあったのか、自分だけ神格を辞めることに対して抵抗を示されていたのだけれども、その問題はもう考えなくてよいと“真城”様が仰られたので、それから他の2柱と一緒にずっと考え込んでおられた。そのことが何を意味するのか、私には完全には理解できなかったのだけれど、とてつもなく大きな変化がこれから起こるのではないかと、私には思われた。

8月30日、午前7時

「…あ、おはよう。まいちゃん、ゆうちゃん。」
「おはよう。お祈りはもう終わった?」
「うん! …それでね、とってもいいことがあったの!」
「何?」
「あらたひいまほうをおひえてもらったの!」
「あらたしい?」
「あらたに、とかあらたなる、とかいうじゃない。だからあらたひい。」
「理沙、今は「新しい」だけ「あたらしい」というのよ。ずっと昔にね、「あらたしい」と「あたらしい」がごっちゃになって、それからずっと「あらたしい」は「あたらしい」になったの。」
「そうなんだ…うん、おぼえた!」
「…で、結局、その新しい魔法、って何なんだ?」
「いろいろあるんだけど、まずは『おみくじ』!」
「大きち、とか出るの?」
「うん! それでね、“りゅう”さまのこえがちょくせつきこえるんだって!」
「よかったね。」
「神託系の魔法か…使いどころによっては便利だな。他には?」
「かいふくまほうのい力が上がったから、しんひの人を一きにめざめさせたり、どくのえいきょうをやわらげたり、人のひびれをせいぎょひたりできるようになったよ。」
「どくをなくすことはできないの?」
「ごめん…ゆうちゃん、まだそこまではできない。」
「それでも凄いレベルアップだと思うよ。ところで、回数は?」
「さっきいったレベルのが2と1かいで、ほかはかわらないの。」
「了解。1回はやっぱり自由に使えないのね。」
「理沙、新しい魔法が使えるようになって嬉しいのは解るけど、まずはちゃんと身支度をしなさい。」
「は〜い。」

理沙が身支度をしているその間、私はあらかじめ繋いでおいたノートパソコンのディスプレイに目をやった。スクリーンセーバーを解除してタスクマネージャを見ると、ちょうど処理落ち状態から回復したところのようだ。「半田みぃ」の目覚めである。

「おはよう。みぃちゃん。」
「おはようございますぅ。イセリアさん。」
「早速だけど、例の白金先物、金先物、銀先物、銅先物のデータと、それらに関係するニュースを検索して表示してくれないかしら。」
「かしこまりましたぁ。」

タスクマネージャがまたノートパソコンの処理落ちを告げ始めた。今使っているノートパソコンは決して古いものではなく、それどころか現在一般個人が入手できるパソコンで右に出る物はない程の処理能力を持っているのだけれど、それでもほぼ完璧な音声入力と文章校正ができるだけの人工知能を持つ「半田みぃ」にとっては力不足だ。私は、彼女の元になった石川美依の製作者が、いかなる思いで彼女を作り上げたのかに思いを馳せていた。

「…何やってるんだ?」
「…「半田みぃ」に先物取引に関して調べさせてるの。」
「半田みぃ? なにそれ。31号じゃないの?」
「いえ、石川美依さんと共通のライブラリを用いた音声操作ソフトの方。本来は文書作成用なんだけど基本操作は一通り受け付けるから。」
「あー、あの「使いこなせる人間が両手の指で数えられるほどしかいない」ソフトか。…というか、組織以外で使っていいのか?」
「持ち出しに関しては何も言われなかったわよ? 「例の」が通じる時点で圧倒的に便利だし、セキュリティは堅いし、取引も任せられるから、使わない手はないわ。」
「相変わらずいい加減な組織だな…まあ、その重さなら流出しても問題は少ないという話はあるが。」
「…あのぅ。」
「あ、みぃちゃん、ごめんなさい。舞ちゃん、ちょっと席を外してくれるかな? ここから先の情報は知られるとまずいから。」
「…了解。」
「イセリアさん、大丈夫ですかぁ?」
「もう大丈夫。まずは今の私の持ちを確認したいわ。概数でお願い。」
「…概数で言いましてぇ、白金8000枚、金1000枚、銀150枚、銅1枚ですぅ。」
「ありがとう。データとニュースの方は?」
「…関連度順に、20件区切りでまとめましたぁ。」
「…なるほど。これだと白金と金は下げ足、銀はもどり足、銅はLME独歩高の反落ね。」
「…白金と金、銅を銀に買い替えですかぁ?」
「うーん、金はかなり高含みしているはずだから、買い込んでおきたいのよねぇ…今買い込むのはありえないけど。」
「…ではぁ、みぃの提案は却下ですかぁ?」
「白金は来月末までもどる気配はなさそうだし、銅は独歩高直前に買った後の反動安だからやるなら売り急がないといけないわ。ということで、金はそのまま。白金と銅を銀に買い替えるわ。」
「解りましたぁ。では、どの条件でどれだけ買い替えましょうかぁ?」
「そうね。買い上げのことも考えて、白金を…」

8月30日、午前8時

「理沙ちゃんのお母さん! まだですか?」
「…ごめんなさい、もう少し待ってて。」
「ゆうちゃん、これがおかあさんのおひごとだから、ひかたないよ。」
「あれがおしごとなの? パソコンにむかって話しかけてるのが?」
「うん、さきものとりしき、っていうんだって。」
「さきものとりひき? 舞ちゃん、分かる?」
「解るけど…説明は難しいよ?」
「大じょうぶ!」
「じゃあ説明するね…例え話になるけど、チョコレートが食べたい時に、同じチョコレートをそれぞれ1つ100円、120円で売ってるお店が並んでたら、どっちで買う?」
「もちろん、100円のおみせ!」
「そうだよね。買うときは安い方がいいよね。じゃあ、そんな状況で皆が同じチョコレートを食べたくなったら、チョコレートが売り切れる順番はどうなるかな?」
「100円で売っているお店の方が先に売り切れる。」
「すると、お店にあるチョコレートの数と比べてチョコレートを食べたい人が多いほど、チョコレートを120円で売っているお店で買わないといけない人が増えるわけだ。」
「…なるほど。」
「…わかった!」
「話は変わるけど、チョコレートの素って何か知ってる?」
「カカオ!」
「そうだね。じゃあ、チョコレート1つ分のカカオを商品のチョコレートにするのに10円かかるとして、チョコレートの値段を100円とするとカカオの値段はいくらかな?」
「???」
「理沙ちゃん、100円から10円を引けばいいんだよ。だから90円。」
「正解。じゃあ、チョコレートの値段が120円のときは?」
「…110円?」
「そう。でも、実際にはカカオの値段は変わるんだ。」
「どうして?」
「チョコレート屋とカカオ屋の関係って、チョコレートを食べたい人とチョコレート屋の関係と同じだよね?」
「…うん、そうだね。」
「じゃあ、チョコレートを1つ100円で売っているお店でチョコレートが売り切れになる半年前に、カカオ屋さんと「半年後、カカオをチョコレート1つ分100円で買います」という約束をしていた人がいたらどうなるかな?」
「…よく分からない。」
「チョコレート1つ分のカカオを商品のチョコレートにするのに10円かかるから、チョコレートが1つ110円になるんだけど…」
「…そうか! その人がチョコレートを1つ110円で売ればみんながそれを買うんだ!」
「そういうこと。」
「…でも、なんでそんなややこひいことするの?」
「皆がチョコレートを食べたくなる半年前に「半年後、皆がチョコレートを食べたくなるかどうか」なんて判らないよね?」
「…ぜんぜんわからない。なんではん年まえにはん年ごのことがわからないっていえるの?」
「そうか…理沙ちゃんは神託系の魔法が使えるもんね…友ちゃんは解る?」
「うーん、「90円で売れるか110円で売れるか分からないなら、100円で売ってもいいや」ってこと?」
「そう! その「これだけの後に、これこれをいくらで売り買いします」という約束を、先物取引、って言うんだ。」
「…でも、これって、間ちがえると大へんじゃない?」
「うん。でも、失敗すると大変になることを覚悟の上で先物取引をする人がいるから、物の値段が安定するんだけどね。」
「どういうこと?」
「あらかじめ「チョコレートを1つ110円で売る人がいる」ことが判っているから、チョコレートを食べたい人が増えたときにどさくさまぎれに同じチョコレートの大幅値上げをする人はいない、ってこと。」
「そっか。」

私がノートパソコンの処理が終わるのを待っている間、舞ちゃんは手を変え品を変えずっと友ちゃんと理沙の注意を引きつけてくれていた。舞ちゃんの話し方はかなり平易なものではあるのだけれど、それでもその話題は2人にとってはかなり難しいようで、十分に理解されているとは言い難かった。しかし、私には舞ちゃんが常々2人の成長を促そうとしていること、そしてその結果が実を結んでいることを感じないではいられなかった。

「うー、あたまいたい。」
「じゃあ、話を変えよう。…前の話が俺の成長報告だったから、次は友ちゃん、新しくできるようになったことを教えてくれないかな?」
「うん…まずね、あるきながらしないがぬけるようになったよ!」
「ゆうちゃんもできるようになったんだ! やったね!」
「あとね、北がどっちかも分かるようになったし、思いっきりジャンプしてもしりもちをつかなくなったよ!」
「凄いな! 大幅なレベルアップだ!」
「…やっと終わったわ。待たせちゃって、ごめんなさい。」
「じゃあ、早く朝ごはんを食べに行こう!」
「おなかすいた!」
「食堂って、2階だったっけ?」
「…そうみたいね。朝ご飯を食べ終わったらそのまま池袋駅に行くから、忘れ物がないようにね。」
「はーい!」

朝食が出される食堂はビュッフェ形式だった。とはいえ、選択肢はパンと形ばかりの惣菜、ドリンク類だけで、成長期の子どもにとっては決して栄養的に優れたものだとは言えない。安いビジネスホテルの朝食だから仕方ないことなのかもしれないけれど、私はそれを不満に感じていた。

「うわー、いろんなパンがいっぱいだ!」
「そうだね! どれにしようかな。」
「あー、皆、パンを取るのはちょっと待ってくれないか。」
「え、私も?」
「うん、ちょっと見せたいものがあるんだ。」

舞ちゃんはそう言うと、並んでいるパンを1つづつ自分のトレーの上に載せ始めたが、その量は到底1人で食べきれるものではない。人の分のパンまで取る行為を注意しようかとも思ったけれど、何か思うところがあるようなので、そのまま様子を見ることにした。

「そんなにいっぱい、食べられるの?」
「いっぱい? そうかな?」
「え!? あれだけいっぱいあったのに!」
「凄い手品ね、舞ちゃん。」
「ほい、これで元通り。…じゃあ、皆ここから好きなのを取ってね。」
「いただきます!」

舞ちゃんの手品には種はなかった。手先の早業だけであれだけのパンを消す手品をやってのけるのは見事なのだけれど、私の眼は隠したパンのうち幾つかを元に戻していないことを見逃すことはなかった。彼女の目的は最初からこれだったのだろうが、それを注意することは彼女の面目をつぶすことになるので、私は注意をすることができなかった。

「じゃあ、おかずを取りに行こうっと!」
「わたひはのみもの! …おかあさん、あのアップルティーのボタンをおひて!」
「はい、どうぞ。…舞ちゃんは何が飲みたい? ボタンを押してあげる。」
「いや、大丈夫。自分で押せるから。」

舞ちゃんはそう言うなり、80cm近くも飛び上がって一番上のカプチーノのボタンを押した。その高さは彼女の元の姿を知っている私でさえ驚く程のものであり、4歳児と言われても異論が出ないほどの彼女の体格しか見ていない人には彼女が吊り上げられたと見えたことだろう。古武術は肉体の力を存分に発揮させるという話を耳に挟んだことはあるのだけれど、それでもここまでの力を発揮させると彼女のまだ幼い肉体に大きな負荷を与えることになるのではないかと、私には思われた。

「まいちゃんは、やっぱりすごいね。わたしはむり。」
「人によって出来ること出来ないことがあるんだ…おっとと。」
「舞ちゃん、それは無理しないで。私が取ってあげる。」
「かたじけない。」
「ほんとだね。」
「でも、出来なくて悔しい、って気持ちだけは忘れちゃいけないぞ。そう思うからこそ、成長して他人を見返してやる、って気になるんだから。」
「そっか、ゆうちゃん、ひないとジャンプのことでくやひそうだったもんね。いっぱいれんひゅうしたんだろうな。」
「そうだね。だから、出来る人が出来ない人のことを笑っちゃいけないんだ。優れた方が劣った方を笑っちゃいけない。」

私は、この舞ちゃんの言葉をどこかで聞いたことがあったような気がしたのだけれど、それが小那覇舞天(おなはぶーてん)の言葉を解り易く言い換えたものであることに気づくまでほとんど時間はかからなかった。私は彼女の本来の姿について思いをめぐらさずにはいられなかった。

「舞ちゃん、今日は、朝9時にJR上野駅での待ち合わせなのよね?」
「ああ、今日は上野〜秋葉原で撮影だそうで。…悪羅悪羅って、こういう感じでいいんだよな?」
「うん、舞ちゃん、今日はすごくかっこいいと思うよ。」
「…ごちそうさまでひた!」
「さあ、早速出発よ。朝9時にJR上野駅だと、のんびりしてたら遅刻しちゃう。」
「…そうか、もうそんな時間か。」
「舞ちゃんと友ちゃん、理沙はホテルの入り口のところで待っててね。チェックアウトの手続きをしてくるから。」
「分かりました!」
「…これから先、特に電車や駅の中では、決してバラバラにならないこと。ずっと手を繋いでいてもいいくらいだ。」
「…なんで?」
「駅は広いし、日曜日は少しましになるとはいえ、この時間は非常に人間が多いから、あっという間に迷子になってしまう。」
「まい子になったら、ぼうけんはもうできなくなっちゃうもんね。」


←前へ 作品リストへ戻る 次へ→