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ハンターシリーズ184
『困惑の雪山』

作・makikakudayama

 

「どうすれば良いんだよーーーー」

 雪山に43号の叫びが谺(こだま)していた。




 ここは北陸の山間に位置する、秘密国家機関「ハンター」の保養所。秘密国家機関が保養所を所有していても良いのかとも思うが、暫く前の内閣官房長官が建設を発案、指揮して建設されたものである。自身の選挙区内、しかも自身や有力支援者が所有している土地にである。二束三文の山の土地をなかなかの額で国に購入させたので、官房長官当人や支援者達は相当儲けたというのが専らの噂である。
 更に、官房長官は建設を自身と関係の深いゼネコンや地元の建設業者に請け負わせて、票と資金を集めたという話である。総事業費を嵩上げする為に、屋外には1列だけとはいえスキーの為のリフトの施設等が、屋内には温泉浴場等が設備されている、今ならば無駄とも言われかねない「ハコモノ」である。

 折角保養所が有るとはいえ、本部から相当距離離れている所までいつ起るか分からない「華代被害」に対応しなければならないハンター達が、休みに来て良いのかという疑問も生じる所では有る。
 しかし、この疑問にはちゃんとした答えが用意されている。
 実はこの保養所にはリフトや温泉といった娯楽施設だけではなく、本部の設備には劣るが「華代被害」に対応する為の設備も整備されているのである。華代探知機は十台程度常備されているし、監視ルームや一応の指令室も存在している。けちな「ハンター」組織の付属施設にしては立派なものであると言える。其の為、ハンター達がここに保養にやって来るというのは理に適った事なのである。

 が、観光地として有名な麓(ふもと)の町から少し離れている点や本部から相当距離離れている為に移動に時間が掛かる点等から、一部のハンター達に不評であり、ここ暫くは慰安旅行の行き先とはされていなかったのである。

 然り乍らここの所、慰安旅行の行き先が連続して石川博士の「天竜島」だったので久し振りに北陸の保養所に行きたいとボスが言い出した為、今度の慰安旅行の行き先はここ、北陸にある「ハンター」組織の保養所、「雪花荘」に決まったのである。

 「雪花荘」には専属の職員も常置されているのであるが、大人数で訪れるとなると準備が大変な為、本部の職員の中から誰か先遣隊を選んで先に「雪花荘」の方に行かせ、準備に当たらせ様という事になった。
 だが、いざ誰を先遣隊に選ぶかの相談となった際には、準備は面倒臭そうなので、一人の立候補者も出なかったのである。
 そこに21号がいつもより尚不敵な笑みを浮かべながら登場し、
 「ボス、わてが良いもんを作りましたわ」
 と言って、上に穴が空いている箱をボスに差し出し、
 「この箱の中に、ハンター一人一人の名前が書かれている紙が入ってます。そやからボスが一枚引いて、其の人を先遣隊に選んだらよろしやす」
 と言い、ボスも納得したのであるが、其の場にいた43号は一瞬21号が自分の方をにやにやしながら見て来たので、嫌な予感を感じた。

 実は43号は、一ヶ月程前に、21号が「ハンター」組織の一般職員相手に自らが胴元と成り野球賭博を行っていた事を、
 「昨日の野球の試合の予想を外したので、今日は21号さんに5万円を払わないとだ」
 「俺は2万円の儲けだ」
 という一般職員の立ち話を偶々聞いた事から知り、ハンターガイストに21号を告発していたのである。
 依って、21号や他の野球賭博参加者達はガイスト達に捕縛され、ハンターガイストとボスの協議の結果、警察には突き出されなかったものの、野球賭博参加者達はハンターガイストから「御仕置」の上減給100分の25×三ヶ月に、主犯である21号は「御仕置」と減給100分の50×三ヶ月の上に懲罰房10日の刑に処されたのである。
 刑期を終えて出房した21号はどこから聞いたのか告発者が43号だと知り、逆恨みをしているとの噂も流れていたのである。其の為、21号に見られた43号は嫌な予感を感じたのであった。

 そして、其の予感は的中した。
 ボスは43号の名前が書かれた紙を引き当てたのである。
 21号が尚一層満面の笑みで笑っているのを見て、21号に嵌められたのを確信した43号ではあったが、ボスから、
 「それでは43号、先遣隊として頼んだよ」
 と言われてしまった為、最早抗議する事も出来ず、他のみんなよりも1週間早くハンター43号、伏部 良道(ふすべ よしみち)は「雪花荘」に派遣されたのである。




 しかし、派遣から5日が経ち、慰安旅行を2日後に控えた今日の時点で、準備は難航、頓挫しかかっていた。

 ここ「雪花荘」周辺は北陸の山間に位置するだけの事はあり、例年は数mの積雪の有る所である。
 しかし、今年は20年に一度とも言われる少雪の年であり、例年に比べればほんの僅かしか雪は積っていない。
 とは言え、薄いものの雪は積っているので、43号が「雪花荘」に到着した5日前には、「雪花荘」でスキーを楽しむ事も可能であった。
 けれど5日前から今日まで快晴が続き、気温も春並みの日が連続してしまった為、ただでさえ薄かった雪は溶けてしまい、スキーゲレンデは半分程雪が剥げ地面が露出しており、とてもスキーが滑れる様な状況ではなくなってしまった。
 本来こんな時に活躍するはずであったのが、石川博士が開発した「スーパー人工降雪機」である。一般的な降雪機の半分のエネルギーで2倍の速さの降雪を実現するという、スーパーの名に恥じぬ降雪機である。これが「雪花荘」には置かれている為に、2、3日快晴の日が続いても43号は焦らなかったのである。
 だが、昨日になって地面が所々剥げてきてさすがにまずいと思った43号が「スーパー人工降雪機」を動かそうとすると、何と故障していて動かなかったのである。
天才であるハンター14号、石川博士が作ったスーパーメカを他の人間が修理出来るはずもなく、又他の降雪機も「雪花荘」には置かれていない。それなら石川博士に修理してもらえば済む話では有るが、当の石川博士はここ2週間の間は国際学会や石川財閥の役員会等で忙しく、慰安旅行の出発直前にハンター本部に戻って来れ、何とか慰安旅行に参加出来るという状況なので、修理をしてもらう事は全く不可能である。
業者に問い合せてみたがレンタルの降雪機は少雪の為引張り蛸であり1ヶ月は貸し出しは無理だと言われ、快晴と春並みの気温の為に近辺の山の雪も多くは溶けてしまったので運んで来る事も出来無い。
「雪花荘」のメインは温泉とスキーであり、この内のスキーが楽しめないとなれば、準備を担当する先遣隊の43号が他の職員達から批難の集中砲火を浴びるのは火を見るよりも明らかである。
更に今回の慰安旅行ではハンター10号、半田 燈子に依る「スキー教室」が予定されていた為に、これが中止と成っては燈子ファンに依る暴動の恐れも十分に考えられるのである。
 故に、43号としては何とか「雪花荘」のゲレンデでスキーが出来る様にしたいのであるが、為せる策は無く、如何とも為難い状態なのである。

 其の為、43号は冒頭の困惑の叫びを上げているのであった。




 「お兄さーん、何か御困りですか?」

 困惑の叫びを上げた直後に、後ろからかわいらしい声が聞こえて来て、43号の背筋に寒い物が走った。
 恐る恐る振り返った43号は驚愕した。
 白い帽子に白いワンピース姿の9歳位の女の子がいたのである。

 「こんにちは、私はこういう者です」

 と言うと女の子は名刺を差し出して来た。其の名刺には言うまでも無いが、

 「 ココロとカラダの御悩み、御受け致します。 
               真城 華代         」

と書かれていた。

 43号はハンターの宿敵である、歩く自然災害、白くかわいい大魔王、因果律の改変者とも称される、真城 華代に話し掛けられてしまったのである。
 この事は、今まで華代に遭遇した事の無かった43号にとっては人生最大の恐怖であった。

 「私はまだ未熟者ですが、お兄さんの御悩み事を解決して見せます」

 「あ、うん、、、、、」

 43号は極度の恐怖と緊張の中で今取るべき行動を思案していた。
 (全力で走って逃げるべきか?。)
しかし、同様の作戦を取った32号先輩と57号は逃げ切れなかったらしい。
 (名刺を突き返して拒絶するべきか?。)
恐ろし過ぎてとても出来る訳が無い。

 「お兄さんの御悩み事は何ですか?。私に御聞かせ下さい」

 「う、うん、、、、、」

 次に取るべき行動が決まらないうちに、華代ちゃんから次の言葉を掛けられ、43号は項垂れてしまった。
 とここで、先程華代ちゃんから貰った名刺の文字が目に入る。
 すると、43号に一つの閃きが浮かんだ。
 (華代ちゃんが心と体の悩みを解決してくれるつもりでいるのなら、心と体以外の事が悩みであると伝えれば良いんだ。そうすれば、自分の専門外の悩み事だと思って諦めて帰ってくれるかもしれないし、もし今のこの先遣隊としては苦しいゲレンデの状況を改善してくれるのであれば、正に渡りに船だし。)

 「うん、実はね、明後日からここ雪花荘に職場の仲間達が慰安旅行に来るんだ」

 「わあ、それは楽しそうですね」

 「そう、みんな楽しみにしているんだ。そして、僕は先遣隊としてみんなより早くここに来て、慰安旅行の準備をしているんだ」

 「御苦労様です」

 「有り難う。でも困った事が起きちゃったんだ」

 「それは何ですか?」

 華代ちゃんは目を輝かせながら、尋ねてきた。

 「ここの売りは温泉とスキーなのに、スキーのゲレンデが見ての通り、雪が剥げちゃってとても滑れる状況じゃないんだ。御負けに人工降雪機が故障しちゃって、ゲレンデの雪を増やす事も出来無いから、このままじゃスキーが出来無くてみんなをがっかりさせちゃいそうなんだ」

 「それは確かに御困りですね。分かりました。私が何とかして解決して見せましょう」

 「本当に有り難う。だから人工降雪機を直してくれると悩みが解決す、、、、、」


 「冬、山、雪不足、、、、、、うーんと、どうしようかな。あ、そうだ、この前りくちゃんと読んだ昔話にちょうど良い御話があったわ」

 と言って、手を打つ華代ちゃん。

 「え、昔話?。そうじゃなくて、人工降雪機の方を、、、、、、」

 43号に再び冷や汗が走る。

 「大丈夫です。良い案が思い浮かびましたので、早速実行します。それっ!」

 と言って、突き出して来た華代ちゃんの両手から白い光が溢れ出し、43号は其の白い光に包み込まれたのである。

 白い光に包まれた43号の体が変化を始める。

 まず、髪の毛の色が黒から白に変わるとそれが腰の辺りまで伸びて来る。
 更に、身長が少し縮み其の分だけ目線も下がる。
 次に、元々少し痩せている方であった43号の肉付きが全体としてよりスリムに成る。
 一方で臀部は大きく成り、其の対に成る様にウエストは括れを作り出す。
 体全体としてはスリムなのに、43号の胸が大きく膨らみ出す。
 又、腕は細く成り、肌全体が真っ白に成って行く。
 そして、慌てて股の方に手をやるとそこに有るはずのものが無く成っていた。

 「え、まさか!、て、何!」

 驚いて上げる自分の声でさえも聞き慣れたものではなく、高く澄んだものであった。

 「お次は仕上げですね」

 と華代ちゃんが言うと、着ている服装が変わり始める。

 始めに、トランクスがショーツに変化しぴったりと張り付いてくる。
 続いてシャツが晒しに変化して豊かな胸に巻き付く。
 そして、着ていた上下グレーの作業着はベルトが消失し、一つに繋がる。更に色がグレーから白に変化すると共に、生地が合成繊維から絹織物に変わる。色と生地の変化が終ると、白一色と成った服に薄い水色の模様が入り、服と同じ白の帯が腰に巻かれる。

 43号はあっと言う間に作業着姿の青年から、和服姿の見た目高校生位の美少女に変身させられてしまったのである。
 和服は少し膨よかな方が似合うとされる中、変身させられた43号はスリムであり、尚且つ和服は胸が慎ましい方が似合うとされる中、現在の43号は巨乳と成っている。それでも今の43号に白の和服が良く似合っているのは、華代ちゃんのセンスの良さに依るものと思われる。

 「よーし、昔話の通りに完成ね」

 ぽんと、手を打つ華代ちゃん。

 「何で、、、、、」

 呆然とし涙ぐむ43号。

 「これで降雪機が壊れちゃっても、自分で雪が作れますね。それじゃ準備頑張って下さい」

 そう言い残すと華代ちゃんの姿は、呆然と佇む43号を残し消えて行った。

 暫くの沈黙が流れた後、雪花荘のスキーゲレンデには、

 「どうすれば良いんだよーーーー」

 と言う本日二度目の、雪山で綺麗な白髪に白肌で白い和服姿の、誰がどう見ても 「雪女」 に見える43号の叫びが谺していた。




 「それで、華代に遭遇して43号は雪女にされてしまったと」

 ボスの確認に対し、

 「はい、其の様です」

 と、部下Aが頷く。

 ショックから雪花荘のゲレンデで倒れていた所を雪花荘の職員に発見された43号は、連絡を受けて駆け付けたいちご達に依って本部に収容され、100号に依る検査、診察を受けたのである。

 「100号からの報告に依ると、43号は見た目だけでなく雪女の能力も付与された様です。口から冷気を吹いたり、手で触れたりして対象物を凍らせたり、自分の周りに吹雪を巻き起したり出来る様です」

 「そうか。じゃあ43号だし雪女だから、43号の新しい名前は、
   半田 白美  だな」

 「分かりました。手続きを進めます」

 「それで43号は今どうしてる」

 「100号の検査に依ると、身体に不調は無かった様なのですが、ショックがまだ強いらしく、100号の医務室で寝込んでいます」

 「よし、今から叩き起して、雪花荘に戻らせ、能力の実証実験を兼ねて雪花荘に雪を降らさせてみろ。今回の一件で延期に成った慰安旅行は、当初の予定の一週間後に行うから、雪女の能力を使って準備に当たる様に伝える様に」

 「えーー、、分かりました。(酷)」

 「それから慰安旅行参加予定者全員に伝えとけ。慰安旅行の再延期は行わないし、参加取り止めの者からはキャンセル料として代金の80%を徴収すると」

 「色々と鬼ですね」

 





 後書き

 初めまして、makikakudayama と申します。今年の3月末からの俄ハンターシリーズファンですが、宜しく御願い致します。
 拙い文章ではありますが、最後まで御読み戴き有り難う御座います。
 本筋に入る前の前提説明に多くの文字数をかけてしまった様にも感じ、反省すると共に、文章を書く事の難しさを痛感しております。
 この話に登場させました、43号及び雪花荘につきましては、御気に召しましたら皆様も御使い下さい。
 43号の能力とジオーネの能力が被ってしまう様にも思いましたが、43号は雪女にさせられてしまったのであり、妖精ではないので良いかなと思い、書きました所存です。
 この話は慰安旅行の準備の話ですので、慰安旅行本体の話も近々に作成したいと考えております。
 それでは皆様宜しく御願いします。


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