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ハンターシリーズ104『いちご・ふたたび』 作 ・天爛

ハンターシリーズ104
『いちご・ふたたび』

作・天爛

イラスト:高野透(旧名:ムクゲ)さん (URL

 


 いまは5時間目・数学、折角いちごさんにして貰った宿題 ―― あっ、今のオフレコでw ―― を忘れてきた事に気付いたの。
 下手な事言ってぼろ出すのもなんだし、とりあえずホントの事を言った。
 まあ、信じて貰えないのは目に見えていたんだけど……

「で、その異世界にプリントを忘れたと?」
「はい……」
「ふぅ〜ん、なるほど――」
「ほ、ホントなのっ!! 信じてくださ――」
「じゃあ、しゃあないか……」
「――えっ? 信じちゃうの?!」

 嘘だと否定されるとばかり思っていたあたしは、思わぬ肩透かしをくらい、逆に聞き返してしまう。

「えっ、だって、ホントなんだろ?」
「そりゃ、そうですけど……」
「……まあ、ありえない話じゃないし。――ねぇ?」
「いや、普通は信じられないでしょっ?!」
「まあ、そうなんだけど。でも、確かに本当かどうかの確証はないけど、嘘という確証もないし。それに……」
「それに?」
「愛しの緋稜が愛する僕に嘘つくなんて考えられないしね」
「「おお〜」」

 いい加減なことを言うバカ教師・秀作 代五(ひでさく だいご)と、その大段発言に沸くクラスメート達。
「ぶっ!?」

 そして思わず吹き出すあたし。
 何とか気を落ち着かせ、幽かな殺気を隠しつつ質問する。

「……先生、質問いいですか?」
「ん〜、違うぞ。『ダイゴお兄ちゃん』だろ。ヒ・イ・ツ・?」

 ――ビシッ

「……もう一回いいます。秀作先生、質問いいですか?」
「もう、ヒイツはつれないなぁ」

 ゴゴゴゴ……、あたしの殺気が膨れ上がる。
 だが、その対象であるバカ教師はそれに気付いた素振りを見せず言葉を繋げる。

「で、質問ね。はい、どうぞ」
「……いま、だ・れ・が、だ・れ・を、愛してる、って言いました?」
「もちろん、君、い・ち・ご・ひ・い・つ・が、僕、ひ・で・さ・く・だ・い・ご・を、じゃないか」
「……根拠は?」
「んー、いろいろあるけど……、取り敢えず、ひとつ屋根の下に住んでる?」
「「おお〜」」
 教室中がバカの爆弾発言、と入ってももう何回も言ってるからそれほど破壊力はない。
 感情を感じさせない抑揚のない言葉であたしは返す。

「……同じマンションの同じ棟の別室ですから、ひとつ屋根の下といえばそうですけどね」

 そう、あたしとこの馬鹿は同じマンションに住んでいる。
 言うまでもないが、同棲してるわけなんかなく、もちろん別々の部屋だ。

「んじゃ、今日、僕の為に作られた手作り弁当を持って来てくれたというのは?」
「「おお〜」」
「……純ちゃんに持っていってくれと頼まれたからです」

 純ちゃんってのはこの馬鹿の妹。あたしと純ちゃんは仲がいい。
 そう、よく一緒に遊びに出かける位に。
 たまに、この馬鹿が忘れ物したときなんかに忘れ物を持っていくように頼まれたりもする。
 そう、今日の弁当もそれ。

「裸を見せ合った仲」
「「おお〜」」
「……それ、あたしが赤ちゃんだった時の話ですよね?」

 認めたくない話、あたしとこの馬鹿は俗に言う『幼馴染』だ。
 で、あたしが赤ん坊の頃に、一緒にお風呂に入った事があるらしい。
 ……もちろん、あたしは覚えていない。

「さて、僕達が相思相愛なのを再確認した所で……」
「いつ確認したんですかっ!!」

 もうムリ。キレちゃってイイデスカ?

「僕の胸に飛び込んでおいで」

 プチッ――あたしの中の何かが切れた。
 馬鹿が手を広げて、あたしが飛び込むのを待っている。
 あたしは席を立ち、一瞬でその胸に飛び込むと……
 ドガッ――その瞬間、馬鹿がぶっ飛ぶ。

「「「おおぉぉ〜」」」

 今まで以上の歓声が沸く。
 多分、クラスメートみんなの目にはあたしの右コブシからは煙が上がっている様に見えているのだろう。
 その気になったあたしもコブシに息を吹きかけて煙をかき消すと、席に戻った。
 席に着くとすぐに隣の席のよっこが、半分呆れ顔で声を掛けてきた。

「あんた達、いつもながら、よくやるわねぇ」
「ん〜、今日は回転が足りなかったし、鳩尾から外しちゃったから、すぐ復活すると思う……。ん〜、スランプかなぁ?」

 実はコレ、始業式以来、数学の授業での恒例と化している。
 それも、みな非難するどころか、待ちわびてる節もあったりする。
 もう何十回と繰り返された事だから――される方も何事もなかった様にすぐ復活するし。

「んじゃ、折角だから、今日はその嘘だと言えない理由についての話しよう。君達、『帰納法』って知ってるかな?」

 ……こんな感じに。

◆◇◆◇◆

 キーンコーンカーンコーン
 授業終了のチャイムが鳴った。

「んじゃ、今日はコレまで。あと、ヒイツ」
「はい?」
「分からない箇所あれば、僕んちに来たら教えて上げるから」
「ありがと。でも出来ちゃってるもんね」

 んべー、あっかんべをするあたし。

「あっ、なんなら、夜の方m」――ゲシッ

 バカが全て言いきる前に飛び回し蹴り。
 授業は終わったから遠慮する必要もないし、だから全力で。
 それにコークと違って命中率高いの。もう百発百中。顔面から外した事ない。

「ぐふっ。ヒイツ、ナイス・パン」――どさっ

 バカ教師が台詞を言い繰る前に倒れる。

「ふっ、まだつまらぬ物を蹴ってしまった……」

 スカートに付いた埃を払いつつ一人心地。

「ひいつ〜、次、教室移動だよぉ〜」
「あっ、待ってよぉ。よっこ」

 で、この馬鹿はこのまま死体放置。
 まあ、休憩時間終わる前には復活するでしょう。うん。
 そういえば……

「とうして、この馬鹿は回し蹴り食らわしたとき、パンチって言うんだろ? よっこ、なぜか分かる?」

 よっちが驚いた顔であたしを見て、ホントに気付いてないのとでも言いたげな表情。
 すぐに、ため息付いた後、あたしの肩に手を置いて……。

「気付かないって、平和だねぇ〜」
「えっ? ど、どういうことぉ〜?!」

◆◇◆◇◆

 と言うわけで放課後。……どういう事でかは聞かないでね? 意味は無いから。

『………………』

 と、取り敢えず放課後ったら放課後なんですっ!!

◆◇◆◇◆

 あたしは、一旦、家に帰って着替えってから、この前華代ちゃんと出合った公園に来ていた。
 なぜって?
 だって此処が一番華代ちゃんに会えそうだもん。
 もちろん、そんなに簡単に事が運ぶわけもなく、華代ちゃんはいない。
 仕方なくこの前貰った名刺を見ながら華代ちゃんに電話してみる。

 ――ピッ、ポッ、パッ、ピッ、ポッ

「呼びました?」
「うわっ?!」

 電話かけた瞬間、というか、繋がる直前に後ろから華代ちゃんに声を掛けられました。
 タ、タイミングぴったり過ぎてぴっくりした……

「なにかお悩みですか?」
「えっと、その前に何時の間に?」
「そんな事どうでも良いです。で、何かお悩みですか?」
「いや、どうでも良いって……」

 言おうとして、そこで言葉が詰まる。
 華代ちゃんがこちらを睨んでいる、ううん、睨んでる所じゃありません。
 ガンをつけていたんです。――なんか今日の華代ちゃん怖い……

「ううん、なんでもない……」
「なんでもないなら呼ばないでくださいっ!」

 うう、やっぱりこわいよ〜。

「あっ、いや、そうじゃなくてね。用事はあるのよ。うん」
「じゃあ、さっさと言ってくださいっ!!」

 そんなに怒鳴らなくても良いじゃない……

「あっ、えと、また、いちごさんに会いたいなぁって」
「分かりましたっ! なら、あたしは行けないんで、お姉さん一人で行ける様にしますっ!!」
「あ、それだとあたし戻れなくなるんじゃ……」

 それに、この前は一緒に……って睨まないでよぉ。

「大丈夫ですっ! 代わりに今度から一人でも行き来できるようにしましたからっ!!」
「えっ、ホント?! どうすればいいの?」
「踵をトントンと二回鳴らすんですっ!」
「うん、わかった」
「……、わかったらさっさとやるっ!」
「う、うん」

 うう、やっぱり華代ちゃん、この前と雰囲気が違うよ。
 ぎろっ。華代ちゃんが睨みつける。
 はいはい、そんなに睨まなくてもやりますよ……。
 えと、踵を2回――あっ、『オズの魔法使い』か……。踵をトントンっと。

「あっ、あと、戻るには……」

 その瞬間、何か言いかけた華代ちゃんの声がフェードアウトして気付いた時には、違う場所にあたしはいた。
 この前華代ちゃんに連れて来られたグリョグリョした感じの……。え〜と、どう呼べばいいんだろ……。
 異次元空間? ……異次元空間で良いよね? ほかに思いつかないし……。うん、異次元空間に決定♪
 という訳で、その異次元空間にいました。
 ……で、え〜と、これからあたしはどうすればいいの?

◆◇◆◇◆

「あっ、あと、戻るには……って、行きましたね。説明まだですがまあ良いです。待ってる時間も勿体無いですし! という事であたしは次行きます! 後は自分で考えてくださいね! ではっ!!」

◆◇◆◇◆

 と、取り敢えず、もう一度、踵を鳴らす?
 トントン。……何の変化もない。え〜と……、ま、前みたいに歩けば付く、のかなぁ……、付くと良いなぁ
 そう自分に言い聞かせて、とぼとぼとあたしは歩き出す。
 にしても、今日の華代ちゃん。変だったなぁ。
 なんかすごく急いでた様だし。
 昨日はもっと落ち着いてた気がするだけどなぁ。……もしかして別人。
 ……あはははは、そんな訳ないよね?

◆◇◆◇◆

「お待たせしました。おねーちゃん。って、あれ? いない?」

 あたしが公園に来たときにはもうおねーちゃんは居ませんでした。

「えと、何で?」

 不可解に思い周りに見回すと一枚の紙切れが。……あれっ、これ、名刺?
 その名刺を手にとって繁々と見る。あたしの名前が書いてある。でも、これ、あたしのじゃない。

「え〜と……88947110(ハヤクシナイト)番という事は……。あぁ、彼女が来たんですね。……彼女、慌てん坊だから、ちゃんと説明できたか心配だなぁ……」

◆◇◆◇◆

 華代ちゃんの事を考えて適当に歩いていると不意に、視界が変わりました。
 ぱっと見じゃ判らないけど多分ここはいちごさんが世界、だよね?
 なんか証拠があれば。そう思ったら、ちょうど良い所に顔見知りが。あれは宇佐美ちゃん――じゃないよね、ウサ耳があるから。
「リクさんっ♪ こんにちは♪」
「い、いちご?! どうしたんだ、女の子っぽい格好で!!」
「えっ……?」
「もしかして、とうとう精神まで書きかえられちまったのか?!」
「……あっ、そっか」

 私は暫く悩んだ後、ぽんと手を打ちました。

「違いますよぉ〜」

 私は手を振りけらけらと笑った。

「あたしです。緋稜(ひいつ)です。ほら、昨日も来た」
「あっ、あぁ〜! お前、あの緋稜なのか!! いちごから帰ったとは聞いてたが、どうやって来た? いやその前に、お前、女に戻れたのか?!」
「はい♪ 華代ちゃんに頼んで」
「じゃ、じゃあ俺もお前の世界の華代に頼めば……」

 あれっ? あたしは華代ちゃんにまた来れるようにして貰ったって言いたかったんだけど……。もしかしてりくさん、勘違いしてる? ……まっ、いっか。

「あっ、それは……」
「だ、駄目なのか?」
「……はい。昨日いちごさんも頼んでたましたけど、なんでもこっちの世界の被害者は戻せないみたいですよ?」
「……そうなのか。……ちっ」

 えっと、リクさん? 舌打つ音が聞こえましたよ?

「で、今日はどうした」
「あっ、それは……」

 忘れた宿題を取りに来たとは言えないし……

「えと、航時法違反になるんで。じゃ駄目ですか?」
「なんじゃ、そりゃ。……まっいっか、大方、昨日忘れた宿題を取りに来ただろ?」
「う゛っ。こ、航時法違反ですぅ〜」

 い、いちごさぁん、ばらさないでよぉ〜。

「まぁ、とりあえず、いちごに会いに行くんだろ? 俺は暫くここにいるつもりだが一人で行けるな?」
「はい♪ ちょうど、学校がある所にあるんで問題ないです」
「そうか、それは偶然だな」

 それから、あたしはりくさんに別れを告げて、ハンター本部の方に向っていきました。
 ふと後ろを振り返るとりくさんは、一人でブランコに乗ってるました。
 なぁ〜んだ、りくさんも宇佐美ちゃんと一緒でブランコ好きなんだ……

◆◇◆◇◆

 ハンター本部の方に向っていると、また見知った顔が……
「こんにちわ、千景ちゃん」
 ……あっ、知ってるって言っても私の世界でであって、こっちの世界じゃないんだった。
 えと名前あってるよね?
「ああ、いちご――ん? 君、いちごじゃないな? かと言って、未来でもない」
「って、やっぱわかる? さすが名探偵♪」
「いちごがそんな女の子っぽい格好する可能性はかなり低い。ないと言っても過言でもないだろう。それに私に対する呼称も違かったからな」
「へぇ〜、やっぱ、わかるんだ」
「まあな」
「……にしても、やっぱり千景ちゃんのそっくりさんも居たんだ」
「うむ? 私のそっくりさんとな?」
「あっ、それは……」

 思わず口を塞ぐあたし。そう言えば、あたしの世界の事はあまり言わない方がいいって言われてたんだっけ……

「こ、航時法違反という事で……」
「なる程、そういう事ならば、何も聞くまい」
 さすが、千景ちゃん。何も言う前に判っちゃったみたい。だてに美少女探偵やってるわけじゃないよね♪

「あっ、いちごさん知らない?」
「いちごか、今日はまだ見てないな。たぶん自室にでも居るのだろう」
「ありがとう、千景ちゃん。じゃあ、言ってくるね」

 私は千景ちゃんに別れを告げていちごさんの部屋に向うことにしました。
 そんなあたしに千景ちゃんのボソッと呟いた声が聞こえるはずもなく……

「しかし、異世界のいちごか。……だとすると、その事はあまり深く聞かないほうが良いだろうな」

◆◇◆◇◆

 と、言う事でやってきました、いちごさんの部屋♪

「どういう訳かは聞かないでおこう。……長くなりそうだし」
「えぇ〜、そんな事言わず聞いてくださいよ〜。いちごさ〜ん」
「えぇ〜い、うるさい。無駄話をしに来たんならとっと帰れ」
「うぅ〜、そんなぁ〜」
「そんなもこんなもない!」
「しくしく。い、いちごさんが冷たいよぉ」
「泣いても知らん」

 うじうじ……。思わず床にしゃがみこみのの字を書くあたし。

「と、おちょくるのはこれ位にして……」
「はい♪」

 あたしの切り替えの早さに、いちごさんは頭に手を置き深くため息をつきました。

「はぁ、で、用事はこれだろ?」

 いちごさんにはあたしの目の前に数枚の紙切れがあった。え〜と……

「……あっ、宿題。」
「その一瞬の間は一体……」

 あう。

「もしかして、忘れてたとか言わないよな?」
「ワスレテナンテナイデスヨ?」
「……セリフ、棒読みだぞ?」
「ソンナコトナイデスヨ?」
「ホントに忘れてたな……」

 あ〜、今日は空が青いなぁ

「……はぁ〜。まあいい」
「ですよね♪」

 がくっ。いちごさんが思わずこける。

「た、立ち直るの早いな」
「そんな事、いちいち気にしてたら、今時の女子高生なんてやってられないですよ」
「そっ、そうなのか……」
「そうですよ?」

◆◇◆◇◆

 その頃、ボス達……

「ボス、15号がまた来ました!!」
「なに?! ホントか」

 部下Aの報告に思わず椅子から立ち上がるボス。

「はい」
「よし、これで昨日申請した15号の戸籍が無駄にならずに済む。……最近、戸籍代もバカにならないからな。よしよし」
「あ、あの〜。妙な損得勘定の最中で言いにくいんですが……」
「妙なとはなんだ、妙なとは!」

 ボスが一言の反論を返す。その顔にはふでぶてしい笑顔が浮かんでいた。

「で、なんだ?」
「はい。それが今回、元の姿で来たらしく……」
「と言うと……?! いちごの姿、女姓かっ!?」
「はい」
「もう1つ戸籍を用意しないとイケないのか――辛いな……、懐が。」
「辛いですね……、懐が。」

 天を仰ぐボスと部下Aであった。

◆◇◆◇◆

「ところ、で名前はなんだっけか?」
「わたしですか? 私の名は……」
「だれが、お前の名前を聞いた。15号の名前だ。15号の。」
「(ちっ。)15号でしたか。確か……」
「おいっ、舌打ちが聞こえたぞ。いくら名前を言う絶好のチャンスを潰されたからって、それは……」
「イチゴじゃなくて……」

 無視かよ。そうボスが呟いたのを知ってか知らずかは部下Aは言葉を続ける。

「イチゴヒイツですよ。たしか」
「一(ひぃ)、二(ふぅ)、三(みぃ)、四(よぉ)、五(いつ)……。一・五(ひ・いつ)かそのままで行けるな」
「ですね……」
「おまえ、漢字でどう書くか知ってるか?」

 部下Aは静かに首を横に振る。

「……カタカナでいいか。その方が分かりやすいし」
「そうですね」

 そんなこんなで、あたしのこの世界での名前は、男の時『半田壱吾』、女の時『半田ヒイツ』と言うことになった。
 改めてよろしくね♪

◆◇◆◇◆

 いちごさんと世間話でひとしきり盛り上がった後、前の時と華代ちゃんの様子が違った事に話が行きました。

「と言う訳なんですよ〜」
「それは別の真城華代だな」
「別の、ですか?」
「推測でしかないが、事実こっちでも、同時刻に複数地点で真城華代が目撃されている例もあるしな。あながち、間違いじゃないだろ」
「やっぱり?」
「別世界の華代とはいえ、可能性は高いだろな」
「へぇ〜、そうなんだ」

 あたしはそう言いながら、時間が気になり時計の方に目をやりました。それに追随するいちごさん。

「もうこんな時間か……。そろそろ、帰らなくていいのか?」
「あっ、そうですね。って、どうやったら帰れるか」
「そう言えば聞いてなかったとか言ってたな。……来た時はどうしたんだ?」

 え〜と……

「確か、オズの魔法使いみたいにこうやって――」
「お、おい、ちょっと待て」

 実践して見せようとするあたしを、慌てていちごさんが制止しました。

「取り合えず、これを閉まってからにした方がよくないか?」

 そう言って、いちごさんが差し出した物は……あっ、宿題。

「ワ、ワスレテタワケジャ――」
「いや、それはもういいから」

 あたしの言い訳に苦笑するいちごさん。
 うぅ〜。

「別に笑わなくてもいいじゃないですか」
「あぁ、すまんすまん。ついな」
「つい、じゃないですよぉ」

 ぷくぅと膨れるあたし。

「まあまあ、それよりも来たときの方法試すんだろ?」
「あっ、そうでした……」
「おいおいしっかりしてくれよ」
「あはは、じゃあ行きます」

 あたしは宿題を鞄に仕舞い、トントンっと踵を2回鳴らす。
 その瞬間、あたしの目の前が暗くなったと思うとその瞬間、もといた公園に私はいました。

◆◇◆◇◆

 公園の中を見回すとベンチに見知った顔が。
 むこうも気付いた様で、ベンチから降りこちらに駆け出してきました。

「おねぇちゃん、おかえりなさいです」
「華代ちゃん。待ってくれたんだ」
「はい。説明がまだのようでしたので」
「あっ、そうなんだ♪」
「はい♪」
「じゃあ、ちょうど、お菓子がここに……」

 鞄をがさごそと探るあたし。
 そしてそのまま固まる。

「あれっ!?」
「ど、どうしたんですか?! なにがお悩み事ですか?!」

 突然の叫びに少し驚きつつも、『お悩み事』というところで目を輝かせる華代ちゃん。
 あたしは、自分のその声に恥ずかしくなり、鼻の頭を軽く擦りながら、ボソッと呟いた。

「えとっ、おかしを忘れてきたみたい……、たはは」
「あっ、それなら明日になれば取りにいけますよ?」
「今日じゃダメなの?」
「すみません、あの子が慌ててやっちゃったので、なんかいろいろと制限が掛かっちゃってるみたいです」
「そうなんだ。じゃあ、明日取りに行く事にするね。」
「はい♪」
「そう言えば、次からはあたし1人で行けるんだよね」
「ですよ。あっ、でも……」

 華代ちゃんの説明によると、いちごさんとの世界へ行き来するには制限があるみたい。
 まず、いちごさんの世界に行くのは、1日につき往復1回。
 いちごさんの世界から帰るには、いちごさんの世界で6時間経たないとダメ。
 その他、いろいろ華代ちゃんから話を聞いたあたしでした。


 翌日、お菓子を取りに行ったあたしは……

「だから、その姿で引き篭もるんじゃないっ!!」


 こんにちわ、真城華代です。
 あっ、そちらの世界の真城華代ちゃなくて、ヒイツおねーちゃんの世界の真城華代です。
 今回はヒイツおねーちゃんの異次元移動の能力について説明しておいた方がいいと思ったんで来させて貰いました。

 えと、まず移動方法ですね。これは簡単です。
 ヒイツおねーちゃんが踵を2回鳴らすと発動します。行きは1日1回、帰りはその世界に行ってから4時間後以降と言う条件はありますけど。

 あとは、最初に行った時と似た感じになってるようですね。稀に別の世界の情報に影響されて男の人になってしまうとか、行きは異次元を通って帰りは直通とかです。

 では、ヒイツおねーちゃん同様、わたし真城華代・NO.HNT63GOもよろしくです♪


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