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ハンターシリーズ116
『名誉挽回』

作・冥龍

 

ハンター基地近くの公園、2人の女性がいた。1人は、疲れた様子でベンチに寝転がっていて、もう1人は、不機嫌な表情をして、寝転がってる女性を見ている。髪の色のなどの違いを除けば、2人はそっくりだ。
「…あー…もー限界…」
「弱音を上げるな! まったく、少し運動量が増えただけでこれか!」
「…そんな…少しって…10倍じゃないですか…」
「細かいことは、気にするな、…今日の訓練はこれで終わりだ」
「あー…じゃあ、基地に戻りますか」
「そうだな、行くか」


ハンター基地内部、
「あー…、おばあちゃんが来てから、毎日、訓練、訓練、…これじゃあ、疲れるよ…、…カワイイ物…抱きしめたい…」
「95号、大丈夫か?」
「あ…いちご先輩…、…何でそんなに離れてるんですか?」
「いや…、やっぱなぁ…、ちょっと…」
「あーうー…、自業自得だけど…、悲しいな…」
「…まあ、…それにしても、何してたんだ?」
「…『1時間で出来る冥’Sキャンプ』です…」
「なんだ…? その、奇妙なネーミングは…」
「この世の物と思えない運動です…、あー、いちごセンパーイ!」
1号に抱きつこうとする95号、だが、
「うぉぉぉぉ! なにすんだ!」
「…えーん、良いじゃないですかー」
「いやだよ! …俺、用事を思いだしたわ…、じゃあな」
去っていく1号。
「あー、やっぱり、一部の人から怖がられてるなー、…どうしたら良いんだろう…」
「そんなあなたに、素敵なお知らせよ! クーゴちゃん!」
「おばあちゃん!? いきなり何!?」
「ボスさんが明日、お仕事がある言ってたの! ボスさんに頼んで、いちごちゃん達と仲直り出来る様にしたわ! だから頑張ってね、じゃあね!」
どこからともなく現れて、去っていく冥。
「びっくりしたぁ! …お仕事ってなんだろう?」


次の日。
「…りく、何で俺達が幼稚園の手伝いをしなきゃいけないんだ?」
「…俺に聞くなよ…」
「私達まで駆り出されたんだが…」
「俺に子守などできるのか…?」
「まあ、いちご先輩、りく先輩、千景ちゃん、疾風ちゃん、頑張りましょう! 他の人達も頑張ってるんですし、園児さん達を楽しませましょう!」
「95号…、お前、任務でも無いのに、良くやる気でるな…」
「本当だよな…」
「君に任してもいいか…?」
「俺も…」
「そんなこと言わないでください! てゆうか皆さん、なんで離れてるんですか!?」
「「「「いや、ちょっと…」」」」
「4人同時に、そんな事言わないでください! …とにかく、行きましょう!」

園内。
「みんなー、今日はお姉さん達がみんなと一緒に遊んでくれるよー、良かったねー!」
と、幼稚園の先生が、まるで教育番組の始まりのような挨拶をした。
「…あー、みんなよろしく…」
「…よろしく」
「…よろしくたのむ」
「…よろしくな」
「みんなー! よーろしくー!」
こんにちは、と園児達全員から大きな声で発せられる。


「よーし、じゃあ皆、何したい?」
「ヒーローごっこ!」
「おままごと!」
「おままごとなんてやだよ! ヒーローごっこが良い!」
「ヒーローごっこなんていやよ! おままごとよ!」
「うーん、困ったな…あ! そうだ、僕が怪獣になるから、男の子はヒーロー、女の子がヒーローの奥さん! どう?」
「賛成!」
「それにする!」
「よーし、じゃあ、早速遊ぼう!」

「ちかげ姉ちゃんのお菓子、おいしい!」
「うん!」
「そうか、それは良かった」

「スゴーイ! 本物のお侍だー!」
「ふ、つまらぬものを切ってしまった…」

「ただいま」
「おかえりなさい、あなた! きょうはどうします? ご飯? それじゃあ食べましょう! ほら、りくちゃんも」
「ああ…じゃなくて、うん」
「うん、うまいよ(俺は一体、何をしてるんだろう…)」
「おいしい、お母さん! (…どうしてこんな事に…)」

「ぎゃあー! やーらーれーたー、ばた」
「やったー! 怪獣をたおしたぞー、よし、家にかえろー」
「そうだなー」
それぞれ、シートの家に行く、ヒーローの男の子達。
「ぐわー、…はぁ…」

ハンター達から、少し離れた所に居る子供達の集まり。
「男がおままごとなんて、できるわけないだろー」
「私達だって、ヒーローごっこなんかしたくないわよー」
「女は、ヒーローの楽しさがわからなくて、ざんねんだなー」
「男こそ、おままごとの面白さがわからなくて、かわいそうねー」
「あのー、何か悩み事はありませんか?」
「ん? なんだよ、おまえー」
「あなた、だれ?」
「あ、私、こういう者です。」
突然、現れた白い服を着た女の子が、男女それぞれのリーダー格の子供に、小さな紙切れを出した。その紙にはこう書いてあった。
『ココロとカラダの悩み、お受けいたします
                真城 華代』
「なんだよ、これー、全然よめないよー」
「んー、わかんないー、みんなわかるー?」
「わかんなーい」
「やっぱり、読めませんでしたか? ごめんなさい、私は、ましろ かよ、って言います。で、なにか困ってないですか?」
「んー?」
「えー?」
「あっ、あった! 女子がヒーローごっこしないんだー」
「それなら、こっちだって、男子がおままごとしないの!」
「えーと、それは、男の子がおままごと、女の子がヒーローごっこすればいいんですね?」
「うん!」
「そうよ!」
「じゃあ、まかせてください! それ!」
華代ちゃんが手を上に掲げた瞬間、周りが光につつまれた。
「眩しい! あれ? 体が変だ!? 女の子になってるー!」
「あれ? どうして? 男の子になってる!」
「これなら、ヒーローごっこもおままごとも出来ますね! それじゃあ!」
去っていく華代ちゃん。
「うわぁーん! どーしよーう!」
「うわーん! いやだよー!」


「うえーん!」
「えーん! えーん!」
「…子供の泣き声!? なにかあった!?」
立ち上がり、泣いている子供の集まりに近づく95号、そこに広がる光景は、一見普通に見えたが異様だった。泣いてる男の子はズボンを穿いておらず、女の子はズボンを穿いていた。
「これは…? ねえ、君! どうしたの!?」
「ひぐぅ…、わかんない…、女の子が来て…光って…!」
「(……まさか,華代ちゃん!? とにかく、落ちつかせなきゃ!)…、みんな! こっちむいて!」
「え!?」
「なに!?」
「ハーハッハッハ! 私は悪の帝王、クーゴ! お前達を変えたのは私だ! 元に戻して欲しければ、かかって来い! いでよ、我が部下ども! 先輩たち! カモン!」
「なんだよ、95号」
95号は、1号達に顔を近づけ、周りに聞こえない声で話した。
「…華代ちゃんです、戦闘員のふりして、闘いながら、元に戻して上げてください」
「…そうか、わかった」
95号は子供達の方に向き直り、
「さあ、来い! ヒーロー達!」
「えっぐ! …うぉぉぉ!」
「ひっく! …いやぁぁ!」
「よ! それ!」
「おっと、ふっ!」
「ひょい、ひょい!」
「ふっ、はぁ! ほら!」
「それ! そっちだ!」
1号、6号、95号は、向かってくる子供たちを避けつつ、元に戻していき、千景と疾風は、1号達の方に子供達を誘導する。
「えーい!」
「やーあ!」
「ぎゃーーーー! …ヒーロー達よ、お前達の強さ、見せてもらった…、私を倒した褒美として、お前らを元に戻してやった…、…これからは…仲良くな……グフゥ…」
倒れる95号、そして元に戻った自分達を見て、子供達は大喜びしている。
「あ! 戻った!」
「やったー! 良かったー!」


昼過ぎ、教室の前の方で、再び、1号達が並んでいる。
「はい、今日一日、ありがとうございました! みんな、お礼を言いましょう!」
「「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」」
「いや、こっちこそ」
「まあ、またな」
「会えたなら、また会おう」
「じゃあな」
「…………」
子供達のお礼に、1号、6号、千景、疾風は返事をした。だが、95号だけは、俯いて、落ちこみぎみだった。
「クーゴおねーちゃん、楽しかったよ!」
「私達、これから仲良く遊ぶね!」
「…みんな…! ありがとう!」



基地への帰り道、5人は喋りながら歩いている。
「あー、今日は疲れたぜ」
「ああ、そうだな」
「まあ、良い経験には成ったよ」
「確かにな」
「…先輩達、最初は嫌がってましたけど、結構楽しんでましたよね」
「そうか?」
「そうですよ!」
「…まあ、細かい事は気にするな」
「それって、逃げてません?」
「そんな事ねぇよ!」
「お前らなぁ…」
「…ふふ、クーゴ、君は本当に面白い人だな」
「確かにそうだな、あんな事思いつく奴なんか、めったに居ないだろう」
「あのなぁ…」
「それって、褒めてるんですか? 笑ってるんですか?」
「さあね、どちらと思う?」
「千影ちゃん…それはないよー…」
「ふふ、ははははは!」
「ははははは!」
「ふふ、ふふふふふ」
「くくく、ははははは!」
笑い出す、1号、6号、千景、疾風。
「みなさん! なんで笑ってるんですか!」
「いや、わりぃ、面白くてさ」
「そうだな」
「本当に、その通りだ」
「ああ、まったくだ」
再び笑い出す4人。
「みなさん…ひどいですよ!(…でも、みんな怖がってない、…おばあちゃんと華代ちゃんに感謝かな?)」








ボスの部屋にて…。
「ボス、全員、帰って来たよう…って! どうしたんですか!? その格好!」
「ひっく、ひく、ぐす、ぐす」
部屋に入った部下Aが見た光景は、体操服にブルマの小学生位の女の子になって泣いていたボスだった。
「…ひぐ、…冥さんが、いきなり部屋に来て、途轍もない速さで基地内を連れ回されて、3号とすれ違って、…この部屋に戻ったら…、ひぐ、…笑顔で片手に銃もって、ハンター達を幼稚園でボランティアさせろって…」
「もしかして…昨日からですか!?」
「…うん、……怖いから、元に戻るまで一緒にいてくれ…」
「はあ…わかりました」



95号の部屋の近くにある、冥の部屋。冥は写真を見てるようだ。
「ふふふ、やっぱり可愛い子の泣き顔は、可愛いわ〜」
その写真に写っているのは、女の子になっているときのボスの泣き顔だった。
「クーゴちゃん、そろそろ帰ってくる頃ね…、仲直り出来たかしたら? 見に行っちゃお♪」



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