←前へ 次へ→

ハンターシリーズ117
『海へ行こう!』

作・マコト

 

 

どこか太平洋だと思われる海にぽつんと浮かぶ一つの島。

そこに、一隻の大型船が辿り着いた。

「うぉぉぉぉ! ここが博士の島かぁ! まさに秘密研究島って感じだわ!」

船から降りて来た真っ赤なロングヘアの美少女が、容姿に似合わぬ口調で感嘆の声をあげる。

焔の女ハンター44号・(自称)獅子村 嵐であった。

いつものようなスーツではなく、今回彼女は赤のタンクトップ黒のミニスカートというかなり派手なスタイルである。

「そいえばぁ、ネコさんははじめてなんですっけぇ、ここぉ?」

あとから降りて来たのは、緑の髪の少女。

どことなく人でないような、そんな不思議さが感じられる。

ハンター31号・石川美依。

アンドロイドでありながらとてつもなく人間くさい少女で、いつものノースリーブ姿であった。

「ネコ言うな、みぃ! あたしは嵐だってば! ――そうね、初めてだわ。いやー、それにしても博士ってすごいなぁ」

辺りを見回して溜息を漏らす嵐。

「私のお父様ですからぁ。このくらいのことはとっても簡単なんですよぉ」

胸をそらしてえばるみぃ。決して彼女が誉められたわけではないのだがその辺は言わぬが花だろう。

 

「――うっはああああ、すっごいすっごいすっごぉぉぉぉい! 財閥所有の人工島なんて漫画でしかないと思ってたけど、本当にあったんだ!! ハンターってすっごいんだね、双葉!!」

後から出てきた、黒髪の少女。その服装はどこかのSマルS団長の私服にも見える。

つい最近ハンターとなった、11号・飯田 あんずだ。

ハンターに入ってはじめての旅行?に胸を躍らせ、前日は眠れなかったというお約束を果たしてきていた。

「でしょでしょ! ――まぁ、ここですごいのは恭介さんだけではあるけどね。あー、早く泳ぎたいな! 新しい水着買ったんだ♪」

あんずとともにはしゃぐ、ロングヘアの少女。彼女もまたハンターの一人で、28号・半田 双葉という。

 「をを! 双葉も!? あたしもなんだよー。早く着替えに行こー!」

「こら貴様ら! 勝手な行動するな!」

まさに女子高生丸出しの会話を交わす二人の後ろから、また一人女性が降りて来た。

紫の長い髪を後頭部でまとめ、逆三角タイプの眼鏡をつけたその麗しい顔はまさに「女教師」。

しかし、今回彼女――10号・半田 燈子はいつものスーツではなく、白いジャケットに黒のシャツ、そしてアイボリーのスラックスと、彼女のイメージカラーが入ってない珍しい服装だった。

「いいか? 団体行動と言うのはだな、一人でも勝手な真似をすれば全て台無しになるのだ。泳ぎたい気持ちはわかるが、まずは点呼! ホテル部屋割り! その他もろもろやっておくべきことを全て済ませてから遊ぶのだ! わかったな!」

『はぁ〜い……』

楽しい気分に水を差され、二人はしょぼくれてしまった。

(何よ偉そうに……まるで先生ぢゃん)

(燈子さんは教育部門の人だったし……でもちょっとね)

「くぉらー! ヒソヒソ話するなっ!」

 

 

「いいかー、まずは準備運動だ。これを怠ることは戦場で兵器の手入れを怠るのと同じ、即・死に繋がる。しっかりとやるぞ!」

『は〜い』

砂浜にて。

しっかり着替えたハンター達は、燈子の指導のもと準備運動を始めていた。

「小学校以来だなぁ……こんなことすんの」

ぼやくのは我等が1号・半田 いちご。

苺色のセパレートを着用している。

「まぁまぁ。童心にかえった気持ちでやりましょうですわー」

隣で言うはみんなの心のよりどころ、19号・モニカであった。

神に仕える身らしく、カソックを水着にしたような奇妙な格好である。

「――どこで売ってるんだその水着は」

「ほしいのですか?」

「いや、いらん……」

「くぉらー! そこ、真面目にやらんかぁっ!!」

燈子の檄が飛ぶ。

「へいへい、分かったよ」

仕方なくもいちごは運動を続けるのだった。

その様子を観察する男が一人。

「しなる腕……ゆれる胸……白い肌……美しい黒髪……最高だ……」

感動でむせびなくのは5号・五代 秀作。

「僕はっ……今、モーレツに感動しているッ……! あああああ、いちごのあの姿がっ! 動きがっ! うぉぉぉぉぉぉっ!」

その様相はまさに襲い掛からんとする猛獣である。

「そこらへんにしとけこのヘンタイ!」

 

びょおおおおおおおっ!

 

「寒ぅぅぅぅぅ!?」

 

ぱきぱきぱき……カキ〜ン!

 

夏の島に似つかわしくない猛冷気が五代を襲い、氷漬けにしてしまう。

「涼しいでしょぉ〜? しばらく頭冷やしとけっ」

あっはははは! と笑いながら凍った五代の周囲を飛び回る小さな姿。

一般の人間には観ることの出来ない妖精、彼女――ジオーネもまたハンターなのだった。

ちなみに緑のキワドイ水着だったりする。

 「生きてるのか……?」

「だいじょーぶだいじょーぶ。ギャグほせーとかいうのがかかってるし」

いちごの問いに笑いながら答えるジオーネ。

「まぁ、そういうことならいいか。暫くあのままにしとこうぜ」

血も涙もないいちごであった。

 

 

青い空!

白い雲!

エメラルドグリーンの海!

まっさらな砂浜!

そして――水着美女!!

まさにそこはパラダイス。

無関係の人は誰も思うまい、この美女達の一部が元男性であることを。

そう、彼らは秘密組織「ハンター」のエージェント並びに職員達。

今回、14号・石川 恭介の計らいによってこの人工島「天竜島」へと遊びに来ていたのだった。

冬に利用される銭湯レジャーの裏側、言わばプライベートビーチといったところである。

今回もまた船旅での到着なので、約一名ほどホテルでダウンしていたりする。

――そういえば当の所有者はどうしたのか。

 

 

「いやーっはっはっは。発明は爆発って言うじゃないですか、部下Aさん」

「言わんでしょーがっ! 何で私まで手伝わなければならんの……。エアコンの修理なんて……あぢ〜〜〜〜〜!!!」

  

 

「えいっ!」

「きゃあっ! 冷たいなぁもう! お返しぃ!」

「私も負けませんですわー!」

浜近くで水の掛け合いをする双葉、あんず、そしてモニカ。

何故かあんずは白スク水だった。

そこにエメラルドグリーンのビキニを着たみぃがやってくる。

「私も混ぜてくださぁい! えぃっ!」

 

どっぱーん!!

 

『がぼがぼがぼー!?』

大量の海水が三人に浴びせられた。

 

 

「ねー、いちごお姉ちゃんー!」

年相応のスク水に身を包んだ、青い髪の少女が呼ぶ。

それに反応していちごが彼女の元へと行く。

「どうした、伊奈ちゃん? 何か――げっ!?」

少女――17号・伊奈の持っていたものをみて青ざめる。

「変なお魚さん捕まえたよー。これって何て言うのかなぁ?」

その手には、コンバットナイフで串刺しにされたままビチビチと蠢く怪魚。

何だか人の顔みたいな模様が顔面にある。

「い、伊奈ちゃん……そういうものは海へポイしようね……」

 

 

 

一方こちらでは。

「姉さん! ちょいと泳ぎで勝負しませんか?」

真っ赤なセパレートに身を包んだ嵐が、紫のビキニの燈子に勝負を挑む。

「ほほう、いい度胸だ……。よかろう! 1000m遠泳だっ!」

キラーンと光る燈子の瞳。

「う゛……言わなきゃよかったかも……」

「今更やめるとは言わんよなあ?」

「も、もちろんでさあ! 勝負ですっ!」

ヤケになったのだろう、嵐はそう啖呵を切った。

その途端、

「その勝負、私も混ぜてもらおうかっ!!」

突如空から響く声。

「だ、誰だ!?」

「! あれは!?」

上を見上げる燈子。つられて嵐も上を向く。

「――あいつはっ!」

空から落ちてくるもの――いや、人。

銀と赤のド派手な水着に身を包み、何故だかツインテールになってる髪を靡かせ隕石に乗って落ちてくる彼女こそ!

「出たな元諸悪の根源! ガイスト02・苅須都 烈!!」

「最初のは余計だっ!! 貴様とはそろそろ決着がつけたかったのでな! ここらでひとどぼーん!!

台詞も終わらぬまま、烈は一直線に海へと突入していった。

『……』

あたりに流れる沈黙。

「――っていうか、なんで津波も何も起きないのかしら」

一部始終を見ていた双葉はそう呟いた。

そこはきっと、彼女の魔法の力か、ジオーネの言うアレのおかげなのだろう。

「――今の、何?」

呆然とした面持ちで双葉に問うあんず。

それはそうだろう、知らない人が面食らうのは無理もない。

「あー、あの人はね、私たちにとっての警察……かな? あんまりいい思い出ないから言いたくないけど」

 何か思うところがあるらしい。

「そうじゃなくて! 今の人、隕石に乗ってきたよね!? すっごぉぉい! ありえない! 非常識! 素敵!!!!」

目を輝かせてはしゃぐあんず。

――彼女は非日常的なことに非常に興奮する性質なのだ。

「あははははは……。あれ? そういえば空奈ちゃんと千景ちゃんは?」

「あー、あの似た感じの二人? あの長い銀髪の子の付き添いに行ったって」

 

 

ビーチサイドホテル「バイスシュタイン」。

全長400m強の巨大なホテルである。

もちろんこの独語で「白の石」という意味を持つホテルも天竜寺系列の経営ホテルであり、しっかりとした構造をしている。

普段は観光客が泊まる唯一の場所だが、今回はハンター組織が全面、恭介名義で貸し切っているのだ。

その80階にある一室。

「う゛〜ん……う゛〜ん……」

ベッドにてうなされている銀髪の少女。

黄路疾風、ハンターに居候している彼女は、とても乗り物酔いが酷かった。

「氷嚢もってきました」

ドアが開き、入ってくる二人の少女達。

似た雰囲気をもつ彼女らは、それぞれ浅葱 千景、影鳥 空奈という。

「疾風の具合はどうでしょうか?」

片方の少女、黒いショートカットの子――千景が、疾風が寝ているベッドの隣にいた白衣の女性に話し掛ける。

「先程までよりは大分よくなったよ。もう数時間もすれば泳ぐことくらいできるようになるだろう」

女性はそう言うと、もう片方の少女――97号・空奈が持つ氷嚢を渡してもらい、疾風の額に乗せた。

「む〜〜〜〜」

それに反応して疾風がうめく。

「全く。君のせいで私達も泳ぎ損ねてるじゃないか」

溜息をつく千景。

「仕方ないさ。こればっかりは体質の問題だ。――それに、今回は酷いことになってたしな」

遠い眼をする白衣の女性。

言い忘れていたが彼女は女医でありハンターの、100号・半田 百恵である。

医療のエキスパートだがどこぞの黒い医者のごとく高い値段をふっかけてくることがある。

「そうですね……。よくあの台風の中来れたと思います」

しみじみとする空奈。

千景もうんうんと頷く。

実は航海中に超巨大台風に遭遇したのだ。

航海士達の懸命な立ち回りのおかげで被害はほぼ皆無で済んだのである。

「そういえばあの台風のとき何だかお城みたいなのがみえたよーな」

「それは気のせいだろ。ていうか少しヤバイ」

空奈にツッコむ百恵。

一体どこの天空の城だろうかそれは。

「さて……ここはもういいから、君達は泳ぎに行ってもいいんだぞ?」

百恵の言葉に、二人は少し首を振る。

「いえ、私達もいっしょにいます」

と空奈。

「私も。からかう相手がいないと泳いでてもつまんないです」

と千景。

「ふふ、そうか。――では今から言うものを持ってきてくれないか。まずは――」

微笑みながら百恵は指示を出す。

その様子を寝ながら見ていた疾風の瞳はにじんでいた。

 

 

その後、千景たちとともに浜で走り回る疾風の姿が、7号・七瀬 銀河の写真に収められていた。

 

 

夕方――

「綺麗……」

ホテルの展望室。

海の彼方に沈んでいく夕陽を眺め、双葉が溜息を漏らす。

「都会じゃ見れない光景だもんな。恭介には礼を言わなきゃな」

同じく眺めていたいちごが言う。

「うふふっ。きっとお礼なんてお父様は照れちゃいますよぉ。お父様へ感謝を示すならぁ、お父様の実験台になってあげるのが一番いいことですぅ」

「うへ、そりゃ勘弁だ」

みぃの言葉にいちごが笑う。

「あはは。たまには華代ちゃんのことも忘れて、こうのんびりするのもいいことですねー」

「あんまりのんびりしてると燈子あたりに怒られそうだけどな。そういや燈子は今何してんだ?」

「燈子さんはぁ、伊奈ちゃんを捜しに行ってますぅ。また迷子になっちゃったみたいなんですよぅ……」

伊奈は極端な方向音痴である。

例えば目印がないとお使いに出ると丸三日帰って来れそうにないくらいだ。

「そりゃ大変じゃないか。俺達も捜しに行かなきゃ」

「大丈夫ですよぅ。発信機が伊奈ちゃんのどこかについてるらしいですからぁ」

「どこか……」

嫌な想像でもしたのか、いちごは身震いした。

「伊奈ちゃんは燈子先生に任せておけば大丈夫よ、きっと。――あーあ、それにしてもおなか減っちゃったな……。夕食は何かしら?」

「おう聞いて驚け。海の幸バイキングらしいぜ。おまけに双葉、お前の大好きなデザートもたくさん出るってよ」

「ほんと!? うっわあぁぁぁああ! 今から楽しみだわー!」

チーン。

エレベーターの開く音。

やって来たのは銀河、空奈、そして、嵐だった。

「うわああああ! 絶景! まるで巨大ロボのコックピットね!!」

「貴女の例えは何でいつもそれ系なのやら……」

はしゃぐ嵐に苦笑する空奈。

「銀河も来たのか。写真でも撮りに来たのか? ここは確かにいいパノラマだしな」

「まぁそんなとこです。どうです? 夕陽をバックに一枚」

珍しくまともな写真を撮ろうと言う銀河。

「――そのカメラ、何か仕掛けがあるんじゃねーだろーな。赤外線とか」

「い、いやいや! たまには僕だって普通の写真を撮りますよ!」

あわてふためくその様子をいぶかしむいちご。

やっぱり何かたくらんでたのか。

「――ま、いいだろ。双葉、みぃ、嵐、空奈。お前達も一緒に撮ろうぜ」

「うん!」

「綺麗にとって下さいねぇ」

「真っ赤に燃える海をバックに……いいね!」

「私は別に……」

「はいはい。じゃあ撮りますよ……はい、チーズ!」

パシャッ。

 

夜。

「おおおおおお!! こ、これはすごい!!」

驚愕の声をあげる23号、二岡くん。

驚きなどはお手の物な彼の見せ場だった。

「すごい料理……。舟盛り、活け作り、鍋、焼き魚、煮魚、天ぷら。海鮮類以外も盛り沢山ね!」

同じく感嘆の声を漏らす双葉。

「食べすぎには注意しましょうね。気分が悪くなりますから」

「――そこで何で俺を見る、千景」

くすくすと笑う千景。

すぐさま追いかけっこが始まった。

「こらー! 飯時くらい静かにせんか貴様らー! ああ、伊奈! ナイフでぶっさしちゃ駄目だ! ちゃんと箸で取って!」

「えー? こっちの方がお肉のやわらかさが分かっていーのにー……」

こっちはこっちで子守りが大変そうである。

そしてこちらはバーコーナー。

座るはコスプレ系被害者の集団。

百恵、ムイ、モニカである。

後ろから見れば女医・チャイナ・シスターが並んだ感じでとっても違和感がある。

「おいしゃ〜さんが、そんな〜に、おさけのんでイイんですか!」

「酒は良薬だよ。な、ムイ」

「あいや。薬にならないものはないね」

「そーゆーのは、きけん〜だと、おもい〜ますわ。」

「未成年で聖職者の癖にお酒がぽがぽ飲んでるあんたに言われたかないってものさ」

「あたしーはもにか、さけをノンデなにが〜わるい!」

「あーあー、完全に酔っ払っているね〜〜!」

「はー、久しぶりに楽しいぜこりゃ。――ん? 何か忘れてる気がする……。なあ嵐、ジオーネ?」

「うりうり、なーにか忘れてたっけ? あたし妖精だしー忘れたーや」

「うーん……言われてみりゃなーんか忘れてるよーな……。をを! あれは伝説のレッド・ホット・チリ・ペッパーカレー! 真っ赤なルーがイカすわー!」

そう叫ぶなり嵐はスパイスのきつい方向へ去っていく。

「うーん……? ま、いいか」

「いちごちゃーん! 一緒に食べましょー!」

遠くから双葉たちの声。

「おーぅ! ――きっと気のせいだよな、気のせい」

そうしていちごは、にぎやかなパーティへと戻って行った。

 

 

 

海岸に放置された氷塊。

「……誰も……助けてくれない……い、いちごおぉぉぉおおぉぉ……ガチガチガチガチ……」

 

海上に浮かぶ丸太。

そこに一人しがみつく影。

「――出番、これだけ……? ぜ、絶望したっ……ブクブクブクブク……」

 

二つの場所で、今、二つの命が燃え尽きようとしていた。

 

 



←前へ 作品リストへ戻る 次へ→