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ハンターシリーズ127
『飯田あんずの試験』

原案・ELIZA 作・あのよろし

イラスト:とうこさん(URL

 

平凡な毎日。
平凡な生活。
平凡な暮らし。
――言い方を変えても何も変わらない。
そんな日々を送っていたあたしだが、
ある日を境にそれは変わっていく――。

「あんず、待たせてごめんね!」
「もお〜、遅いよ、双葉! 急がないと遅刻しちゃうよ!」

今日は待ちに待った試験の日。
といっても学校のじゃない。
華代探知機をちゃんと使いこなせるかの試験だ。
これに合格しさえすれば、双葉と一緒に秘密任務に当たることができるのだ。

「では、これより試験を始める。
やり方は至って簡単。
この災害救助訓練施設のどこかに真城華代の被害を受けた存在が隠れている。
それを制限時間、1時間内に華代探知機で探し出すんだ。」

試験の説明をしているのは燈子さん。
で、あたしの横に並んでいるのはヒイツちゃん、イルダさんにクーゴさん。
皆最近ハンターに入った人たちばかりなんだって。

「この中に隠れているのは真城華代の被害を受けた存在だけじゃないから十分に注意するように。
隠れている人には頭からすっぽりと黒い布をかぶってもらっているので、見た目で判断することはできないぞ。
では、始め!」

勇んで入っていったあたしたちを待っていたのは、超巨大な廃墟。
エジプトのピラミッドにローマのコロッセオをぶつけて壊したらこうなるんじゃないか、っていうような瓦礫の山。

「こんな中から、どうやって探すのよ…」
「…よし、見つけましたよ!」
「…ええと、こう反応するということは、こっちですね。」
「…んーっと、たぶんこれね。」

他の皆はすぐに歩き始めてしまった。
そうだ、華代探知機を使えば障害物に関係なく被害者を探せるんだった。
まずはスイッチを入れて捜索範囲ダイアルを右いっぱいに回す、と。
…え、反応しない。
あれ、広範囲捜索はこれでいいんじゃなかったっけ?
どうしよう、とにかく探さないと。

30分後

ずっと足を棒にして捜してるけど、何にも見つからない。
ちょっと待って、この黒い布って、もしかして…
捜索範囲ダイアルを左に回して…
この音は、間違いない、被害者だ!
ラッキー!

「見ぃつけたー。
…って、何で逃げるのよ!
待ちなさい! 連れて帰らなきゃいけないんだから!」
「…」
「ここで会ったが百年目、絶対に逃がさない!
必転! スライディングタックル!」

「後1分!」
「…はぁ、はぁ、何とか間に合った。」

あたしが帰ってきた時には、他の人は皆戻ってきていた。
ヒイツちゃんの脇にあるのは大きな箱? 何だろう?
「よし、全員時間内に連れてきたようだな。
では、連れ帰ってきた時間が早い順に確認を開始する。
まずは95号、クーゴ・ハンター、連れてきた相手の布を取ってやってくれ。」
「はい。
…って、布を取ったらなぜ逃げるのですか、疾風さん!」
「…それは、相手がクーゴだからだ。」
「そんなぁ…」
「…とにかく、合格だ、おめでとう。」

「次、49号、イルダ・リンカーン。」
「はい。
…初めまして、どちらさまでしょうか?」
「…ああ、知らなかったのか。
この人は寿退職したハンター2号の伴侶、つまり合格だ。
…わざわざご足労いただき、ありがとうございます。」
「いえ、とんでもない。」

「次、15号、半田 ヒイツ。」
「はーい。
…これ何? ケージの中にウサギ?」
「兎には名札が着いているはずだ。読み上げてみろ。」
「えーと、半田 ノーラ、ですね。」
「よし、じゃあ、合格だ!
それは組織で飼っている兎だ。
かつて、真城華代の無力化作戦に失敗した時にまきぞえで性転換された。」
「そんなことがあったのですか…」

「よし、じゃあ最後に移るぞ。
11号、飯田 あんず、不合格。」
「ちょっと待って、何であたしだけいきなり不合格なの!」
「我々が用意した、真城華代の被害を受けた存在は2人と2つ。
黄路疾風、ハンター2号の伴侶、そして兎の半田ノーラとミドリガメのサラ。」
「サラ?」
「…ボスが飼っているミドリガメで、15年程前にある公園で起こった集団性転換に巻き込まれて雌化したらしい。
とにかく、半田ノーラとサラはどちらもケージに入った動物だ。
ところが、11号、飯田あんずが連れてきたのは人間だ。
黄路疾風とハンター2号の伴侶が他の人に連れてこられた時点で、不合格は確定なんだ。」
「あんなに苦労して捕まえたのに!
確認くらいしてください!」
「…おい、これ、誰だ?
全く見覚えがないぞ。」

…げ。間違って関係ない人を連れてきちゃった?
それだと逃げ出したのも解るけど、あんな所で黒い布かぶって隠れてる人が他にいるのかな?
布をはいで出てきたのは…私と同じ制服を着た女の子。
何でこんなところにうちの高校の生徒が?

「知り合いか?」
「いえ、知りません」

イルダさんが華代探知機を向けると反応があった。

「この人、華代被害者ですよ」
「なんだと!? ということは、華代がここにいるということか!?」
「それはあり得ません。もしいるなら、探知機は何より先に華代に反応を示しているはずです」
「ええと、あなたは誰ですか?」
「その…」

女の子は口ごもってしまった。
何かを責めたてられて、怯えているように見える。
そんなつもりは無いんだけどな。

「こちらで用意した被害者ではないようだな。とにかく、元に戻してやろう」

燈子さんが、女の子に手を触れ、ハンター能力をつかう。
すると、女の子姿が変わっていく。
顔がゴツくなり、髪の毛が短くなり、肩幅と腹周りが大きくなり、手足が太くなり…。
被害者のもとの姿であろう、ちょっと太めの中年男性がそこに現れた。
…なぜか、服装がそのままで。

「嫌ぁ!」
「し、しまった、失敗した!?」

女子の制服を着た中年男性という、かなり見たくない部類の映像がそこに出来上がってしまった。
太っているせいで、ブレザーとスカートの間から見えるお腹の毛が特に嫌悪感を催す。
バラエティ番組とかで見る女装したお笑い芸人でも、ここまでひどくはない気がする。

「燈子さん、服もちゃんと戻してあげてください!」
「スマン、すぐにやり直す!」
「…いえ、これであっているようです。探知機の反応が消えました」

イルダさんの言うとおり、探知機の反応は消えていた。

「え、じゃあ、つまりそれって…」

燈子さんが事情聴取をしたところ、なんと、男の人は私の高校に忍び込んだ、そっちの趣味を持つオジサンだったことがわかった。
体育館の更衣室に忍び込んで制服を物色していたところを見つかり、追いかけられた後に演劇部の部室に隠れていたところ、華代ちゃんに遭遇。 「制服が苦しい」「ここから逃げたい」とか言っていたら、制服に似合った姿に変えられた上に、私たちが居たところに瞬間移動させられたらしい。
最初に見つけた時にかぶっていた黒い布は、演劇部の備品だったとのこと。
男の人はその後、燈子さんによる<<教育的指導>>を施された上で、警察に突き出された。

…そう言えば。

「…あの男の人が被害者だったということは、あたしも合格だよね?」
「ああ…合格だ。」
「ありがとうございます!」

やったー!
これで、双葉と一緒に秘密任務に当たることができるー!!



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