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ハンターシリーズ128
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俺は「ハンター」だ。 不思議な能力で “依頼人” を性転換しまくる恐怖の存在、「真城 華代」の哀れな犠牲者を元に戻す仕事をしている。 最終的な目標は、「真城 華代」を無害化することにある。 とある事件――というか「華代被害」――に巻き込まれた今の俺は、15~6歳くらいの娘になってしまっている。 華代の後始末の傍ら、なんとか元に戻る手段も模索している。 さて、今回のミッションは…… 12月前半のある日曜の昼。 いちごはとあるハンターの部屋の戸をドンドンと叩いていた。 その部屋の主は、ハンター15号。いちごにそっくりな女子高生ハンター・半田ヒイツだ。 ……いや、いまは男時代の1号にそっくりな半田壱吾だが。 「だから、その姿で引き篭もるんじゃねぇ!!」 聞いての通り、いちごは部屋に引き篭もってしまった壱吾を引っ張り出すのに躍起になっている。 ここ最近は壱吾の姿で来ても、すぐに引き篭もるという事はなくなっていた15号だが、今日は何かヒイツでないといけない用事でもあったのか、来てすぐに引き篭もってしまった。 なぜか高確率で来たばかりの15号と出会うリクに聞かなければ、他の誰も壱吾が来てることに気付かなかったかも知れない。 ちなみに15号の部屋と言ったが、15号つまりヒイツもしくは壱吾用に用意されたのではなく代々15号に受け継がれてきたという由緒ある部屋だ。 というか、あのボスが15号のような非常勤メンバーにわざわざ新しい部屋を用意するはずがない! と、話がずれた。 いちごがなおもドンドンやっていると…… 「あれっ、いちご? どうしたの? こんなところで」 「もしかして、ヒイツちゃんまた、壱吾さんモードに?」 背後から声をかけて来たのはハンター28号・半田双葉とハンター11号・飯田あんずの現役女子高生ハンターコンビだった。 「そのもしかだ」 事も無げに答えるいちご。 15号が異世界のいちごである事は機密事項だが、15号が不随意に性転換する事は既に周知の事実となっている。 「えっ、じゃあ、これどうする? 双葉」 「そうねぇ」 あんずがポーチから取り出した何かのチケット3枚をひらひらとしながら尋ねると、双葉が考え始めた。 「これ?」 そのチケットが気になり、いちごが尋ねる。 「デパートのカフェで使える期間限定デザートの引換券。ちょうど3人分あるから、一緒に行かないかって昨日誘っていたんだけど……」 そう言って15号の部屋の方へ視線を移すあんず。 (ははん。なるほど、それが原因か……) 「……確認するが、それは男じゃ駄目なのか?」 「はい。女性限定で、しかも期間は今日までだったり」 「しかも、一人一枚って言うのよ?! ケチよねぇ」 あんず、双葉と順に答える。 まあ双葉は一枚で一人しか食べられないことではなく、一人一枚しか使えないことに憤慨している様だが。 「そうか、なら俺が代わりに ―― 」 そういちごが言いかけた途端、部屋の中からドンドンと壱吾がドアを叩いて抗議する音が聞こえた。 その音に現役女子高生二人組みがビクッと反応するも、いちごは動じない。さすが中身は熟年ハンターと言うべきか。いや、育ちが違うが自分自身。その行動は予測済みだったのかもしれない。 このままアメノウズメ作戦も一興かとも考えたが、それじゃあ話が進まないなと考え直し、いちごはドアの向こうで聞き耳を立てているであろう壱吾に言葉をかけた。 「まあ、聞け。壱吾。俺もデパートに付き添ってやる。で、俺がお前の代わりに引換券を使うから、お前は俺の分を代わりに頼んで交換する。それで ―― 」 どうだ、と言い切る前にドアがバタンと勢いよく開いたかと思うと、中から壱吾が出てきていちごにしがみ付いた。 そして、目をキラキラさせ ―― 「そ、それいいです。いちごさん、ありがと~」 である。………………大の男がである。元の1号の姿をしている半田壱吾がである。 飯田あんずは引いている。元の1号を知る双葉は更に引いている。 そしていちごは…… 「そ、その姿でそれは止めろ……」 と言うのが精一杯だった。 「と言うわけでやって来ましたピアニッシモ、もといデパート。……なんでピアニッシモ?」 「こっちが聞きたいわよ」 デパートについた一行は、『女三人寄ればかしましい』を絵に描いたように賑やかだった。 まあ、その3人の中で一番かしましいのが壱吾だったりする辺り違和感満載なのだが。 「で、着いたはいいがすぐにカフェへ行くのか?」 かしまし3人娘(?)に少々唖然としながら、今後の予定について確認を取るいちご。 「ちょうどバーゲンやってる時間帯だし、まずそれよね。そのあと3時まで冬物の服を見て、時間になったらカフェ。でどう?」 「「賛成♪」」 双葉の提案に諸手をあげて賛成する壱吾とあんず。 「んじゃ、オレはバーゲンの間はベンチでジュースでも飲んとくがいいか?」 いちごは血で血を洗う女同士の戦いにわざわざ参加する意味を見出せず、早々に戦線離脱を宣言する。 「別にいいけど、荷物番お願いできる?」 「ああ、わかった」 それから数十分後。 宣言どおりにベンチで休憩していたいちごに、戻ってきた双葉達が声をかけた。 「おまたせ~」 「ふう、やっと帰ってきたか……」 「ナンパの相手ごくろうさま」 あんずが笑いながらそういうと、壱吾がさらに言葉を繋げた。 「いちごさんもバーゲンに行ってたら、そんな苦労せずに済んだのに」 「いや、どっちもどっちだろ」 そう笑って返したいちごは、手にした空き缶をゴミ箱に向かって投げた。 綺麗な弧を描き見事にゴミ箱の穴へと引き込まれる。 ―― カコン 空き缶の行く末はゴミ箱に入るのが当たり前だとばかりに見留めようとしなかったいちごだが、ふと三人の持つ物を見て思わず声をもらした。 「結構買ったな……」 「ヒイツ、ううん。壱吾さんのおかげよね」 そうあんずに言われた壱吾はえへへと呟いて頬をかいた。 「そりゃ、この体格であの根性だもの。そこいらのおば様達に負けるはずないわよ」 それを聞いて、バーゲン会場での様子を想像してみる。雲泥の差であろう体格の差に物を言わせおばさんの中をつき進む壱吾、確かに圧倒的だろう。 男時代の自分だったら、いくら体格に差があるとはいえ、おばさん達の気迫に負けていただろう。が、そこは中身が女子高生である壱吾だったからに違いない。 「そう言えばいちごさんって、スリーサイズいくつですか?」 それは、冬物の服を見に行く途中、壱吾が漏らした言葉だ。 「ぶっ」 その突拍子ない言葉に思わず噴出すいちご。 公衆の面前で。女同士ではなく男から。しかも本来の自分の姿をしている男に、言われたのだからたまった物じゃない。 だから、思わず大声で噴出してしまった。 それを聞いたほかの客はなにがあったのかと声のした方へ視線が集め、その声の主の顔を赤くする。 だが、その原因である壱吾はそれを気にせず言葉を続けた。 いや少々声を潜めたのだから、少しは気にしてるのかもしれない。 「あたしは(ごにょごにょ、ほにゃらら、ごにょらら)なんですけど、もしかしていちごさんも同じだったりします?」 「えっ、あ、うん。確かに同じだが……」 まだ少し顔が赤かったいちごだが、それでも少し落ち着いてきたのか少し間をおいて言葉を続けた。 「……それがどうしたんだ?」 「良ければ、あたしの代わりに試着してほしいなぁって思って」 「まあ、いいが ―― 」 いちごはそこで一旦区切り、壱吾の体格を確認すると 「その後で俺の買い物にも付き合って貰うぞ」 「はい♪」 女性服売り場に着いた途端フィッティングルームに放り込まれたいちご。 手渡された服を目の前に暫く固まっていた。 まあ、それも仕方あるまい。普段はTシャツにジーンズと言うラフな服装をしているのだ。 別に突飛な物ではないが、誰がどう見ても女性向けの、それも上はともかく下、つまりスカートはやっぱり抵抗はある。 「いちごさん、まだですか~? あっ、何なら着替えるの手伝います?」 「ま、まて。もうすぐだから……、って、自分の姿考えて発言しろっ!!」 外の壱吾に急かされ、慌ててスカートをはく。 どうにかはき終わり一言。 「うぅ、やっぱり足元がすぅすぅする……」 今までにスカートをはく機会がなかったと言えば嘘になる。 だが、極力それを避けてきたいちごにとってスカートと言う物は、特に生脚にスカートと言う物はやはりすぅすぅする物でしかないのだった。 「いちごさん? まだですか? 次もって来たんですけど」 「あっ、もういいぞ」 いちごがフィッティングルームのカーテンを上げるとそこには、手にいっぱいの服を持った壱吾が。 「も、もう勝手にしろ」 その量にやけくそ気味ないちごであった。 やけになったいちごは渡された服を次々と着替えていく。 黄色いカットソーとサテンのスカートに透かし網のチェニックのセットや白のタートルカットソーに紫のニットワンピースのセット、レースをあしらったキャミソールの上にノーカラーのジャケットを下はタックショートパンツにパンプスと言うセットもあった。 スカート単品も何個かあった、フリルスカートやマーメイドスカート、バルーンスカートなどである。 まあ、いちごはこの時点で既にグロッキー状態であり、渡されたものが何なのかあまり考えようにするので精一杯だったのだが。 だから、どこかで見たような某学校の制服に酷似した服を渡されても、ムイが好んできそうな中国風のドレスも、64号が見れば一言有りそうな巫女装束に似た服も、ネコ(44号)辺りが着ていそうな赤いボディスーツも、どこかなつかしいメイド服のような ―― 「って、ちょっと待てっ!!」 「はい?」 流石にラインナップがおかしいことに気付いたいちごが、更に持って来ようとしていた壱吾に突っ込みを入れる。 「これ、ホントにお前着るんだろな?」 「……てへっ」 「『てへっ』でごまかすな。『てへっ』でっ」 ヒイツの服を見終わった二人は、次はいちごの服、いや、1号本来の姿用の服を買いに行くと双葉につけて紳士服売り場へと行ったのだった。 「ふ~ん。いちごって、戻るのまだ諦めてなかったんだ」 「えっ? なんか言った?」 双葉の漏らした呟きが“面白そうセンサー”に引っかかったのか、その内容が気になったあんずが訊き直した。 「ううん、なんでもない」 「むぅ、なんか怪しいわねぇ」 アヒルのように唇を突き出してブーたれるあんずだったが、すぐに気を取り返し双葉に問い掛ける。 「そういえば、いちごちゃんってやけに壱悟さんモードのヒイツが女の子っぽい行動するのを嫌っているけどなんで?」 「さあ、なんでかしら」 もちろん本来のいちご、男時代の姿だからなのだが、どこをどう転んで自分も元男だとばれるか判らない。だから双葉は判らないフリをした。 「あたしが思うに、壱悟さんっていちごちゃんの理想のタイプなのよ。ああいう、がっしりとした男らしいタイプが」 「そ、そうなの? 確かに理想と言えば理想なんだろうけど……」 理想の自分像と言う意味でね。とまでは言わない。 「だから、女々しい行動をされると理想像が崩れちゃうから嫌なのよ。そうに違いないわ」 一人で納得し、うんうんと頷くあんず。あながち間違いでないから怖い。 「今後の追跡調査が必要ね。って、双葉っ! アレ面白そうじゃない?!」 話の途中に何かを見つけて急に話題転換するあんず。あんずの輝く視線の先には“大コスプレフェア”と言うチラシがあった。 さて、3時。 各々の買い物を済まし、約束のカフェに集合した4人は期間限定デザートなどを楽しんだ。 が、特筆するべき事はなかったので割愛する。 「で、いちごはなぜ引き篭もっているんだ?」 「折角買った男物を15号が間違って持って帰ってしまったそうで、そうとは気付かずに15号が買った服を広げた瞬間を5号に見られたらしく……」 「引っ張り出せ。デパートから“大コスプレフェア第二弾”用チラシモデル出演の依頼が来ている」 |
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