![]() ハンターシリーズ134
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雪やこんこ 霰やこんこ 降っても降ってもまだ降り止まぬ 犬は喜び庭駆け周り 猫はこたつで丸くなる 「ふぃ〜〜極楽,極楽ぅ〜〜」 一人の女性が,温泉を満喫していた.年の頃20歳前後,少女のあどけなさと女性の美しさを併せ持った美しい女性だ. 「まったく,最初こんな辺鄙なトコくんのはいややおもっとったけど,うちの思い違いやったなぁ〜〜」 女性は,その外見を裏切らない美しい声で,外見を裏切る関西弁で温泉の感想を述べた. ここ**県塚井市の子道沢村〜時空峨谷温泉郷の一画にある,人口1500人程度の小さな村である. 明日,この村で,500年以上の歴史を持つという,雪姫祭があるというので大阪からやってきた. 大学のレポートに,郷土祭の事を書きたいから取材させてくれ……まあそのような事を宿の主人に言ったような気がする. 「そのレポートが,この温泉の事になってもええかなぁとか思う今日この頃」 ん〜〜とのびをする女性. 周りの木々は雪化粧を施されているが,温泉の周りはそうではない.まだ早い時間なのでほとんど貸しきり状態だ. と思ったら,ドタドタドタと何人かの騒々しい足音が聞こえてきた. その音の軽さからして,大人ではない. 「うん? 近所の子,かな?」 ここは宿の温泉ではない.宿に隣接してはいるが,一般の人にも解放されてるようだ. 「わ〜い! おっきなお風呂です!」 「待ってくださいです,センパーイ」 「お二人とも,もう少し静かにしたらどうですか?」 やってきたのは三人小学校低学年ぐらいの女の子達だった. 三人ともおおきくなったら美人になるだろうと思われる女の子達だった. 「ごめんなさい,ちょっとご迷惑かもしれません」 髪の長い一人の女の子が先に入っていた女性にペコッと頭を下げる.礼儀正しくいい子だ.ストレートな黒髪が少しうらやましい.女性は,自分のクセッ毛をなでた. 「あなた達,この辺の子なん?」 「いいえ,ここにはお仕事できたんです」 「へえ,お仕事? 大変なんやなぁ」 「そうなのです,にぱー」 「ニッパー?」 女性の脳裏に工作で使うニッパーが浮かぶ.いや,多分この少女の口癖か何かなのだろう. (たぶん,雪姫祭に関係するなにかの子達やな) 「おねーさんは?」 「うち? うちは大学のレポートの取材や.雪姫祭のな」 「そうですか」 「私たちも,その雪姫さんに頼まれてのお仕事です」 「雪姫さんの頼みごとをきくお仕事なのです」 「ふーん,ま,がんばってや.あ,コラ! いきなり湯船に入ったらアカン!! きちんと体を洗ってからや!!」 「そうですよ,2人とも,きちんと洗いましょう」 「わかったわ」 「はーい,です」 「まったく…この子達の保護者は何してるんやろ」 女性は,チラッと脱衣所を見る.そこには二つの人影がある. 「うん? あれ?」 「どうしたの? メグ姉?」 「この人の携帯,なってない?」 温泉の脱衣所で,高校生くらいの女の子二人がキャピキャピ話していた. 「メールか何かじゃないの? 他人の携帯を覗き見ようなんて思わないでよね」 第一,脱衣所のロッカーは鍵がかかっていて他人が開ける事はできない. 他者の持ち物でわかるのはロッカーに入らない大きく長い物ぐらいだ. 「わかってるって! なに? 望美にはこの恵美様が他人の物を勝手に見るような人間に見えるの?」 恵美と望美……二人の女の子達は瓜二つといっていいほどよく似ている.おそらく,一卵性の双子だろう. 「それよりさ,私はこの長い包みの方が気になるんだけど……なんか,刀とか入ってそな雰囲気じゃない?」 「う〜ん,今温泉に入っている人って刀を持つような人なのかな?」 キャピキャピ騒ぎながらも二人は二人はぱっぱと服を脱いでいく. 「そういえば,和ちゃんに例の件,ちゃんとOKしてもらったの?」 「うん? いざとなれば強引に引っ張り込めばいいのよ」 「強引って……メグ姉……」 「あっはっはっは! じゃ,お風呂にはいろ.早くしないと婦人会の人たち来ちゃうよ」 「あ,待ってよ」 二人が温泉に入ると,四人の先客がいるのに気付いた. 「あら,初めて見る方ですね.旅行客の方ですか?」 「うん,今度は地元の子か?」 体をごしごしこすってる三人の小さな女の子と,二人よりちょっと年上そうなお姉さん. 「アハハ,この子達,お姉さんの子供ですか?」 「ちゃうわ.この子らとは,今ここでおうたんや.うちの子であろうはずがないやろ」 「アハッ,お姉さん,テレビに出てる大阪の人みたいなしゃべり方ですね」 「ひょっとして,大阪の方ですか?」 「そうや」 そこまで聞いて,望美は恵美の肩をつかんですみっこに引っ張り込む. 「ちょっとメグ姉! 何気楽に話しかけてるの!? 関西弁って,漫画なんかじゃ怖い人が話す言葉だよ」 「何,望美は怖いわけ? あの長い包みは,このおねーさんのモノで,物騒な物でも入ってるっての?」 「なんや? 二人して何を話しとる?」 「いやあ,あの大きな長い包みはおねーさんのかな〜って」 「ああ,あれか? 中身,見てへんやろな?」 髪の毛をシャンプーで洗っていた子も,適当に体を洗って温泉に使っている子も,泡だらけで幸せそうにしてる子も,皆女性の方を向いた.脱衣所に正体不明の長い包みが置いてあるのを皆疑問に思っていたのだ. 「あんま気にせんとって.あれらはお守りみたいなものやから」 「お守りですか?」 「そや.……そういや,あんたら何もんや? 名前を教えてな」 「ああ,ごめんなさい.私は北之宮恵美,こっちは妹の北之宮望美です」 「よろしくおねーさん」 「……北之宮って,雪姫祭を取り仕切る北之宮神社の人か?」 「はい,北宮の双子巫女ってご存じないですか? それが私たちで〜す」 「へえ,そうなんや」 「そういうおねーさんは?」 「うちか? うちは椎名.暮羽椎名や.よろしくな」 「よろしく,椎名おねーさん」 「で,その子達は?」 望美,の方だと思う,が……同じく温泉に入っている女の子達を指差し言った. 「知らん,大方祭の仕事の関係者の子供やろ」 十分温まってから温泉を出る. 宿は隣だが,そこに行くまではちょっと寒い. 十分厚着をしていたが,少し足りなかっただろうか? 椎名独自のチャームポイントと思っているカボチャ型の帽子を,深くかぶりなおす. 「おねーさん!」 「うん?」 見ると,双子の片割れが止めらた車の後部座席から駆けて来る. 「その包み,やっぱりおねーさんのものだったんですね! 中身は何なんですか?」 椎名は,脱衣所に会った長い包みを気にしていたのだろう. 「これか? これは,お守りや」 「お守り?」 「そう.大阪芸人のお守り,ハリセンや!!」 バッ!! 椎名が包みを開くと,中から大阪の守り神,ビリケン様のストラップがついたハリセンが出てくる.ちゃんと通天閣で買った由緒ただしき物だ. あまりの意外さに,双子の一人は一時呆然とした. 「ア……アハハ……」 「望美〜何してるの〜」 「あの車,お姉さんの?」 フト,突然第三者の声がかかる.それは,高校生ぐらいの少年のものだった. 少年が指差す先に,宿の駐車場の車がある. 「そやけど?」 「お願いします,あの車で俺を遠くまで運んでいってください!!」 「は? なんで? うちがそんな事をしなきゃならへんのや?」 「理由は,言えません!!」 ものすごい剣幕で椎名に迫る少年.その肩を,別の誰かががしっとつかむ. 「和ちゃ〜ん,こんな所で何をしているのかなぁ?」 「げっ!? の,望美!?」 「あらあら,和ちゃんって,大事な日の前なのに,どこへ行こうって言うのかしら?」 「うわっ!! 恵美まで!!」 「知り合いか?」 少年の両腕を押さえる双子.そしてにっこり…… 「ハイ,この子は賽前和人君,私達の友達です!!」 「明日の雪姫祭では,大切な役目があるんです!!」 「俺はいやだ,俺はいやだ!! “雪騙し”はいやだぁ!!」 「“雪騙し”……?」 「雪姫祭のイベントです.和ちゃんが主役なんですよ」 「へえ,そうなん」 「俺は主役なんかやりたくねぇ!!」 「だ〜め! もう決まっている事でしょ?」 「そうそう,じゃ,これから私達と一緒に準備がありますんで,これにて!」 双子は和人を連れて車に乗り込んでいった. 「雪姫祭に雪騙しか,明日が楽しみやな」 その日の次の日,つまり雪姫祭当日!! 「雪姫の伝説は悲しい物……雪崩で愛娘を亡くした悲しみで鬼と化した哀れな姫の伝説」 普通なら,お祭って夕刻にやるものだろうが,冬のこの時期,雪も舞っている時わざわざ寒い夕方にする必要はない. お昼ぐらいから始まり,日が沈むまでに終わるようだ. 「悲しみにより鬼と化した姫を,一人のもののふが打ち倒した.だが,姫の怒りはすさまじく,怨霊と化し,すべてを祟る」 寒い日におこなわれるお祭だと言うのに,来ている人は多い.地元の青年団やら,子供会やら主婦の会やら…… ようは,日本人のお祭好きを現しているのだ. 「怨霊と化した姫を鎮めたのはここ北之宮神社の初代巫女だった.そして,その巫女ともののふは,永遠に語り継がれる伝説となった」 よくよく見ると……なんかこういう神社のお祭には似つかわしくない,あっち系のお客さんも目立つ. アキバ系というか,マニア系というか,そういう関連? ……そういえば,温泉であった小さな女の子達三人の姿が見えない.祭の手伝いだと思っていたのだが…… 「まあ,そんな小難しい話はさておいて,楽しみましょう!!」 突然,神社の敷地……小高い山をバックにした特製ステージに,黄色い声が響く. 「北之宮神社の双子巫女,恵美と望美の,特別ステージ,レッツゴー!!」 軽快な音楽が流れ始める.流行の女性ユニットによるデュエットソングだ. 二人は,巫女姿でその曲を歌い,その曲で踊り,舞う! 「うぉぉぉぉぉっ!! メグミターン!! ノゾミターン!!」 あ,ちょっと納得した. 彼らは,巫女さん衣装の恵美と望美が目当ての,巫女さんマニアだったのである. 「まあ,いつまでも古風な祭をしていても,歴史においてかれてしまうだけだからな」 双子の父の神主がそう言っていたらしい.まあ,温泉以外たいした目玉がないこの村の,村興しに使っていると言う事なのだろう. 「さあ,次はいよいよ雪騙し,もののふが鬼と化した姫を打ち倒すイベントです!!」 軽快な音楽と共に,一つの御輿が現れる.その上には,一人の美しい女性が……いや…… 「あれ? あれって,昨日の……確か和人って呼ばれていた子やないか?」 そう,美しい衣装と化粧で飾られているが,それは間違いなく昨日会った和人少年だった. 「もののふは,女装して鬼と化した雪姫を打ち倒した.まあ,姫の娘に化けたのだけど……それゆえ,雪姫祭のイベント雪騙しとは,女装した男が,姫と戦うと言うイベントなのだ」 「へえ,女装した姿を衆人の前にさらすと言うわけか.そりゃ普通の感性を持った男ならいやがわるわな.で,さっきから説明しとるあんたは何者や?」 女装した和人がステージに上がり,双子がその両脇に立つ.その時,粉雪交じりの風が吹いた. 「……!!?」 ステージには,和人,恵美,望美の三人しかいなかったはずなのに,いつの間にか,もう三人,小さな人影が増えていた. 「あ,あなたたちは……」 「私達,お仕事に来たんです.あ,私,空魅夜子っていいます」 「ボクは真城里華なのです.にぱー」 「そして私は,心と体の悩みを解決するセールスレディ,真城華代です」 華代がそういった瞬間,ステージが消える.物理的に消えたわけじゃない.すさまじい量の雪が舞い回り,ステージを外部の人間から隠してしまったのだ. 「――真城華代!?」 椎名はバックからある機械を取り出す.それは,携帯電話のようだが…… 「探知機は何にもいっとらへんかったはず……あ……電池が切れとる……」 椎名が持っていた華代探知機は,温泉で椎名が華代に会った時にきちんと作動していた.しかし,長風呂がたたり,電池切れを起こしていたのだ. 「ちぃ……かなわへんなぁ」 椎名は,ステージに向かって駆け出す.“ハンター”として,最悪の事態は回避させなくてはならない.でないと, 「また御陵君の奴に文句を言われるからなぁ……」 バッ!! とハリセンを取り出す. 「ビリケンはん……うちに,幸運を……ほな,いくで!!」 ステージを包むように粉雪が舞い回り,外界から遮断する. 「にー,この人が,雪姫さんをいつも騙している人ですか?」 里華が,和人のそばに寄ってくる. 「あなた達……あの時の温泉にいた……」 双子巫女の一人,恵美が三人の女の子達に声をかける. 「はい,私達,雪姫さんに頼まれてお仕事をしにきたんです」 「雪姫って伝説の……」 「とりあえず,雪姫さんを騙してる悪い男の子を雪姫さんの望みどおり,女の子にします」 「え……」 ポンッ! 「うわぁ……!?」 和人の体が,女の子の物に変わる.今回は雪騙しのイベントのために女性用の衣服を着,化粧も施されていたのであんまり違和感はなかったのではあるが…… 「うそぉ……」 「和ちゃん」 「い,ええ,えええ,えええええ!!」 かわいらしい絶叫が響く…… 「はい,雪姫さん」 その絶叫を無視して華代が上空を向く. 『おお……我が子……』 空から不気味な声が聞こえてくる. 舞い回る雪の中に,巨大な女性のシルエットが投影される…… 「な,何これ……映画?」 「なにかのイベント? 特殊効果?」 「何で俺が女になってるんだ!? 女装だけでもいやだったのに!!」 『我が子……』 巨大な女性の手が女の子になった和人に迫る………… 「ちょっと待ちいやっ!!」 突然,その遮断された空間に飛び込んで来た者がいる. 「華代ちゃん,あんた,間違ってるで!!」 「し,椎名おねーさん!?」 「どうしてここに?」 「え? 雪姫さんのご依頼どおり,雪騙しの人をきちんと女の人にしたのに,何が間違ってるの?」 「みー! 昨日温泉であったお姉さん……あなたは何者なのですか」 「うち……うちは大阪の幸運の神ビリケンはんの使い,熱烈なる阪神タイガースの応援者にてお笑いの伝道師,ハンター組織関西支部所属ハンター47号,暮羽椎名や!!」 枕詞,長すぎ………… 「何が間違っているんですか?」 華代が悪意や敵意のない,まっすぐな瞳を向けてくる. 「それは!!」 だが,椎名が言葉を出す前に別の声にさえぎられる. 「ゴメン,華代ちゃん.私も今回のお仕事は間違ってると思う」 「魅夜子ちゃん?」 「魅夜子……ハンター38号,空魅夜子か……」 本部の知り合いに聞いた知識を引っ張り出す.確か彼女はハンターといっても非公認な存在だ.同じハンターでも味方かどうかはわからない. 「ねえ,華代ちゃん.里華ちゃん.雪姫さんのお願い事って,雪騙しの男の人を女の人にする事じゃない.娘にもう一度会いたいってことだよ」 「そうね……」 「みー?」 「雪姫さんの願いをかなえるには……華代ちゃん,里華ちゃん,力を貸して!!」 「うん,魅夜子ちゃん」 「にっぱーっ!」 バッ!! 何をどう力を得たのかは知らないが,魅夜子は飛び上がり,空間の何も無い所に手をかける. バリバリバリバリバリ!! 派手な音がして,何もない空間が裂ける. 「む,むちゃくちゃな女の子やな……」 「何なのあれ?」 「一体何が起こってるわけ?」 「ていうか,何で俺女!?」 裂けた空間の向こうには,ここよりも白い世界があった. そこにポツンと,小さな……本当に小さな人……女の子が…… “おかあ……” その子の口が,そう動いた.その後ろに,白い濁流が,雪崩が迫る. 『おおおお!!』 雪姫のシルエットがうめいた.そして雪姫はためらうことなくその裂け目に飛び込んでいく. ……全くの余談だが,このときに救われた娘が北之宮神社の開祖となり,その血が恵美と望美まで続いているのである…… 「いやあ,今回のお仕事はもうちょっとで間違っちゃうところでした.魅夜子ちゃんや里華ちゃんがいてくれてよかったと思います.三人寄れば文殊の知恵って本当ですね.では,私達は別の人のお悩み事を聞きに行きます.もしかしたら次はあなたの前に現れるかも? でわっ」 「華代ちゃん今度はもっと考えてお仕事しようね」 「みー! 待ってくださいです.センパーイ」 こうして三人の少女は消えていく.それと同時に空間の裂け目とステージを囲んでいた舞い回る雪も消えていく. そして,和人は……女の子になってしまった姿を,祭に来ていた全員の目にさらしたのである. 「ウ,ウワァァァァァ!! ウワアアアアアン!!」 結局,和人はかわいらしい声を上げて泣き出した. 「和ちゃん……」 「今度からは和子ちゃんかな?」 双子が好き勝手な事を言う. 「うるさい!! 男がそんな事で大泣きすなっ!!」 バシコォォォォォンッ!! 泣いていた和人に,椎名がハリセンで一撃を入れる. 「きゃうっ!」 ぼぉぉぉぉぉんっ! 叩かれた和人の体から煙が立ち昇り……元の男の体に戻る. そう,椎名のハリセンには華代能力還元装置が組み込まれていたのだ. 何でそんなものに……と思うかもしれないが,それが椎名のスタンスだ. こうして事件は,大衆の目にさらされながらも, 『ああいう目にあったとき,女の子の方がしっかりしてるんだな』 とか, 『なんか今回の和人君かわいかったな.こりゃ来年の雪騙しの主役も決まったな』 とか, 『強い双子巫女ちゃん萌〜〜かわいい和ちゃんも萌〜〜』 とか……双子の株を上げ,和人の株を下げるものばかりで,謎の三少女や飛び込んできた関西弁の女性の事は上がらなかった. まして,本当に現れた雪姫の怨霊や,和人の女性化などの怪奇現象に至っては……間近で相対したものにしか理解されなかった. 「元気出してよ和ちゃん」 「そうそ,私達がついているから」 「う,う,う,う,う……」 双子の姉妹……恵美と望美,そして和人……三人のこれからの関係が非常に楽しみである. ………鬼. 「ご苦労だったな,ハンター47号,暮羽椎名」 「御陵君……?」 和人を元に戻し,ステージを降りた椎名は,この村にくるに使った車の所に戻ってきた. そこに,一人の男性がいた. ハンター秘密警察,ガイストメンバー,その五番目. ハンターガイスト05,御陵慎之介. ハンターガイストといえば柚木陽介さんのように固いイメージがある. この御陵慎之介もそのタイプだ.ちなみにまだ20歳の若者である. 「まあ,うちと同じ関西支部の勤務だからそんなに気にする必要はないんやけど……」 「何をぼそぼそ言っている?」 「別になんでもあらへん.それより,どうしてここに?」 「電車とバスを乗り継いで約一日かけてきた」 「いや,そないな事きいてるんやなくて……」 「大変だったんだぞ,お前が支部に一台しかない車を持っていってしまったせいでここまで来るのにどれだけかかったか……しかも俺,免停中だからレンタカーも借りられないし」 「秘密警察の人間が免停くらうなや……」 「まあ,とりあえず,祭は終わったんだ……俺は間に合わなかった……」 「落ち込むなや!!」 「まあ,それはともかく,今回は華代被害が最小限ですんでよかったな.お目付け役としても,鼻が高いぞ」 「切り替え早っ!! でもさ,今回の件,別にうちら支部の人間が動く必要はなかったんやないか? 本部から何人か来れば解決したと思うけどな」 「本部の方で何かあったらしい.正式ハンターはおろか,見習い,ガイストナンバー,居候まで動員するほどの大騒動がな」 「何があったんやろか……?」 椎名と御陵.二人はあくまで関西支部の勤務.本部には年に一度でも行けばいいほうだ.今回,それは幸運だったのかもしれない. 「支部の俺達には関係ない.では,帰るぞ」 そう言って,車の助手席に乗り込む御陵. 「う〜ん,変な噂が立ったりせえへんやろうな……」 「ふん.いまさら噂など,気にする人間ではなかろう」 「そやな」 そう言って,運転席に座る椎名. 「後は関西の支部に帰って報告書を書いて終わり,そういうことだ」 「ン……?」 誰かがなにか言ったような気がした. 「何や?」 「どうした?」 「いや,なんでもあらへん」 エンジンをスタートさせ,走り出す. これでこの事件は終わり.ハンターシリーズの1エピソードとして数えられるだけだ. (雪姫は救われた……では次は……) 雪やこんこ 霰やこんこ 降っても降ってもまだ降り積もる 山も野原も綿帽子かぶり 枯れ木野原に花が咲く |
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