ハンターシリーズ135
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辺り一面に緑が生い茂って、多くの花が咲き誇る場所。周りにある武家屋敷の様な塀が、そこを家の中の庭と教えてくれる。 その庭に、少年と少女がいた。 「空お兄ちゃん、花冠あげる!」 「ありがとう、つーちゃん。僕も作ったよ。 …ちょっと、大き過ぎたかな?」 少年と少女は、お互いが作った花冠を相手の頭の上に乗せ合う。 「私ね、お兄ちゃんのお嫁さんになりたい!」 「僕の?」 「だめなの…? お兄ちゃん、私のこと嫌いなの?」 「ううん、つーちゃんのことは大好きだよ」 「ほんと!? うれしい! じゃあ約束ね! ゆびきりだよ!」 「うん、わかったよ、じゃあ」 「「ゆーびきーりげんまんウソついたら針千本のーます」」 「…ん、ふぁー……夢? ……あの子……だれだろう…?」 タンクトップに短パンと、ラフな格好で寝ていた女性。彼女の名前はクーゴ・ハンター、ある組織に所属する女性だ。 元は男性だったが、とある事情により女性になってしまった。しかし、本人は全く気にしていない様子。 「今何時かな? 6時か……朝の散歩でもしようかな? うん、そうしよう。 …おばあちゃんの特訓からも逃げられるし」 思い立ったらすぐ行動の勢いで、クーゴは着替えを済まし、すぐに部屋から出て行った。 朝の街を散歩するクーゴ、早朝なので、車は多少見かけるが、人はあまり見かけない。 「んー…やっぱり早く起きすぎたかな? ちょっとまだ眠いし…」 95号が寝ぼけ眼のまま、歩いていると、 「うわっ」 「きゃっ」 人とぶつかってしまい尻餅をついてしまう。ぶつかった相手は声から察するに女性のようだ。 「あいたたたた…」 「あの…大丈夫ですか?」 「あ、はい、大丈夫…です(うわー、綺麗な人…外国の人かな?)」 ぶつかった相手でもある手を差し伸べた人物は、美しさの中に可愛らしさを持った顔、金色の左眼と、自分の右眼と同じ色をした水色の右眼。 後ろで纏めた長い金色の髪、自分よりも20cmは高い身長、金の髪の輝きをさらに目立たせるほど白いコート、清楚な雰囲気が出ている。そのあまりの美しさに見惚れてしまう。 「あの…大丈夫ですか…? 怪我して無いですか?」 「あ! はい! 平気です! すみません!」 「そうですか、それは良かったです。 ごめんなさい、ちゃんと前を向いてなくて」 「あ、いえ、こちらこそ」 「本当にごめんなさい。 ……あの、赤い髪に和服を着た女の子を見ませんでしたか? これくらいの身長の…」 そう言い、女性は腹部の高さに手を持っていく。 「いいえ…見てないですけど…、どうしたんですか?」 「用事があって一緒にこの街に来たんですけど…、離ればなれになってしまって…」 困った様子の女性を、クーゴは見捨てておくことなど出来るわけもなく、 「そうなんですか。…あの、一緒に探しましょうか?」 「いいんですか? 忙しくは…ないんですか?」 「大丈夫です! それに、困ってる人がいたら助けないと!」 「ありがとう、じゃあ…お願いしてもいいですか?」 「はい、任せてください!」 街中を歩き回り、探し人を探し回ったが、その人は見つからず二人は溜息をもらす。 「見つかりませんね…」 「ええ、どこに行ったのでしょうか…」 クーゴは、探している人物の外見は先ほど聞いたが、隣にいる女性と、どのような関係にあるか聞いてなかったので、尋ねてみた。 「あの、その子って妹さんですか?」 「いいえ、違いますが…?」 「ん〜、じゃあ娘さんは…違うか…もしかしてお姉さんって…すみません! 勝手なこと言っちゃって!」 「いえ、大丈夫ですよ。 気にしないでください」 「そうですか……(なんか…この人と話してると、落ち着くな〜。 すごく優しいし…おばあちゃんとは正反対)」 クーゴの祖母は、幼い頃、彼女を鍛えていた人物だ。しかし、その修行内容はかなりのもので、どこかの史上最強の弟子や、戦闘種族の宇宙人ですら泣いて逃げ出すくらいのものだ。事実、幼いクーゴは何度も生死の狭間を彷徨った。祖母は、ときおり優しい一面を見せるが、その一面には裏があるのではないか、と疑うくらい鍛えられていた。そのため、小学校を卒業するまでの記憶を殆ど憶えていない、と言うより忘れ去ったのだ。 そんな祖母を悪魔に例えるなら、隣にいる女性は天使だ。 ともあれ、2人が話しながら歩いていると、前方で男性が女性に言い寄っていた。 「…あの、急いでるんです…邪魔をしないでください」 「なにも邪魔するつもりはないんだよ、ただ君が困ってる様だからどうしたのかなって思ってさー」 男性に隠れて、女性の姿は見えないが、男性の見た目は明らかに遊んでる感じだ。 「大丈夫ですから…、本当に通してください…」 「そんなこと言わないでさー、ほら」 男性が、女性の手を掴もうとした瞬間。 「ちぇぇぇぇぇい!」 「ニゲルベッチ!」 クーゴは、男性の頭に飛び蹴りを放った。そして男性は奇声を発して飛んでいった。 「おばあちゃんは言っていた…。 嫌がる女の子を無理矢理誘うな! …と、大丈夫、君?」 「……あ、はい、ありがとうございます…。 …助かりました」 助けた女性は、女性というより少女か。髪で隠れた真紅の瞳、真紅の髪を後ろで纏め、背丈は千景や空奈より低く、140cmくらいだろう。大きな袖が付いたような合気道着を着て、顔は幼さがまだまだ残っており、可愛らしい。 「そう、よかった〜(……かわいい。 ああ〜もう可愛すぎ! ど真中ストライク!)」 ……どうやらクーゴにとって、好み(?)のタイプだったようだ。彼女に理性がなかったら、少女は散々抱きつかれた後、どこかの山村の女子学生よろしく、部屋に連れてかれるだろう。 「女の子を困らせるなんて、男の風上にも置けないよ。 ……ん? 君のこと、どこかで見たような…あ!」 目の前にいる少女は、今まで一緒にいた金髪の女性が教えてくれた、探している人物の特徴と一致してる。間違いないだろうと思ったクーゴは、少女の手を掴み、来た道を戻った。 「わ! ど、どうしたんですか!」 「君のことを探している人がいるんだ! 来て!」 「来て、って…もう連れてるじゃないですか!」 まあ、何はともあれ女性の所に戻ってきた訳である。 「ごめんなさい! いきなり、どっか行っちゃって!」 「あ、戻ってきたんですね。 …九十九(つくも)?」 金髪の女性は、クーゴが掴んでる少女の名前であろう言葉を発した。どうやら、間違いないだろう。 「…すみません、ただいま戻りました」 「無事で良かったです…」 「感動の再開…かな? 何か話してる様だし、ちょっと離れてよう」 そう言い、2人から離れ、耳を塞いだ。だが、会話の内容は少々聞こえてくる。 「九十……いきな………故?」 「御……様、……ません。 ………あの方が……かもと………して」 「…わかりま……た。 でも、……次………さいね?」 「…はい………ます」 (…なんか、深刻そうな話をしてるな…) クーゴは聞こえてくる内容から、何の話をしているか知ろうとするが、推理力はあまりないので、無理だった。 「あの…本当に助かりました。 ありがとうございます」 「え!? あ、はい、いえ、こちらこそ!」 耳を塞いでいたせいか、金髪の女性が近づいてくるのに気づかなかった。いきなり声をかけられためか、クーゴは驚いた。 「あの、ごめんなさい。 この住所の場所がどこにあるか、わかりますか?」 「え、あ、はい。 …あ、ここは…、はい、わかります」 「本当ですか? あの、どう行くのか、教えてくれませんか?」 「はい! とゆうより、案内します! 僕、ここで働いてますから!」 「そうですか、どうもすみません。 ありがとうございます」 「……ありがとうございます」 「いえいえ、それじゃあ行きましょう!」 毎度おなじみ、ハンター基地。クーゴと少女の2人は、基地内の受付で座っていた。先程から、なにか話しているようだ。 「まさか、新しいハンターの人だとは思わなかったな〜。 それも、九十九ちゃんの方が」 「はい…、私、いつかは家を継がなくてはいけないんです。 だから、それまでの自由なんです…。 …あの、何で私の名前を?」 「あ、さっきあの人が言ってたんだ。 そうだ、僕の名前言ってなかったね。 僕はクーゴ・ハンター、よろしくね!」 「はい、よろしくおねがいします。 …あの、クーゴさんも元男性なんですか?」 「あ、うん、そうだよ。 …変かな?」 「いいえ、そんなことありません。 姿が変わろうとあなたはあなたですよ。 それに…使命のためにそうなったのでしょう?」 「あ、うん、そう……ハハハ……」 相手は自分の行動を称えてくれているが、実際は私利私欲でなったようなもの。クーゴは苦笑いするしかない。 「どうかしましたか?」 「なんでもないよ! …ところで、あの人戻ってこないね?」 「そうですね…あ、今戻ってきました」 金髪の女性が戻ってきた。その歩く姿すら美しく、そこらのアイドルも裸足で逃げ出しそうなほどである。 「おまたせしました。 …九十九、私はこれで帰ります、また会いましょう。 …あと、彼の家に連絡を入れたのだけど、彼はここで働いてるそうです。 もしかしたら、会えるかもしれないですよ」 「本当ですか! ……あの方がここにいるだなんて」 金髪の女性の話を聞いた途端、立ち上がる九十九。クーゴは浮かれている彼女に尋ねた。 「……あの方って?」 「あ、クーゴさん、ごめんなさい。 1人で浮かれてしまって……」 「ううん、いいよ。 …あの方ってどんな人なの?」 「あ、はい、えっと……幼い頃、将来を約束したんです……。 ……あの方は、もう覚えてないかもしれないけど……。 とても優しくて……、とても強くて……、私に普通に接してくれた人なんです…。 ……唯一分かってることは、私のはとこであることだけで……」 「そうなんだ…、見つかるといいね! まったく、こんなカワイイ子をほったらかしにしてるなんて、見つけたらボッコボコだ!」 「…あの、それはちょっと…」 「九十九ちゃん! カワイイ子を困らせる人はお仕置きしなきゃ「おい、クーゴ。 貴様、オレの修行をサボるとはいい度胸だな」……あ、あ、あ、あ、ああああ!!!!!!!!」 クーゴが振り返った先にいる人物、それは彼女がもっとも苦手とする人物。彼女の祖母である、大神 冥だった。 「しかも、ナンパしてるなんてな…おばあちゃんは実に悲しい! ああ、なぜこんな軟弱に育ってしまったのか! やはり、修行が足りぬからだ! よし、今すぐ修行だ行くぞ!」 芝居かかった口調で正論を言い放ち、修行を開始させようとする冥。クーゴはそれに流されず反論をくりだす。 「ちょっと待って! それって修行にもっていきたいだけじゃないですか! それにナンパなんかしてません!」 「何を言うか! そこな少女の困った顔を見れば一目瞭然だ! そうだろう! って…うん? 見覚えが……。 ……昔、仕事で始末した奴の娘か? いや……護衛した奴の孫か? …う〜ん、思いだせん」 悩む冥。さりげなく物騒なことを言ってるのは気のせいだろう。とにかく悩んでいると、まだ帰ってなかった金髪の女性が口を開いた。 「……あなた、冥?」 「あ〜……って、はい? ………え!? はい!? あ、あ、あ、あ、ああああ!!!!」 金髪の女性を指差し、驚いている冥。信じられない物を見たかのような顔をしている。 「やっぱり冥ですね。 ……この15年間! 一体! どこで! なにを! していたんですか!」 「あ、あ、あ、あ、あ、兄さん!? 何で!? ここ、関係者以外立ち入り禁止だよ!」 あまりの驚きに、いつもとは別の口調で話す冥。 「関係者以外…? それなら、あなたはどうして? ……私は九十九の付き添いで来たのです」 「九十九…? ああ! この子、九十九ちゃんだったの! 美人になったね〜、前会った時は、こ〜んなちっちゃかったのに」 「話をそらさない……で、冥。 あなたは何故ここにいるのですか?」 「…えーっとそれは…「ちょっと待った!」…はい?」 2人の会話の間に割って入るクーゴ。 「いきなりで、何がなんだか分からないですけど! その人がおばあちゃんのお兄さん!? …じゃあ九十九ちゃんは!?」 「…孫…です」 「………ええええええええ!???????? …本当に?」 「…はい」 信じられない現実、理解出来ない現実、ありえない現実。クーゴの頭の中は混乱している。 祖母が自分と同じ顔をしているのはまだ受け入れられる。彼女が自身の身代わりが欲しいと、華代に依頼した。そして、自分の依頼と合わせて、2つの依頼を解決した結果だからである。 だがしかし、今の目の前の状況、10人中10人が振り向く容姿の女性が、実は男性でそれが自分の祖母の兄で、さらにその人の子供か何かだと思ってた子が孫で……、ここまで考えた瞬間、クーゴの頭に異変が起きた。 プシュー、プスン、プスン。 バタン!! いきなり倒れたクーゴ。近くにいる3人も驚いた。なにせ頭を抱え悩んでた者が、いきなり頭から煙を出して倒れたからだ。 「クーゴさん、大丈夫ですか!?」 「クーゴ!?」 慌ててクーゴに近づく、九十九と冥。しかし、金髪の女性、改め男性はその場で冥にある事を尋ねた。 「……冥、先程、クーゴさんはあなたのことを『おばあちゃん』と言いました。 ですが、私の記憶の中に『クーゴ』という名のあなたの孫はいません。 …15年前、あなたが連れてきた孫の名は確か……「兄さん!」……やはりそうですか」 「御爺様? どう言う……」 「……冥、場所を変えましょう。 ここではその子も休めません」 「わかった……」 「ん…ん〜…あれ? ここ…」 「ようやく起きたのね」 「おばあちゃん!? ここ……カフェ?」 目が覚めたクーゴはハンターカフェにいた。客は4人以外にいないようだ。 気を失ってる間に運ばれたのだ。ちなみに今、クーゴは冥の膝枕から起き上がった状態である。 「とにかく起きなさい。 これから大事な話し合いがあるの」 「え、…あ」 向いの席に座っているのは、九十九と金髪の男性だった。 「起きましたね、クーゴさん」 「…大丈夫ですか?」 「あ、うん。 大丈夫」 「良かったです…」 クーゴの無事を確認して、安心する九十九。そして、口を開いた男性。 「クーゴさん、改めて自己紹介します。 …私は大神 天音(おおがみ あまね)。 こちらにいる九十九の祖父です。 そして、あなたの隣にいる冥の兄です」 「!」 現実を、再度認識させられるクーゴ。天音はさらに話を続ける。 「クーゴさん。 あなたは、冥のことを『おばあちゃん』と言いましたね。 つまり、あなたは冥の孫、……そうですね?」 「…はい」 「…私は先程、親戚の家に電話をしました。 ある青年の居場所を知るために。 …そして、彼は今、ここで働いているらしいのです。 ……その青年は、九十九の婚約者…とでも言えばいいのでしょうか…。 …子供同士の約束ですが、この子にとっては大事な約束なのです」 「…!」 今、クーゴの頭の中で全てが一致した。祖母とその兄、それぞれの孫、九十九が語った幼いころの話、そして、今朝みた夢。それらが示す物。 「…あの、御爺様? 一体…?」 「九十九、あなたも気づいてるのでしょう? 彼女の発言、あなたが聞いた仕事の内容。そして、彼女の名前。 これらから考えられること。 ……クーゴさん、あなたは大神 空護、そうですね?」 「……………」 沈黙するクーゴ。天音が出した結論は正解である。しかし、認めてしまえば目の前の少女を悲しませることになるだろう。だが、ここで真実を打ち明けなければ、九十九はかつての自分を追いかけ続けるだろう。ならば……。クーゴが口を開こうとした瞬間。 「………クーゴさん、あなたは本当に……、空護様…なんですか?」 「「「「……………」」」」 4人に間に沈黙が続く、そして遠くからそれを見ている者達がいた。 「ふむ、深刻な雰囲気になってるようだ」とこれは千景。 「…なぜ、俺達はこんなことをしているんだ」これは疾風だ。 4人を見ていたのは、この2人だった。 「…なぜって、私がクーゴの張込みをしている時に君が来たからじゃないか」 「…そもそも、なぜ張込みを?」 「私達以外にも、彼女の行為に困ってる人がいるということだ」 「…ああ、なるほどな」 「そういうことだ、…ところで君もどうだ? プリン大福だ」 そう言って、疾風に大福を差し出す千景。 「…まあ、貰っておこう」 そして、それを受け取る疾風。一方、千景は4人の方に向き直った。 「…何か、動きがあったようだ」 沈黙を一番最初に破ったのは、クーゴだった。 「…九十九ちゃんの言っている空護様が、大神空護のことをいうのなら……そうだよ」 真実を告げたクーゴ。九十九は今にも崩れ落ちそうだ。だが、すぐに口を開いた。 「…空護さまは、…私のことを、…憶えていましたか?」 この質問の答えは、九十九にとって一番重要なことだ。幼き日の約束、大切な思い出。なによりも大切な宝物。それを自分だけが抱いてるのか。 そして、返ってきた答え。 「………僕は九十九ちゃんのことなんか、憶えていない」 「……そんな、そんなの嘘ですよね?」 九十九は、言葉を震わせながら答えを尋ね返した。 「……僕は、君のことなんて憶えてない!」 「クーゴ!」 冥の制止を聞かずに立ち上がるクーゴ、九十九を自分から突き放すためには、冷たく鋭い言葉を放つしかない。たとえ、自分を恨み続けることになっても、今日築いた友情を壊すことになっても。 「僕は、君のことなんか憶えてないんだ! 子供のころの約束なんて、口先だけの言葉! 自分だけの王子様が来るなんて幻想はかなわないんだ!」 「………!」 「…空護君、たとえ冥の孫だろうと、九十九を悲しませることは許しませんよ」 崩れ落ちる九十九と、立ち上がる天音。だが、クーゴはそれを気にせず話し続ける。 「許されようなんて思ってません。 僕はどんな罰でも受けますよ。 望むのなら、針千本だろうが、何だろうが」 「………空護様?」 「なにさ、僕に消えて欲しい? そんなことしても、昔の僕は帰ってこないよ。 でも、君を裏切った僕なんか、いない方がいいよね?」 崩れ落ちていた九十九はゆっくりと立ち上がり、口を開いた。 「……空護さま。 ……いいえ、空お兄ちゃん? 本当は覚えてるんですよね?」 「ち、違う! 僕は憶えてない! 君のことなんか知らない!」 「いいえ、約束した時に『ウソついたら針千本のます』とそう言いましたよね?」 「…そんなの、誰だってやるじゃないか! それで、憶えてることになんかならないよ!」 「いいえ、約束を忘れているのなら、針千本なんて言葉は出ないじゃないですか。 ……空お兄ちゃんは、本当は憶えているんですね?」 「………」 九十九の的を射た言葉に黙るしかないクーゴ。そして、少しの時間が流れた後。 「違う! 違う、違う!!」 「空お兄ちゃん!?」 叫びながら途轍もない速さで、その場から逃げだしたクーゴ。そして、急いで追いかけて行った九十九。残された冥と天音。 「……行ってしまいましたね」 「……そだね。 ……兄さん、座ったら? 後は若いもんにまかせてさ、なにか注文しましょう」 「……そうですね」 「ここまでくれば……大丈夫だよね」 クーゴは公園にいた。あまり遠くに逃げれば道に迷うと思ったからだ。 「……ははは、僕は馬鹿だよね。 自分を慕ってくれた子のことを忘れて、カワイイ物を抱きしめたいなんて」 「そんなことありません」 「!?」 声が聞こえた方に振り向いたクーゴ。 そこにいたのは九十九だった。 来るはずないと思っていた。そうしようとしたはずなのに。それなのに、九十九は目の前にいた。 「そんなことありませんよ。 だって、空お兄ちゃんは私のことを覚えていてくれたじゃないですか。 だから、馬鹿なんかじゃないです」 「……違う。 僕は本当に忘れてたんだ。 ……九十九ちゃんのことを何一つ覚えてなかったんだ」 「……それでも、……こうして今日、また会えたじゃないですか」 「……今朝、夢を見たんだ。 ……広くて草原のような庭で、男の子と女の子が仲良く話てて、二人で約束していた……」 「……やっぱり、覚えてくれてたんですね」 「……それだけだよ。 僕が憶えてる……いや、思い出したのは。 ……最低だよね」 「……憶えているのなら、それでいい。 思い出せないなら、一緒に思い出せばいい。 忘れているのなら、一緒につくっていけばいい。 ……御爺様が言ってた言葉です」 「……いい言葉だね」 「でしょう? ……だから、これから一緒につくっていけばいいんですよ。 ね、空お兄ちゃん?」 「……でも、僕は……!」 その時、九十九はクーゴに近づき、顔を近づかせた。 「私はあなたを許します。 だから、ウソなんてつかないで、本当のあなたを見せてください」 「……九十九ちゃん。 ……ごめんね!」 クーゴは九十九を抱きしめて、涙を流した。目の前にいる少女は自分を許すと言った。今まで寂しい思いをさせて、今日再び会えたのに自分は変わり果てた姿になっていて約束を果たせなくなってしまったのに。そして今さっき、酷い言葉をあびせたとゆうのに。 それなのに、目の前の少女は自分を許すと言うのだ。 「……ごめんね。 ……本当にごめんね!」 「泣かないでください、お兄ちゃんは悪くないですよ。 ……それと、苦しいです」 「え? ああ! ごめん!」 クーゴの胸の高さの位置に九十九の顔があるため、真正面から抱きしめれば当然、息ができなくなる。 「空お兄ちゃん、そろそろ戻りましょう。 御爺様達が心配してるかもしれません」 「そうだね!」 クーゴは九十九を抱えたまま歩き始めた。 「……あの、出来れば下ろして欲しいんですけど……」 「だ〜め!」 ハンターカフェに帰ってきた、クーゴと九十九。冥と天音の所に戻ると、テーブルの上には、ありたっけの皿の山で覆い尽くされていた。 「おかえりなさい。 九十九、空護くん」 「おー、結局ラブラブな結果に終わったか」 「……あの〜、あなた達は僕達がいない間、なにをしていたんですか?」 クーゴはこのような状況になってる理由を尋ねた。 「ごめんなさい……。 私、この一週間山に篭もっていたから、お腹が空いてたんです」 「ちなみに、九割九分九厘、全部兄さんが注文したものよ」 返ってきた答えにクーゴは驚きを隠せない。また、九十九も呆れた様子だ。 「……甘いものを食べてる時の双葉先輩より食べてる……」 「……御爺様。 あれほど山篭もりはやめてくださいって言ったのに……」 「ダイナミックステーキにデリシャスサラダ、スゥイートジャンボチョコパフェにカツ丼定食、海鮮祭船盛り、お持ちしました〜!」 バランスをとりながら料理を持ってきたのは、ファミレスの制服を着たなずなだった。 「なずな先輩!? ……もしかして、またですか?」 「よっと……。 あ、クーゴちゃん。 ……うん、また……」 「空お兄ちゃん、この方は?」 「あ、この人はなずなさん。 僕達を同じハンターの人だよ」 「そうなんですか。 はじめまして、なずなさん。 私、大神 九十九と言います。 今日からここで働くことになります。 ……ナンバーは99号です」 「九十九ちゃんね、よろしく……って、きゃあ!」 九十九の挨拶を返そうとしたなずなは滑ってしまい、両手にもっていた料理が宙に飛んだ。 「「「「危ない!!」」」」 飛んだ料理が、このままではなずなにぶつかってしまう。クーゴと九十九はなずなのもとに走り、冥と天音は立ち上がり走り出した。 「「「「……ふぅ〜、良かった」」」」 無事に間に合い、ダイナミックステーキは天音が、デリシャスサラダは九十九が、スゥイートジャンボチョコパフェとカツ丼定食と海鮮祭船盛りはクーゴがキャッチしていた。 「……って、ちょっと待った! おばあちゃん、何もしてない!」 「あ、ばれた」 「『あ、ばれた』じゃないですよ! なんで、僕だけ三つも!? しかも、両足と片手で持ってるし!」 「まあまあ、ひとまず料理を置いたらどう?」 「……そうだね」 三人は料理を近くのテーブルに置き、冥の方に向き直した。 「おばあちゃん! 1人だけ何もしないのなんて駄目だよ!」 「……私もそう思います」 「……まったく、あなたは……」 「も〜、みんなして私を責めないでよ。 ……ところで、なずなちゃんは?」 「……あれ、どこだろう?」 周りを見渡す4人、すると九十九が声をあげた。 「あ! お兄様、あちらです!」 九十九が示した方向には、体勢を立て直そうとしているが、片足で跳ねて今にも転びそうになっている、なずながいた。 「なずな先輩!」 クーゴがなずなを助けようとして、その場から飛び出した瞬間。 「きゃあ!」 間に合わず、なずなは転んでしまった。そして、何故か転んだなずなの手の先にあったモップが起き上がって、モップの棒の先端が籠に入った沢山のスーパーボールに当たって、沢山のスーパーボールが店内に跳ね回って、全部のテーブルの塩とコショウの瓶に当たってフタが開き、店中に塩とコショウが舞ってしまった。 「「「「げほ、げほ、げほ、……ハ、ハ、ハクション!!」」」」 「「「……あ」」」 「え? どうしたの、みんな?」 4人は塩とコショウが鼻に入り、クシャミをしてしまう。そして、クーゴ以外の3人が間の抜けた声を発した次の瞬間。 「眩しい!」 九十九と天音を中心に、いや、九十九と天音から眩しい光が周りに放たれた。クーゴは光が目に入ったが、冥はしっかりと目を閉じていた。 「なにがあった……の!?」 光が収まり、目を開けたクーゴの前には異様な光景が映っていた。 さっきまで一緒にいた、九十九と天音がその場からいなくなり、代わりに2人の男女が立っていた。 男性の方は、灼熱を帯びてそうな赤髪、赤い両眼、つり目だが整った顔。白いワイシャツを着て、黒のスラックスをはいており、細身で身長は190cmといったところか。 女性の方は、神秘的に輝く金色の長髪に、水色の右眼に金色の左眼、眼鏡を掛けており、キツめだが美しい顔、恐らく組織にいるどの女性よりも豊満な胸、その胸と比べアンバランスに引き締まったお腹、大きく盛り上がったお尻。身長は170cmくらいか。 「あ、あ、あ、あなた達、誰ですか!?」 「……チッ、まさか、こんなすぐにバレるなんて……」 「……そういう言い方は誤解を生むぞ、九十九」 「……おい、てめえこそバラしてんじゃねえか、このドジっ子ババァ!」 「なぁ……、誰がドジっ子だ!」 「もう一回言うぞ、このドジ「人の話を聞いてください!!」……あ」 クーゴは大きな声を上げ、2人の会話を中断させた。やっと話を聞いてもらえる状態になったので、もう一度尋ねることにした。 「……あの、あなた達は誰なんですか? 九十九ちゃん達は……?」 たどたどしい口調でクーゴは尋ねた。すると、女性の方が口を開けた。 「……私は、大神天音。 ……この子は、「いい、自分で言う」……」 「俺は…………大神九十九」 「えっと、天音さんに九十九さん……あれ? 九十九に天音? え?」 混乱するクーゴ。さっきまで目の前にいた2人と、今目の前にいる2人が同じ名前。だが、どう見ても別人だ。一体、どうなっているのか考えようとした瞬間、九十九と名乗った男性が口を開けた。 「……信じてもらえないかもしれないけど、空兄ちゃん、俺は……九十九です」 「嘘……だよね? 全然違うもん。 九十九ちゃんな訳……ないよね?」 「いいえ、空護くん。 その子は九十九よ、あなたの許婚でさっきまで一緒にいた」 「もしかして、華代ちゃん……?」 「いいえ、違うわ。 話せば長くなるけど、私も九十九も、クシャミをしたら性別が変わってしまう体質なの……」 九十九は顔を俯かせたまま、話を続けた。 「……空兄ちゃん。 騙したのは謝ります。 でも、俺は九十九なんです」 「そんな……、……なんで?」 「……知られたくなかった。 男に変わるなんて、気味悪がられるから……。 でも、空兄ちゃんが女の人になってたから、……ばれても良いと思った。 でもやっぱり……、元からこんな体質だなんて知られたくなかった……」 「……空護くん、九十九はあなたを騙すつもりはなかったの。 でもね、あなたに会うことを心待ちにしていた九十九は、自分が他の人と違うなんて知られてたくなかったの、……わかってくれる?」 「……でも……」 現実を受け入れられない。『華代』という特殊な存在あって起こりうる現象。だか、それ無しで、今、目の前で起きたことを受け入れられない。困り果てたクーゴは冥の方に視線を向けた。 「……お前が決めなさい。 ……お前の許婚なんだから、共に歩くか、……引き離すか」 「………………」 暫しの沈黙の後、クーゴは悩みに悩んだ末に口を開けた。 「……九十九ちゃん」 「……はい」 「……女の子の九十九ちゃんも、男の子の九十九ちゃんも、九十九ちゃんなんだよね?」 「……そう、なります」 「……、じゃあ、それでいいじゃないかな?」 「……え?」 「そのままの九十九ちゃんで、いいんじゃないかな? だから、九十九ちゃんがさっき言ったように、これから一緒に楽しい思い出を作っていって、楽しんで行こう?」 「……でも……」 「『でも』じゃない! 僕も騙してたんだから、お互い様ってこと! ね?」 「……でも」 「も〜」 九十九に近づき、背伸びして顔を近づけるクーゴ。笑顔で口を開いた。 「九十九ちゃんは悪くない、元からなら気にしないの! ね! それにここの組織の人はそんな人ばっかりだもん!」 「……空兄ちゃん、許してくれるの?」 「いいの!」 九十九は俯いていた顔を上げた。目には涙が浮かんでたが、表情は清々しい。 「……ありがとう、空兄ちゃん」 「どういたしまして……なのかな?」 九十九はクーゴの手を握り礼を言い、クーゴもまた礼を返す。すると、何処からか拍手の音が聞こえた。 「ん〜、めでたしめでたしだな」 「ふざけないで、冥」 「ふざけてないよ〜。 純粋に若人の幸せを祝ってるだけ」 「そういうのをふざけてると言うの」 「も〜、姉さんは硬すぎよ。 兄さんのときの面影が見られないわ」 「無くて結構」 兄妹喧嘩、いや姉妹喧嘩のような会話を繰り広げる冥と天音。それを眺めてるクーゴと九十九。 「……おばあちゃん達、仲良いね」 「……そうですね」 「そういえば……、なずな先輩は?」 「さっきの人ですよね? ……あれ? ……いな、うわぁ!」 「九十九ちゃん!? うわぁ!」 押し倒すようにクーゴの方に倒れる九十九。その原因は、 「あ、ごめんなさい! 大丈夫……ですか?」 今、話になっていたなずなだった。手に雑巾を持っており、床に散った塩やコショウを拭取ってたのだろう。 「いたたた……、はい、大丈夫です。 空兄ちゃんは?」 自分の下にいるクーゴの様子を確認する九十九。しかし、クーゴの様子がおかしい。顔が赤い。 「…………」 「空兄ちゃん? 大丈夫?」 「……ふにゃ〜」 ボォン! 本日、二度目の爆発。クーゴの顔から煙が出た。一体なにがあったのだろう。 「どうしたの!? 空兄ちゃん!?」 「その質問、私が答えよう」 「っ! 誰ですか!?」 九十九がクーゴを抱えた状態で顔をあげると、目の前にゴシックロリータな服を着た少女が立っていた。千景だ。 「私は、浅葱千景。 ここの組織に居候してる身だ。 以後、お見知りおきを。 君は先程までクーゴと一緒にいた少女だね?」 「……はい」 苦い表情をして答える九十九。変身体質が知られてしまっているからだ。 「さて、クーゴになにがあったかということだが、これを見てくれ」 千景が取り出しのはデジカメ。そこに写ってる写真を見て、九十九は驚きの表情を見せた。 写真には、クーゴと九十九の唇がしっかり重なってる瞬間が写っていた。 「クーゴの弱み、もとい調査を頼まれて遠くから見させてもらったのだか、まさかこんな写真がとれるとはな」 「う……うそ」 「怒ってたら可愛い顔が台無しよ〜……って、千景ちゃんじゃない、どうしたの」 「ああ、冥さん。 これです」 まだ話を続けていた冥が、こちらの異変に気づいたのか、近づいて来た。千景は状況を説明すると、デジカメを見せた。 「あら〜、これは……」 「台無しで結構……って、冥! 話の最中に逃げない!」 「ごめんなさ〜い、姉さん。 でも、これ見てよ」 冥は千景の手からデジカメを受け取り、写真を天音に見せる。 「……! 九十九! ……あれだけ女性のときは清楚に、男性のときは紳士に言ったのに……!」 全身から殺気を放つ天音。その矛先は九十九だ。 「ババ……じゃなくて、御爺様! ごめんなさい!」 「私に謝るな! 空護くんに謝れ!」 「はい! 空兄ちゃん、起きて!」 「う、う〜ん。 ……うきゅ〜」 一旦は起きたものの、すぐにまた気を失うクーゴ。するといきなり、冥が口を開く。 「あちゃ〜、こりゃ重症だね〜。 ……多分だけど、クーゴは生まれてから一度もキスしたことも、デートもしたことない。 だから、初心なんだよ」 「そう……なんですか?」 「そうなんです」 プチン。その瞬間、何かが切れた音がした。 「……九十九。 まったくあなたという人は……! そこに直りなさい! ……それと、なずなさんに千景さんですよね? 貴女方にも話があります。 あと……、そこに隠れている貴女。 貴女もです」 天音が振り向いた方に隠れていたのは疾風だった。彼女は驚きを隠せない様子だ。 「なぜ気づいた!? 気配は絶ったはずなのに!?」 「簡単なことです。 何も無いからこそ、そこに違和感が出来るのです。 ……さて、それでは始めましょうか」 天音の言葉に、九十九、なずな、千景、疾風の四人は身を震わした。 ……この後、九十九への約2時間に渡る説教と三人への10秒の口封じが行われた。 「……それで、君は99号だと?」 夕日が差し込むボスの部屋に、九十九が立っていた。姿は男性のままだ。部下Aはおらず、何故かボスの表情は暗い。 「……はい」 「……元からの変身体質か……。 性転換の被害に遭ったわけではないのだな?」 「はい」 「そうか……。 それより、天音さんでしたか? あの、出来れば、……その、危ない物を下ろしてくれませんか?」 「すみません。 ですが、まだ駄目です」 ボスの後ろには密着するように天音が立っていた。姿は女性のようだ。ボスの首筋に剣を当てている。疾風の持ってる刀とは違い、西洋の剣だ。その輝きから切れ味は抜群だとわかる。 「どうすれば下ろしてくれますか? それと、胸が当たっているのですが……」 「簡単なことです。 私達の体質のことをもらさないと約束してくれるのなら……」 「はい! はい! 約束します!」 「……そうですか。 あなたは信頼出来る人です。 わかりました、下ろしましょう」 ボスの首筋から剣を下ろし、部屋から出て行く天音。 「……もちろん、破ったらどうなるか……、わかってますよね? では」 天音がそう言い残し出て行った後、ドアが閉まった。天音の足音がしないので、部屋は不気味な雰囲気に包まれた。 「すみません、祖父が……」 「ああ、気にしてないよ。 冥さんで慣れてるからね。 まあ、初日から災難だったが、これからよろしく頼むよ。 大神九十九くん」 「はい……、クシュン!」 九十九がクシャミをしたと同時に、部屋の中が光に包まれる。しばらくして光が収まった後、九十九の姿は少女に戻っていた。 「……それでは、よろしくおねがいします。 では……」 一礼した後、小さい歩幅で部屋から出て行く九十九。自分一人しかいない部屋でボスは溜息をつく。 「……大変なことに成りそうだ。 ……ん?」 ボスは机の上に置かれた手紙に書かれた内容を読んで驚愕する。 『申し訳ありませんが、私、しばらくここに居候させてもらいます。 部屋は冥の部屋を使わせて貰いますので、結構です。 追伸 これはほんのこころばかりのお詫びですが受け取ってください 大神天音』 「なんってこった……。 お詫び? ……!」 手紙についていたのは、1の後ろに0が沢山付いた小切手だった。その額に驚いたボスは、しばらく固まったままだった。 夜、皆が寝入り、一日を思い返す。 クーゴは複雑な心境だった。 (……今日は色々あったな〜。 九十九ちゃんとか……、あ〜思い出すと心臓が〜!) 一方、四部屋隣に居る、少女の姿の九十九もまた、複雑な心境だった。 (……空兄ちゃんに、あんなことしてしまったなんて……。 あ〜どうしよう……) 冥と天音はまだ起きていた。天音は男の姿に戻っている。しかし顔はあまり変わっておらず、その違いは判りにくい。 「は〜、皆様に酷いことをしてしまいました……」 「気にしない〜の。 ……出来た!」 「なにしてるの?」 「なにって、兄さんと九十九ちゃんが変わってるときの名前! ほら!」 冥が掲げた紙には、大きくこう書いてあった。 『大神ツクモ 大神あまね』 ……いくつも消した後があるのは気にしないことにしよう。 「まったく、あなたは……」 「ははは〜(十数年ぶりに再会した許婚か〜、楽しくなってきたわ〜)」 ついでにもう少し、本人の名誉のため名前は公表しないが。 (なんなんだ、あの一家は……? 恐ろしい……) (気迫に負けて、剣すら抜けなかった……、くそ!) (あ〜、こわい〜) そしてまた明日が来るのであったとさ。おしまい、おしまい。 |
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