ハンターシリーズ148
|
|||
パラレルワールド,異世界,異次元空間……. 呼び方は様々あるが,つまりは我々がいる場所とは少し違うところ. 彼はそういう場所からやってきた. とある住宅街. 一人の少女を数人の男が囲み,脅していた. 少女は,大金を持っているか,はたまた,大金持ちの令嬢か何かなのかもしれない. 男の中の一人が,ナイフを突き出し,近くの車のなかに少女を押し込めようとしていた. 「脅迫,誘拐,そして監禁か……」 突然聞こえてきた冷たい声. 男達は,声のしたほうに振り返った. 「放しな,その少女を」 背中に木刀を背負った少年がそこにいた.ただの木刀を. 「なんだてめぇ.すっこんでろ!!」 「痛ぇ目見たくなかったらおとなしく……」 ナイフの男が,矛先を少年に変える. 「その少女を放せ」 しかし,少年は顔色ひとつ変えない. 「このクソ餓鬼! なめてんじゃねえぞ!」 男が少年に襲い掛からんと,ナイフを振り上げる. しかし,少年の行動はナイフの男よりはるかに早かった. 木刀をすばやく前に構え,一気に間合いをつめる. 少年の木刀は男の胸の,ちょうど心臓があるあたりに当たった.そのまま,体に食い込む. 「ぐうっ!?」 男がうめく. 通常なら致命傷になる一撃. しかし,血の一滴も出ず,男は少年にぶつかられた衝撃以外何も感じなかった. 「ふんっ」 少年は木刀を振る. 男が,その力で,飛ぶ. 勢いで,木刀が抜ける. 男は仰向けにひっくり返ったが,その胸には穴ひとつ開いていない. 「その少女を放せ」 最終警告といわんばかりの少年の表情と声. 「「「ギャー!」」」 男たちは一目散に逃げていった. 「やれやれ,ついたそうそうにこれか.ずいぶんな派手な歓迎をしてくれるじゃないか,この世界は」 少年は木刀を背負った. 「大丈夫?」 少年は少女に声をかけた. 先ほどとはうって変わって,やわらかい言葉遣いであった. 「ありがとうございます.おかげで助かりました」 「どういたしまして.災難だったね」 笑顔を浮かべる.先ほどの冷徹な表情からは想像もできない. 「僕は白谷 闘輝(シラタニ トウキ).君は」 「あの,私こういうものです」 そういって,少女は名詞を差し出した. ココロとカラダの悩み,お受けいたします 真城 華代 「華代ちゃん……」 「はい,セールスレディをしています.お兄さんは何かお悩みはありませんか」 「うーん……」 少年は返答に困った. 目の前にいる少女の行動を何処まで本気にしたらいいのか. また,まさか自分の事情を全てさらけ出すわけには行かない. 迷った末に,少年は. 「ここには来たばかりで,そういうことはよく分からないんだが」 「来たばかり? よく分からない?」 少女の目が輝いた. 「分かりました.引っ越してきたばっかりで,いろんなことがよくわからないんですね.そういうことなら任せてください」 言い終わった瞬間,少女の体から極めて膨大なエネルギーが放射されるのを少年は感じ取った. 何が起こるのかと身構えたが,彼には何も起こらなかった. そのかわり. 『うわあああああああ!』 遠くのほうで悲鳴が聞こえてきた. 「では,さようなら〜」 それだけ言い残して,少女は去っていった. 「えっ,ちょ,ちょっと!」 言い終わらないうちに,少女の背中は少年の視界から消えた. 少年は,少しだけ迷ったが,悲鳴が聞こえてきたほうに足を向けた. 「何じゃこりゃー!?」 少年が悲鳴のしたところにいくと,二人の女性がいた. 一人はポニーテールの少女.Tシャツにジーンズというラフな格好. もう一人は,Tシャツにハーフパンツ.なぜか,サイズが合っておらず,ぶかぶかである. 「どうなってんだこりゃ!?」 「これは,華代現象だ! ヤツが近くにいたのか!?」 二人とも大騒ぎしている. 「どうしたんですか」 たまらず少年は二人に声をかけた. 「え? え!?」 「な!? おまえは!?」 声をかけられた少女達は,少年の顔を見て驚きの声を上げる. 「なに!?」 少年もまた,少女のうち,ぶかぶかの服のほうの顔を見て驚いた. 「お前,いま,こいつが,あれ!?」 ポニーテールの少女は,一緒にいたもう一人の少女と突然現れた少年の顔を何度も見比べている. 「お,お前は,僕!?」 ラフな格好の少女は,少年の顔を見ながら驚愕に目を見開いている. 「……まじ?」 少年は,声こそ小さかったが,驚きは三人の中で一番だったかもしれない. 「お,お前,誰だ!」 ラフな格好をした少女が聞く. 「……白谷闘輝だ」 「なに! ふざけるな!」 「誰がふざけるか」 「白谷闘輝は俺だ!」 少年が目を見開き,黙り込む. (まさか,異世界同位体……) ここで,ポニーテールの少女が質問する. 「お前は,誰だ.こいつの知り合いか?」 まだ状況が飲み込めていないらしく,声が上ずっている. といっても,現状を正しく理解している人間はここにはいないわけだが. 「……なんと言ったらいいかな?まあ、同一人物と言えば同一人物だし、赤の他人でもあるからな」 「で、一体お前は,何者だ?」 「…………」 少年はたっぷり間をおいてから. 「時空間移動者さ」 ボスは,二人の珍客を連れ帰った部下を前に,濃い青汁を飲んだような表情をしていた. 「情報を整理しよう.まず,いちご.お前は,新しいハンター候補をスカウトしにいったんだったよな」 「はい」 「で,迎えにいってみたら,ハンター候補は突然華代現象にあってしまったと」 「はい……」 「そして,その場に突然別の人間が現れた.そいつは,なんと華代現象にあったハンター候補の元の顔と同じ顔をしていたと」 「はい…………」 「で,とりあえずつれて帰ってきたと」 「はい………………」 「ふーむ」 ボスは,大きな溜め息をつき,二人の来訪者をかわるがわる見た. 「君は,誰だ?」 二人のうち,予定には無かった,男のほうの人間に問う. 「僕は,白谷闘輝.この世界とは異なる世界からやってきました」 「異なる世界?」 ボスが疑いのまなざしを少年に向ける. 「はい.我々で言うところの,第一世界群第一世界からで.あなた達からすると,僕は異世界人ということになります」 「異世界人……宇宙人とは違うのか」 「相当違います」 「うーむ……」 ボスは,少しの間考えた後. 「住む所は決まっているのか」 「いえ,まだ決まってません」 「アテが無いのなら,うちに来るといい」 「ちょ,ちょっと,ボス」 いちごがあわてて口を挟む. 「こんな頭のおか……怪しいヤツになんで!?」 「妖怪だとか特殊能力者がごろごろ出てきているこの時勢だ.そろそろ,こういうのが来るんじゃないかと思っていたところだ」 ボスは達観したようにいう. 「それに,信用できないのなら,僕の力を見せますよ」 「……やってみろ」 ボスが静かに命令する. 「はい」 その言葉と同時に部屋の中にあったテレビが真っ二つに分かれた. 「……………………」 いちごと,新顔の少女は驚きの目で少年を見る.ボスも少し驚いたようだったが,二人ほど大きな表情の変化は見せなかった. 「まあ,僕は元の世界でも特別ですからね.それに,あまり,破壊系の技は好まないのでね」 そういった.しかも,その言葉が終るのと同時にまた,テレビが元に戻った.しかも,割れる前と全く変わっていない. 「で,最後にひとつ」 と言って,使ったのは. 「っ! 性転換!」 いちごが声を上げる. 「何なんだ……」 声を漏らした少女の顔と,変身した少年の顔は,まったく同じであった. 「なるほど.つまり只者では無いと……」 ボスはそれほど驚いてはいないようだった. 「まあ、これはこっちに来てから習得したものですけど」 「とりあえず,部屋に案内させる.いちご,2人を連れて行け」 「え,僕には質問は無いんですか」 同じ顔をした2人のうち,無視されたほうが言う. 「君のプロフィールは大体聞いている.ご両親にも話は通っているのだろう.だったら私から聞くことは無い」 「そ,そうですか」 当てが外れたように下がる. 「そうそう,そのかわり言う事があった.君に34号のハンターナンバーと,半田紗代のコードネームを与える.明日からがんばってくれたまえ」 「はい,わかりました」 「以上だ」 ボスはそう一旦区切ったあと,思い出したように言葉を繋げる. 「あぁ,そうだ.お前」 異世界から来た少年(現少女)が振り返る. 「真城華代は知っているか?」 「真城華代……?」 少年(現少女)は,先ほどさらわれかけていたところを助け出した女の子のことを思い出した. 突然放たれた強力な力が,強く印象に残っている. 「ああ,さっきの.あの子が,どうかしたんですか」 「いや,知らないなら良い.いちご,部屋に案内する間にでも教えておけ」 「はぁ……」 釈然としない面持ちで,いちごは2人を部屋から連れ出した. 「ふー……」 誰もいなくなった部屋で,ボスは溜め息をつく. 「またややこしいのがやってきたな……」 ボスの頭痛の種がまた増えた瞬間だった. 「まてよ.さっき,あいつは“我々”って言ってたよな.……また,あいつみたいなのが来るのか?」 いちごは廊下を歩きながら,真城華代に関する一通りの説明をした.全く同じ顔をした二人の少女のうち,数十分前に会ったばかりの方に. 「そんなにややこしいのか,真城華代ってやつは」 「ああ.とにかく人の話を聞かないやつでな.会話をして,無事でいられたのは奇跡としか言いようが無い.もっとも……」 いちごは反対側を振り向く. 「その分こっちは無事じゃ済まなかったわけだが」 いちごの視界に,ほんの数十分前に性転換させられたばかりの元少年がいる. 「沙世……か」 「どうしたんだ」 ため息混じりの34号にいちごが尋ねる. 「いや,いきなり,女になったから,心の準備ができてなくて……名前はいいんだけど……」 「……つまり,女になりたかったと?」 「いや,別にどっちだっていいと思うな.性別なんて.それに元々性格が女性よりみたいだし……」 いちごにしてみれば,この心境は理解しがたかった. 性別というものは,普通の人間にとってどっちだっていいなどといえるものでない. 深く突っ込みたかったが,やぶへびになるかもしれないと思い,当たり障りのない言葉を述べる. 「生理が大変だぞ」 「その大変さはよく知ってるよ.妹がね,よく,それで,文句垂れてるから」 「まあ,いいや.……で,お前はさっきから,何やってる?」 予定に無かった来客(現在女性)のほうにいちごは振り向く. 「ん? いや,とくになにも」 「だったら,ぶつぶつと独り言を言うのをやめてくれないか」 「ああ,ごめん.少し考えことをしていた」 「考え事? 何をだ」 「いや,たいした事じゃないんだが……なぁ」 「なんだ」 「この世界の軍艦やら、戦闘機やら、攻撃機のデータがほしいんだがなあ,何か情報源は無いのかな?」 何を物騒な.そういおうとしたいちごを,隣人がさえぎった. 「あ,僕,『世界の*船』と『航*ファン』と『スー*ームック』シリーズを定期購読してるよ」 「なに! 見せてくれ!」 「ははは、残念.今は持ってないよ.今度家から持ってくるよ」 突然仲良くなった二人に挟まれ,いちごはうんざりしたように溜め息を吐いた. |
|||
|