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ハンターシリーズ151『ふみかちゃんねる その2』 作 ・てぃーえむ

ハンターシリーズ151
『ふみかちゃんねる その2』

作・てぃーえむ

ホームページ“奏天六花(そうてんりっか)”はこちらからイラスト:とうこさん

 

 朝の会議室。
 パイプ椅子に座ったいちご他常勤ハンター達は、ボスの傍らに立つ少女を見つめていた。
 まるで、昔の記者のような格好をしているその少女は、どうにも年齢の推定が難しかった。今年、高校生になったばかりだと紹介されたら、それで納得できるだろう。しかし、彼女の目に宿る使命感らしき光と雰囲気は、社会人だと言われても十分に納得できる。
「今日付でここに務めることになった、ハンター60号の武藤文香だ。彼女は人がいなくなった広報部を背負って立つことになっているので、実際に前線に立つことは少ないだろうが、まあ仲良くしてやってくれ」
 ボスの簡潔な紹介に、文香は礼儀正しくお辞儀をし、ハンター達は気配を動かした。ハンターの考えを代表してか、いちごが手を挙げる。
「なんだ、1号」
「質問です。前任者はどうなりましたか?」
 前任者とは、広報部の武藤文也のことである。
 いちご達はもちろん、文也と文香が同一であることを弁えている。彼女が華代被害者であることは事前に知らされていた。
 しかし、彼女はただの華代被害者ではないのだ。
 華代の存在を知らない、ハンター組織の一般職員であった。デリケートな問題であり、だからこそ、彼女の扱いはこの場にいるハンターにとって関心のあることがらだった。
「彼か。彼、武藤文也は、今朝早くに名誉ある特務を遂行するため遠方へと発った」
「……なるほど」
 いちごが頷くのを見とめてから、ボスは更に続けた。
「そうそう、武藤という名字で気がついた者もいるだろうが、彼女は武藤文也の妹だ。特務の件は以前より彼に伝えており、今月号の広報紙制作を最後にその仕事を妹に託すことも話し合いで決まっていたことだった。広報部だけでなくここにも配属されたのは、たまたまハンター能力を持っていたからだ。能力者は貴重だからな。以上だ、他に質問は」 
 つまり、そういう設定になっている、と言うことだった。それが解れば、もう尋ねることはない。ハンター達は沈黙でもって答えた。
「よろしい。では1号。今日一日、60号に付いて心得を教えてやってくれ」
「はい」
 いちごは首肯した。彼女はベテランであり、一般ハンターの中でも一等高い地位にいた。だから、こんな時は大抵、彼女にお呼びがかかる。それを理解しているいちごは、不満に思うことなくその命令を受け入れた。
「よし。解散だ」
 それを合図にハンター達は席を立つ。一人その場に残ったいちごの元へ、文香がやって来た。
「すいませんいちごさん。よろしくお願いします」
 彼女はちょっと申し訳なさそうに頭を下げた。
「いいさ。知らない仲じゃない。じゃあ行こうか」
 いちごはそう言って微笑むと、付いてくるようにと手で示して歩き出した。



 本部内の施設、それも華代対策に当たっているハンターが使用する施設を、いちごは案内していた。いくつかを廻って、今は華代被害者の為に用意されたロッカールームにいる。
「ここがロッカールーム。奥にはシャワーまであるんだぜ。わざわざと思うだろうが、まあこれは感情の問題だな。今じゃあ華代被害を受けたハンターは結構な数になってるし」
「解りますよ。体はともかく、心までは変わらないから」
 基本的に、華代被害を受けたハンター達は、いつかは元の男性に戻りたいと願っている。それ故に、元からの女性と着替えたりお風呂場に入ったりするのは、ひどく気まずいのだ。
「まあ、中にはすっかり女に馴染んでいる奴もいるがな」
「双葉ちゃんですか」
 ちょっぴりいたずらっぽく、文香は言った。彼女もまた、すでに真城華代当人と華代被害を受けたハンターについての説明を受けていた。
「ああ」
 いちごは肩をすくめた。
「女連中に言わせれば、別に一緒に着替えたって構わないらしいんだが」
「ぼくらのほうが構うんですよねえ……」
 複雑な表情の文香。
「それでも馴れちまうもんさ。お前さんも、早いとこ馴れた方が良いかもな。表向きは彼の妹なんだから」
「……努力します」
 と、その時だ。こんこんっと軽くノックの音が聞こえた。きっかり2秒後、ドアが控えめに開かれた。
「ごきげんよう。ちょっといいですか?」
 入ってきたのは黒髪翠眼の少女だった。浅葱千景、どういう訳か本部の寮に居候している少女だが、華代被害を受けたハンター以外は立ち入らない所に姿を見せるのは珍しかった。
「なんだ。わざわざどうしたんだ?」
「ええ、ちょっと挨拶を。その方ですか、広報部の後釜さんで妹さんというのは」
 その言葉を聞いて、すぐにいちごは納得した。
 千景は広報部の文也とはつきあいがあり、広報制作の手伝いをすることもままあった。広報部の人間が入れ替わったのを知り、早速会いに来たらしい。
 千景は中に入ってくると、しっかりドアを閉めて、いちご達の元へとやって来た。
「おや、可愛い」
 感心した風に千景が呟くと、文香はほのかに頬を染めた。
「どうも。このたび広報部の活動を引き継ぐことになりました、武藤文香です」
 ぺこり。文香はお辞儀をして、それに答えて千景も頭を下げた。
「ごきげんようです。武藤ですから……、きっとナンバーは60号でしょうね」
「ええ」
「ふむ。それにしても……」
 千景は、まじまじと文香を見つめた。いや、観察と言うべきか。
「これがあの文也さんとは。綺麗に化けましたね」
「えっ」
 文香は頬を引きつらせた。いちごも、目を鋭くする。
「……どうして知ってるんだ?」
 文香が華代被害を受けた文也であるという事実は、ごく一部の人間しか知らないはずだった。
「え? 私が華代を知っていることは、いちごだって知っているでしょう」
 彼女はこれですべてを説明したつもりらしい。しかし、説明不足も甚だしい。
「いや、何でお前はそんなに端的なんだ?」
 いちごはちょっと不満げにそう言った。千景は、どうでもいい事に饒舌で、特に自分の趣味に関しては一時間でもしゃべっているくらいだが、こういう時に限って一言で済ましてしまう質なのだ。
「?」
 いちごの言葉に、千景は小首をかしげた。何度も眼を瞬かせて、それでいちごが意図することに気が付いたのか、ようやく言葉を紡いだ。
「昨日、突然、華代探知機が発動しました。出現場所は本部内です」
 そう言ってポケットから小型の華代探知機を取り出して見せる。
「何で持っているのかは今は訊かないことにしておく。それで?」
 ハンターしか持てるはずがない物を持っているのは、それはそれで追求すべき事だったが、あえて無視をして話を促す。
「その後、真剣な顔をした貴女が不安げな表情の彼女を連れて歩いている姿を、幾人かが確認しています。男性職員の間でちょっとした話題になってたんですよ」
「……知らねえよそんなの」
 男共の話題にあがったと知り、いちごは顔をしかめた。
「でも、受付のお姉さんは彼女の姿を見ていませんでした。つまり、突然沸いて出たか、裏口を使用したかの二択となりますが、極秘の来客の予定はなかったはずですから、後者はあり得ない。つまり彼女は華代被害者です」
 華代の出現、ハンターであるいちご、本部に入ってきた形跡がないのに内部に存在していた少女。それだけあれば、推測するのは容易いことだ。
「華代出現直後より、武藤文也さんの姿を見た者は誰もいません。そして今日、不可解な人事異動が発表されましたから、これで確定でしょう」
「いや確定なのか?」
 もはや無意味なことだと解ってはいたが、一応、いちごは食いついた。
「確定ですよ。いくらなんでも、人一人飛ばしてその人の妹を後釜に据えるなんて、そんな無茶な話が突然起きるわけ無いじゃないですか。相応の理由がない限りは」
「ボスは、この話は以前から上がっていたと……」
「いちご。私は広報部とつきあいがあるんですよ?」
 そんな話があるのなら、自分が解らないはずがないと言わんばかりの顔だ。
「……まいった降参だ」
 いちごは両手をあげて見せた。
「ははあ……。さすが千景ちゃんだね……」
「華代を知っていれば、誰だって出来る推測ですよ」
 感心する文香の様子とは正反対に、千景は素っ気なかった。
「華代を知っていればってことは、千景ちゃんもあの子のこと知ってるんだね」
「ええ」
 頷く千景を見て、いちごはふと疑問に思った。
「そう言えばお前、なんで華代のこと知ってるんだ?」
「言ってませんでしたっけ」
 千景はきょとんとした。
「なぜもなにも、私がここに来たのは、華代を調べるためですし」
 そして重大な発言をサラリとしてのけた。
「そうなんだ!?」
 いちごは驚いたが、それよりも文香の反応が凄かった。
「実はぼくもあの子について取材したいと思ってたんだ。あれほどミステリアスな存在はないからね。はっきり言うと、ぼくは真城華代の謎を解き明かしたいと思っている」
「おや、これは奇遇ですね。私も、彼女についてはとても興味深く思っています」
「そうだよね! これも何かの縁だ、一緒に華代の秘密に迫ってみないかい?」
「ええ。かまいませんよ」
「よし決まりだ!」
 二人は手を取り合って、ぴょんこぴょんこと跳ね飛んだ。
 妙に文香のテンションが上がっているが、これは突然性転換してしまった不安を吹き飛ばす為に、努めて明るくしているのだと考えれば説明は付く。
「それもいいが、文香、本来の仕事も忘れるなよ」
「わかってますって、いちごさん!」
 釘を刺してみたものの、どうにも不安ないちごであった。



「で、何で俺達は街にくり出しているんだ?」
 賑わう歩道を歩きつつ、いちごはぼやいた。数歩先を文香と千景が歩いていて、二人は油断無く周囲を観察している。と言っても、大仰に周囲を探っているのは文香だけで、千景は一見、普通にのんびり歩いているように見える。この辺りが性格の差なのだろうか。
「言ったでしょう。華代に会える気がしたからですよ」
 明後日の方を向いていた千景が律儀に答えた。
「ただのカンかよ」 
「カンは大事ですよ。これを信じられなくなった人から体に穴が空いて風通しが良くなるんです」
「なんつー喩えだよそれは」
「まあそのカンを騙すのがまた楽しいのですが」
「……お前が将来ペテン師にならないことを願うよ」
「あら。探偵と弁護士はみんなペテン師ですよ」
「………………おいおい」
 本職の人達が聞いたら暴動を起こしそうな台詞だ。とりあえず、中学生探偵として名を馳せている人間の台詞ではないなといちごは思った。
  「まあ、どうせパトロールする予定だったから良いんだけどな……」
 千景が街へ行ってみようと言い出したのは、本部内の施設をすべて見回り、次はハンターの業務を説明する番になったその時だった。パトロールもハンターの仕事だし、それを実行する事自体に問題はない。しかしそれを言い出した理由が『華代に会える気がする』でほかに理由は無いのだから、まったくこの少女は変わり者だった。
「ちょっとこないうちに街も変わったんだねえ……」
 ふいに、文香が言葉を漏らした。ずっと広報制作に追われていたせいで、こうして街を歩くのは久方ぶりなのだそうだ。
「あそこって団子屋がなかったっけ?」
 指を差した先にはコンビニがあった。まだ出来たばかりらしく、オープンセールののぼりが立っていた。
「それなら潰れましたよ」
 千景があっさり答えると、文香は肩を落とした。
「なんてこった。好きだったのに」
「確かに美味しい団子屋さんでしたね。私も以前、習いに行ったことがありますし」
 普段は怠惰なくせに、好きな事となると途端に活発になる千景である。
「でも跡継ぎがいなかったそうです。もう年だし、店をしまうことにしたと言っていました」
「そうなんだ……。良い風合いの建物だったのにな。写真撮っておけば良かった」
 そう言うと文香は、肩にぶら下げたカメラを両手に持ち、写真を撮るポーズをとって見せた。
「代わりにいちごさん撮ろうかな」
「よせよ」
「これでも写真には自信があるんですよ。記者だから」
「はいはい……ん? あれは」
 適当にあしらっていると、一瞬、視界によく知った人の影が映った。
「どうしました」
 いちごの異変に即座に気が付いた二人は周囲を探る。そしてすぐに、いちごが目撃した人物を見つけ出した。 
  「真城華代!」
「追いましょう」
 そう言って尾行の体制に入った。さすがは記者と探偵、こういうのは得意らしい。
「ったく、本当にカンが当たるとはな……」
 急な展開に、置いてけぼりを喰らったような気分になったいちごは、頬をぽりぽり掻いてため息をつくと、驚くほどの自然さで真城華代の跡をつける二人に続いた。
 


 真城華代は、なぜかどんどん人気のない方向へと歩いていった。仕事をするのならば、人が多い方がお客も見つかりやすいだろうに。あるいはと、いちごは考える。彼女には困りごとを持つ人間を探知することが出来て、その反応がある方へと歩いているのかもしれない。
 まあ、ただ単に、そっちへ行きたい気分なだけなのかもしれないが。
 文香と千景は、何時の間にやら別々に行動し、違う角度から華代を追っていた。尾行方法も、物陰に身を潜めながら行く文香に対して、千景は偶然同じ方へと進んでいるだけだと言わんばかりに堂々と歩いていて、しかも眼は真城華代の方を向いていない。
「ん」
 突然、真城華代の動きが止まった。慌てて物陰に隠れるいちご。そっと覗いてみると、華代が塀の上に座る猫と向き合っているところだった。なにやら話しかけている様子だが、当然声は聞こえない。続いて二人の姿を探すと、すぐに見つかった。文香はもちろん、千景もこんな時は物陰に潜んでいた。
『おや、にらめっこを始めましたよ。面白い顔してます』
 ハンター謹製の通信機から、千景の声が聞こえてきた。そんな物まで持っているらしい。
『むー。ここからじゃいまいち解らないなあ』
 続いて文香の声。角度的によく見えないらしい。
『此方からはよく観察できますが』
『じゃあ、そっちに行くね』
 次の瞬間、いちごは目を見張った。
 文香の姿がかき消えた、と思ったら千景の隣にしゃがみ込んで写真を撮っていた。
「んな! お前、なんだ今の!」
『え? あ。あれ? なんかぼく、凄い速く動けた?』
 通信機に呼びかけると、そんな声が帰ってきた。当人も困惑気味のようだ。
『真城華代と対面したとき、なんと言いました』
 千景の問いかけが聞こえてきた。
『えっと……自分が不甲斐ないせいでうんぬんとか』
『他は』
『フットワークがあればなあって言ったような……』
「それだ」
『それです』
 いちごと千景の声がかぶった。
 武藤文也は鈍重だった。別に太っているわけではなかったが、運動神経に難があり、足も遅かった。その当たりを「フットワークがあれば」という言葉で表し、華代に語ってしまったのだろう。
 つまり、武藤文也は性別だけでなく『足回り』まで転換されてしまったのだ。 
「それであの速さか……無茶苦茶だな……」
 文香の力が明らかになったところで、改めて華代に目を向ける。ちょうどにらめっこが終わって、歩き出したところだ。
『おや、時計を気にしてますね。移動速度が上がりました』
『待ち合わせでもしてるのかな?』
「とりあえず追うぞ」
 尾行は再開された。
 もう、華代は立ち止まることはなかった。迷い無く足早に道を行く。
 数分ほど歩いて、ある建物の中に入っていった。
 こそこそと、いちご達はその建物の前で立ち止まった。小学生のための学習棟のようだ。
「で、どうする?」
「さすがに勝手に入っちゃまずいよね」
「黙って入ればばれませんよ。多分」
 順に、いちご、文香、千景の台詞である。
「あの、ここにご用ですか?」
「うわっ!」
 突然声をかけられて、いちごは驚き振り向いた。そして更に驚く。
 そこにいたのは小さな女の子。今、建物に入っていったはずの真城華代だった。
「なんでここに!?」
「?」
 真城華代は、可愛らしく小首をかしげた。
「ええと、お姉さん達、何かご用ですか?」
 再び同じ事を問いかけてきた華代に、いちごはどう言うべきか迷った。
 どうごまかすか。
 答えが見つからないいちごに代わり、文香が口を開いた。
「あの、実は、ま、真城華代さんに取材を申し込みたいのですが!」
 両手を握りしめ、声をうわずらせながらもそう言った。
「へ? 取材ですか?」
 意外な返答に、華代はびっくりまなこだ。
「はい。セールスレディとして大活躍する真城華代さんにインタビューしたいと思いやって来た次第です」
 フォローのつもりなのだろう、真顔で千景が言った。よくもそんなに口が回る物だと、いちごは感心した。
「えへへ。そんな、活躍してるって……まだまだですよ。でも取材ですか……。うーん」
「な、なんとか、なりませんかね?」
「ん〜。それじゃあ、みんなに訊いてみましょう。付いてきてください」
「え。は、はいっ!」 
 勢いよく首を振り、文香は歩き出す華代の後を追う。それに続くいちごと千景は、興奮気味の文香とは違い不安げに目線をかわした。
「……今、みんなって言わなかったか?」
「言いましたね。確かに」
 玄関をくぐり、靴を脱ぐ。廊下を歩いて階段を上り、奥の方にあるドアの前に立つ。
「みんなー」
 中にいる人に呼びかけながら、真城華代はドアを開いた。
 その中にいる子供達の姿を見て、いちご達は驚愕した。
「取材したいって記者さんが来たんだけど良いかなあ〜?」
「えっ、取材!」
「わーい!」
「あたし達も立派になったものね」
 その部屋にいた子供達の姿。
 それは、数十人からなる真城華代だった。



「これは何の冗談だ」
 報告書に目を通したボスは、側に立つ部下へと問いかけた。
「はあ。でも1号と千景のお墨付きですから、きっと本当なんでしょう」
 そう言う部下も、どうにも信じ切れていない様子である。
 報告書の見出しにはこうあった。
『緊急アンケート! 真城華代30人に訊きました』
「30ってなんだよ。いすぎだろう!? 好きな食べ物は、1位がケーキで6人だと? 子供の卒業文集か!?」
「実際に子供ですしね。2位はハンバーグで……、あ、ほらワインゼリーが2人って、おませさんですよね」
「仕事が忙しくなかなか実現できないが、100人101脚に出て優勝出来たら嬉しい……って、なんだそれは!?」
「取材した際も、なんだかオフ会みたいだったとありますね」
 報告書に寄れば、初対面同士の華代もいたらしく、「初めまして、真城華代です」「これはご丁寧に、私は真城華代です」というやりとりもあったらしい。
 ボスはその様子を思い描いて、
「……悪夢だ」
 死んだ魚の目で天井を振り仰いだ。
「で、三人はどうしている」
「1号は、頭痛がすると言って部屋にこもってそれっきりです。60号と千景は、どうもテンションが上がっているようですね。謎が深まって、更にやり甲斐が出てきたって」
「……いちごが繊細すぎるのか、二人がタフなのか……」
 ボスは天井を眺めながら首を振った。
「で、どうします」
 今後も華代の調査をするであろう二人を、どう扱うのかと言うことだ。
「どうもこうもない。好きにやらせるさ」
「いいんですか? 60号はともかく、千景は」
「好きでやるんだから問題ないだろう。わざわざ口出しする必要はない」
「はあ」
「そういうことだ。行って良いぞ」
「では失礼します」
 退室する部下の背を見送ってから、もう一度報告書に目を通す。
「……さて、これからどうなるかな」
 そんな呟きと共に、ボスは報告書を引き出しにしまったのだった。


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