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ハンターシリーズ153
『名探偵登場』

作・匿名希望

 

ドゴン!!
「うわっ!!!」
ある昼下がり、ハンター本部に大きな音と悲鳴が響き渡った。

「ボス!」
「今の音は何だ!?」
「入り口付近の壁に車が突っ込んできたんです!」
「何でまた?」
「さあ…」
「で、怪我人は?」
「まだ判りません。
 とりあえず1号達に任せてあります」

一方、ここは本部の入り口。
扉の脇にある壁から天井にかけて大きな穴が開いていた。
そして、その瓦礫の下から、わずかに大型車らしき物が覗いている。
「様子はどうだ?」
「もっと瓦礫をどかさないと駄目…、うわ!」
突然車の脇に落ちていた瓦礫が跳ね飛ばされた。
車のドアが思いっきり開かれたのである。
「ふ〜やれやれ、えらい目にあったぜ」
車の中から1人の男が出てきた。
金髪をオールバックにした、全体的に日焼けした健康そうな男だった。
更にその後からもう1人男が出てきた。
こちらは栗毛色のボサボサ頭で眼鏡をかけている。
先に出てきた男とは正反対の不健康そうな男だった。
年齢はどちらも20代くらいだろう。
「金田、お前のせいだぞ。
 フロントガラスに向かって思いっきりゲロ吐きやがって」
「筋肉の運転が荒っぽいから車に酔ったんだろ…、うっ!
 おえええ…」
金田と呼ばれた男は突然床にゲロを吐いた。
「うわっ、きたね!」
「ってか、人の基地にいきなり車で突っ込んだうえにゲロ吐くな」
金田の突然の行動に周囲に居たハンター達はヒきまくる。
「ああ、こいつの事は気にしないでください。
 こいつ虚弱体質で、しょっちゅうゲロ吐くんです」
周囲の反応に気づいたのか、先程筋肉と呼ばれた男がフォローを入れようとする。
「だから原因はお前の運転だろ…!」
が、金田は普通にツッコミ返した。

「どうも…、俺はこういう者です」
漸く金田は回復したらしく、近くに居た10号に名紙を渡した。
「『田神平次郎探偵社社員 金田逸意』…、探偵?」
「探偵っていうと、千景と一緒だな」
「まあ、厳密に言うと微妙に違うんですけどね。
 とにかく、今日俺達がここに来た理由は…」
「ああ〜っ!!」
突然、筋肉が大声を上げて1号の所に走りこんできた。
「な、何だ?」
「お、俺は三沢智明って言います!
 俺、いち子ちゃんの大ファンです!」
「いや、それ人違い…」
「いやあ、いち子ちゃんの普段は女の子らしいのに、たまに男らしくなる性格!
 本当に素敵ですよ!」
「そこかよ…」
「落ち着け、筋肉」
「何だよ金田!」
「人違いだ。
 彼女は狩生いち子じゃない」
「え?
 でもこんなにそっくりだぜ?」
「世の中には自分に似た人間が3人は居るっていうからな。
 別におかしくも何とも無いだろ」
「そんなにそっくりな奴って居るのか?
 俺、見た事無いぜ」
「お前のそっくりさんなら昨日動物園で30頭ぐらい見かけたぞ。
 とにかく、お嬢さん。
 俺の友人のご無礼をお許しください」
「…は?」
急に金田の口調が変わった。
「こいつ自分の好きなアイドルの話になると目の色を変えるんで困っているんですよ。
 ご迷惑をおかけしました」
「は、はあ…」
「もっとも、あなたは確かにアイドルの様な美しさと気高さを兼ね備えています。
 見間違えるのも無理も無いでしょう。
 だから許してあげてください」
「いや、その…」
「おい、俺よりヒかれてんじゃねえか」
「うるさいな、冗談だよ。
 俺に成人してない女を口説く趣味は無い」
「そ、それに俺は本当は男で…」
「え?
 本当ですか?」
「あ、ああ…、本当だ」
「へえ〜、最近の性転換手術は進んでるんですね。
 今度オカマバーにも行ってみようかな」
「オ、オカマじゃないし手術も受けてない!」
「冗談ですよ。
 真城華代でしょ?」
「あ、ああ。
 実はそう…、ちょっと待て。
 何で華代の事を知ってる?」
「当然ですよ。
 俺達の今回の依頼は真城華代を調査する事なんですから」
「…何のために?」
「依頼人は華代被害者、これで大体察しはつくでしょ。
 これ以上は守秘義務があるもんで。
 証拠ならここにありますよ」
そう言うと、金田は一枚の名刺大の紙をポケットから出した。
それは紛れも無く真城華代の名紙だった。
「依頼人さんから預かってきたんです。
 ハンターってのは真城華代の専門組織でしょ?
 だったら一々聞き込みをするより手っ取り早い。
 餅は餅屋って言うしね」
「どうしてそれを知っている。
 一応、うちと真城華代との関係は秘密のはずなんだが…」
「たまたま元被害者の方と接触できましてね。
 色々と教えてくれましたよ。
 駄目ですよ、本気で隠そうってのならもっと細部まで徹底しなきゃ」
「し、しかし…、だったら俺達がその依頼人の所に行けば…」
「残念な事に、依頼人が何処の誰かって事は例え誰であっても言っちゃいけないって言われてるもんでね。
 どうです?
 協力してくれませんかね?」
(こいつ…)
1号は金田の表情をしっかりと見つめた。
口調はふざけた感じだが、何処か油断ならない雰囲気がある。
さっきはサラッと流していたが、よく考えれば華代被害者だって華代に関する事実を詳しく知っている訳が無い。
大体彼らの依頼人はハンターに関しての知識も無さそうだ。
知っているなら、ハンターの存在を考慮した契約を結ぶだろう。
それに、元被害者と言っても現在普通に暮らしている以上、見つける事自体困難なはずだ。
(華代被害者の目撃証言とあの名紙、それだけでハンター組織の存在まで辿り着いたっていうのか…?
 それと…)
1号は三沢の方に顔を向けた。
(あいつも只者じゃ無さそうだ。
 あれだけ大きい瓦礫を、ドアを開ける勢いで跳ね飛ばしたんだ。
 並大抵の力じゃそんな事はできない…。
 それと、さっき俺の所に走りこんできた時、あいつの身のこなしはやたらと良かった。
 運動神経も抜群ってとこか…)
「で、どうなんですか?
 情報提供だけでいいんですけどね」
「あ、ああ…」
ふいに金田が話しかけてきた。
「一応…、極秘の情報だからな。
 もう少し検討させてくれ」
(田神平次郎探偵社…、名前はダサいが…)

金田と三沢は一旦ハンターカフェに移り、その間にハンター達の間で話し合う事になった。
「あいつらの事、どう思う?」
「確かに怪しいな。
 華代の情報を何に使うつもりなのか、依頼人の目的は何なのか、疑い出したらきりが無いけど」
「問題は華代について何処まで理解してるか、そして何処まで承知の上で行動してるかって事だな。
 前にも華代被害の関係でややこしい事件が起きたし、その辺には慎重にならないと…」
「う〜ん…、とりあえず、悪用出来なさそうな無難な資料を渡しておくってのはどうだ?」
「例えばどんな?」
「例えば…、え〜っと…」
「イルダさんみたいなその道の専門家じゃないと理解出来ない様な資料ってのは?」
「向こうの探偵事務所にその道の専門家が居る可能性もありますから」
「確かにあいつらの仲間にどんな奴が居るか解らないからな、今の所は…」
議論は果てしなく続いていった。

「とりあえず、俺が行ってみよう」
突然そんな声がした。
「ハ、ハンターガイスト!?」
「どうしていきなり…」
「話をまとめるのは慣れてるからな。
 あの栗毛色の髪をした奴が居るだろ」
「ああ、金田とか言う奴か」
「それがどうしたんだ?」
「あいつは未熟ながらハンター能力を持っている」
「え?」
「その線が利用できるだろう」
そういうとハンターガイストはハンターカフェへと向かって行った。

1時間後。
ハンターガイストは金田と三沢の2人を連れて他のハンター達の所に戻ってきた。
「おい、どういう形でまとまったんだ?」
「今日付けで俺がハンターに入る事になった。
 まあ、非常勤みたいなもんだけどな」
1号の問いかけに、金田がさらっと答えた。
「…ってちょっと待て!
 どうしてそうなるんだ!?」
「こいつらは依頼人が元に戻るために華代の調査をしているのだろ?
 我々が戻そうにも、守秘義務のせいで依頼人の場所は教えられないという。
 ならばこいつをハンターに入れて、こいつ自身がハンター能力をコントロール出来る様にすればいい。
 その上でこいつ自身が依頼人を元に戻せば文句はあるまい。
 こいつら自身には華代の情報を悪用する気は無い様だしな」
「ま、という訳でハンター能力の制御方法はよろしく」
「それに…、ハンターの一員であればこちらとしても監視がし易い」
「ふう、まだ完全に信用されて無いって訳ですか。
 ま、壁ぶっ壊しといて簡単に信用しろって方が無理な話か」
「いや、その件は本当に失礼しましたアニキ」
三沢の一言に、一瞬その場が凍りついた。
「あれ、皆どうしたんだ?」
(お前がどうした!!!)byハンター一同。
「…何があったんだ?」
「いや、こいつが喧嘩を売ってきたから軽くあしらっただけだが…」
「気にしないでくれ。
 こいつ脳味噌が筋肉で出来てるうえに、思考回路が体育会系なもんで。
 それでガイストさんの格闘技術に惚れ込んだって所だろ。
 念のために言っとくけど、危ない意味は無いぞ」
(どんな意味だよ!!!)byハンター一同(数名除く)
「それはそうと筋肉、あの瓦礫片付けなくていいのか?」
「おっと、忘れてた。
 そんじゃあ英雄29号を引っ張り出してくるか」
そういうと三沢は車の方に走っていった。
暫くすると、何か硬い物が砕ける様な音が聞こえてきた。
「…なあ、英雄29号って何だ?」
「あいつの愛車だよ。
 通称はキンニク号。
 いつだったか、どっかから廃車を見つけ出してきて自分で修理したんだ。
 あいつ乗り物の扱いだけは得意だからな。
 おまけに改造されまくって、今じゃ装甲車並みの性能持ってるらしい」
「何でキンニク号なんだ?」
「あいつの渾名が『筋肉』。
 それに名前が英雄(エーユー→Au→金→キン)2(ニ)9(ク)号だろ?」
一瞬、部屋の中を吹雪が吹き荒れた。

「で、何故か新人が入ったって訳か」
「はあ…、そういう事だそうです。
 扱い的には人手が足りない時に来る非常勤ハンターって形だそうですが」
「まあいいだろ。
 番号は51号が空いてたな」
「後、相方の方からも頼みがあるそうで」
「何だ?」
「何でもその相方が壁をぶち破ったか床を踏み抜いたかしたせいでアパートを追い出されたらしくて…。
 ここに泊めてほしいとの事です」
「別にいいんじゃないか?
 一応ハンターの関係者だしな。
 問題は部屋だが…」
「あ、それは問題無いそうです。
 車の駐車スペースがあればその中で寝泊り出来るそうで」
「いいのかそれで…。
 …っていうか、ここである意味あるのか?」
「別の所でやったら苦情が来たそうなんです。
 それで、駐車を許可してくれる所を色々探してたらしくて」
「なるほどな。
 …そういえば、何で63号が黄昏てるんだ?」
「冒頭からずっと瓦礫の下敷きになってたのに、誰にも気づいてもらえなかったそうです」
「あの悲鳴、あいつのだったのか。
 よく生きてたな…。
 流石と言うか何と言うか…」


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