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俺の名はヤヌス・パドル。


とある宇宙規模の組織に所属する“エージェント”だ。
この大宇宙の秩序に重大な障害を与え得る“異変”を早期に捉え、収束させるのが任務だ。
やりがいのある仕事だが、高度に進化した寿命の長い種族じゃなきゃ出来ない。
100年やそこらで見て回れるほど、宇宙は狭くないからな。


……何、とてもそんな神々しい種族に見えない?――放っといてくれ、エージェントにも色々いるんだよ。


宇宙ってのは結構複雑な構造をしていて、あちこちに時空の歪みがあり、
不安定な穴が開いたり閉じたりしてるんだ。
しかも、その穴から色んなモンが出入りしている。
どっかから迷い込んだ隕石の類なら大した心配はねぇが、世の中そんなに甘くない。
物騒な宇宙怪獣だったり、やましいこと考えてる宇宙海賊だったり。
……あ、海賊って時点でやましいっちゃやましいか。

――ま、まぁとにかくだ、宇宙には厄介ごとが多いんだよ。

 

ハンターシリーズ154
『哀愁の80号/第1話・パドルの受難』

作・GmaGDW

 

そして今回、任務を受けてやってきたのがこの星だ。
俺たちが所属する社会では“アーク”と呼ばれている――現地での呼称は“地球”。
結構並行世界、つまりパラレルワールドが多い星で、その並行世界によって属性も色々と違う。

今回の世界は、これまた個性的なところらしい。

生態系の一部に、種族を問わず特異な性転換能力を持つ個体がいる。
種族の繁栄を維持するために、自ら性転換を起こす種族がいるってのは別段珍しい話じゃないが、
ここには自分の性はそのままに、自分以外の個体を性転換できる個体がいるらしい。
よーするに、簡単に言えば、同性に惚れても異性に変えられるヤツがいるってことだ。
……便利な能力だよな、変えられる方はたまったモンじゃねぇが。

そしてどうもその能力は、生態系のバランスを維持するのに必要らしいんだな、これが。
事前調査で分かったんだが、この能力を半ば無差別に行使する、特殊な個体がここにはいるらしい。

先の“他者性転換能力者”の中の更にごく一部なんだが、その能力はズバ抜けている。
それも隣人を異性に変えるなんてレベルじゃない。
その気になりゃ、街1つの住人の性をそっくりひっくり返すことも出来るようだ。
……まぁ、こいつはまだ事前調査から推測されるだけだがね。
この手の突出した能力者は、本来自分の力の使い方をある程度知ってるモンなんだが、
この世界にはどうも、その“例外”がいるらしい。
しかも単純極まりない思い込みで、その凄まじい能力を行使するというんだからとんでもない。
――まさに理不尽、ある意味で天変地異だ。
善意のお節介ほど厄介なものもそうはねぇが……まぁ俺が言えた義理でもねーな。

当然ながら、こんな個体を放っておいたら生態系は激変しちまう。
種族の性バランスが崩壊して、最悪の場合種の絶滅だって起こり得る。
……つまり、この特殊個体の“暴走”を抑制するために、他の性転換能力者が生まれたという解釈だ。
特殊個体がカン違いで変えてしまった、多数の被害者を、その能力を応用して元に戻す。

もちろん確固とした根拠があるワケじゃねぇが、説得力はあるんじゃねぇかな……どぉ?


★☆★☆★


……つーわけで、俺は今、その“還元措置”を集団で行う組織があると聞いて、その施設の前にやってきた。
その名も“ハンター”……特殊個体を狩るって意味らしいな。
聞いた話によると、そのハンター組織は表向きには公表されてない秘密組織らしいんだが――


「嘘つけよおぃ……コレのどこが秘密基地なんだよ」


目の前にあるのは、どこかの特撮映画にでも登場しそうな、主張しまくりのゴツいビル。
今にも目の前に“○○ベース”なんて字幕が流れそうだぜ。
政府お抱えの正式な諜報機関ならまだしも、そんな情報もない極秘組織が、
こんな目立つ建物持ってていいのかねぇ……○ンタゴンじゃあるまいし。
いやまぁ、国家機関には違いないらしいんだが……怪しさは其処此処から染み出してる。

施設の1階には喫茶店が併設されてて、どうやらそこは誰でも入れるらしい。
いわゆる“ブラインド・カフェ”ってヤツだな――もっとも、ここまで来たらほとんどバレバレだが。

俺は客を装って――まぁ実際客なんだが――そのカフェに足を踏み入れた。

カフェにいる客の大半が、俺の方を見た。
理由は分かってる……俺が開けたドアの音に反応したか、俺の容姿に反応したか、どちらかだろう。
身長222cm、体重144kg、色白で金髪。
宇宙人には思われないように擬装モードを施しちゃいるが、体形は元々のそれと大差ない。
人間には見えるだろうが、そう頻繁には見ないだろう巨漢だ。

建物の1階に設置されたカフェは、こじんまりとしてはいるが、
奇麗に手入れが行き届いて清潔感に満ちている……しつらえもなかなか良さそうだ。
特に目立った外見の人間はいない……あえて言えば、多分俺が一番目立ってんじゃねぇかな。
周りの視線がその証拠だ、それに――

カフェの“奥”からも、何人かが俺を見ている。

そこには大きな鏡が置いてあるが……ふふん、どっこい俺には透視能力があるんだな。
その鏡――恐らくマジックミラーだろう――の向こうから、何人かがこっちを眺めているのが分かる。
組織の構成員かな、いい体格の大人に混じって、何人かの小柄な女性がいる。
ほとんどが少女だ……本来、こんな場所にはいないような小さな娘の姿をしている。

恐らくは――“被害者”なんだろうな。

保護されている被害者なのか、特殊個体の暴走に巻き込まれた“能力者”なのかは分からないが。
ということは……あの“娘たち”、元はいい体格の男だった可能性もあるワケだ。
どういう気分なんだろうなぁ、本意ではないだろうに……


★☆★☆★


「こっちを見てるわね、気持ち悪いわ、なんか見透かされてるみたい」
「でも、向こうからは鏡としか見えないはずですけどねぇ」
「でも何か気付いているみたいに見えるのよねぇ……鏡に映った自分の顔を見てるようには見えないのよ」

マジックミラーの反対側では、この施設の人間が、カフェの客たちを見ていた。
彼らこそ、特殊性転換能力者“ハンター”のエージェントたちである。

長身のすらりとした女性は、ハンター3号・藤美珊瑚だ。
勝気な表情で、グラマーなボディにフィットしたスーツ、怪しい手袋が特徴である。

3号の横で相槌を打つ、柔和な青年はハンター5号・五代秀作。
能天気なキャラクターだが、実は天災的……もとい天才的な計算能力の持ち主だ。

少し離れて、ボーイッシュな姿の少女が、複雑な表情でカフェを眺めている。
女子高生のような外見だが、目の鋭さは学生のそれではない。
ハンターの筆頭にして性転換被害者の1人、ハンター1号――通称“半田いちご”である。

「……どうしたんだ、いちご?」
「――え?あ、いや、な、何でもねぇ」
「気になるんでしょ?彼が……昔のアンタに似てるもんねぇ……いや、もっと大きいかしらね?」

3人が話題にしているのは、先ほどカフェに入ってきた、金髪の大男だ。

顔こそ細めで精悍な雰囲気だが、2mを優に超すだろう肉体には岩のような筋肉が盛り上がっている。
といっても全体的に太いわけではなく、関節部では細く引き締まっており、
ちょうど体操選手のような無駄のない肉付きだ。
かなりの巨漢だが、体脂肪率は相当に低いとみて間違いないだろう。
ハンターたちが知っている裏社会にも、なかなかこれだけ恵まれた肉体の男はいないのではないだろうか。

更に気になるのは、その男が時折こっちを見ることだ。
しかも、目を1点に据えるのではなく、鏡面を舐めるように見渡す。
……鏡に映った自分の顔を見ているのだとしたら、こんな視線の移動はしないハズだ。
しかし……普通に考える限り、自分たちの姿が彼に見えているはずはないのだが。

「――ありゃ、見えてるな」
「7号!? どういうことだ?」
「言葉通りさ……あの男、俺たちの存在に気付いてる」
「俺たちが来たときにも反応したよね……薄気味悪いな」

3人に混じって話しかけてきたのは、ハンター7号とハンター6号。
7号・七瀬銀河は精悍な青年だが、6号・半田りくは小学生ぐらいの少女の姿をしている。
……しかも、頭にはウサギのような黒い耳まで。
言葉遣いから分かる通り、この6号もかつては凛々しい男だったのだ。
……今や、その面影は微塵もないが。
7号の片目は銀色に変色している……彼はこの目で、常人に見えないものを見ることができる。
――つまり、一種の透視能力だ。

「ってことは、アンタの目と同じようなものを、彼も持ってるの?」
「そこまでは分からんが……いずれにしろ、只者じゃないのは確かだな、目の鋭さも普通じゃない」
「あぁ、それは俺も気付いてた……あの目は裏社会の住人の目だ」
「それにしても確かにでかいな、1号が気になるのも分かるよ」
「う……うるさいな、何だよお前ら寄ってたかって」

その時、軽い鈴の音と共に、カフェの扉が開かれた。

「ちょっと待って……今カフェに入ってきた子ってまさか――」


★☆★☆★


――ほぅ、どうやら、俺が普通じゃないことに気付いたらしい。

あの男……片目に透視能力があるな、組織内にも多属性の能力者がいるのか。
それにしても……横にいる少女はなんだ?
あの耳はコスチュームじゃなくて、体の一部らしい……ほとんど獣人だな。

「お客様、ご注文はどうされますか?」
「ん?あぁ、ブレンド1つ……いや、サンドイッチセットにするか♪」

そう言えばここはカフェなんだったな。

それにしても……仕掛ける気配はないな。
特殊能力の持ち主と分かれば何か行動を起こすかと思ったが……思ったよりも慎重だな。
今のウェイトレスにも変わったところは特になかったようだし。
俺としては、仕掛けてくれた方が何かとやり易いんだが……まぁ気が早いかもな。

もう少し、様子を見るか――――いや、ちょっと待てよ。

 

「――おじさん、何か悩みはないですか?」

……こっちが先に来たか。

 

俺のすぐ隣に、10歳前後の小柄な少女が立っている。
気配で分かる……この少女は普通じゃねぇな。
鏡の奥の連中も、明らかに顔色を変えた……やはり、この子がそうか。


その“特殊個体”の手口は、すでにリサーチ済みだ。


「……ん? お嬢ちゃんは?」
「あ、あたしこういう者です♪」


『ココロとカラダの悩み、お受けします――真城華代』


そう……こんな風にセールスレディを名乗り、名刺を渡す。
“悩み”の解決法は、どういうわけかほとんどの場合依頼人を性転換させること。
それが始まったら十中八九、途中で停止は出来ない。
だったら……こうするしかねぇ。

「ふーん……でも別に――悩みはないよ?今とても充実してるんだ、悪いね」
「はぁ……そうなのですか」

少女が怪訝な表情をしている。
“依頼人の気配”を嗅ぎ付けたのに、反応が鈍いからだろう。

被害者は大抵、付け入られる隙がある。
この少女はそんな“心の隙間”をキャッチしてやってくる。
だから基本的に、彼女に関心がない者や心に隙がない者、
言い換えれば余計なことを考える余地のない者の多くは、
集団性転換現象にでも巻き込まれない限り、被害者になることはないってわけだ。

彼女が今、俺の横に来たのは、俺が一瞬、心に隙を見せたからだ。
ただしそれは意図的なもので、俺はすぐにその隙間を埋めた。
だから今、彼女は見つけたはずの標的を見失って戸惑っている。

「どうした、お嬢ちゃん? 行くあてがないなら一緒に昼食でもどうだい?」
「あ、はい――――いえ、やっぱり遠慮します、仕事がありますから……」
「そうか……小さいのに関心だね、頑張りなよ」
「はい、それじゃ――また♪」

少女はにこりと笑い、ぺこりと頭を下げてカフェを出て行った。
あの能力が無きゃ、無害で愛らしい少女なんだがなぁ……
俺は少女が出て行った後にやってきた、サンドイッチをほおばりながら、目を窓の外へとやった。


その時だった。

「すみません、失礼ですが――」

俺の背後で声がした。
比較的若い、青年の声だ。

さっきの透視能力を持った男だな……やっと関心を持ってくれたか。


「ふゎい? 何でひょ?」

俺はサンドイッチをくわえたまま、男の方に向き直った。


★☆★☆★


「うちゅうじん?」

カフェの裏側に通された俺は、そこで初めて自己紹介した。
もちろん、正直にね……嘘ついてどうなるわけじゃなし、調査協力も必要だしな。
長身の青年やらジャケット姿の女やら、ジーパン姿の少女が一斉に、狐につままれたような顔をした。
……ある程度、予想はしていたが。

「あの……どういうことです?」
「いや、聞いたままなんスけど?」

……気持ちは分からんでもないよ。
けど、集団性転換とか、時空震とか、怪獣やらが普通に現れる世界だろうが。
……いや、普通にってのはさすがに言い過ぎか。
だがなぁ、もうちょっと免疫持っててもいいんじゃないのかな?

「まぁ……華代みたいなのがいる世界ですし、宇宙人くらいいても……」
「仮にそうだとして、何故宇宙人が地球の調査を? ひょっとして侵略目的とか?」

いや、侵略するなら挨拶に来ないでしょ普通。
……まぁ、地球人にとっちゃ、宇宙人なんてそんなモンなのかね?――それは視野が狭いと思うぞ。

「だから……今言った通り、あの少女の宇宙秩序における危険性をね……」
「確かに華代は問題だが……宇宙規模にまで膨らむ問題かな?」
「彼女が絡んだ事件で、空間の穴が口を開けたケースが報告されてるので、念のために」
「あぁ、そう言えばそんなこともあったなぁ」
「うん、そうだっけ?」

7号と名乗った透視能力の青年は思い当たる節があるようだが、
1号――いちごと呼ばれる少女はどうやら、記憶にないらしい。
まぁ、共通認識ばかりではないんだろうな。

リサーチ情報によれば、真城華代は単なる性転換に留まらず、
必要と判断すれば相手の記憶を書き換えたり、因果律にまで干渉できるらしい。
まさに“神の力を持つ少女”というわけだ。
……ということは、事件を知る者と知らない者が混在していても、驚くほどのことはない。

「それにしてもパドルさんでしたっけ、目の前まで来た華代をスルーするなんて大したものですね」
「うちでああいうシチュエーションを切り抜けたのは5号くらいだもんねぇ」
「理性の問題ッスよ、隙があるからやられると思ってもらえれば……自分の場合は意識して誘ったようなもんだし」
「隙、か……確かにそれはあるかもな」

いちごが腕組みをしてつぶやく。
なるほど、どうやらこいつも元は男みたいだな。
素振りがそれらしいし、歳不相応に堂々としている。
ウサギみたいな耳が生えた少女――6号も、言葉遣いはどこか男っぽい。
……どうやら、組織内に被害者は結構いるらしいね。
まぁ無理もないか、理性を完全に制御できん限り、相手の思う壺なんだろう。
理性を制御するのは簡単なことじゃないからな。

もし地球人が完全に理性を制御できるなら、世界はここまで争いに彩られた歴史を歩まなかっただろう。

「この極楽トンボみたいなのも隙がないわけ?」
「えー?極楽トンボはひどくないですかぁ、3号さん」
「頭の回転は結構速いのでは?それに常に余裕があって、彼女と遭遇しても動揺しないとか」
「……ほぼ図星ですね、どうしてそこまで分かるんですか?」
「当たり?そりゃ良かった♪ ……まぁ、雰囲気である程度までは掴めるもんで」

5号と呼ばれたマイペースそうな青年は、3号と呼ばれる女にからかわれている。
さっき、「ひょっとして侵略目的とか?」なんて言ったのがこの青年だ。
頭の回転はかなり速そうだが、常識的回路は少し抜け落ちてるらしい。
……まぁ天才と奇才なんて実際、紙一重だしな。

「……それはそうと、ホントに信用できるのかしら?組織に敵は少なくないのよ?」

まぁ、そうだろうな。
宇宙人だろうが一般人だろうが、初対面の他人に心を許すようじゃ秘密組織失格だろう。

「なんなら、監視を付けてくれてもいいっすよ、自分は自由に調査できる環境が欲しいだけですんで」
「調査というが、何を調べるつもりなんだ?」
「一言で言えば、真城華代という、性転換能力者のこの世界における影響力の規模かな?
 ……事前情報じゃ判断しかねるもんでね」
「華代の影響力か……」

7号が真剣な表情で腕組みをする。
ふむ――どうやら、生態系を掻き乱す以上の何かが、彼女の周囲に起きてるようだな。

前にリサーチセンター ――あ、ウチの組織のね―― で言われた危惧も、あながち大げさじゃ――――

 

――――!?

 

なんだ、この感覚は?
俺が空間の奇妙な違和感に気付いた直後、施設のサイレンが鳴った。


『○○地区で集団性転換現象の発生が確認されました、繰り返します――』


放送を聞くや否や、ハンターたちが慌しく動き出した。
どうも……嫌な予感がする。
何と断定は出来ないが……どうもただごとじゃない何かが、起きている気がしたんだ。
まぁ、これも宇宙人エージェントの感知能力ってヤツさ。

……ってなワケで、俺はハンターたちに、同行調査を申し出ることにした。
厚かましいのは承知の上だ、胸騒ぎの原因も突き止めたかったしな。

「まぁ施設の中の話じゃないからいいけれど……危険な状況かもしれないぜ?」
「危険は千も万も承知っすよ、ワガママな申し出なのは分かってる。
 ……何、自分の身は自分で守れるから♪」


★☆★☆★


ハンター本部から1〜2kmほど離れた、某市○○地区。
俺はその一角で、口を馬鹿みたいにぽかんと開けて立っていた。


「何だよこりゃ……」


街の真ん中で、予想を超えたシロモノが暴れていたからだ。

そいつは遮光器土偶みたいな顔と体形を持ちながら、気持ち悪いほど筋肉質な手足を持つ謎の巨人。
……つーか何だよ、このギャグみたいな外見は。
身長は20mぐらいあるかな……てか、正直ワケが分からん。
少なくともいい趣味じゃないよな、うん。
同行したハンターたちも呆気に取られている。
……どうやら、現地人にとってもイレギュラーな存在らしい。

「ホホォォォッッ!!」

巨大なマッチョ土偶はビルを張り手で突き崩し、奇妙な雄叫びを上げながら光線を発射する。
その光線を浴びた市民が、俺の目の前で次々に変貌して行く。
男だろうが女だろうが大人だろうが子供だろうが、光線を浴びた後は皆同じような姿になる。
因みに、どんな姿かっていうと……

「バニーガール!?」
「しかもまだ子供だぞ!?」

そうなんだな、これが。
頭にウサギの耳を生やした、いわゆるバニー姿の小さな女の子だ。
……まったく、どんな能力なんだよ。
あの独特のコスチュームから、今や完全に少女化した被害者の、
今にも折れそうな、白くて細い手足が、ほぼ剥き出しになっている。
まぁ、今が冬じゃなかったのが不幸中の幸いだな――って、言ってる場合じゃねぇか。

「あ、あぅ、あぁ……」
「君、大丈夫か?しっかりしなさい……」

あーちょいと7号さん、そのバニー少女は確かさっきまであごひげ生やしたをっさんだったんだぜ?
しかし……バニー少女の大群は何か怖いものがあるな。
街の一角に、何百人という小学生くらいのバニー少女が溢れているんだから。
まさにギャグのような悪夢と言うしかない……笑いたきゃ笑うがいいさ。

……てか、俺も笑いたい。

常識じゃ絶対にあり得ない光景だ……いや、宇宙人の常識で考えても、だ。
何、宇宙人の常識なんてモンがあるのかって? ……あるんだよ、それ以上は聞くな。

「ど……どうなってるんだ!?」
「とにかく還元を……このままじゃ被害者がどんどん膨れ上がる!」
「――危ねぇっ!!」

今まさに光線を浴びようとしていた小さな少年を、いちごが横っ飛びに突き飛ばした。
ほぅ、いい動きをしているな……男の頃から、素早い行動には自信があったと見える。
しかしそのために、いちごが光線を受ける形になった――だが。

「うわ――――あれ?」

なぜか、変化は起こらなかった。

光線を放った当の怪物も、首をかしげているように見える……そうか、お前にも分からんのか。
考えてもわからんことは考えん方がいいぞ、泥沼になるからな。

「1号には効果がない?」
「どうやら、“キャリア”には効かないらしいな」
「ってことは……この化け物は華代とは無関係なのか?」

そう言えば……何度も華代被害を受けて何度も性転換した被害者がいるという話を聞いたな。
確か、この1号――半田いちごも数回被災したとか。
確かに、今の現象はそれとは一致しない……まぁ、性転換能力者は華代だけじゃないんだろうが。
気を取り直した(ように見えた)マッチョ土偶は、俺たちから視線を外した。
別の建物とその周囲にいる群衆に、標的を変えたらしい。
……けっこう気まぐれなヤツなんだな、脳味噌は軽いのかも知れない。

「ダメだ、人数が足りない!」
「せめてアイツの進撃を止められたら……」
「応援の機動隊とか自衛隊とかは!?」
「……機動隊の第1陣はあのバニーの群れの中だ」
「あーもう、何やってんのよ!!」


……どうやら、今は俺ぐらいしかいないらしい。
うーむ、何か謀られたような……気のせいならいいんだが。


「――俺が止めとく、あんたたちはそのうちに仕事を」


「ちょ、あんた正気か!? 相手は怪獣だぞ?」
「――んじゃ、おたくが止めます?」
「っぐ……!」
「あんたたちはそこに……巻き込まれたくなけりゃね」

ま、あの破壊力ぐらいなら、全力の俺の比じゃねぇ――いや、嘘は言ってないよ?
なんせ俺は宇宙人だからな――何、それじゃ説明になってない?
つまりあのぐらいのパワーなら、今の俺に取っちゃ脅威というレベルじゃないってことさ。

何、どこかのマンガみたいな設定だと?……気にするな、俺は気にしない。


バニー少女に変えられておどおどしてる、元・機動隊らしき一団の横を突っ切って、
俺は腰を振って暴れてるマッチョ土偶に近づいていく……っつーか、踊ってんのかよアイツは。
そんな俺を見て、バニー少女の群れは信じられない、というような表情をした、
まぁ常識じゃしないだろうな……もっとも、既に非常識な状況なんだが。

「あ、あんた……何をする気だ?」

バニー少女の1人が、かわいらしい声で俺に話しかける。
だが、かわいらしいのは声と姿だけだ。
口調は中年辺りの男を連想する……さしずめ、機動隊の隊長さん辺りかね?
ま、人に話しかける心の余裕があるだけマシか。

「あれを止める……だからあんたたちは、被害者を誘導してくれんかな?」
「む、無茶なことを……それに、今の私たちには……」
「――しっかりしろよ、おい!!」

俺が大きな声を出すと、元・機動隊長らしきバニー少女は脅えて身を縮めた。
……おいおい、まさか心まで小さな少女になったんじゃねぇよな?

「自分が誰だったか覚えてるんだったら、何をやるべきかは分かるだろうが、姿の問題じゃねぇだろ!」
「…………!!」

その言葉で、少女の表情が引き締まった、
姿こそアレだが、その目にはどうやら機動隊員の魂が甦ったらしい。
……そうそう、そう来なきゃ。
これで俺も、心おきなくやれるってもんだ。


「さーて……マッチョ同士、タイマンでも張ろうぜ、なぁ?」


★☆★☆★


「行っちゃったよ、あの人……」
「いくらなんでも無茶過ぎるって……」
「誰か支援できるヤツはいないのか? えーと、ほら例えば49号とか!」
「本部と連絡は取ったけど……力が余ってそうなのは、今別件で手一杯みたいねぇ。
 ……まったく、何を相手にしてるんだか」
「非常勤のハンターはどうだ?11号とか、こういう事態向けじゃ?」
「つながらないのよ携帯が……昼過ぎだし、今頃ちょうど授業中じゃないの?」
「ぬぅぅ……じゃ、じゃあ、77号――なずなは?」
「……彼女が関わったら、それこそ収拾がつかなくなるだろ」
「ちょ、何やってるんですか皆さん、自分1人でこの人たちを戻せないっすよ!」

“最前線”から100mほど手前では、ハンターたちがなおも奮闘していた。

……しかし、さしものハンターたちでも、多勢に無勢。
もう少なくとも300人は還元したはずだが、目の前にはまだ無数のバニー少女の群れが。
おまけに、怪物が光線を発射するたびにどんどん増えていく。
しかも還元するだけじゃなくて、避難誘導もしなければならない。
埒が明かないというのはこういうのを言うのだろうか。

と、その時……

「な、何あれ? 被害者たちが一気にこっちに……」
「あの群衆の中で避難誘導するグループが?」
「巻き込まれてバニー少女になっちゃった機動隊員ぐらいしかいないんじゃ?」

「ちょ、あれ見てください……その機動隊員みたいですよ、誘導してるの」


それは実にシュールな光景だった。

10数人ほどのバニー少女の一団が、脅えて座り込んでいる他のバニー少女を助け起こして、
“被災地”の外に向かうよう促している。
全体的には、100人を超すバニー少女がぞろぞろと歩いてくるのだから、はっきり言って不気味な光景だ。
やがてそのうち数人が、ハンターたちの前までやってきて、決まりの悪そうな顔をした。
苦笑いをするバニー少女も、それはそれで萌――という話ではなくて。

「えーと……取り合えず外に向かいましょう、皆さん――こんな姿で言うのも何ですが」
「……は、はぁ……」
「と、取り合えず還元を……」
「えーと、元に戻すってコトですよね多分……なら我々より先に一般市民を」
「そ、そうですか……」

言動から察するに、多分避難誘導に関わっていた機動隊員か警官なのだろう。
……今は小学生くらいのバニー少女にしか見えないが。
6号が苦笑いをしている……何か同情するものがあったらしい。
果て、似たような経験があるのだろうか。

「実は、気合を入れてくれた方がいまして、その方は無謀にも1人で前線に……」
「どうやら、あの宇宙人に檄を飛ばされたみたいですね」
「そうか……で、その人は今――」

7号がそう言いかけた瞬間、被災地の中心部から閃光が煌いた。


★☆★☆★


――――ゴゥンッ!!

「ホゥゥオォォォォッッ!?」

突如煌く閃光、刹那の間、轟く衝撃音。
……数秒の後、茶色い巨体が地響きを立てて瓦礫の中に倒れ込む。
土煙を上げて倒れ伏した“マッチョ土偶”の正面には、手をかざして仁王のように立つ金髪の大男。
パドルだ……だがその表情は、先ほどのツッコミ屋の面影はなく、まるで鬼神のように険しい。

「――へぇ、結構打たれ強いんだなお前……顔面へのクリーンヒットだったんだが」

むくり、と起き上がる巨大なマッチョ土偶。
その表情のない目が発光する……やがてほとばしる“性転換光線”。
だが、光線が地面に突き刺さった時には、もうパドルの姿は影も形も無かった。

「だが――遅過ぎる」

再び、鈍い衝撃音と共にマッチョ土偶の脳天に突き刺さる、パドルの拳。
巨大な頭部が上半身の“鎧”の中に半ば沈みこみ、ビルほどもある巨体がそのままガクンと膝を付く。
しかし、マッチョ土偶もただではやられない。
そこから振るように腰を捻り、巨木のような二の腕をパドルに叩きつけた。
――が、その渾身の一撃も空を切るだけ……パドルは空中で1回転して、その背後にひらりと舞い降りる。

「凄い……」
「いやぁ、それほどでも――って、何やってるんだ、早く君も逃げるんだ!」

ふと小さな声がして、パドルは振り向いた。
瓦礫の中に埋もれるように、バニー少女が1人立っていた。

「ご、ごめんなさい、ボク……今まで閉じ込められてて――あ、危ない!!」

少女――言動から察するに恐らく元少年――に駆け寄ったパドルの背後から、巨大な腕が振り下ろされる。
避ける余裕はあったが、少女との距離が近すぎた……パドルは、咄嗟にその腕を受け止めた。
煙突が倒れるような轟音と共に、パドルの両足が瓦礫の中にめり込む。
地響きのような音と共に粉塵が巻き上げられ、あたりは霞がかかったように薄く灰色に煙る。

「今なら逃げられる……さぁ早く行くんだ!」

背後を気にするように、瓦礫の隙間から外に向かって這い出そうとするバニー少女。
マッチョ土偶は、その少女さえも襲おうと、もう1本の腕を振り上げた。

「――させるかよっっ!!」

パドルの手の平がスパークした。
見えないエネルギーがマッチョ土偶の腕を弾き飛ばし、ビル数階ほどもある巨体が大きくのけぞる。
パドルは更に、そのがら空きの懐に飛び込み、怪物の腹に手の平を当てた。

――ズン、という鈍い音と共に土煙が舞い上がり、マッチョ土偶の巨体が痙攣した。
超音速の連打を、ゼロ距離で叩き込んだのである。
直後、その全身に細かいひびが入り、怪物はまるで砂上の楼閣のごとく、バラバラと崩れ始める。
エネルギーロスのない距離から放った連打に、ボディが耐えられなかったのだろう。

しかし断末魔の怪物は、最後にその太い脚を振り上げた。
幾度かの轟音の後、それと共に瓦礫に突き刺さる巨大な脚。
その衝撃で、マッチョ土偶自身の上半身の半分が、粉々に砕け散った。
そのまま崩れ去っていく怪物――――だが。

「えっ?――う、うわぁぁぁっ!?」
「――なっ!?」

最後に怪物が起こした衝撃で、地面に大きな亀裂が口を開けた。
――その亀裂のちょうど真上に、先ほどのバニー少女が。
少女の体が宙に放り出され、そのまま重力に任せて亀裂に吸い込まれる。
パドルはすぐに、亀裂に駆け寄った。

亀裂の中ほどにできた出っ張りに、少女が必死に捕まっていた。

しかし小さな手に力が入らないのか、少しずつ滑っていく。
転落するのは時間の問題だ……古い地下道でもあったのか、亀裂は意外にもかなり深い。
落下したらそれこそ生命に関わりそうだ。
パドルは少女を救い上げようと手を伸ばしたが、しかし届かない。
亀裂は少女を飲み込むには十分な広さがあったが、パドルの巨体には余りにも狭すぎたのだ。

「――ちぃっ!」
「た……助けて……」

――仕方ねぇな、少々乱暴だが、念動で引き上げるか。

パドルは念動力で少女を引き上げる方法を選んだ。
少し乱暴だが、方法を選んでいる時間は無かったからだ。
だがその時――パドルは背後の気配に気付いた。
振り向くと、半身が崩壊したマッチョ土偶が、その太い腕を振り下ろさんと構えていた。
少女に念動を集中したら、その豪腕の直撃を受けることは間違いない。
死にはしないだろうが、それでは少女を救えないかも知れない。

――なんてこった、こんな時に。

少女は今にも、奈落の底に落ちようとしている。
しかしパドル自身もまた、背後の敵と対峙せねばならない状況に迫られていた。

 

せめて――この体を、亀裂の中に押し込むことが出来れば。

 

 

「分かりました、私に任せてください!」

 

 

不意に、パドルの耳に声が響いた。
聞き覚えのある、少女の声が。

「お、おい、一体何を――――!?」

そこまで言いかけて、パドルは自分の体の異変に気付いた。

明らかに肩幅が狭まり、背が縮んでいる。
岩のような筋肉を纏っていた手足も、見る見るうちに細く引き締まっていく。

――――まさか!? ちょっと待て、俺は依頼など……!!

 

 

崩れ行くマッチョ土偶の豪腕が、パドルに向かって振り下ろされる。

「ホォォォオォォ――――!」

 


亀裂に落ち込んだバニー少女の細い指が、かすかな手がかりを失って宙に浮く。

「うぁ――わぁぁあぁぁぁぁ!!」

 


パドルは混乱の中で、思わず叫び声を上げた。

「――――くっそぉおぉぉぉぉぉ!!」

 


――――ズゥゥゥゥゥン………

 


瓦礫の山の中で、ひときわ巨大な粉塵がたちこめた……


★☆★☆★


「これで――全員でしょうか?」

怪物事件の現場に程近い、学校のグラウンド。
そこで何百という被害者が、ハンター組織の還元処理を受けていた。
ハンターたちの顔に疲労の色が浮かぶ……無理もない。
この日だけで、還元処理をした被害者の数は1400人を超えている。
しかも、まだ100人近い被害者が、バニー少女と化したままだ。
もちろん、そこには避難誘導に携わった警官や機動隊員も含まれている。

皆が顔を薄紅色に染め、目は申し訳なさそうに泳いでいる。
少女化した警官たちの周りにいる、先に還元処理を済ませた人々も同様だ。
好奇の目で見る者は1人もいない……自分たちも先ほどまで被害者だったからだろう。
7号は元警官らしき、1人のバニー少女に話しかけられていた。
どうやら彼は、調書を取るつもりらしい……穢れのない細い指で、黒いボールペンを握っている。

「そうですね……多分」
「ちょっと待ってください!」

その声に振り向くと、中学生ぐらいの少年数人が、
7号と警官――姿はバニー少女だが――の前にやってきた。

「どうしたんだ?」
「トオルが、いないんです」
「トオル?君たちの友達かい?」
「はい、さっきの騒ぎでどこに行ったのか分からなくなっちゃって……」

どうやら友人が1人、行方不明らしい。

「まぁ、無理もないですなぁ……被害者は皆同じような少女にされましたし」
「じゃあ、まだ処置が済んでないこの中に、そのトオル君が?」
「それはないんじゃないでしょうか……若者を優先して処置するようお願いしたはずですし」
「それじゃ……まだあの現場のどこかに!?」

 


「トオル君なら……ここにいるよ」

ふと、校門近くで声がして、7号と警官と少年たちは振り向いた。

校門の前に、バニー少女を抱きかかえた、背の高い女性が立っていた。
身長は180cmぐらいあるだろうか……腰まである長い金髪に、エメラルドのような緑色の瞳。
ただし背は高いものの、その顔立ちは少女のような幼さを残している。
スマートなボディラインにぴったりとフィットした、紺色のスーツをまとう姿は、どこか凛とした気品が漂う。

女性はゆっくりと、バニー少女を地面に降ろした。
7号と警官、そして少年たちが駆け寄ってくる。

「と……トオルか!?」

少年たちの呼びかけに、少女は顔を赤らめながら、しかしはっきりと頷いた。

「良かった、見つかって……ご協力ありがとう御座います」
「良かったな君達……あ、ところであなたのお名前は?」

「…………」

金髪の女性は黙っている。
どう言っていいのか分からないような、微妙な表情だ。
7号は、ふと何かが閃いて、女性に話しかけた。


「あの……つかぬ事をお伺いしますが……もしかして、どこかで会ったことが?」
「…………えぇ、ごくごく最近にね」


7号の透視能力を秘めたオッドアイが、女性の正体を示唆していた。
そのことを確かめるために、7号は女性に質問を投げかけたのだった。

……そして、女性の口から出てきた言葉で、7号は危惧がほぼ裏付けられたと悟った。

「7号、何やってるんだ? 早く残りの被害者の還元を……?」

7号の背後からやってきたいちごが、妙な空気を感じて立ち止まった。
その視線は、明らかに正面に立つ、長身の金髪女性に向けられている。

 

 

数秒の間の後、7号が恐る恐る“本題”を切り出した。

「……もしかして、あんた……さっきの……宇宙人?」
「――な、何だって!?」

 


7号の質問に、金髪女性は白い歯を見せて、にっこりと笑った。
ただし――その表情は明らかに苦笑いであったが。

 

「はは――――察しの通り……えぇ、やられちまいました」


★☆★☆★


「……話はななちゃ――あ、いや、7号たちから大体聞いたよ」

ハンター本部のほぼ中央にある部屋。
大きな事務机の奥で、男が1人、立派なイスに脚を組んで座っている。
恐らくは壮年であろうと思われるが、年齢を特定できない、独特の雰囲気を放っている。
その隣には、部下らしいやや細身の男が1人。

そして――事務机の前には、紺色のスーツを身に纏った、長身で金髪の女性が。
幼さを残す顔つきながら、その表情は落ち着き払っている。

「宇宙人とはにわかに信じがたいが……○○地区に出現した怪物を倒したとなれば、只者ではないしなぁ」
「……信用してくれとは言いません、司令官殿。
 ……怪物事件での対応も不可抗力ですし、今は私もこのザマです」
「司令官などと呼ばれたのは初めてだな……ボスでいい、皆自分のことをそう呼んでいる」
「はぁ、そうですか……」
「怪物事件に立ち会った連中は、敵ではないだろうと皆が口を揃えている……自分もそれを尊重してやりたい」

ハンター組織のボスらしき壮年の男は、そこで身を乗り出し、机に肘をかけて言った。

「調査協力を許可してやってもいい……ただし1つ、条件がある」
「……条件?」

「調査が終了するまでの間、君はこのハンター組織の一員となるのだ。
 ……もちろん、組織の仕事もやってもらう」
「自分が……組織の一員に?」
「3号の話だと、あの事件の後君は、被害者の一部を還元したそうじゃないか……つまり素質は十分ある」
「能力を応用すれば可能だと分かりました……もっとも、自分を戻すことは出来ないようですが」
「どのみちあてはないんだろう? 宿を貸すのと同じことだ、悪い話ではないと思うがね」


今や童顔の金髪女性となったパドルは、少しの間の後、静かに頷いた。

「……分かりました、では、そのように」

「うむ。 さて、君の番号だが――」


★☆★☆★


「――――ふぅ」

まったく……予想外だな。


真城華代について調査しようとしてやってきたのに、
“標的”とは直接関係なさそうなわけの分からん事件に遭遇して、
その騒ぎの最中で問題の華代に付け込まれて――

――気がついてみたらこの有様だ。
くそ、何の因果だ? よりにもよって……自分がその被害者になるとは。

しかもあの娘……こっちが体質転換術にある程度耐性があると気付いたのか、
遺伝子情報まで弄って無理やり変身させやがったらしい……体の感覚が完全に変わっている。
……依頼人のニーズは反映しろってんだ、こん畜生。
っつーか、そもそも依頼自体が誤解だってのに、なんちゅー強引さだ。

……に、しても特殊個体とやらのポテンシャルは、どうやら本当に神族にも引けを取らんらしいな。
予想していた以上に厄介な相手だ……リサーチセンターでチェックが入るわけだぜ。
まぁ、俺も意地があるから、何とか幼女の類にはされずに済んだようだが。
……もっとも、顔は若干幼めだが――うぅむ、首から上だけ見りゃ、ほとんど中高生だなこりゃ。

そうそう……後で瞑想でもして、ポテンシャルがどの程度変わったのかしっかりチェックしておかんとな。
多分もう、さっきのような戦闘はできないと思うが、
身体能力の一部くらいは残ってるだろうか――いや、残っててもらわんと。
にしても、随分と細い腕になっちまったもんだぜ……本来の半分もないんじゃねぇのか、コレ。

 

……それにしても、あのマッチョ土偶は一体なんだ?

直前に感じた違和感といい、どうも妙な感覚が付きまとって離れん……5月の蝿みたいだ。
あいつの所為で、俺も被害者になったわけだしな……あぁくそ、嫌な予感がするぜ。

 

「あ、パドルさん、どうでした?」

廊下を歩いていたら、前から誰かが話しかけてきた。
確かこいつは……5号だったか。

「あ、あぁ……調査協力を取れたよ、ただし条件付きでね」
「もしかして、ハンター組織のメンバーになれって言われたんじゃないですか?」
「……いい勘してるな」
「やっぱり♪ さっき3号やいちごと話してたんですよ。
 そしたら3号が『ボスがこういうのを放っておくはずがない』って」

……それはどういう意味なんだ?
俺が単純に戦力だと思われてるのか、それとも色物好きなのか。
まぁ、両方という可能性はあるか……あの年代の男なら、
“そっちの世界”に関心が強くても別段、不思議はねぇしな。

5号の後ろから、その話し相手が顔を出す……1号と3号だったな。

「しかし、あんたも災難だったな……1度目は受け流したのに」
「はは……まぁ、間が悪かったんだろう……受け入れるしかないって事かな」
「前向きだなあんた……俺はいまだにどうもこの体に慣れられん」
「あら1号あんた、まだ昔の自分に未練があるの?いい加減受け入れたらどう?
 未練がましい男は嫌われるよ?――あ、今は女か♪」
「……うるさいな、放っといてくれよ」
「ま、まぁ2人とも、ケンカしないでくださいよ」
「あ、そうそう……やっぱりハンターのメンバーになるんだって? ねぇ、何号になるの?」

3号がいたずらっぽい目で聞いてきた……つーか、からかう気満々だなコイツ。

「……80号だ。ただし調査が終わるまでの臨時要員としてね」
「あぁ、なるほど……パドルさんだから80号ってことかな? この組織、そんな感覚で番号選ぶし」
「……まぁ、そういうことらしいね……ボス曰く『キリがいいし、今ちょうどいないから』だそうだ」
「はは、あのボスらしいわね♪」

「……80号か。 じゃあ、宜しくな80号」

1号が手を差し出してきた。
白くて細いが、どこか逞しい手だ……女になってからもそれなりに鍛えているんだな。
まぁ、今の俺の手も大して違いはないが……可能なら、こいつの男の時の姿も見てみたいもんだ。

「……あぁ、宜しく頼むよ」

俺は、その手をしっかりと握り返した。

「ようこそハンター組織へ。80号、一緒に頑張りましょう」
「まぁすぐに慣れるって、ここも結構楽しいわよ♪」

……あぁ、そうであるようせいぜい期待させてもらうよ。
ついでに覚悟もな。

 


今回は長い調査になりそうだぜ……

 


…………ん? スーツのポケットに、何か入ってるな。

ごそごそと探って、掴み出したのは、小さな紙片だった。
そこには、こう書いてあった。


『ココロとカラダの悩み、お受けします――真城華代』


俺は思わず苦笑した。


「そうか……名刺を受け取った時点で、すでに俺の負けだったってことか」

そう言えばあの娘、帰り際に「それじゃ、また」と言ってたっけな。
契約は切れてなかったってワケだ。

 

――侮り難し、真城華代。

 



≪あとがきと言い訳≫

どうも、TS小説は初になりますGmaGDW@隠れいちごファン(何)で御座います。
おなごなんて夢で妄想するだけの寂しい味噌爺ですが以後お見知りおきを<(_~_)>


……えーと、初っ端から暴走しております(滝汗)
宇宙人に怪獣にバニー軍団ってどういう趣味なんでしょうね我ながら(核爆死)

ハンターシリーズで宇宙人ってアリなんでしょうか(爆汗)
まぁ、他にも色々なキャラが出てきてるし、多少インフレでm(殴)いえ冗談です(ナイアガラ汗)
確か今は、あんまりインフレなのはアレなんですよね……えーと、大丈夫です、多分(猛汗)

怪獣とタイマン張れるのは♂モードの時だけです。
……80号になった時点で宇宙人ではなく“ただのエスパー少女”なので、
多少の超能力は使えるけどせいぜい補佐的なレベルで、戦闘能力は大幅に減退しております。
マッチョ土偶君は初回限定のサプライズキャラだと思ってください(^^;)
要するに、○ーパーマンなパドル氏から、余裕を奪うだけの相手が欲しかっただけなんです(汗)
なので、オンナノコになっちゃった時点でお役御免、ハイさよーなr(踏)

そんなワケで、近いうちに投稿する(かも知れない^^;)第2話は、
もっとのんびりした内容になると思います……というか、そっちがメインでやる所存ですハイ。
初っ端から1号3号5号6号えとせとらと乱用してるわけですが(滝汗)
実際のところ、そういう“キャラ共演”が本来の目的と言った方がいいかもですね。
今回みたいな戦闘シーンなんて、今後はまず想定してませんです(^^;)
やるとしても肉弾戦、等身大の格闘でしょう……ハイヒールでカカト落としとかww


因みにヤヌス・パドルというのは自サイト『GDW』に登場するオリキャラです。
TS化して80号になっても性格はそのまま残っておりますね……だって俺っ娘好きだもん(殴
Myキャラなので、いずれは調査を終えて宇宙に帰ることになると思います。
もちろんその際は本来のパドルに戻してからですが(^^;)

……もっとも、それがいつになるのかは目下全く不明ww(核爆)
しばらくは彼にもオンナノコライフを楽しんで欲しいですしww(鬼)
自分も“彼女”を、心行くまで弄り回したいですからねww(黒)

 

……弩長文第1話、ご清聴どうも有難う御座いますた<(_~_)>
第2話はきっと、ずっと短いはずです(笑)

ではでは、次に会う日まで(^^;)/~~~



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