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 こんにちは。初めまして。私は真城華代と申します。最近は本当に心の寂しい人ばかり。そんな皆さんの為に私は活動しています。
まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりました時、お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。
私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。
……えっ、報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。お客様が満足して頂ければ、それが何よりの報酬でございます。
 さて、今回のお客様は……

華代ちゃんシリーズ・番外編
ハンターシリーズ155
『銃声の轟く中で』

作・シアン

 

 バン。9月下旬の快晴の空模様の中、広い場内に響く銃声に大きな歓声があちこちから聞こえる。
 ……先に言っておくが、別にここは戦闘地域では無い。ここは、緑地地区の中央に位置する400Mトラックの陸上競技場。
 トラックの内側はサッカーグラウンドであり、地元のチームのホームグラウンドでもある。
 本日はここで市の中学生陸上の地区予選大会が行われている。したがって先程の銃声もスタートの号砲である。
 ここの観客席最前列で手すりに寄りかかり、ため息をついている1人の男の子が。名前は川島上巳(かわしまじょうし)、今は中学3年生。
「あ〜あ、始まっちゃったな。」
 スタートの号砲を聞きながら、手すりに寄りかかり呟いた。その姿は紺色のジャージ上下姿、平均的な身長・体重と余り特徴が無い。
 地区予選が行われているこの競技場にいるので、勿論陸上部員である。
「どうしたんですか?」
「わぁ!!」
 いきなり後ろから声を掛けられた。振り返ると、10歳前後の白いワンピースの女の子がいた。兄弟の応援だろうか。
 今日は地区予選だが、毎回親やOBらしい人も見かけるし。
「ビックリした〜……君は?」
「はい。わたくし、こういう物です。」
 そういうと、彼女はポシェットから1枚の名刺を取り出した。
「ココロとカラダの悩み、お受け致します…真城は……いや、かよちゃん?」
 なんだか随分本格的な名刺だな。
「うれしいです。」
「……何が?」
「私の名前って、正しく読める人少ないんですよね。」
 そうだろうな。俺も間違えかけた。
「丁寧にありがとう。俺は川島上巳。よろしく。」
「……じょうし?」
 やっぱり普通は分からないよな。
「上巳は俺の誕生日、3月3日を意味する言葉なんだってさ。」
「へぇ、そうなんですか。ところで、何かお悩みはありますか?」
「う〜ん。あると言えばあるけど……」
「どんな悩みですか?」
 華代ちゃんと言う女の子は、横に座り顔を近付けて聞いてきた。言った所で何の解決にも成らないと思うけど、愚痴ぐらいは聞いて貰おう。
「実はこの後、選手として出るんだけど……」
「わぁ、選手なんて凄いですね。」
 凄い……か。言われた事が無いから、ちょっと嬉しいな。
「ありがとう。でもね、そんなに凄い訳じゃないんだ。」
「えっ……どういう事ですか?」
 この後の事は、ちょっと躊躇ったが、少し考えて結局言う事にした。 「弱小で部員もそこまで多い訳じゃない内の部としては速いけど……全体としてはかなり遅いんだ。」
「タイムはどうなんですか?」
「自己ベストは100Mは12秒86、200M26秒78だけど……」
「だけど?」
「2年生でも早い人は100M12秒は切るんだ。だから、3年生にもなって13秒をやっと切るぐらいじゃね……」
「そうなんですか……」
「しかも今年は、全国大会決勝まで行った人がいるからね。」
 この辺どころか関東では知らない人はいない程の有名人が同じ地区。今年の夏の全国大会で100M7位、200Mでも準決勝まで駒を進めた実力者。
 100Mタイムは11秒4を切るのも時間の問題だと言われている。しかも自分と同じ種目にも出場し、今回は選りに選って同じ組。
 そんな超人がいると、自分の能力はとても低く思えてくる。
「ま、つまりぼろ負けが恥ずかしいのさ。あ〜あ、1度でいいから決勝迄行ってみたかったな。」
「……決勝ですか。う〜ん、何かデータはありますか?」
「データ、ねぇ……。ちょっと待ってて。」
 一旦部の場所に戻り、昨年度の20傑(けつ)が載ったプリントを持って、華代ちゃんの元へ。
「これが昨年度の市の20傑。種目別上位20位迄のタイムだよ。」
 プリントを手渡す。……ていうか、今思ったけどわざわざここまで用意する必要あったかな?
「へぇ〜……あれ?名前入ってないですね。」
 暫くすると、突然華代ちゃんが聞いてきた。指した場所を見ると、そこは女子の記録の欄だった。
「あぁ。ま、確かにタイム的にはその辺りだけど……そこは女子の欄だよ。」
「あっ、そうですね。……でも、女の子なら恥ずかしい事も無く活躍出来ますね。」
「……はい?」
 そう言うと華代ちゃんは立ち上がり、俺の正面に立った。
「あなたのお悩み、解決します。」
「は?解決する……って、お金とか掛かるの?」
 いや、それ以前に解決出来るの?
「いえ、報酬は頂いていません。」
 そう言うと俺に向かって手をかざした。
「お客様が満足して頂ければ、それが何よりの報酬です。」
 自分の体が淡い光に包まれて、変化が始まった。
「……え?」
 髪の毛が急に肩に掛かるぐらいまで伸びてきた。そして、喉に静電気のような痛みが一瞬感じた。
「いたっ。何だ今のは……えっ、声が……」
 去年声変わりを向かえ、低くなっていた声が高く、女の子のようになっていた。何で?
 変化はそれだけでは無かった。肩を両側から押されたような感覚の後に、胸が膨らんできた。
「わわっ。」
 腕で押さえたが止まるはずも無く、抑えた腕からは柔らかな感触が伝わってくる。胸の方にも、今までに感じた事の無い感覚が。
 胸を押さえた腕も白く、細くなっていった。さらに腰が締まってきて、お尻も大きく、ズボンがきつくなる。
 内股になり、男のシンボルが体の中へと引き込まれ、無くなった。
「嘘だろ……」
 自分の体は完全に女になった。
「仕上げますね。」
 華代ちゃんがそう言うと、トランクスだった物がお尻と無くなった股間に張り付いた。胸を覆う感覚と、肩に僅かな重量が。
……ブラジャーだ。上に着ているジャージは男女共通なので見かけ上殆ど変化は無いが、服も完全に女物になった。
「終わりましたよ。じゃあ、大会頑張って下さいね。」
 そう言って、メインスタンドの方に歩いて行く。いやいや、終わりましたって言われても。
「か、華代ちゃん、ちょっと……」
「大丈夫ですよ。運動能力は変わっていませんから。」
「いや、そうじゃなくて……」
 呼び止めようと(むしろ追いかけようと)したが、後ろから声をかけられた。
「川島先輩、どうしたんですか?」
「……えっ?」
 声を掛けたのは、2年生女子の中野麻実さん。
アップとダウン、ミーティングは男女合同でやるから勿論名前は知っているが、普段は用がある時以外話した記憶が無い。
「……えっと、あの……」
 もしかして今の変化見てた?急に女になって驚いてないかな?
「どうしたんですか?探しましたよ。そろそろコールに行かないと……」
 ……普通に話し掛けてきてる。しかも、この時間でコールと言うことはもしかして……
「……分かった。ところで何組の何レーンだっけ?」
 この後の後輩の反応で、自分の予想が確信に変わる。
「川島先輩らしく無いですね。今日は3組7レーンですよ。」
 そう笑顔で答えられた。……どうも予想は正しい模様。それを確認する為にも、声を掛ける。
「……後でアップ付き合ってくれる?」
「もちろんです。付き添いもしますよ。」
 大会ではそれぞれ種目も時間も異なるので、アップは基本的に個人で行う。1人でアップをする人もいるが、大体は2〜4人で、男女別々で行う。
 なので、女子の後輩がアップを付き合うと言ったので、自分の認識は女の子になっているのだろう。 「……とりあえず、コールしてくるね。」
「分かりました。アップの準備して待ってますね。」


「ただいまより、女子共通200M決勝を行います。」
 競技場内に放送が流れる。
「わぁ、決勝まで残ったんですね。良かったです。」
 メインスタンドのゴール付近で、出場選手を見て1人の女の子が呟いた。元男子・川島上巳は、今は女子・川島美沙(みさ)。
ちなみに先程の100Mは予選1位、決勝3位。200Mもこれより決勝。体は完全に女の子だが、タイムは男の時と変わらなかった。
「そのタイムで女の子になれば、恥ずかしい思いはしませんね。良かったです。」
 真城華代は、川島美沙が2位でゴールしたのを見届けてから席を立ち、競技場の出口に向かっていった。


 その頃、元・川島上巳、現・川島美沙は、ダウンを終えて、部のスペースでマッサージを受けていた。
「あの……そんなに疲れてないから……」
 体は女になったが、華代ちゃんが言っていたように、体力などの運動能力は変わっていなかった。おかげで殆ど疲れは無い。
 それよりも今の状況をどうにかしたい。揉まれている感覚や後輩の態度で、自分の体が女であることを、嫌と言う程感じるからだ。
「もう、そんな事言わないで下さい。内の部から県大会出場は久々なんでしょ?しっかり休まないと。」
 ……そうなんだけどさ。確か、内の部から県大会出場を果たした最後は5年前。
 それよりも、さっきから胸が当たってます。同性だから気にしていないだろうが、こっちは女になってまだ数時間しか経っていないのだ。
 そんなに大きく無いと思うけど、走っている時も揺れて気になったし。
 それより……今日はジャージだけど、学校だと制服を着ないといけない。つまりスカートを。それを考えるだけで鬱になる。
 ……戻れないのかな?でも……戻るにしても、華代ちゃんを探し出して頼むか、同じような力をもった人を探さないといけない。
 でもな〜華代ちゃんすぐ居なくなっちゃったし……しかも、今日は部活で団体行動中。5分ぐらいならともかく、別行動は無理だ。
 見つかるだろうか。そして、無事に元に戻れるだろうか。


「はぁ……やっぱり部屋も服も変わってるよ。」
 夕方、自宅に戻って今日の結果を聞いて大喜びの家族を無視して、最初に確認したのは制服。
 やっぱりと言うか当然と言うか、女子の制服になっていた。しかも、持ち物も女の子のような物に置き換わっていた。
 しかも、家族にも美沙として認識されていた。当然学生証も変わっていた。
「これからどうしよう?」
そう呟いたが、簡単に結論が出る訳がなかった。


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