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一人の少女が、夜空を見上げていた。 ぽっかりと天に浮く金色の円。 それが、薄暗い夜の街を照らしていた。 「満月はいいZE。魔力がどんどん沸いてくらぁ」 さびれた教会の屋根の上からそんなことを呟いて、少女は手にしていた西洋箒にまたがる。 そしてそのまま屋根から虚空へと飛び出し、 ――宙を舞った。 「さぁて、そろそろ時間だZE!!!」
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ハンターシリーズ158
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10時間前、とある博物館。 「か、かかかかか館長!!」 どたどたと乱暴な足取りで、館長室とプレートが貼られたドアを男が開け放つ。 「どうしたね鷲宮。ハトが弾幕に突っ込んだような顔をして」 室内にいた初老の男性が顔をしかめる。 恐らくは館長なのであろう。 「それを言うなら豆鉄砲でしょう! ――じゃなくて! ついに、ついに来てしまいました!」 鷲宮と呼ばれたスーツ姿の中年男性――恐らく博物館の従業員だろう――は、身体を震わせていた。 「ほう、とうとう予約しておった地○殿が届いたか」 「違います! っていうか館長STGするんすか?!」 「わしの連射力は108連打/sあるぞ」 「へぇ、マジすか? 何かスゲー!」 館長とともにいた、別の若い男が言う。 スーツを着ているので彼も従業員なのかもしれない。 「聞いてないですって! 例の泥棒からの予告状です!」 そう言った男の手には、黒い封筒があった。 館長の顔が急に青ざめる。 「まさか――『魔法使い』かっ!? おのれ……! 見せてみろ!」 そう言って封筒を奪い取り、乱暴に中身を取り出した。
ちゅど〜ん!!
「あびょーっ!?」 「ココロとカラダの悩み、お受けいたします。 ――真城 華代」
「しんじょう……かよ?」 ざっしざっしと麻理奈に迫るサイボーグの集団。 その姿はターミネーターを彷彿とさせながらもどこかシュールであった。 「くっそ、目的地を目の前にして……うわっ!?」 後ずさる麻理奈を、何時の間にか後ろに回りこんでいたサイボーグがはがい締めにする。 「しまったっ! くそ、ペンダントに手が届かねぇっ!」 そう、麻理奈はペンダントを介さないと魔法が使えないのだ! これが彼女の弱点と言える。 もがき、脱出を図ろうとするも、サイボーグと化した警備員の力は凄まじく、がっちりとして抜けることが出来ない。 「ちくしょうっ、一体何がどーして……ん?」 蠢くサイボーグたちの隙間から、誰かがこちらへやってくるのが麻理奈には見えた。 一人……二人……いや、もっと!? 「何だこりゃぁ!? これも真城華代の所為なのかっ!?」 「……そーみたいね。それにしても数が多い……」 「ああ。あんずの出番、だな……みぃ、解析は出来たか?」 「データ解析、完了。真城華代によりサイボーグ兵器と化した人間の模様。パワーは通常の人間をはるかに超えている」 「し、仕事モードのみぃちゃんって若干恐いな……」 様々な声が聞こえてくる。 男から女まで、どうやら様々な年齢の人間がいるようだ。 何故こんな場所に!? 「お、お前ら一体何だ! ここは危ねぇZE!」 思わず叫ぶ麻理奈。 ただでさえわけのわからんことになってるところに謎の集団である。 とりあえず集団の方は人間らしいのだが。 「人!? 真城華代に巻き込まれてないのか!?」 集団の中の、ポニーテールをした少女が叫ぶ。 そんなに以外だったのだろうか、ていうかましろかよって何だろうか。 麻理奈には分からないことだらけだった。 「いちご、どーやら助けなきゃいけないみたいだ」 傍にいた紫の髪の女性が言う。 「ああ分かってる。――けどどうすれば……」 少女達が思案していると、サイボーグの一体が少女達に気付いたらしい、その方向に向かって叫びだした。 「たくさんいるよ!!! たくさんいるよ!!! たくさんいるよ!!!」 その言葉に反応して、殆どのサイボーグが少女達の集団の方へ向く。 「いっ、いちごちゃん! こっち、こっち向いたよっ!!」 ブレザーを着た、別の少女が泣きそうな声で喚く。 見るからにただの女子高生だ。 「くっ……!」 『ゆっくりお縄についてね!!! ゆっくりお縄についてね!!! ゆっくりお縄についてね!!!』 少女達も泥棒とみなしたのか、サイボーグ集団が動き始めた。 「うわあぁあぁぁ!?」 「くっ!?」 「しまったっ!」 次々と捕まる少女達。 「ああぁぁ、何しに来たんだこいつらっ!?」 麻理奈が心の叫びをあげた。 「っ――!!」 緑色の髪をした女性が動こうとする。 しかし、 「やめろみぃ! そいつらは被害者だ! 壊しちゃだめだ!!」 いちごと呼ばれたポニテ少女の言葉に急停止する、みぃなる女性。 「い、いちごちゃぁん、これじゃ仕事どころじゃないよぉっ!!」 「うぐぐぐ……!」 「何なんだあいつら……一体何しに来やがったんだもう……」 なかばボーゼンとしてしまう麻理奈。 「――とにかく、どーにかこのサイボーグを何とかしなきゃ……あああ、でも魔法は使えないし、どーすりゃいーんだZE!?」 考えたところでサイボーグのはがいじめは解けない。 ――せめて、せめてこいつだけ元に戻ってくれれば……! そう麻理奈が考えたとき、それは起きた。 「でええええい、元に戻りやがれえぇぇぇ!!」 そう叫びながら麻理奈がサイボーグを蹴り上げる。 刹那、サイボーグが動きを止めた。そして、 「ゆゆゆゆゆゆゆ……」 奇妙な言葉を発しながら、サイボーグが変化しはじめる。 「な、何だ!?」 見る見るうちにサイボーグは、元の警備員の姿に戻っていった。 「はっ?! ほ、本官は何を……?」 今までの記憶がないらしい。 「てめぇ、いい加減降ろしやがれ!!」 キン☆ 警備員の股間を蹴り上げ、麻理奈はやっと開放される。 幸い他のサイボーグの注意は謎の集団の方に向いていた。 「何だ……あたい、ペンダント無しで魔法を使えた……?」 何が起こったのか、麻理奈には分からなかった。 しかし、その光景を見ていた例の集団――ハンター達にはそれが何かわかっていた。 「あれは――ハンター能力!?」 紫の女性が驚きの声を上げる。 「……こんなところにもいたか、仲間が!」 いちごが笑みの混ざった声で言う。 「おい、そこのとんがり帽子!」 「何ィ!?」 いちごの罵声ともとれる呼びかけに、憤怒をもって応える麻理奈。 「あんたのその能力、何か知りたいか?!」 「え……?」 予想外の言葉に、麻理奈は戸惑いの表情を見せる。 「もし教えてほしかったら、こいつらを止めてくれ! 出来るだけ傷つけず!」 「何だと!?」 無理難題をふっかけるいちごだった。 しかし、麻理奈にとっては無理でも難題でもなかったようだ。 「……いいZE、やってやろう。――さっきは驚いてたから使う暇なかったけど、あたいにはまだまだ魔法があるんだZE!」 そう言って、サイボーグの集団の方を向く。 ちなみに元に戻った警備員は気絶したままである。 麻理奈はペンダントを引っつかみ、てっぺんのつまみをいじくる。 そして「星叫」と刻まれた位置に目盛りをあわせた。 「機械専用必殺魔法! 鳴る☆ビィィィィムッ!!」 ピキューン! 若干軽い音を出して、レーザーが麻理奈の指先から放たれる。 「ゆっ!?」 レーザーにあたったサイボーグが、プシューという音とともにパワーが切れたかのごとく動きを止める。 「おお!」 「すご〜い!」 口々に喝采をあげるハンター達。 まるで見世物である。 「でやややややーっ!」 ピキュピキュピキュピキューン! 鳴る☆ビームとやらを連射し、次々と動きを止めていく麻理奈。 ハンター達も一人、二人と自由になっていく。 「とんがり帽子! あのブレザーの子を頼む!」 解放されたいちごが指差す先で、ブレザーの少女が捕まっていた。 「とんがり帽子じゃねえ! あたいは魔法使いだっ! ――鳴る☆ビーム!」 文句を言いつつも少女を解放してあげる麻理奈。 「あー痛かった……」 「大丈夫かあんず? お前の出番だ、やってくれ!!」 「くぅ、ワクワクよりも自分の身よねっ! えーい!!」 いちごの要請に応え気合を入れると、あんずから光が発せられる。 「な、何だ!?」 驚く麻理奈。 「あんたと同じ力さ!」 いちごが軽く説明する。 (同じ力――魔法だって!?) ちょっと違う。 光が収束する。 全ての光が消え、サイボーグたちは皆もとの姿にもどっていた。 「ううう……何が起きたんだ一体……」 「か、体がだるううぅぅううぅぅ……」 「我々は一体どーしたんだあぁぁあぁ……」 ぐったりと警備員はのびていた。 「ふぅ……一時はどうなるかと思ったよ……」 同じようにぐったりとするハンターの面々+麻理奈。 壮絶だった。 いやもう色んな意味で。 「――で、そこのポニーテール」 いちごといっしょに寝転んでいた麻理奈が言う。 「ん、何だよとんがり帽子」 「だからそう言うなってヴぁ。あんた、さっき言ったよな。あたいのさっきの能力の説明してくれるって」 「あーそうだったな……よっと」 状態を起こし、麻理奈の方を向く。 「あれは一種のハンター能力。俺たちと同じ、『真城華代』に立ち向かう力だ」 「ましろかよって何だ?」 当然の疑問だった。 何も知らない人間には真城華代のことなんてわかるわけがない。 「――ちょっとした困り者さ。そいつのおかげで今回のサイボーグ騒動が起きたわけだ」 「ふぅん……。で、ハンターは?」 同じく状態を起こし、いちごを見る麻理奈。 「俺たち、真城華代に立ち向かうバカヤローの集団さ。俺たちには真城華代の騒動を打ち消す能力と役割がある。――それはどーやら、お前にもあるらしい」 「あたいにも……?」 こくん、とうなずくいちご。 「今回はありがとう。あんたがいなきゃ、俺たちどうなってたか分からない。――もしよかったら、俺たちの仲間にならないか?」 「……」 突然の勧誘。 あまりにも急で、麻理奈の頭の中では整理がつかなかった。 「いや、返事は今じゃなくってもいい。断ったっていいさ。一応名刺渡しとくから、気が向いたら訪ねて来な」 そう言っていちごはズボンのポケットから一枚の名刺を取り出し、麻理奈に手渡した。 「さって、帰るぞみんなー。ごたごたしてると色々面倒だからな」 ぱんぱん、と手を叩き、ハンターメンバーに帰りを促す。 「ういーす」だの「疲れた〜」だの口々に言いながらも帰り支度を始める面々。 「さぁ俺も帰るかな……ん?」 ぐいっとズボンの裾を引っ張られるいちご。 見れば、麻理奈が目を輝かせてそっちを見ていた。 「――ハンターってとこには魔法使いがいっぱいいるんだな? すっげぇあたいワクワクしてきたZE! あたいも混ぜな!」 「ま、魔法使い? いやその」 魔法使いは二人しかいない、そう言い掛けたいちごの言葉を塞ぐように、 「あたいの知らない魔法がまだまだある。きっとハンターってとこはそんな魔法がごろごろしている素敵な場所だZE!!」 すっかり勘違いしていた麻理奈であった。 「……まぁ、入ってくれるってなら歓迎だけどさ」 もはや何も言うまいと呆れるいちごだった。 「じゃぁ行こうぜ。俺たちの基地を紹介してやるよ」 「あ、ちょっと待った」 「ん?」 「忘れ物があったんだZE」 次の日の新聞の一面。 『○○博物館、壊滅! 古書が行方不明に?! 怪盗「魔法使い」の仕業か』/ サブ見出しには『化学実験の結果か? 謎のサイボーグ目撃情報多数』 数日後、ハンター本部。 「あ〜っ、私の八卦鏡がないアル!」 「あれ〜? 僕のマイクロコンピュータもない〜」 「わ、私の愛銃がっ……愛銃が消えてるっ……!」 この所、本部では盗難事件が相次いでいた。 しかし犯人は丸分かりである。 何せ、いつも予告状を残しているのだから。 『麻理奈〜!!』 「盗んだんじゃないZE、死ぬまで借りておくだけだZE☆」 ハンター90号、九麗麻理奈は今日も気ままに空を飛ぶ――。 |
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