ハンターシリーズ161
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街路樹もやっと色づき始めた秋の一日。 ハンター39号・半田未来は市街地のとある喫茶店の扉をくぐった。 店の名は『ハンターズカフェ・立花』。表向きはサバゲー(サバイバルゲームの略)愛好家間でそれなりに有名なちょっとした喫茶店だ。もちろん『表向きは』と言うからにはもちろん裏もある。 そう、この『ハンターズカフェ・立花』。裏ではハンター組織と繋がっている上、更に運営資金の一端を担ってもいる。 その所為もありハンター組織では不定期にここの割引券が配られるのだ。 だからその券を使う為、サバゲーも嗜んでいるハンター1号こと半田いちごは言うまでも無く、その他のハンター達もよく顔を出す。 もちろん未来もそんな常連の1人だ。 ―― カランコロン 来客を知らせるためガラス戸につけられたスズが涼やかに鳴った。 ……『涼やか』と『スズ』、断っておくがシャレではない。 未来は店内に足を踏み入れる。 そしてすぐに店の内装が見慣れぬ物へと模様替えされている事に気付き、店内を見回す。 数日前まではどこか寂れた感じのある、よく言えばノスタルジックな雰囲気の内装だったハズだ。それがどうだろう、今は薄紅色を基調とした女性受けしそうなものへと変わっていた。 まぁ、そんな中でも壁にちらほらと飾られている実物を模したエアガンだけは主人の趣味の色を残しているが、それもなんとも絶妙な雰囲気を醸し出している。 一瞬、内装に目を奪われた未来。だが、カウンター席が空いてるのを視認するとそこへと腰を下ろす。 確認するまでもなく平日の昼下がり、客は未来以外には居ない。 「おやっさん、調子はどうだい?」 未来は挨拶がてら『立花』唯一の店員に声を掛ける。 「見ての通りだ。」 おやっさん ―― そう呼ばれた店員も仕事の手を止めず、無愛想に答えた。 「そうか、変わりがないようでなによりだ。」 そう、愛想がないのはいつもの事。客商売として少々問題があるかもしれないが、そこがいいと言う常連も少なからずいる。 「はぁ〜」 『おやっさん』は氷水を入れたコップを未来に差し出すと軽くため息を付いた。 「どこをどう見れば『変わりがない』様に見えるんだ、お前には」 「……もちろん冗談だ。」 未来はそのコップを受け取り、少し唇を濡らす。 そして ―― 「にしても、かわいいじゃないか。似合ってるぞ。」 「……冗談はよしてくれ。」 『おやっさん』と呼ばれた、メイド服によく似たウェイトレスの制服を着た少女は、頬を赤らめもせず無愛想なまま返した。 「で、遭ったのか? 真城 ―― 」 『華代に』、そう言い切る前に、扉のスズが新たな客の訪れを告げる。 ―― カランコロン 未来が言葉を区切り入り口の方をちらりと確認すると『おやっさん』も同じように横目で入り口の客を見た。そして二人は密かにアイコンタクトを交わらせる。どうやら互いに知らない顔らしい。 つまりはハンターと無関係である確率が高いと言うこと。 そう察知すると二人はすぐに話題を切り替える。ハンターと無関係な客がいる場で真城華代の話をするのはまずいからだ。 「注文は?」 「いつもので。」 未来の注文を聞き、『おやっさん』が準備する為に背を向けた。 2人の会話の中断させた珍客 ―― 白を基本とした俗に言う魔法少女のような服装をした少女 ―― は未来の隣へと腰を下ろした。 空いてる席は他にいくらでもあるというというのにどういうことだろう。未来はそんな少女を訝しく思いつつも態度には見せないようにしている。 少女は前を見据えたまま、未来に問い掛ける。 「讃鬼勇護(さんき・ゆうご)だな。」 が、その問いに未来は答えない。 しばし静寂が支配する。 ―― カラン 静寂を破ったのは氷がぶつかった音。『おやっさん』が少女用に用意した氷水からだ。 「注文は?」 『おやっさん』は氷水を差し出しつつ、少女に尋ねる。 注文を来たれた少女は親指で未来を指差し言った。 「同じので。」 「……わかった。」 『おやっさん』は注文を確認するとすぐに引っ込んだ。 そしてそのやり取りが終わるのを待っていたかのように未来は口を開いた。 「礼儀をわきまえない奴に名乗る素姓はない。」 「人に名を尋ねるならまず自分から……か。」 少女は氷水を口にしたのち言葉を続ける。 「オレはガイスト02・苅須都烈。この姿の時はガイスト☆レッツと名乗っている。名刺もあるがお前の能力も知っている。信用出来るまでは渡す訳には行かない。」 「そう。か」 すっ。『おやっさん』が無言で透明なグラスを未来に差し出す。中には何やら緑の液体。立花特製青汁だ。 それを見たレッツは少し焦る。それもそうだろう。もし、青汁が未来の注文の品なら同じ物と注文した自分にも青汁が来てしまう筈なのだから。 「お、お前、そんなの注文してたのか?」 「いや、違う。俺が頼んだのは普通のホットココアだ。安心しろ。」 その答えにレッツはそっと胸を撫で下ろした。 「おやっさん、コレは?」 未来も訝しく思い『おやっさん』に確認の声を掛ける。 「オマケだ。金はいらん。」 『おやっさん』は未来たちに背を向けたままぶっきら棒に答えた。 「奢られる理由が分からないのだが……」 「……冗談でも嬉しかったからな。」 『おやっさん』がぼそっとその理由らしきものを告げた。が、その声は小さすぎて未来たちの耳には届かなかった。 「? まぁ、よくわからんが、有り難く貰っとくよ。」 そう呟くように言って未来は差し出された青汁を一気に飲み干す。 「ん、うまい。」 ものの数秒で空になったグラスをカウンターにおく。思わず呟いた事からしてうまいと言うのもあながち嘘ではないらしい。 「で、何のようだ。確かに俺の本名は讃鬼勇護だが」 「お前の事を調べさせて貰った」 すっ。『おやっさん』が2人の会話の邪魔しないように空のグラスを下げ、ホットココアを2杯、2人の前に置く。 「お前の実家は白い天女、いや真城華代を崇拝しているそうだな。」 未来は「そうだ」と呟き、首を縦に振った。 「ならばお前はハンター組織に敵対する人間であるハズ。そのお前がなぜハンター組織に身を挺している?」 レッツは声を強めて問い掛ける。が、その問いには未来は答えない。 「よもや内部から華代無力化の妨害しようという魂胆じゃないだろうな。」 「……ならどうする。」 未来は感情を見せずにそう言う。 レッツはその言葉を聞くと同時に、どこからとも無くスティックを取り出して未来の首もとにあてがった。 「『正義』の名においてお前を修正する。力ずくでも。」 「そうか。それがお前の『正義』か。聞いていたとおり荒々しい。が、確固たる『信念』もある。」 対する未来は余裕綽々として動じる気配がなかった。 「良いだろう。認めよう。その『正義』。」 一言呟き、未来はまだ湯気が立つココアに口をつけた。 「俺がハンターをしている理由。それは我が家に伝わる『白い天女伝説』にある…… それは播磨の国。とある道場での物語。 世は幕末。世間では、やれ黒船だ、やれ開国だと騒いでいた頃だ。 その最中のとある日の夜、酉の刻三つほどだから今でいうと午後六時半ぐらい。 もう門下生はみな帰路に着いたと言うのにその道場には2つの影があった。 一方はこの道場の主で未来の先祖でもある讃鬼秀禅成将(さんきしゅうぜんなりまさ)。播州十三剣に数えられるほどの腕の持ち主。相対する様に立つのはその長男、讃鬼邑禅将翔(さんきゆうぜんまさかけ)。こちらも次期十三剣の筆頭にと噂されるほどの腕の持ち主だ。 「ならんっ!!」 まず一声吠えたのは成将。一里先の赤子をも起こす、とは言い過ぎだろうがそれに匹敵する程の大きな声だった。 「しかし父上。世間では開国近しと民も騒ぎだしてございます。今がまさに好機、天下に讃鬼奏剣流ありと知らしめるのは今しかございませぬ。」 対する将翔もその大音声に怯むことなく言葉を紡ぐ。 「ならん、ならん、罷りならん。お主はいずれはこの道場を継ぎ播磨の国を守っていかねば為らぬ身、出国など断じてゆるさん。」 「道場を任すならば将嗣(まさつぎ)によいでござろう。それにこの時勢、やれ家を守るためだ、やれ国を守るためだと、拙者には面妖だとしか思えぬでござる。今しばらくすれば必ず国は開かれ異国の優れた武芸が入って来る。その時になって門戸を開いたのであれば遅うございます。」 将嗣とは将翔の弟、つまりは成将の次男に当たる。剣術においては将翔に劣るもののその学才は補って余りあるものだった。だからこそ、将翔は将嗣の方が適任だと考えたのだ。これからの世、剣だけではダメだと察したのだろう。 「何を戯言を。この時勢だからこそ、おぬしには讃鬼家ひいては播磨国を守って貰わねばならぬと言うに。」 「父上の考えは古うございます。」 近代でも稀に見る父子の確執というもの。家を守ろうと父の思い、家を栄えさせようとする子の思い。共に願う先は家の為、悲しい行き違いというやつである。 「ええい、聞く耳まま為らん。これよりワシは書斎にて書物を嗜むことにする。将翔、お主はしばらくこの場で頭を冷やしておれ。」 そう言い残して成将は道場を出ていった。 一人道場に残された将翔は思い悩む。父の事、家の事、国の事、そして剣の事。 父の言うことも一理ある。そうも思えるがやはり焦燥感というか、このままでは駄目だという思いが拭うことが出来なかった。 「拙者はどうすればよいのだ……。」 時は戌の刻一つ ―― 今で言う夜7時半頃。将翔はまだ思い悩んでいた。 が、そのとき将翔に声を掛ける者が現れた。 「お兄ちゃん、悩み事ですか?」 不意に声を掛けられた将翔は声のした方に振り向く。すると、いつ入ってきたのかそこに見慣れぬ女の子がいた。年の頃にして9歳程度、一枚の白い布でできた服を纏う、可愛らしい少女だった。 「おぬしは一体? 足音どころか気配もしなかったでござるが。」 その将翔の問いを無視して少女は一枚の札を差し出した。 「わたしがお兄ちゃんの悩みを解決してあげる。」 なんとも形容しがたい不思議な雰囲気を纏う少女は、将翔に可愛らしい笑顔を向けてそう言う。その雰囲気に呑まれたのか笑顔に思うところがあったのか、ともかく将翔は少女にひとつの疑問を投げかけた。 「おぬしには何やら不思議なものを感じる。もしやとは思うが、貴殿はもしや天女様でござるか?」 「天女? ちがうよ、わたしはセールスレディーをしてるの。」 「”せえるすれでい”とな? よく分からぬが……、よければ拙者の悩み聞いて貰えぬだろうか。」 「うん♪」 その笑顔に促され、将翔はその不思議な少女に思いの丈を話し始める。 新しく来る時代に讃鬼奏剣流を知らしめたい事。そのためには国を出なければ為らぬ事。父にそれを認めて貰えぬ事。黙っていなくなったのでは頑固な父は、誰にも跡を継がせず讃鬼家は滅亡してしまうかも知れないという事。そして、自分がいなくなったのちは弟である将嗣が道場を継ぐのが相応しい事を。 「わかった。今からそのお父さんの所へ行ってみて。きっとお悩みが解決するから。」 「ほ、ほんとでござるか!?」 「任せといてよ。」 少女は自信満々にトンっと胸を叩く。 「ありがとうでござる、天女様!!」 そう言い残すと将翔は父のいる書斎の方へ駆け出した。 「あのぅ、わたしは天女じゃなくてセールスレディーなんだけど……。」 と、ぽつんと取り残された少女が言ったかどうかは謎だが…… 道場から多少離れた成将の書斎。成将が道場で将翔に言われた事を頭から振り払うように書物を嗜んでいると、ふすまの向こうから将翔の声が聞こえてきた。 「父上、いま一度お話があります。中に入ってよろしいでござるか?」 「もう諦めたか? それとも説得しに来たか? まあ、良い。ワシもそろそろ頭がさめて来たところだ。入って来い。腹を割って話し合おうぞ。」 成将も思うところがあったようで、ふと見ると手にした書物も昨日読み終えた所から1ページほどしか読み進んではなかった。 「ありがたく存じます。では失礼。」 将翔は書斎に入ると成将の対面に座り、語り出した。 「父上。拙者は先程天女様に会いもうした。」 なにをいきなり言い出すのか。成将はそう思ったがそれは口に出さず、将翔の真意を探るために先を促す。 「ほう。それで?」 「先程のことを天女様にご相談したところ、父上に会えば解決するとお告げを頂いたでござる。」 「ほう。では、なにが起こると言うのだ?」 「そ、それは……。うっ。」 丁度その時、言いよどむと同時に将翔を眩暈が襲った。将翔が目頭を押さえる。と、同時に髪が伸び始め、胸は膨らみ、体は丸みを帯びて小さくなり、あれよあれよという間に見紛うばかりの美少女が成将の前に現れた。 「い、いまの眩暈は一体……。」 普段より高くうら若い乙女の声となっていたのだが、驚きのあまり気付いていなかった様子で将翔は呟いた。 「一切この目で見届けたが、敢えておぬしに確認したき事がある。」 将翔の変わり行く様を目の当たりした成将だったか心を落ち着かせて、目の前で突如として少女へと変わった将翔に声を掛ける。 「はい、何でございましょう、父上。」 将翔もいきなり低くなった視界に戸惑いつつも声を返す。 「お、おぬし、本当に将翔か? わしには女子(おなご)のようにしか見えんのだが。」 「なにをおっしゃってるでござるか! この様に何処をどう見たところで拙者は讃鬼邑禅将翔に違いは……」 将翔はそこまで言ったところで気付いた。自分の声が普段より高くなっている事に、そして胸部に感じたことのない重みがある事に。 何が起こったのか、それを確かめる為に自身の体を確認する。 その視線の先にはそれまでなら頭を垂れる程度では視界に入ることのなかった髪の毛と……まるで女子の様にたわわに膨らんだ胸があった。 いや、『まるで女子の様に』と言うのはおかしいか。正に女子のそれなのだから。 将翔は恐る恐る手を下半身に持って行き……、そして更に衝撃を受ける。 「な、ないでござる……。」 そう、己の男の象徴がなくなっている事、つまり自身が女子になってる事に気付いたのだ。 「り、璃胡(りこ)! お璃胡っ! ちょっと手鏡をもって参れ!!」 呆然としている将翔の事はひとまずそのままに、成将は妻・璃胡を呼んだ。 「はいはい、ただ今。」 のん気にそう言って家の奥から手鏡を持った女が書斎にやってきた。この女こそ成将の妻であり将翔らの母、璃胡だ。 「いま参りました。あなた、手鏡は何にお入用で?」 「将翔に、いや、この娘子に自分の顔を見せてやってくれ。」 「分かりました。されどこの娘、どうなさったのです? ま、まさかあなたっ」 璃胡はそこで言いよどみ、成将を鬼の形相で睨む。 「ち、違う。違うぞ。もし、そのような娘ならお前を呼んだりはせん。」 それを聞いて璃胡は表情を崩す。その顔には悪戯に成功した少女のような笑みが浮かんでいた。 「そんなに慌てなくても……。貴方にそんな甲斐性がないのは分かっております。」 どうやら、成将は璃胡にからかわれた様だ。いつの世でも女は強いと言うことだろう。 「で、なぜ将翔が女になっているのでございますか?」 「は、母上分かるのですか?」 顔は男であった時とそう変わらないと言っても男と女、一見して将翔と判断するのは難しい筈。なのに、璃胡には女へと変身してしまった息子・将翔であるとわかったらしい。 「将翔。母を侮るでございません。」 姿変われど見間違う事はない。さすが母親といったとこ ―― 「あぁ〜、何度おまえが女だったらと想像したことか。あぁ、想像以上に可愛くなって母上は感激です。」 違ったらしい……。 「は、母上……、いつもそんなことを考えられておられたのでござるか……。それに可愛いと言われましても……」 「なにを言ってるの? これを可愛いと言わずに何を可愛いというのですか?」 そう言って、璃胡は先程持ってきた手鏡をズンっと将翔の眼前に突き出した。その中に移るのは将翔本来の凛々しい好青年の姿、ではなかった。 「こ、これが、拙者……、でござるか?」 絶世の…とまでは行かないまでもかなりの美少女だった。璃胡が言うとおり可愛いと言う言葉がよく似合う。 元々女顔だった上に、璃胡だけでなく殆どの男衆が将翔が女ならばと一度は想像したことがある程の美形だったのだ。だから美しくなるのは当然のことなのかもしれない。 「にしても何故そのような姿に?」 「それは……」 そう前置きしてから将翔は、父と母に道場での出来事をつぶさに話したのだった。 「そうですか、天女様が……。あぁ、ありがたやありがたや。」 璃胡はよっぽど将翔が女子になったのか、将翔が天女から頂いたと言うお札を拝み倒した。 成将はしばらくそんな妻に呆気に取られていたが、気を取り直した後ぼそりと不安を漏らす。 「しかし、血族から男から女になったものが出たとあれば讃鬼家の名折れ。どうしたものか。」 が、成将のその不安を璃胡が否定する。 「貴方、それは大丈夫だと思いますよ。」 「それは何ゆえにそう思うのだ?」 「華乎。おまえ、天女様に家を守る為にということもお話ししたのですよね?」 璃胡はそう言うと、将翔の方に顔を向けた。声を掛けられた将翔は一瞬『華乎』とは誰の事が分からなかったが、母の視線からそらが自分の事だと気付いた。 「華乎? それはもしや拙者のことでございますか?」 「えぇ、そうです。他に誰がいます。いつまでも将翔でいる訳にはいきませぬでしょ。私の名前と天女様の名前を併せて『かこ』。漢字は『華を呼ぶ』から口偏を取って『華乎』。貴方もいい名前と思いますでしょ?」 「えっ、あ、あぁ。まあそれで良かろう。」 璃胡の有無を言わせぬ強引さに押された成将は思わず頷いてしまった。 「と言うことで華乎、おまえは天女様に『家を守る為に』ということもお話ししたのですよね?」 「はい、母上。」 「なら、将翔が女になったことで讃鬼家が潰れるということは無い筈。たとえば、讃鬼家以外のものは将翔を生来の女として記憶しているとか。」 「そんな、まさか。」 だが、そのまさかだった。翌日確認したところ、一家を除く者はすべて将翔という青年のことを覚えておらず、代わりに華乎という少女のことは覚えていると口を揃えていうのだ。性転換だけでなく他人が考えた新しい名前まで周知の事実とするとはさすが真城華代といったところか。 ……とまあ、将翔が女になった事を喜ぶ璃胡が真城華代を女児を授ける白い天女として祭り上げたのが我が家に伝わる『白い天女伝説』の始まりだ。」 坦々と語られる『白い天女伝説』の始まりにじっと耳を傾けていたレッツだったが、その言葉にこのまま煙に巻くつもりじゃないかという懸念が頭に浮かんだ。 「なるほど『白い天女伝説』についてはわかった。が、それがどうしてハンター組織に入る理由になる?」 「もちろんこれだけでは理由にならない。が、『白い天女伝説』には続きがある。『黒い天女伝説』という裏の伝承がな」 「黒い、天女?」 「あぁ」 未来はすっかり冷めてしまったココアに口をつける。 「思い出してみてくれ、将翔の『依頼』とその結果を。」 「将翔の『依頼』……。 あっ! そうか、このままだと華代は仕事に失敗した事になる」 「そう、この伝承だけでは成将の本来の願い『新しく来る時代に讃鬼奏剣流を知らしめたい』というのが叶えられない。女になったところで出国が許されるはずもない上に、璃胡が折角手に入った愛娘・華乎を手放す筈がないからな。つまり逆効果だ。」 こくり。レッツは頷きその言葉を肯定する。 「だが将翔が女になった数日後、将翔親子の前に突如として現れた黒い服を着た少女によって将翔の願いが叶えられる事になった。」 「黒い服の少女? ……まさかっ!!」 「あぁ、そのまさかだ。その少女は『新しく来る時代』へと連れて行くと言って将翔と共に姿を消した。……この、1枚のお札を残してな」 まあ、ここれはレプリカだが……と付け加えつつ、未来は1枚のお札、いや名刺を取り出しレッツに見せた。 『真城特殊能力サービス有限会社 セールス部アフターケア課所属 派遣社員 または ハンター38号 空 魅夜子』 「……」 よもや、真城華代に次いで謎の存在であるハンター38号にまで話がいくとは思ってなかった所為か、さすがのレッツも絶句してしまう。 「俺にとっては小さな頃から昔話として聞かされてきた話だったからな。ハンター組織に誘われた時にもしやと思ったさ。まあ、だからこそ俺はいまハンターをしている訳だが」 「空 魅夜子、いや黒い天女に会い、いなくなった先祖を探す為……か」 レッツは未来がハンター組織に身を宿す理由を思い付いたままに口にした。 が、静かにだがはっきりと首を横に振った。 「ただ興味を惹かれただけだ。俺が入った時には38号は空席だったしな」 そこで一息つき、未来はまたココアに口をつける。 「だが、今は38号は存在する。どうするんだ?」 「どうもしないさ。いまの38号がご先祖様を連れ去る前なのか後なのかわからないしな。下手に問い質してタイムパラドックスを起こすわけにもいかないしな。」 レッツは自分に出されたホットココアを手に一拍の間を置き、そして静かに肯定した。 「……そうだな」 「俺が出来ることは俺がハンターに在籍している内にご先祖様が現れたらフォローするぐらいだけだがな。」 ココアをゆっくりかき回すレッツはそれに応えない。 「まあ、ハンターの仕事を蔑ろにするつもりも邪魔するつもりもない。なんなら白い天女に誓おう」 「いや、それはダメだろっ!?」 「やっぱ、そうか」 そうツッコミを受けた未来の顔にはある意味年相応のいたずらを見つかった少女の笑みが浮かんでいた。 そして不意に席を立つと、『おやっさん』に代金を支払い、レッツに1枚の名刺を差し出す。 「俺の名刺だ。渡しとく。」 そうとだけ言い残し、店を後にする。 「待て」 が、ガラス戸へ手を掛ける前にレッツに呼び止められ、なにか忘れ物でもしたかと振り返る。すると、そこへ1枚のカードが飛んできた。 それをうまく指に挟んで止めた未来はそのカードに目をやる。……レッツの名刺だった。 「……いいのか?」 未来がレッツに聞く。あぁ、とレッツが頷いた。 「……使うのは?」 もちろん『変身に』と言う意味なのはいうまでもない。 「正義の為ならば」 そうか。そうとだけ言い残し、未来は店を後にしたのだった。 ―― カランコロン 店の名は『ハンターズカフェ・立花』。 しばらくの後、仕事を忘れてリラックスできる、無愛想だが可愛い女の子マスターがいる店として有名になる店だ。 ≪人物紹介≫ ◆半田未来 ハンター39号。対真城華代組織ハンターに属するエージェント。 以前に真城華代に遭い、変身能力を持つ9歳ぐらいの女の子にされてしまった。 ◆苅須都 烈 ハンターの警察組織「ガイスト」に所属するガイスト2号。 些細な悪も許さない言わば完全懲悪な性格でそれ故に非常識な振る舞いをすることも。 一度、宇宙の彼方へと飛ばされたが正義魔法少女ガイスト☆レッツへの変身能力を持つ10歳ほどの少女の姿で戻ってきた。 ◆おやっさん 本名:立花桜夜(たちばな おうや)。 最初は桜夜さんと呼ばれていたがいつの間にが『おやっさん』と呼ばれるように。 常連客が「もうちょっと繁盛してくれないと潰れないか心配だ」と華代ちゃんに零した所為で、店ごと華代被害にあった。 なお『仕事を忘れてリラックスできる』内装となってしまった為、ハンター達が店内で仕事をする事はない…… ◆讃鬼華乎 本名は讃鬼邑禅将翔。未来の先祖(正確には未来は華乎の弟、将嗣の子孫に当たる)。 剣を振るのに邪魔なため普段はサラシで潰しているが、実は隠れ巨乳で小さな胸に憧れている。 なお、今後登場そうな流れですが当作品投稿時点で再登場の予定は無し。 (もし使いたいという方あれば遠慮なく使ってくださいw) |
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