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ハンターシリーズ165
『ハンター達と海の妖精』

作・StarDream

 


ここは海の底、いくつかある人魚の種族のうちのひとつであるシーフェアリー(海の妖精)達の王国。そこでは1人の少女が旅立とうとしていた。彼女の名前はルナ。この国の王女であり、後にこの国の王位を継ぐことになる存在である。彼女は王女としての修業のために地上に行くことになったのだ。

シーフェアリーは人間の姿に変身する能力を持っていて、変身することで陸に上がれる。また、地上にある人間の世界に行くことは特別な事ではなく、旅行や留学などで行くことは意外と多い。

ルナは一通り出発の準備を終えると

「それでは、行ってきます。」

そう一言言うと、生まれ故郷を旅立った。

〜★〜

 その頃、海の上ではハンター達が大型船で人工島「天竜島」へと向かっていた。
ハンター14号、石川恭介が実験の失敗でハンターの施設の大半を吹き飛ばしてしまったのだ。

「恭介の奴、いったい何回吹き飛ばせば気が済むんだ。」

ポニーテールの少女、いちごが呟く。

 彼が施設を吹き飛ばすのはこれが初めてではない。
以前にも何度か実験の失敗で吹き飛ばしており、その度に天竜島へ行っているのである。

「いいじゃない、おかげでこうして遊びに行けるんだから。」

ハンター28号、双葉がいちごに話し掛けた。

「そうですよいちご先輩、いつもことなんですし、もっと楽しみましょう。」

と言ったのは、事務主に担当するハンター、四葉である。

「それもそうだな。せっかくの機会だ、楽しむとするか。」

前向きに楽しもう。いちごがそう思った1時間後のことだった。

 それまでは雲ひとつない青空だったのが急に風が強くなり、激しい雨が降ってきたのだ。

「何なんだ、この嵐は」

思わずいちごが叫ぶ。
船は嵐に巻き込まれていた。
以前行ったときにも嵐に巻き込まれたが、今回のそれは前のものよりも大きく、強いものだった。
現在船は強い風と波によって大きく揺れている。

そして……

船は転覆した。

〜☆〜

ルナは海の比較的浅い場所を泳いでいた。

「あ、船だ……でもこんな嵐の中で航行して大丈夫かな?」

彼女は海面を見上げた。
その船は波により大きく揺れながら航行している。
突如、船の横に大きな波が襲い掛かってきた。
結果として船は転覆してしまい、乗客が次々と海に投げ出されていく。

「大変……!!助けないと」

それを見て少女は大きく手を広げると何かを唱える。
すると巨大な渦が発生し投げ出された人々がそのなかに吸い込まれていく。すべての人が飲み込まれるとルナもそのなかに飛び込み、その後ゆっくりと渦は消えていった。

〜★〜

「う〜ん、ここは……」

ゆっくりといちごが起き上がり、辺りを見渡す。
そこは砂浜で残りのメンバーも全員打ち上げられていた。
1人が目覚めると残りの者も目覚める。

「よかった、皆さん気がついたんですね。
大丈夫でしたか?皆さん船が転覆して海に投げ出されたのですよ。」

そこにいたのは12〜13くらいの少女だった。
その少女は腰まである水色でストレートの髪で、とてもかわいらしい顔だった。
ただ普通の少女と違ったのは下半身が青く半透明でイルカの尾鰭のような形をしており、腰の左右から透明な腰鰭が生えていたことだ。
と、そこに突如、誰かが駆け寄った。

「すごい!本物の人魚だ!すごい!すごい!……あっ、あたしはあんず。よろしくね。」

その少女――あんずはかなり興奮した様子で彼女に話し掛ける。

「あっ、私はシーフェアリー族の王女、ルナといいます。こちらこそよろしくお願いします。」

興奮する彼女に戸惑いながらもルナは自己紹介をした。

「えっ、王女!?」

「別に王女だからと気を遣わなくてもいいですよ。」

ルナが王女であることに驚く一同。それに対して彼女は優しい口調でそう言った。

「すごい!王女ってことは人魚姫!すごい!すごい!」

王女であることを知ってますます興奮するあんず。
その場にいた他の者も彼女の周囲に集まって取り囲んだ。

「是非とも写真を……っておいジオーネ!カメラ返せ!」

「やだよーだ」

「へぇーこれが人魚か」

「ねえ、触らせて!」

目の前の本物の人魚に興味津々な周りは一斉に騒ぎだし、静かだった砂浜は賑やかになる。
皆はルナとあれこれ話して楽しく盛り上がっている。後ろではカメラを奪われた男が、奪った妖精を追い掛けていた。
そして、自己紹介を行っていない事に気付いた他の者も自己紹介を行った。(ハンターについては伏せた)
周囲の話題はやがてルナへの質問となった。

「シーフェアリーって言っていたけどマーメイドとは違うの?」(あんず)

「シーフェアリーもマーメイドもいくつかある人魚のうちのひとつなんです。人魚とは元々複数存在する種族の総称なんです。」

「そういえば、どうやってこれだけの人数をここまで運んだんだ?」(いちご)

「水術という「水」の力を操る術を使いました。今回は人数が多かったのと、距離があったので『水の回廊』という転移術を使いました。あと服や持ち物を乾かすのにも使いました。」

「趣味は何ですか?」(文香)

「え〜と、掃除ですね。私は汚れが落ちて綺麗になっていくと楽しい気分になるんです。だから私、嫌なことや辛いことがあったときは掃除をするんです。そうすると嫌な気分を忘れられるんです。」

「王女なら、掃除は侍女や執事がするでは?」(文香)

「侍女や執事はいましたけど、私は幼い頃から「自分のことは自分でする」と教えられていて、掃除だけでなく食事の準備や後片付けも自分でやっていました。」

この質問タイムは1時間程続き、その間に後ろでカメラを取り戻した男性が写真を撮っていた。
質問の大半は、人魚という非日常の存在を前に興奮したあんずと広報部の部長代理でもある、ハンター60号武藤文香がしていた。
途中、陸にいることが辛くなってきたルナが人間の姿に変身し、事前に用意していた服に着た。
質問が終わったあと、ふとルナは誰かに声をかけられた。

「話が終わったところで、すこしいいか?」

「いいですけど…………あなたは一体何なんです?」

話し掛けてきたのは犬――の格好をした2メートルはある筋肉隆々の大男だった。

「俺はロッキー、見ての通りの名犬だ。」

彼は自らをそう名乗った。

「犬……なんですか?私には犬の格好をした大男にしか見えませんが……」

ルナはその自称名犬に対して疑問を抱いた。

「何言っているの?どこからどう見ても犬じゃない。」

「こんなに可愛い犬をどう見たら大男に見えるの?」

しかし、周りは犬だといい更には人間に見えると言ったルナのほうが変だと批難されてしまう。
自分の目がおかしいのかと何度も確認するが、どうみても犬ではなかった。

「いや、お前の目は正しい!あいつは間違いなく人間だ!」

「よかった。それを聞いて安心しました。」

いちごのその言葉にルナは自分の目は間違っていないと安心した。

「ところで、お前どうしてここにいるんだ?船には乗っていなかっただろ。」

いちごが彼に聞いた。彼は本部で施設の修理を手伝っていたはずだった。

「ああ、それはな船が転覆したと聞いて、心配してここまで飛んできたのだ。それよりも……ルナといったな、君は華代被害者じゃないのか?」

「……!!」

その一言でその場にいたハンター達は驚いた。ハンターは華代被害者を直感で知ることが出来るが、その気配は全くなかったからだ。

「華代被害……もしかして「ハンター」の方ですか?
組織についてはお母様から聞きました。ですが、戻さなくて結構です。」

「どういうことだ。」

最後に小さく言ったルナの言葉に疑問を抱いたいちごが尋ねた。
すると彼女は自分の過去を話しはじめた。

〜☆〜

それは1年前の出来事だった。
シーフェアリー達の王国、その中心にある王宮の一室での出来事。
この国の王子があることで考え込んでいた。その原因は1週間前、彼の姉で王位継承者である王女が、人間と結婚するといって飛び出してしまったからだった。
この国では人間と結婚する場合王位継承権を捨てなければならない。しかし、他に王位を継ぐ資格のある人物が居ないために、王位継承者が不在になってしまったのだ。国中が大騒ぎになった。

「「女だったらよかったのに」か……」

王子はそう呟く。その言葉はあれから彼が何度も言われたことだった。この国では女性しか王位を継ぐことが出来ない。元々彼は才能も実力もあり、周りの評価も高かった。だからこそ継ぐ資格がないことを周りから言われ、彼自身もそのことで今こうして悩んでいた。

「やっほー、元気にしてるかい?」

と、そこに誰かが勢いよく扉を開けて入ってきた。

「はあ……トリオン、一体何の用?」

「何って、悩んでいるって聞いたからわざわざ来たんだよ。」

王子の問いにトリオンは元気よく答えた。

「君が関わると逆に悩みが増えると思うんだけど……」

王子は思わずそう漏らした。
この人物、トリオンはこの国で重要な役割を果たしている家系の生まれで王子の幼馴染なのだが、トラブルメーカーで軽はずみな行動から頻繁に事件を起こし、その度に怒られている。王子もそれに毎回といっていいほど巻き込まれていて、死にかけたことも一度や二度ではない。
とその時、

「なにかお悩みですか?」

「誰?こんな時に……ってええー!」

突然後から誰かが声をかけてきた。
王子は振り返ってその人物を見ると、驚いて思わず叫んだ。
なぜならそこにいたのは八歳くらいの[人間]の少女だったからだ。
 その少女は白いワンピースを着ていた。不思議な事に水中だというのに全く濡れておらず地上と同じように活動しおり、水中である事を感じさせない。
一体何者なのだろうかそんな事を考えていると

「申し遅れました。私は心と体の悩みを解決するセールスレディ、真城華代と申します。
よろしくお願いします。」

そういって少女は名刺を渡してきた。王子はそれを受けとって見てみるとそこには
――ココロとカラダの悩み、お受け致します。
真城 華代――
と書かれていた。

「へぇー華代ちゃんは悩みを解決してくれるんだ。ねえ、ちょうどいいから解決してもらったら。」

トリオンは呑気にそう話した。

「でもこの子どう見ても普通ではないと思うけど……」

「大丈夫!絶対に何も起こらないって!」

「君が大丈夫って言った時は、いつもトラブルが起きてるよね……」

突然現れた謎の少女を警戒する王子に、トリオンは胸を張って大丈夫と言い張る。
それを聞いて、王子はますます不安になった。

「すみません、話は終わりましたか?」

話し合ってる2人に華代ちゃんがそう言って割り込んだ。

「あっゴメン華代ちゃん。実はね……」

「……なるほど、それならこの私にお任せください。」

華代ちゃんに気付いてトリオンは勝手に王子の悩みを話した。
それを聞いた華代ちゃんは、自信を持って返事をした。

「えーと華代ちゃん、少し話を聞いてくれないかな?」

「心配しなくても大丈夫です。あなたの悩みはすべて私が解決します。」

「だから話を……」

嫌な予感のした王子は華代ちゃんに声をかけた。しかし、彼女は当事者である彼の言葉を聞いていない。

「それではいきますよー、えーい!」

華代ちゃんがそう言うと、手から光を放った。すると、その光が王子を包んで体を変化させた。
光が収まった時、そこにはかわいい少女の姿になった王子がいた。

「これでよしっと、次の仕事があるので私はもう行きますね。」

その言葉を最後に、華代ちゃんはその場からいなくなった。

「何がどうなって……ってええー!!」

気が付いた王子がふと部屋を見渡すと鏡に自分の写っていた。
それを見た王子は女になった自分に驚いて、自分の姿を確認した。

「ううーなんか完全に女の子になってるみたいだけど……」

王子が自分の体を確認しながら言った。

「あっ私、急用を思い出したから……」

流石にまずいと感じたトリオンは逃げ出そうとする、

「トリオン、その前にお母様の所へ行こうか。」

「ハイ……」

が、阻止され2人は事情を説明するために女王の部屋に行くことに。
 最初はお互いに大変だと思っていたが、女王は真城華代を知っていたので信じてもらえた。
2人の話を聞いた女王は真城華代についての説明と、子供の頃に自分が華代に悩みを話したために同い年の友人(実はトリオンの親だがその事は伏せた)を女の子にしてしまった事を王子とトリオンに話した。
話が終わると今回の事を話し合うために女王は会議を行った。
それから数時間後、女王は少女となった王子を呼び出した。

「お母様、大切な話というのは……?」

「王位継承についてのことなんですが、会議であなたに継がせることが決まりました。このタイミングで真城華代が現れ、あなたが女性になったのはきっと運命なのでしょう。
これからいろいろと教えていきますからそのつもりでいてください。」

「はい!」

女王の言葉に彼女は力強く返事をした。
そうして彼女の王位継承者としての日々が始まった。

〜★〜

「それから新しい名前を授かったあと、私は女性として、また王女としての厳しい教育を受けました。そしてこのほど修業、といっても実際には修業とは名ばかりで留学に近いものですけど……そのために私は地上に来たのです。」

「……お前も大変なんだな。」

ハンター6号、うさ耳少女のりくは彼女の話を聞いて思わず同情した。

「そういえば、なんで華代被害者だと気付かったんだ?」

いちごがふと、疑問を口にした。

「それは多分彼女のしているペンダントの力ためだ。『見た』ところそのペンダントはかなり強い力を持っている。その力のために感覚が働かなかったのだろう。」

先程妖精にカメラを奪われていた人物――ハンター7号、七瀬銀河が右目の魔眼で菱形をした金のペンダントを見ながら答えた。

「このペンダントですか?これは私が王位継承者となってからお母様から受け継いだ物で、身につけている者を危険から護る力があるといわれているのです。」

ルナは自分のペンダントについて簡単に説明を行った。
その時だ。

「むっ、このニオイは。華代!!」

「目標kの反応を感知。今より行動に移る。」

ロッキーとアンドロイドの石川美依が反応した。

その直後、近くにある町の方向から悲鳴が聞こえてきた。それとほぼ同時に美依はものすごいスピードでその方向へ走った。

「よし、我々も行くぞ。」

残りのハンター達も美依のあとを追って現場へと向かった。

〜☆〜

ルナはハンター達を追って町にきていた。

「なんだか、大変なことになっていますね……。」

町は大混乱だった。町はちょうどお祭りで多くの人で賑わっていた。そこに華代ちゃんが現れて集団性転換を引き起こし、その結果町にいる人々全員が被害に遭ってしまったようだ。

「くそ、これじゃちっとも終わらん。なんでこういう時にケイもなずなもいないんだ。」

彼女は前方でぼやきながら還元作業を行っているいちごを見つけた。
ちなみに今名前のでたふたりはちょうど用事があっていなかった。

「いちごさん、なにか手伝えることはありませんか?」

忙しそうないちごを見て手伝うことを申し出た。

「気持ちは有り難いが……こればっかりは”能力”がないとな。」

元に戻す能力――ハンター能力は生れつきの能力であるためにそれを持たない者にはどうしようもないのだ。

「お姉ちゃん、元に戻して。」

小学1年生くらいの「元少女」がルナに助けを求める。

「待ってろ、今戻すからな。」

いちごがその元少女の所へ向かう。がそこに他の被害者が集まってくる。

「俺を戻してくれ!」

「私も戻して」

いちごの元に次から次へと被害者がやってきて彼女の周りを囲み、いつの間にか身動きが取れなくなってしまった。

(私が戻してあげることができれば……!)

ルナはそう思いながら、その少年の手を握った。
するとその子は徐々に身体が変化していき、元の少女へと戻った。

「ハンター能力者だったのか……。」

そこに周囲の人々を還元し終えて何とか抜け出せたいちごがやってきた。

「いちごさん、残りの人々も早く戻しましょう!」

そして、ふたりは残った人々を戻すために還元作業に取り組んだ。

〜★〜

「終わったな……」

還元も終了し、ハンター達は町の中心部に集まっていた。すでに日が沈み、辺りは暗くなっている。

「ルナ、君はこれからどうする?」

ロッキーは彼女のこれからについて尋ねた。

「私は、これから仕事を探そうかと思ってます。これから修業のために仕事をしながら地上で生活しなければならないので。まあ、お金はカードと預金口座に毎月振込まれるものがあるのでので収入は気にせず適当に探すつもりです。」

「仕事って、年齢は大丈夫なのか?」

りくが言った。彼女はどうみても小学生6年生から中学1年生くらいだからだ。

「大丈夫です。成人している、ということになっています。それに、こう見えてもここにいる誰よりも長く生きていますから。」

シーフェアリーは人間よりも寿命が長く、彼女の実年齢は800歳(人間換算は20歳)なのだ。

「そうか……それならばハンターにならないか。ハンター能力があるし、何より華代によって性別を変えらている。うちの組織には女性化したものへのケアや教育もあるが、どうだ?」

「そうですか……それではお願いします。」

こうして新しいハンターが誕生したのだった。

〜☆〜

場所は代わってハンター本部。

「ふむ、ハンター67号――蒼海ルナか……人魚姫とはこれまた厄介なのが増えたな。」

報告書を見たボスが呟いた。ちなみに蒼海という苗字は彼女が地上で生活するために用意した名前で本名ではなかったりする。

「確かにうちの組織には変わった連中が多いですからね。」

とこれは部下A

「それにしても「王女であることは気にせずどんどん仕事をさせてあげてください。そのほうがあの娘のためになるので」か、そんなこと言われてもこっちが困るが。」

ボスは水色の手紙を見ていった。
それは彼女の母からこの組織のトップに宛てたものだった。

「それよりも、この金だが……どう使おうか。」

彼は封筒に入っていたものすごい金額が記入された小切手を手にして言った。
手紙には組織への寄付金であることが書かれていた。

「お金のほうが大事なんですか。」


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