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ハンターシリーズ167
『転生』

作・ELIZA

 

 魅力的で、敏捷で、利発な蜂須賀舞は、共働きの家庭に育った男勝りな性格の少女だったが、彼女にはどこやら世界中の些細な不幸を一身に集めたようなところがあって、生まれてこの方六年の間、些細な不幸や悩み事とほとんど縁を切ることができない生活を送ってきた。
 愛情あふれる世にも甘い父親の二人の姉弟の上のほうだが、弟がまだ乳飲み子であるので、まだ年端もいかないのに家庭内である程度の采配を振るうことになっていた。彼女の記憶はつい最近に「前世」から受け継がれたものであるので、両親に可愛がられた記憶はかすかに残っているだけだ。彼女の「母親」は彼女にとって「母親代わりの女性」でしかなかったが、彼女を「生みの母」にも劣らぬ愛情で接してくれた。
 その人は名前を蜂須賀雪といい、蜂須賀家の一員として七年間、普通の母親というよりも親友であるかのように自分の家族を愛してきた。蜂須賀雪はとりわけ蜂須賀舞が好きだった。彼女たちを結びつけていたのは親友の親密さだったと言ってもいい。生みの母というのは蜂須賀舞にとって名目上のものでしかなかったが、男勝りな気質の彼女が母親を嫌うことはほとんどなかった。前世での栄光がとうに過去のものになった今、二人は親しい友達としてともに暮らし、蜂須賀舞は自分の思い通りに振る舞っている。蜂須賀雪の判断を尊重する一方で、自分にでも決断できることは自分の判断で決めていたのである。
 蜂須賀舞の特質が現実にもたらす弊害は肉体的に幾つかの欠陥を持っていることと、周囲の些細な不幸を一身に集めてしまうことからくるが、こうした欠点はともすれば有能な彼女の能力を損ないがちになる。けれども前者の危険は月一回の医師の診察と毎日の服薬を欠かさなければ問題にならず、後者の危険は彼女にとって前世から全く変わっていないことなので、蜂須賀舞にとってはいささかも不幸なこととは思えなかった。
 喜びがやってきた――穏やかな喜びで、大げさに喜ぶことでは決してなかったけれど、喜びに違いはなかった――蜂須賀舞が小学校に入学したのである。まず喜ばしかったのは行動半径を広げられることだった。喜ばしい入学式の当日、蜂須賀舞は初めて抑えがたい喜びに胸を躍らせた。式が終わって新しくできた友人たちが帰り、両親と向かい合って夕食をしたためながら、これから行えるようになることの可能性についてじっくりと考えないではいられなかった。父は食事が終わるといつものように寝支度をするように促した。そして蜂須賀舞は独り布団に入りながら、新しい可能性を思い遣るしかなかった。
 入学は彼女にこの上ない可能性を約束するものだった。クラスメートの高井友は特に非難されることがない性格で比較的広い行動半径と多めの小遣いを保証されており、精神年齢も比較的高く、物静かな物腰にも好感が持てる。それに、どれほど私心のない、惜しみない友情をもって二人での「冒険」を常日頃願い、進めてきたかを振り返ってみると、蜂須賀舞としてもある程度の満足を覚えた。けれども、それは蜂須賀舞にとって、一夜明ければ嬉しさもひとしおという仕事でもあった。高井友がいる嬉しさはこの先日ごと、一時間ごとにひしひしと感じられるだろう。蜂須賀舞は彼女の優しさ、十回の冒険にわたる気配りと友情を思い出した。六歳のころからガールスカウトとしてものを学び、それを応用して遊んでくれた彼女、元気な時も、肉体の欠陥による発作に襲われた時も、いつも献身的な気遣いを見せてくれた高井友が彷彿する。彼女にはどんなに感謝してもしきれない気がした。しかし、この三週間の付き合い、自分が小学校に入学して一人であちこちに行けるようになった時から続く、対等の立場での全く遠慮のない付き合いもまた、今や貴重な財産である。それはほとんどの人が望めないような友達であり伴侶だった。聡明で多芸で有能で、その上優しくて、蜂須賀舞の癖をわきまえ、彼女の関心事、わけても彼女の前世と、彼女の趣味や計画に興味を持ってくれる。何にせよ思い浮かんだことを遠慮なく打ち明けることのできる相手であり、蜂須賀舞の欠点など気付きもしないほどの友情で接してくれる人だった。
 この変化をどう活かしたものだろう。前世の人生は終わってしまったとはいっても、ハンター組織はわずか数キロ先に存在しているではないかと考えてみる。けれども、数キロ先に存在するハンター組織と現在の自分がハンターとして復職することとは天と地ほどに違う、ということに蜂須賀舞は気がついていた。両親にも友人にも恵まれた蜂須賀舞だが、現在の姿に「転生」してしまったことでハンターとしての孤独という大きな問題にさらされた。両親や友人を深く信用してはいるが、両親や友人は同僚とは違う。実際的な話にせよ冗談にせよ、両親や友人では蜂須賀舞の要求に応えることができなかった。
 蜂須賀舞と多くの友人たちの精神年齢の隔たりからくる問題(蜂須賀舞の前世は社会人だった)は、彼女の体力と技能によっていっそう大きくなった。前世で古武術を習っていたせいで身体の能力を最大限に引き出す術を身につけている蜂須賀舞は、何かにつけ年齢の割に非常に優れていた。交渉術は習得していないものの相手の心を読んだり的確な言葉遣いをしたりするのでどこへ行っても好かれはしたが、蜂須賀舞の才能はそれよりもずっと高く評価されるべきものだった。
 高井友は、住んでいる場所が学区の反対の端で一キロ強離れているとはいえ、蜂須賀舞にとってそれは大した問題ではない。とはいえ蜂須賀舞はバレエ教室、高井友はガールスカウトと剣道教室、英会話教室に通っているので毎日遊びに行けるわけではなかった。小学校では二人は仲良く遊べるけれど、黄金週間にはそれぞれ両親に連れられて祖父母のもとに帰省することになっているので、その長い期間を一人で耐えていかなければならない。
 この問題を心の中で取り決め、調べ、整理した後、二人の従兄妹と祖父母、伯父と伯母にどう接しようかと考えながら、高井友の待つ校庭に出ようとしたときに、大きな鉄製の校門が開いて、夢にも思わなかった二人連れが入ってきた。――一人は身の丈二メートル以上のビーグルを連れた喪服のような黒い服を着ている少女だが、その後ろから追いかけてくるのは――かつて一度だけ見たことのある殺人狂ハンターのような鋭くて赤い瞳と、凍りつきそうな青い髪をもつ少女だった。――高井友の言葉で異常な事態が起こっていると解った。黒服の少女の顔は青ざめて怯え、青髪の少女の手には血に濡れたナイフが握られている。校門から蜂須賀舞たちがいる玄関先までは二十メートルと離れていない。――蜂須賀舞は高井友に先生を呼ぶように告げ、彼女はそれに従ったが、その間にも逃げ遅れたビーグルはたちまち心臓を刺され、両脚の動脈を切られて気を失った。
 今の蜂須賀舞はそれほど強いというわけではない。けれども彼女は俊敏で、機転が利き、一般市民を危害から守ろうとする心掛けの持ち主だった。おまけに自惚れたところは微塵もなかった。しかも彼女は危険が予測される状況なら何であれ慎重にならなければならない、という気持ちにあふれている。最初に青髪の少女が蜂須賀舞に見せた猛攻ぶりはとてもすさまじかった。それにナイフの威力を増すために掴んで引き寄せようとする試みと、優雅に二回転以上しながら的確に動脈を切り裂く能力は、体系だった訓練こそ期待できないものの戦闘能力には決して欠けていないことを示していた。要するに、蜂須賀舞は青髪の少女が自分にとって非常な脅威――自分の能力が通じるかどうかも判らないまさにその人だと確信したのだ。高井友が呼びに行った先生は論外である。あの先生では二人掛かりでも無力化できるわけがないし、蜂須賀舞自身もう加勢が一人でも欲しいとは思わなかった。それとは全く違ったもの――全く違う決断だった。先生は尊敬の対象で、それは感謝と敬意に基盤を置いている。先生は自分が何かの役に立てる存在として出てくることができるだろう。しかし先生には青髪の少女に対してできることが何もない。ところが自分には青髪の少女に対してできることが山ほどある、と蜂須賀舞は思った。
 蜂須賀舞が青髪の少女に対してまずしたことは隙を探す努力だった。しかし青髪の少女を見ていても隙が見当たらない。彼女は青髪の少女の攻撃を全てかわせたけれど、この件では何をしようと無駄だった。蜂須賀舞は防御するしかなかったが、それにしても自分が彼女に匹敵するならば弱点が判らずじまいになるとは考えられない。蜂須賀舞には十分な洞察力がなかった。青髪の少女が仕掛けてくる攻撃を無心になって回避するだけで、そこから先は考えもできなかった。
 いまさら高井友を呼び戻すわけにもいかず、さりとて青髪の少女が蜂須賀舞を攻撃するのをやめる気配もない。けれども、二、三秒後には彼女の苦悩は大いに和らいだ。青髪の少女の連続攻撃を見切ることに成功し、バレエと古武術の動きを組み合わせて瞬間的に、青髪の少女の背後に回り込むことに成功したからだ。それに大きな悩みの種だった青髪の少女は今朦朧としている。人の鼓膜は急激な気圧の変化に耐えられない。それに彼女には、青髪の少女が他の人と違うとは考えられなかった。自分にとって脅威になる攻撃は誰にとっても脅威であると考えていた。だから彼女は後ろに回り込んだ直後に青髪の少女に向き直り、相手がまだ気づいていないと判ると、同じだけの力を込めた二つの平手で青髪の少女の両耳を挟み叩いたのだ。彼女はそのために一切の防御を捨てて青髪の少女を叩いた。蜂須賀舞の「前世」は知的で紳士的な人で、彼がよく戦闘訓練をしていることは他のハンターたちにとって頼もしいものだった。彼と一緒に訓練を受けた同僚のハンターは、(いささか気に染まぬことながら)鼓膜破りは確かに状況を選べば大抵の人の無力化に有効だ、と認めないわけにはいかなかった。蜂須賀舞はそうした記憶で自分の戦術を確認すると、青髪の少女の無力化に取り掛かった。その後ナイフは取り上げられ、正義感に満ちた彼女の神経は青髪の少女を押さえ込むまで休まる暇もなかった。
 全ての侵入者たちは官憲の出動を待たず、そそくさと姿を消した。小学校の幼い児童たちはパニックを起こすどころか安心して遊びまわっており、この騒ぎは蜂須賀舞と高井友以外にはなぜか取るに足らないものになっていた。――しかしそれは彼女たちの想像の中で依然として大きな位置を占め、蜂須賀舞と高井友は今でも毎日、あの直後に駆け寄ってきた、腕時計をした少女や豪奢なドレスを着て不思議な棒を振り回していた婦人についての話をし、二人の認識がどこかで少しでも違った場合は執拗に話の確認をするのだった。
 ある日の午後、蜂須賀舞は高井友と連れ立って下校していた。彼女たちは商店街のある街道を歩いた。これは人通りもあって一見安全そうな道だが、ここで事件が起きたのである。――道は学校から半キロほど行ったところで急に折れて、両側に植わった金木犀の木が濃い影を落とし、かなりの距離にわたって物淋しくなる。幼い児童たちが角を折れてしばらく行くと、さほど遠くないところの道の片側に駐車場があって、そこに不審な一団がいた。見張りに立っていた一人が寄ってきて声をかけた。すると恐れをなした高井友が防犯ブザーを鳴らし、蜂須賀舞に向かって一緒に逃げようと叫びながら石垣に乗り、頂上の低い生垣を跨いで、学校への近道を一散に走った。けれども蜂須賀舞は付いて行けない。石垣に乗るところまではできたが、生垣を跨ごうとしたときに自分の体格では生垣を越えるのに時間がかかりすぎることに気付いたのだ。それで彼女は、強い正義感も手伝って立ち止まらざるを得なかった。
 幼い児童たちにもう少し筋力があれば、不審者たちの振る舞いは違っていたかもしれなかった。しかし、彼らにしてみれば、そうした攻撃への誘いかけには抗いようもなかった。蜂須賀舞はたちまち三人ほどの不審者に攻撃された。先頭に立ったのは頑丈そうな男と大柄な少年で、言葉はさほどでもないが、恐ろしげな形相で迫ってきた。――彼女はますます逆上し、防犯ブザーを勢いよく鳴らすと、大柄な少年の顎に正拳を叩きこみながら、近づかないで、私を捕まえないで、と頼んだ。――それから彼女は、ゆっくりした足取りではあったけれど隙をついて歩けるようになり、彼らから遠ざかった。けれども彼らは彼女の気丈さと幼さの魅力には抵抗し難く、待てと言いながら付いてきた、というより蜂須賀舞を取り囲んだ。
 飯田あんずが彼女を見かけたのはこの時だった。彼女はばたばたと手足を振り回しながら、もう放してと言い、不審者たちは彼女を車に連れ込もうとしている。飯田あんずは高校を出るのが遅れたために幸運にもこの場面に出くわし、彼女を助けようとすることができた。初夏の清々しさが寄り道する気を起こさせ、逸呉緋稜とは高校から一キロか二キロ行った先の別の道で落ち合うつもりだったが――前の晩偶々藤野双葉からCDを借りたが返すのを忘れていたとあって、彼女の家にしばらく立ち寄らないわけにはいかなかった。従って飯田あんずは他の生徒たちよりもこの場所を通るのが遅くなり、おまけに不審者たちは蜂須賀舞に夢中だったものだから、側に近づくまで飯田あんずの存在が気付かれることはなかった。不審者たちが蜂須賀舞に与えている恐怖は、所を変えて彼らのものになった。彼女は不審者たちを恐怖のどん底に陥れた。しかしそれは長くは続かなかった。蜂須賀舞と飯田あんずは必死に縛めからの脱出を試みながらもほとんど何もできず、恐怖にわななきながら誘拐犯たちのアジトにたどり着いた。誘拐犯たちのアジトに連れてこられたというのは二人の考えで、他のところは思いも及ばなかった。
 以上が起こったことのあらましであり――蜂須賀舞に老眼鏡がかけられて近くのものがはっきり見えるようになり、誘拐犯たちが飯田あんずに眼鏡をかけて別室に連れ去るまでに蜂須賀舞が整理できたことの全てである。――誘拐犯たちは蜂須賀舞の体がきちんと縛られているのを確認すると、すぐに立ち去った。幾つかの幸運が重なって思わぬ収穫に恵まれたため、一分たりとも無駄にはしたくなかったからである。そして、蜂須賀舞の身柄を確保していることを彼女の親に言ってやり、彼女と引き換えに多額の身代金を要求するということを誘拐犯たちが相談している、ということに蜂須賀舞が気付いた時、誘拐犯たちは飯田あんずを、自分たち自身の娯しみのための、言葉では言い表せないような眼鏡への憧憬と執着を表しながら連れ去っていった。
 こうした事件――気丈な子どもと美しい娘がこんな風に偶然巡り合わせたということは、どんなに不信心な心の持ち主や、どんなに悲観的な心の持ち主にもある種の考えを示唆しないではおかないだろう。少なくとも蜂須賀舞はそう思った。彼女の前世がハンター組織のエージェントであれ、武術家であれ、たとえ一般人であったとしても、彼女が見たようなことを目撃し、彼女たちが二人してさらわれた事実を目の当たりにし、飯田あんずの言葉を聞けば、飯田あんずを非常に興味ある存在にする特殊な事情がはたらいていた、と感じないでいられただろうか? ――ましてや取り上げられたガラクタの中にハンター組織の備品が含まれていれば、憶測と洞察の火をどれほど掻き立てられることだろうか! ――とりわけ蜂須賀舞の心に、既に考えていた脱出計画という下準備があればなおさらである。
 誘拐犯たちが出て行ってから二分と経たない頃、蜂須賀舞が素人の縛めを解いたばかりのところへ誘拐犯たちの声が聞こえてきた。蜂須賀舞は飯田あんずの安否のことを一時忘れていた。しかし聞くととてもまずい状況だった。飯田あんずと名乗る少女の容貌を原因とした蜂須賀舞の考えは正しかった。彼女の肉体が誘拐犯たちにとって魅惑的だったために引き留められたのだった。飯田あんずの呻き声が何分か続いて弱っていき――蜂須賀舞は彼女を直接助けることをすっかり諦めた。いくら自分に能力があったとしても多勢に無勢だし、飯田あんずを人質に取られれば手の打ちようがない、と知っているから元々直接助けに行くべきではなかった。何しろ彼女には武器がなかった。ここまでの窮地は一度も経験したことがない――すんでに突入するのを止めておいてよかった――今の自分は組みつかれると弱いからな――たとえ相手が倍の体格を持っていても平気なんだけど組みつかれるのは例外だからな――と言いながら彼女は閉じ込められた寝室の中を探して工具と針金を見つけ、不敵な笑みを浮かべて見せた。
 彼女はクローゼットの錠を開け、三十分ほど後には通気口の中を這っていた。飯田あんずが捕えられている大部屋と罠の仕掛けられた玄関、誘拐犯の一人が入っていたトイレだけがまだ探索されていなかった。すると不自然なほどに陽気な声が聞こえてきた。流石の蜂須賀舞でも探索や隠密行動に疲れ、見つかってもいいから堂々と歩きまわるか一人で逃げて誘拐犯の鎮圧と逮捕を警察に任せたかった。救出の準備ができたと知らせるために、飯田あんずを探しまわるハンターたちの姿を見つけたことは嬉しかった。集まって突入の準備をするハンターたちのざわめきや、自分の能力を誇示するために先陣を切る半田いちごも、あの誘拐犯たちのいかがわしい娯しみの締めくくりに誘拐犯全員を半殺しにして自分たちを救出してくれる、と思えば欣んで迎えることができた。こんなに取り合わせのまずい人たちの救出活動は他では見られまい、と蜂須賀舞は思った。
 蜂須賀舞の心に折に触れて飯田あんずのことが気懸りな気持ちがまだあって、他のハンターたちに対する不信感を本当に払拭することが果たしてできて、疑いのない気持から彼らを受け入れることができるかということにいささか疑問があったとしても、彼女がそうした不確実なものの繰り返しに苦しんだのはそう長い間ではなかった。二分か三分後には彼女に安全が確保された。蜂須賀舞は一時間ほど半田いちごと二人きりの時間を過ごし、自分の前世と現在の境遇を説明してたちまち満たされた気持ちになった。――自分がスカウトした五代秀作が今では自分に取って代わったと判り、彼女の幸福の全てを形作ったのだった。
 四月もまだ終わらないうちに、蜂須賀舞は蜂須賀雪に付き添われてハンター組織で行われる名目上の「オーディション」に行き、彼女が「子どもモデル」として採用される過程を見たが、彼女はその時、自分の前に立つ蜂須賀雪に関する思い出でさえ傷つけることのできない完璧な満足を覚えた。――実を言うと、蜂須賀舞は審査員席に座っているボスを今や我が身に再雇用の機会を与える上司としてしか見ていなかったのかもしれない。五代秀作のスカウトを最後に「前世」の人生を終えた蜂須賀舞は、こうして再びハンター組織に加わったのである。


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